MD2-083「絆が紡ぐ」
たまにはこんな時間に。
「この手に集い、赤き鉄槌を。火火球! ふっとべ!」
戦いの口火は僕の火炎球で切られた。
僕達以外に誰もいない、廃村だからこそやれる豪快な手段。
つまりはそう、遠距離からひとまず叩き潰そうとしたのだ。
枯れ草たちが僕の腰ほどまで伸びたまま、
村の建物のほとんどは朽ちかけ、屋根のない物もある。
家は人が住まないとすぐに駄目になるとは言うけど、
こんな短時間でこうもぼろぼろになったのはコイツのせいであろう。
──魔法生物の中でもこの類は凍らない、痺れない、と厄介だ
そう言っていたご先祖様の助言を頭に置いて、
ウェイクアップで能力を向上させた後に
まずは爆発もする火の魔法で攻めてみた。
ゴーレムの屋根辺りに魔法は着弾し、周囲にも火をまき散らす。
「! えぐれてます! 私もっ!」
同じようにマリーの手から、赤い火の玉が飛んでいき、ぶつかると同時に爆発する。
一発で終わりとはいかないけど、上手く効いているようだった。
『感情が魔法に乗ってるな……ちゃんと抑えないと魔力が尽きるぞ』
ご先祖様の言うように、マリーの魔法はいつもより威力が上がっているようにも思えるけど、
それは後を考えるとあまりよろしくはなさそうだった。
「マリー、まだこの後があるからね。いつも通り行こう」
「はいっ!」
ジュエルゴーレム、見た目がアレなので建物ゴーレムと呼ぶとしよう。
何度も魔法攻撃を仕掛けるうち、相手に変化があった。
建物ゴーレムはどんな仕組みなのか、
立派な建物の状態から、やや小さい、雪だるまに手足が付いた状態となった。
手足があるということは動きそうだし、それを使って何かしてくるんだろうけど……。
「切れる姿になったのは……これなら!」
僕にとっては逆に攻撃の機会が巡ってくるような物。
人の営みがあったであろう廃墟の道を駆け抜け、
僕は抜き放ったままの明星に火炎球を魔法剣と化して切りかかった。
狙うべきは、ひとまず胴。
本当は手足を切るのが常とう手段だと思うけど、
相手は魔法生物だから足がいきなり10本になるってことも考えられる。
果たして、僕の攻撃に姿勢を崩した建物ゴーレムへと
マリーの魔法が襲い掛かる。
出来れば核を狙いたいのだけど、相手もそれがわかっているのか、
いつの間にか核が外に出ていなくなった。
だからこそ、隠れる隙間のありそうな胴体に攻撃を集中していたのだ。
当たりだったのか、ゴーレムの動きが防御主体になってきたように感じた。
ただ……。
『まずいな。決めるなら速攻で決めないとな』
「長引くとまずい。また魔力吸収を本気でやられたら!」
「でも、結構硬くて……!」
僕も言ってはみたものの、決定打にかけているのも確かであった。
確かにゴーレムを削ってはいるけれども、核への致命傷には遠いようだ。
一度撤退することも考えたけど、こいつが他に移動しないとも限らない。
やるならここで、だ。
そうとなれば……。
「マリー、援護宜しくね。大きく行くよ」
「わかりました。気を付けてくださいね?」
まるで歩き方を知らないかのように、あちらへふらふら、
こちらへふらふらとゴーレムは謎の行動を繰り返している。
だけど僕達を放っておく気はないようで、
しっかりと襲い掛かってくる。
ちょっとだけ下がってしっかりと深呼吸。
そして自らの体と周囲に漂う魔力を意識。
唱えるべきは……切り札の詠唱。
「巡れ……廻れ……回れ……マテリアル……ドライブ!!」
全身を駆け巡る高揚感。
僕は世界と、廃村の建物たちとも1つとなってゴーレムに突撃した。
両手であろう場所を広げ、突進してくる僕をゴーレムは迎え撃とうとしていた。
だけど、その手をマリーの援護による魔法が弾き飛ばす。
かなり強力な風魔法だ。
それによって出来た隙に僕はゴーレムの目の前まで来ると目的の魔法を発動する。
「レッドバンカー……連打!」
僕の構えた明星の剣先から生まれ出る無数の赤い杭。
物が砕かれる轟音がいくつも響き、
僕の剣先はゴーレムを砕いていく。
(核は、どこ? ここでもない、ここでも……あった!)
あらわになった見覚えのある赤い宝石のような物。
僕はそれを見つけ、残りの時間の間レッドバンカーを打ち込み……破壊した。
「やった!」
『まだだ!』
喜びの声を上げた僕に、忠告が響き渡る。
動きを止めてしまった僕の体をどこからか飛んできた瓦礫が吹き飛ばす。
「うわあああ!」
「ファルクさん!」
幸い、チェインメイルの上からなので衝撃だけで済んでいるが、
そうでなければお腹が弾けていただろう。
しかも、今の攻撃で右腕がうまく動かない。
骨折してるのかな?
