表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/257

MD2-090「竜の巫女-6」

家事都合により予約投稿です。


『不死者は斬ってもなかなか倒せないぞ!』


(わかってるけどっ)


怯えて固まってるらしいシータ王女を背後にかばい、

僕は明星を動きだした飛竜に向けて構える。


いつぞやの砦跡で出会った不死者達は

手が1本もげようが気にした様子はなかった。


飛竜ということで翼がどうにかなれば飛べなくはなるだろうけど、

それでもこちらに襲い掛かってくるだろうことは想像は難しくない。


呻き、こちらに顔を向けてくる飛竜。


時折その体から肉片らしきものが落ちるのが見ていても痛々しい。


「王女、あいつらを防ぎます。ゆっくり下がってください」


「おにーちゃん、駄目。あの子達、違うよ」


(違う? どういう……!)


動かないのは怯えているからと思ったけど、どうも違うらしい。


震えながらも、下がる様子のないシータ王女の声に、

どういうことかと振り返り掛ける。


それは生前の物か、あるいは死してから得た物か。


僕が作ってしまったその隙に飛竜の1匹が駆け出してくる。


「ウィンタック!」


咄嗟に風魔法を繰り出すも、巨体はすぐには止まらない。


明星が届きそうになる距離になって僕は覚悟を決めた。


狙うは、首元。


「はぁぁあああ!!」


力を籠めるなら叫べ。


何人もの先輩冒険者が良く言っていた言葉だ。


叫ぶことで力が入りやすく、そしてそれは威力となって武器に宿る。


やや細め、それでもシータ王女の胴ぐらいはありそうな太さの

飛竜の首に明星が叩き込まれる。


刃ではなく、腹の方が。


叫び声をあげ、横に倒れ込むようにして姿勢を崩す飛竜。


「ごめんね!」


「きゃっ」


僕はその隙に左手にシータ王女を抱え、後方に距離をとった。


その軽さに驚きながらも、彼女の歳を考えて納得する。


さすが王女というべきか、こんな状況でも可愛い姿なのを感じ、

少し笑ってしまった僕がいた。


でも、悪くはない。


「王女を助ける少年騎士、ってのは物語の王道だよねっと。

 シータ王女、違う、というのはあの飛竜たちが敵ではないってことですか?」


「うん。おにーちゃん、私、頑張って祈るからその間守ってくれる?」


残り2匹はまだ立ち上がり切っておらず、若干の時間はありそうだった。


その間に問いかけると、シータ王女は真剣な表情で3匹を見つめ、

手にしていた懐剣をぎゅっと握りしめる。


『やれるというなら……やれるんだろう』


ご先祖様の一言が迷いのあった僕の背中を押した。


言外にご先祖様はこう言っているのだ。


女の子が覚悟を決めているのに男のお前はどうするんだ、と。


「ああ。僕が、守るよ」


先ほどの攻撃から復活して来たらしい先頭の飛竜がこちらを向き、一鳴き。


さあ、突撃が来るかというところ。


シータ王女がいうのは、恐らく強力な彼らを殺さずにしのぎ続けろということだ。


「駄目ですよ、私達で守るんです」


前を睨みつけたままの僕の横に彼女が立つ。


侍女さんの避難は終わったようだ。


気のせいか若干緑に光る、杖を構えてマリーが魔力を練り始めている。


「そうだね、そうだ」


僕もまた、小さくウェイクアップと唱え、ご先祖様の力を解放する。


全身を駆け巡る力が僕の覚悟の表れだ。


「ありがとう。おにーちゃん、おねーちゃん」


以前よりも明確に力を感じるような気がする中、

僕達の後ろでシータ王女が祈りの姿勢に入る。


そして襲い掛かってくる飛竜。


浴びたくはない液体を口元からたらしながら、

その鋭いであろう牙が僕達へと向かってくる。


「こんのっ!」


「杖でだって殴れますからね!」


文字通り、腐っても竜種。


下手に受けると吹き飛びそうになる重量だけど、

横に受け流すぐらいなら何とかなると思いたい。


「エアロボム!」


