MD2-088「竜の巫女-4」
「し、少々お待ちください!」
僕達、正確にはマリーの名乗りと身分証明の後、
ギルドの受付さんは慌てて奥に走り去っていった。
『まあ、こうなるよな』
(だね……)
どこから調べたのか、ギルドより先に
自分たちの泊まっている宿に知らせが届いたのは今日の朝の事。
頼んでおいた手甲を受け取り、
そろそろかな?と考えていた矢先だ。
指定された通りにギルドに向かい、
知らせと一緒に渡された紙を1枚見せたらこれだ。
「ねえ、マリー」
「えっとですね、速やかにギルドマスターに話を通すこと、みたいなのが書かれてましたよ」
僕の疑問に、さらりと答えるマリー。
でも彼女の頬にも気のせいか汗が出ているから
きっとそこまで大ごととは思っていなかったのだろう。
しばらくして、受付さんが戻ってくる。
かなり慌てた様子で、汗が噴き出しているのは冷や汗混じりだろうか。
「こちらへ。奥でお待ちですので」
「ありがとうございます」
建物の中にいる他の冒険者の視線を集めながら、
案内されるままに奥の部屋へ。
普段、人が通ることは少ないのだろうな、と感じる通路。
少し大きめの扉が見えてくる。
「少し、いえ……かなり心配になってきました」
「わかるよ。でもここで帰るのはねえ……無理だし」
一緒に頑張ろう、とマリーを励ましながら僕は
きっとギルドマスターがいるであろう扉を開く。
やや暗めだった通路と違い、
そこは陽光がしっかり入る明るい部屋で……。
「なんで王子がもういるのか聞いても?」
「それはそうさ。私が依頼主なのだからね」
恐らくはギルドマスターであろうおじさんの横に、
堂々かつ自然に座っているフェリオ王子。
お忍びとなるのか、お城で出会った時の服装ではなく、
パッと見は高そうに見えない服を着ている。
でも、明らかに本人の色々が隠しきれていないと思う。
出来れば髪の毛ぐらいかつら被ったほうが良いと思うんだよね、目立つし。
「とりあえず、座りなよ」
「はい。じゃあ失礼して」
そんな内心の気持ちを隠しながら、勧められるままに2人して座る。
その間、ギルドマスターは無言だった。
それはそうだよね……。
「ああ、ありがとう。彼らは信用してるからね、席を外してくれるかい?」
「わかりました。御用があればいつでも」
王子へと頭を下げて、ギルドマスターはあっさりと部屋を出ていく。
え、王子一人きり?
「さて、この前の話の続きだね。本番は4日後。
現場は転送で行くから今言ってもしょうがないかな。
そこにシータが関係者と一緒に行くから、君達2人にはそれに同行してほしい」
「何故僕達なのか、は教えてもらえますか?」
内容自体は護衛とも違う、不思議な物。
ただついて行けとはよくわからない話だ。
間違いなく一緒に行くだけじゃ終わらないような気はすごいするのだけど。
というか、王子は僕達の前に一人でいるのにそれを気にした感じがないのはなんでだろう?
「そうだね……君たちは予言を信じるかい?」
「予言……まさかっ」
からかう様な顔の王子の言葉に、僕は首を傾げるけど、
マリーには心当たりがあったようで小さく叫んだ。
予言、つまり未来を言い当てるということ?
『間違ってないな。確かにここの家系には、過去何度もその能力者が出てるようだな』
(それはすごいけど……ちょっと怖いね)
「さすがに知っているみたいだね。それで見たのさ。
妹と一緒に何かに立ち向かっている少年と少女をね。
城で一目見てわかったね、君たちだと。
他にもいくつか理由はあるのだけど、一番大きいのはそれだね」
「自分は予言という物をよく知りませんけど、
王子自らが前に出てくるぐらいには参考になる物だというのはわかりました」
僕は混乱気味の頭を抱えながら、そう答えるのが精一杯だった。
もしかしたら虚空の地図に反応が無いだけで
護衛の人が隠れてたりしないだろうか?