ズキンズキンと痛んでくるがそうもいっていられない。
「マリー、下がって。魔力を吸われる!」
自身で宣言した通り、僕達の前でゴーレムは
震えたかと思うとスライムの様な塊となっていく。
「くうう!」
途端、周囲から魔力が消えていくのがわかる。
魔力とは精霊のそれと同じような物だ。
精霊が多い場所は魔力に溢れるし、逆もしかり。
であれば、魔力が無くなっていくということは精霊がいなくなっていくのと同じなのだ。
近いせいか、空っぽになったはずの僕は魔力が吸われる感覚に気絶しそうになる。
咄嗟にアイテムボックスからご先祖様が取り出したポーションを飲み干すと、
わずかながら魔力が回復したのを実感する。
『一回下がれ、それじゃ戦えない!』
「ここまで来てっ」
悔しいけれど、作戦の練り直しだ。
枯れ草であちこち切った自分の体に顔をしかめ、
マリーと一緒に探そうと意識を向けた時だ。
嫌な予感がして振り返ればスライムのようになっていた塊からこぶしが突き出ていた。
そして、なんとこちらに打ち出されたのだ。
「ぐっ!」
「ファルクさん、無理しないでください!」
無事な左手で明星を持つが思うようには震えない。
マリーのところまで吹き飛ばされるようにして後退し、
彼女に抱き寄せられてしまう。
なんとかしてここであいつを倒さないと……。
『見ろ、核は完全じゃない。だいぶ脆くなってるはずだ』
ご先祖様が指摘するように、スライムもどきの表面はヒビだらけだし、
見える核にもいくつもの傷。
きっと核を貫いたつもりが入りが浅かったのだろう。
それでも被害を与えることには成功しているようだけど……。
(僕はもうまともに戦えない……マリーだけじゃ無理だ)
「ファルクさん、ファルクさんのおじいさん。何かあれば私、やります。
なんとかできそうならやっちゃいましょう!」
深刻さが顔に出ていたんだと思う。
マリーはそう元気よく振舞い、僕を勇気づけてくれる。
彼女に、僕は何ができるだろうか?
『どうなるかわからんが、やれることはある』
(ほんとに? 何をしたらいいの?)
やったことがないから理論上は、だがと
前置きされた手段は、まずはマリーと手をつなぐことだった。
右手は何かに捕まるのも痛いので、武器が持てないけど左手で手をつないだ。
『続けて唱えろ。楽しい時も、苦しい時も、共に戦い、共に生き』
「楽しい時も、苦しい時も、共に戦い、共に生き」
淡々と聞こえる声にそのおかげで冷静になった僕の口から言葉が紡がれる。
『精霊に見限られるその日まで、横に寄り添う番の羽根とならん』
「精霊に見限られるその日まで、横に寄り添う番の羽根とならん」
……あれ、これって文言的に……。
『マリーに返事を聞いて、それでよかったらいうんだ、エンゲージと』
「マリー、どうかな。こんな時だけど……よかったらエンゲージって言ってみて」
「はい、いいですよ。遅かれ早かれ、です。エンゲージ!」
瞬間、僕の胸の付近から光が伸び、つないだ手を伝わってマリーへと届き、
同じようにマリーの胸の付近から伸びる光と絡み合い、消えた。
なんだろうね、今まで以上にマリーを身近に感じる。
『成功だ。聞こえるか』
「え? 何か聞こえます。これがファルクさんのご先祖様ですか?」
「ええ!?」
どうやら頭に響く声がマリーにも聞こえるみたい。
多分、手をつないでいるからというのもあるだろうけど。
『ファルクが使った切り札は、本来誰でも使えるはずなんだが、今は失われかけている。
それを何とかするのがこれだ。さあ、マリー。今のうちに叩き込め!』
確かに、魔力を吸われるとはいえ、
相手が修復を意識してか動きの鈍い今こそ逆に好機と言える。
「大丈夫。僕を信じて、さあ!」
「はいっ! 巡れ、廻れ、回れ。マテリアル……ドライブ!!」
再び、僕の体を高揚感が駆け巡る。
でも、これは僕の物じゃないとすぐにわかる。
手をつないだままの、マリーの物だ。
マリーは僕とつないでいない左手に杖を持ち、
しっかりとゴーレムを見据える。
「貫け、森の息吹!」
ボコっと、音を立てるかのように地面から緑のツルが無数に伸び始める。
それは枯れ草や枯れ木だらけのこの場所において、
ひどく幻想的に感じる光景だった。
1本のツルが少しゴーレムを削って力尽きた。
また別のツルが同じように少しゴーレムを削った。
それが無数に繰り返されたのだ。
そして……。
「見えた! まだ2つもある!?」
ツルにはじかれるようにこぼれ出た赤い何かの塊が2つ。
「貫きなさい!」
マリーの叫びに答え、鋭さを増した緑のツタ、いやもう杭かな?は
2つの核を打ち砕いた。
僕達の息遣いと風の音だけが聞こえる空間。
ゴーレムだった物はピクリとも動かないし、
ご先祖様からの安全宣言が出た。
何故だかご先祖様の声はマリーにまた聞こえなくなったようだ。
曰く、全部聞かれたら困るのはファルクだろ?だそうだ。
そういう時もあるかもしれないね。
ある年の春の事。
こうしてマリーの心の重しは1つ、砕けることになった。
さっそく家に帰らないといけないわけだけど……。
「怒られますよねー」
「たぶん、ね。僕なんか右腕骨折したままだし」
2人の、ちょっと寂しい声が空に溶けていく。
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