ひるんだ隙に、覚えたばかりの風魔法を撃ちこむ。


片手ほどの広さに人が倒れ込む程度の暴風が吹き荒れる魔法だ。


普段なら牽制か、非殺傷目的にしか使えないような力。


だけど、こうして時間を稼ぐという時にはちょうどいいと思った。


「そんな、再生してる!? なら、雷の射線!」


風に吹き飛ばされ、飛び散ったはずの体が治っていくのを見、

マリーが叫びながら雷を翼に向けて打ち込む。


嫌な音と、良いとは言えない匂いが漂うけどその成果はあった。


目に見えて動きの鈍くなる1匹の飛竜。


僕もまた、それに習って別の2匹の足元あたりに雷の魔法を撃ちこむ。


焼け焦げ、動きの遅くなる姿にマリーへと頷く。


と、その時だ。


「ファルク殿!」


侍女さんの護衛をしてくれているであろう兵士から数名がこちらにやってくる。


普段ならありがたい……けど。


「王子の予言ではここは僕達だけらしいです! 増援が無いかだけ警戒お願いします!」


そう、フェリオ王子はギルドマスターのいた部屋で言っていた。


僕達とシータ王女が何かに立ち向かっている光景を見た、と。


そこには自分たち以外はいなかったと。


「……わかりました。ご武運を!」


本当は僕達みたいな若造に王女を任せるなんてとんでもないことだろう。


何のために近衛に選ばれたのか、なんて思われても仕方がない。


それでも引き下がってくれたのはそれだけ

王子と王女が信頼されているということじゃないだろうか。


「マリー、頑張るよ」


「ええ」


だから、僕達を信頼してくれる王女の期待には応えないと、ね。


迫る飛竜を睨みつけ、対処していくうちにだんだんと相手を見る余裕が出てきた。


そして、あることに気が付く。


(ああ……そういうこと?)


『鎮魂の儀ならでは……か』


僕と感覚を共有できるご先祖様もまた、気が付いたようだ。


飛竜たちが持っているのは殺気ではなく、願望の感情だと。


「そうか、飛竜はもっと……大きいよね」


「そういうことっ、ですかっ」


何度目かの吹き飛ばし、そして何度目かの再生。


この場所は竜の眠る場所だけあって多くの魔力というか、

竜のための力が漂っている。


それが飛竜に、いや……飛竜の子供の躯に吸い込まれてその体を動かす力となっていく。


彼ら、いや彼女かもしれないな。


飛竜たちの濁り始めた瞳にあるのは殺気ではなく、

悲しみでもなく、甘える相手への願望。


死んでしまったことを、若いがゆえに受け入れられていないのだ。


体は死んでしまっても、その魂が死を否定する。


ここで普段シータ王女が弔うのは寿命が来たり、

死を覚悟した竜の魂なのだろうと思う。


きっとどこかに、この場所につながる転送門やその類がいくつもある。


竜たちは自然にか、知性を持ってかこの場所を知っているのだ。


そこに紛れ込んだ、死んでいない魂。


その魂が、自分たちを慰めてくれそうなシータ王女を

なくなりかけた意識で求めているのだ。


それは母を求める子の感情のようなもの。


両者の間にいるためか、そんな考えが頭に染み込んでくる。


「ああ、偉大なる祖竜よ、汝が子孫に安らかなる眠りを。

 光よ立ち昇れ! ソウルインデュース!」


僕達の背後から、シータ王女の詠唱と共に魔力が、

いや……安らかな眠りを誘う力が広がる。


それは目の前の飛竜の3匹、そして近くの竜骨をも巻き込み、広がったところで消えた。


力なく倒れる3匹の飛竜。


起き上がってくる様子は、無い。


「終わった……よ。おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう」


疲れた声で、それでも満足げにつぶやく王女に、

僕もマリーも笑顔で微笑むのだった。





感想やポイントはいつでも歓迎です。

頂いた1つのブックマーク、1Pの評価が明日の糧です。


誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