『あるかもしれんが探らないほうが後々いいんじゃないか?』
ご先祖様のありがたい忠告を胸に、先ほどの考えは横に置くことにした。
「それはよかった。やってもらうことは特にないはずだ。
いつも通りの装備で同行で構わない。他の人員も武装してるしね」
王女を護衛付きで向かわせる転移先、すごい気になるけど当日まではわからなそうだ。
にしても、ここまでするということは何かの儀式のような物だろうか?
王子の話には豊穣の祈りだとかそういったのと同じ気配を感じる。
「シータ王女が向かわれるのはもしや、鎮魂の儀……しかも竜種のでしょうか」
「驚いた。良く知ってるね、その話を」
僕が考えている横で、マリーの発した言葉に
王子がここで初めて大きく表情を変えた。
竜、龍……ドラゴン。
昔から強大な敵、守護者、そして超えられない壁等と
おとぎ話にも出る生き物だ。
幸いにも僕は見たことが……あれ、地竜もそうなるのか。
『そうだな。遭遇して生き残ってるな、間違いない』
「地竜とは別の竜種のお墓か何か……?」
「話すと少し長いのだがね。王家の先祖の中に、竜種と言葉を交わした人物がいるのさ。
そして、その人物の没後、王家は鎮魂の儀を引き継いでいく代わりに
竜種に力を借りているのさ。と、ここまで言えばわかるかな?」
こくんと、僕は頷きで答える。
マリーも同様だ。
つまり、シータ王女はその儀式の主役であり、
竜種に力を借りている本人だということだ。
もしかしなくてもあの動きは竜種のせいかな。
あの変な格好もそのためか。
「いや、あの被り物はシータの趣味だよ。
本当はもっと別の姿なんだ。まあ、本番になればわかるよ」
「そ、そうなんですね」
思わずの問いかけにあっさりと王子は否定した。
そうか、趣味なんだ……。
個性的……いやいや、シータ王女はあんなに可愛らしいのだから
何を着ても似合うと思うのがいいのかもしれない。
変だとか言ったら泣かれそうだしね。
「おっと、そうだった。報酬は前金で銀貨100枚、無事に帰ってきたら200枚出そう」
「多すぎではないですか? それだけの金額となると、襲撃でもあるのかと疑ってしまいますが」
王子の提案した金額に、思わずと声を上げるマリー。
将来の領主としては慣れていかないといけない金額の気もするけど、
冒険者としてはそりゃあ大金だ。
実質1年宿に泊まれる金額だからね。
「可愛い妹の大事な儀式に立ち会ってもらうんだ。
そのぐらいは誠意として渡したい、では駄目かな」
「……わかりました。お心遣い、感謝します」
ここでダメと言える人は王様ぐらいだと思うんだよね。
マリーも僕も、そこで頭を下げるしかない。
ただ、悪い気分ではないよね。
それだけの価値を示してくれたのだから。
「後はそうだな。ファルクくん、君は今、霊山に行こうと修行中だったかな?」
「は、はい! 両親が霊山を最後に足取りが無い物で……そこで」
どこで仕入れたのか気になるけど、王子の問いかけに僕は正直に答える。
若干の沈黙は王子の優しさだろうか。
「であれば、終わった後に紹介したい者がいる。
かつて、霊山にて戦女神に武具を授かった者たちだ。
何かの参考にはなると思う」
「ありがとうございます! 僕、頑張ります!」
喜びのあまり、思わず立ち上がって王子に勢いよく頭を下げる僕。
いくら下げても足りないほどの情報だ。
それだけの、価値は間違いなくある。
「ではその日の朝、東の教会に来たまえ。そこが出発地点だ」
2人で頷き、その場は解散となった。
(父さん、母さん……必ず、見つけるから)
そう決意する僕の手を、柔らかくマリーが握ってくれる。
「頑張りましょう」
「うん。よろしく」
王都での騒動はいつしか大きな物となり、
僕達は気が付けば出発の日を迎えていた。
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