MD2-091「白亜の城下にて-1」
「ありがとう。君たちに頼んでやっぱり正解だったね」
何とも言えない悲しみを抱いた飛竜の襲撃を退け、
無事に埋葬と祈りを終えたシータ王女を僕達は指定された場所まで送り届ける。
その場所は、王子と出会ったギルドの奥の部屋。
今日もまた、ギルドマスターらしき人が最初だけ一緒にいたけど
すぐに退室してしまう。
お礼を言ってくる王子の顔は安心でいっぱいだ。
そのまま差し出された依頼料の残りを一度足元に置く。
やっぱり家族が大事なんだろうな。
そうでなければ予知があるとはいえ、
唐突に僕達に依頼するのは怖いものだと思う。
「予知で見た物は未来ではないんですか?」
だから、こんな疑問をぶつけてしまう。
僕の言葉に、王子は最初はきょとんとした顔だったけど、
真面目な顔になって腕組みして僕とマリーを見る。
「もしそうであれば幸せでもあり、不幸せでもあるよね。なにせ、不幸から逃げられないんだ。
いくらでも変わるのさ……意外なことにね。でもそうでなければ逆に意味がない。
明日、自分が死ぬと知ってその通りにあきらめるかい?」
僕はそれに首を横に振ることで答えとした。
絶望してしまう人もいるだろうけど、出来るだけ逆らってみたいと思う。
(なるほど……見えるっていうのも不便だね)
『成功しても予知のおかげだと思われ、失敗したら大したことないのでは、
と視線にさらされる。難儀な物だとは思う』
ご先祖様の言う通りだ。
これがまだ立場ある王族だからいいけど、
一般人が同じことをやったら馬鹿にされるか、
嘘つきとして妙な噂や嫌がらせなんかもあるに違いない。
「変わるということは、僕達が守り切れなかった可能性も?」
「十分あっただろうね。予知はその未来が一番あり得るというだけさ。
後は当事者の頑張りである程度何とかなる。この予知はそういうものだ。
利用していたのは間違いないけど、怒ったかい?」
僕が返事をする前に、マリーは横に首を振る。
僕もまた、微笑みながら王子に首を振る。
そして、隣に座っているシータ王女を見る。
ちょこんとお澄まし、そんな姿だ。
少しばかりの不安を読み取った自分に逃げるという選択肢はない。
「ちょっとびっくりしましたけど、シータ王女の笑顔が見れました。
僕なんかは一般人ですからそれで十分です。これ以上は贅沢ですよ」
「ファルクさん……ふふっ」
「おにーちゃん、カッコいい!」
何がどうツボに入ったのか、マリーもシータ王女も僕をキラキラした目で見てきた。
そんなに変なことを言ったかなあ?
「ははっ! いいね、いいよ。ファルクくん、なかなかいないよ?
兄を前に妹を口説いてるようなセリフを言える人間はさ」
(く、口説く!?)
突然すぎる突っ込みに、僕の頭が追いつかない。
『天然は俺にも何ともできない。あきらめろ』
何をさ、というツッコミもする元気がない状態だった。
「いえいえ、そんな。僕なんかじゃ」
「シータの事、嫌いってこと?」
無難に流そうとした僕を、シータ王女が潤んだ瞳で見つめてくる。
子供って、僕もまだ子供だけど、意見が極端になるよね。
田舎の弟と妹でそれをよく僕は学んでいる。
「そんなことないですよ。シータ王女が大きくなられたらわかります」
無難に無難に、僕は綱渡りを続ける。
大体反応を楽しんだのか、フェリオ王子は笑いすぎたのか
お腹をこすりつつ、ソファーへと座り込む。
「さて、約束の紹介だけどね。明日、また来てくれるかい?
彼は任務中だったからね。明日明後日には戻ってくると思うけど」
残りの依頼料も支払われ、小金持ちとなった僕とマリー。
王子たちと別れ、宿へと戻る。
なんだか疲れたね、と言いあいながらその日は僕達は
あっという間に眠りに落ちて行ってしまった。
翌日。
前と同じようにギルドへ向かうと今日は王子はおらず、
どこかの執事さんかなと思えるおじいさんが僕達を案内してくれる。
向かった先は大きいけれど質素な雰囲気を感じる建物。
最低限揃えたけど寝て過ごせればそれでいいという感じだ。
中に案内されるとそれはより強くなった。
調度品が最小限にしか置いていないのだ。
少し部屋に寂しさを感じる気がするけど、
単純に行くならこのぐらいの方が僕は過ごしやすいな。
「主は戻らないかもしれない役柄だから、といつもおっしゃられます」
「へー、素敵ですね」
案内してくれた執事さんに僕達も頭を下げ、
ソファーに座って主がやってくるのを待つ。
と、巨大な扉の向こうに気配、そして扉が開く。
「ふむ。君が王子のお気に入りか。私はダグラスという」
「あ、ファルクと言います。こちらはマリー」
目の前に立つダグラスさんは、一言でいえば巨漢、だった。
さすがに家の中ということでか、鎧は脱いでいる。
手加減はしているようだけど服がはちきれそうだ。
「聞いているぞ? 王子のお眼鏡にかなうとはいいことだ」
どかっとソファーに座り、3人用を1人で使いながらダグラスさんが俺達を視線で射貫く。
「たまたま依頼を受けて成功できただけですよ」
「ふふ、そういうことにしておこう。さて、霊山の話だったかな?」
出てきた単語に、胸が躍る。
手がかりが、あればいいのだけど。
「何から話した物か……まあ、簡単なところから。
私の先祖はかつて霊山で戦女神に出会ったことがあってね。
色々あって私はその魔道具を手に入れ、国に帰って来た」
「戦女神様に! それはすごいですね」
有名すぎるその名前を聞いた途端、
もっと幼いころに聞いた英雄譚を思い出した。
「ありがとう。その魔道具は長い間引き継がれ、今となる。
ああ、後で実際に見せよう。さて、霊山だったね。
結論から言えば、今の君でも恐らくは霊山に立つことはできる。
他の事は全くわからないけどね」
「どうしてそんなことがわかるんですか? その、学者さんではないようですけど」
マリーの言うように、疑問が残る。
今の僕でも、霊山に立てる? どういうことだろうか。
「なに、簡単な事さ。私のご先祖様はただの兵士だった。
それが霊山を登り、魔道具まで預かって来た。
祝福が世に出てきたのはここ100年ぐらいだ。
祝福の無かった時代にご先祖様は霊山から生きて帰って来た」
なるほど、これ以上ない証拠だ。
ただ、霊山には特殊な魔物が多数出るというから、
祝福を多く集められるということはそれだけの力があるという
証拠であり、わかりやすい。だからこそ、か。
「後は見てもらった方が早いか。少し、外に出よう」
「は、はい!」
そのまま案内された先は、お城そばにある広い場所。
『練兵場ってやつだな。ちょいちょい良い動きの奴がいる』
(ふうん……結構大きいなあ)
僕とマリーの視線の先で、武装した男同士がぶつかり、
互いに声をはねあげていた。
鎧と武器とがぶつかる音が続く。
これが、兵士の戦い。
参考になる部分がないかとみていると、
いつの間にかダグラスさんが誰かを呼び寄せていた。
やってきたのは僕と背格好が変わらない子。
「相手をしてやってくれ」
「「え?」」
偶然、僕とその子の声が一致した。
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