MD2-079「懐かしの街-2」
審問官は3人だった。
正確にはどうも、1人は審問官であとの二人は審問官ではあっても
別の役割を持つようだった。
と言うのも、本来あまり権限のないはずの審問官の人は多くをしゃべらず、
残り2人の男性が話を多くしていたからだ。
その内容は、貴族の面倒さを濃縮したような物だ。
簡単に言うと、マリーの叔父であるランドルさんの今すぐの処刑は無し。
戦時ならともかく、今の様な平時であればそこまで極刑は求められないのが世情だということだ。
ただ、罪は罪なので、ということで罰はある。
それは特殊な魔法を使った契約による物。
精霊契約、精約と呼ばれる特殊な魔法らしい。
これを使い、ランドルさんは名に恥じぬような行動をとることを宣誓することになった。
誰が恥じていない行動かを判断するかと言うと、
審問官のうちの1人だ。
給料が出るわけでもなく、何かを差し出せというでもなく、
ただこの地にしばらく住み込んで様子を観察するのだという。
マリーは継承が正しく認められ、
ランドルさんと雇用済みの元々の人達を補助に運営を行うことになった。
少し、いや、かなり寂しくはあるけど仕方がない。
しばらくは不慣れな新領主を周りが支えるという光景が続くのだと思う。
仮にも王家筋だから手心が入ったのかな?
あるいは王家筋だからこそ厳罰に、というのも予定していたのだけど……。
まあ、最悪の場合マリーを連れて逃げる覚悟だったけどね。
そうならなくてよかったと思うべきか、
マリーと冒険するのが少し遠のいたわけで寂しいと思うべきか。
僕? 今の僕はまぁ……別の意味で面倒なのだけど。
………
……
…
「このっ!」
「っとお!? あぶなっ」
上がり始めた息を悟られぬよう、呼吸と姿勢を整えながら
迫る剣を回避し、逆にすくい上げるような斬りで相手をけん制する。
上手い具合に相手の踏み込みに合わさったようで、
相手は思ったより大きく間合いを取ってくれた。
「今のは当たる訳にはいきませんね」
「何かぼんやり考えてると思ったら、その割に反応が速い」
何をしているかと言えば、マリーが審問官の人に正直に言ってしまったのだ。
この人と将来を歩みたいと思っています、と。
そりゃあもう、男としては奮起するしかない状況ですよね、うん。
勢いあまって、使用人の人達もいるのに僕も言ってしまった。
後の事をあまり考えていなかったんだよね。
僕とマリーの告白を聞いた審問官さんはしばらく考え込んだかと思うと、
思い出したかのようにこういったのだ。
─では、相応しい格を示さないと婚姻時に揉めますね、と。
そう、マリーはこれで正式に貴族の跡取り、領主となった。
そんな彼女の将来の相手に、どこの馬の骨とも知れない冒険者。
当人同士が良くても、体面はあまりよろしくは無い、ときたもんだ。
確かに、そうなんだよね。
僕、普通の村人だったわけだし。
というわけでまずは、と領内の兵士の皆さんと勝ち抜き戦となった。
ちなみにご先祖様には一時的に眠ってもらっている。
といっても半休眠みたいなもので、いざという時には目覚めてくれるし、
危ない気配があればわかるようになっている。
最初は10人、と言われて現在7人目。
なんとか木剣とはいえ、致命傷扱いの被弾は無いままここまで来ている。
(と言うか僕、結構動けるようになってきてたんだね……)
自分へと胸中で問いかける。
村を出る時は、ちょっと体力は人よりあるかな、ぐらいだった自覚がある。
それが今はどうだ。
曲がりなりにも兵士という職業に就いている相手と戦えているのだ。
「これで!」
気合一閃、相手の木剣が折れるようにして弾き飛ばされる。
誰でもない、僕の一撃によって。
僅かな休憩の後、次の相手、というところでこの後のために
そばで待機させていたホルコーがいななく。
ん、と顔を向けると屋敷の方が途端に騒がしくなった。
「何か、あったみたいですね」
僕のそのつぶやきは、すぐに正解となる。
……鉱山にモンスターが出たという緊急の知らせによって。
街に駆け込んできた作業員の話を聞くと、話は思ったより厄介なことになっている。
隠すでもなく、本当に鉱山での採掘量が減ってしまったのだ。
他でもない、モンスターが発生するという状況によって。
「おかしい。これまでウチの山で出たという話は聞いたことが無いぞ」
半ば呆然と呟くランドルさん。
その手にあるのは作業員が書きだした現在の被害状況だ。
幸い、死者は出ていないようだけど重傷者は多い。
復帰には長い時間がかかることだろう。
「出てきたのは亜人種ばかりなのですか?」
采配をする側の中心に立つマリーの問いかけに、
報告にきていた作業員たちがばらばらに頷く。
かなり緊張しているようだった。
それも無理はないかと思う。
流れによっては何か作業員がしたのではないか、
なんていう話にもなりかねないのだ。
『山への祈りが足りないということも無さそうだ……匂うな』
(うん。何か、あるね)
ご先祖様に言われる内容も恐らくは皆気が付いていることだと思う。
不思議なことだけど、山の神様への祈りを欠かさなければ
山は1年に1度か2度、掘った物が再生するのだ。
世界に鉄や魔石があふれやしないか、と心配しているのだけどそんな気配はない。
どうもまだまだこの世界では人が生活圏を広げるための土地は多いようで、
溢れるほど狭くはないということの様だった。
ともあれ、本来なら減るということは無いのが実情なのだ。
一時的に減ったとしても、それは回復するわけだ。
が、モンスターが出るようになったというのはあまり聞かない。
「ダンジョンの核が産まれたのか、奥に上位種でも産まれたのか……。
いずれにしても厄介ですね。しかも、街に近い……」
マリーが険しい表情で現状を評する。
彼女の言う通りであれば、現場はこの街から馬車ですぐなのだ。
「探索隊を組織しなくては。叔父様、ギルドへの要請窓口はどちらに?」
「ああ。すぐに確認しよう。ただ、その必要はないのではないかね?」
きびきびと指示を出すマリーに、ランドルさんは僕の方をみてそう答える。
ランドルさんもこれだけわかるのになぜラークの暴走を止められなかったのか。
それが親ってものかなあ?
「ファルクさん……」
つぶやくマリーが見つめる先。
そこには、そう。
既に一歩前に踏み出した僕がいる。
「新領主になっていきなり外に頼ってちゃ、何かを言われるかもしれないよね。
僕でよければ行くよ。そりゃあ、誰かついてきてくれるほうが良いけどさ」
ちょっとカッコつけすぎたかな?と思う僕の後ろで、
剣を合わせた人たちがそうそう、等と頷いている。
あっさり人手は集まった、って感じかな。
その場で素早く人員の配分が決まり、
他に兵士の人達7人が先遣隊として鉱山に向かうことになった。
僕はホルコーに乗って、他7人もそれぞれに馬に乗っての進軍となる。
『大したことが無ければいいんだが』
(大体そういうと、厄介になるよね……うん、僕知ってるよ)
ホルコーの背の上で、僕はご先祖様の言葉にそんなことを思うのだった。
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