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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-070「告白」



年の瀬も間もなくという頃。


街は時折騒がしさを産み出しながらも日常を送っていた。


僕とマリーはと言えばこの冬でも尽きない依頼を求め、

冒険者ギルドへと通い、依頼をこなしていた。


人も出歩くことが減る時期、依頼は減るように思えるけど

意外とこの時期だからこそという依頼がある。


1つは採取の類。


温かい頃にはどこにでも、というぐらいに生えている薬草類も

冬ともなれば多くが枯れ、地面の中で春を待つようになる。


条件を満たした場所のみ、少ないながらも生えている、と言った状態だ。


狩人上がりだったり、コツをつかんでいる一部の冒険者が良く受けている。


そして、モンスターの討伐依頼だ。


一部の動物のように冬眠を行うモンスターもいるらしいけど、

ほとんどは冬眠することが出来ない。


となると、だ。


「マナウォール!」


「よし、止まった!」


冬空の下、マリーの高い声が高らかに響く。


風の魔法と違い、音も無く広がる不可視の壁。


切り裂いたりといった事は出来ないけど、

広範囲に広がる魔力の壁だ。


普段なら使わないけど、今はこのほうがありがたい。


叫び声をあげて弾かれるように転がる相手、

恐らくホーンウルフの類であろう狼型のモンスターに駆け寄り、明星を一閃。


毛皮はお金になるので、出来るだけ一撃で仕留めるべく

無防備にさらけ出された首元への攻撃だ。


以前見た時より細身になってしまっている相手は、

僕の攻撃によりあっさりと命の鼓動を止めてしまう。


その姿に僕はわずかながらも憐憫の情を抱いてしまう。


『ぼさっとするな、右!』


「! くっ!」


だけど相手は命がけ。


ある意味、ここに来なくても生きていける僕よりは遥かに命をかけているといえる。


放たれた矢のように、痩せた体からは想像もつかない速度と鋭さで別の個体が飛びかかってきていた。


後悔と自分への叱咤の気持ちを抱えながら、

姿勢を崩しつつも僕はその個体も迎撃する。


時間にして半刻も無い間に、僕達は都合6匹を討伐することとなった。


冬らしい強い風が地面に流れた血の匂いを吹き飛ばしていく。


夏とは違う意味で、これらもすぐに乾いてしまうことだろう。


僕達の受けた依頼はここで指定の日時を過ごすこと。


その間、可能であればこうしてモンスターを討伐してほしいということだ。


基本報酬に討伐分が足されるので仮に襲撃が無くてもお金はもらえる。


まあ、既に2回目の襲撃なわけだけどね。


それだけ森を追い出されたモンスターが多いということかもしれない。


「特に不作ということは無くてもこうやって数を減らしているんでしょうか」


「たぶんね。僕のいた村でも冬は順番で見張りを置いていたよ。

 さすがに大声を出したり、矢を打ち込めば逃げていったけどね。

 大多数のモンスターにとっては人はまだやりやすい相手なんだと思うよ。

 それ以外の、モンスター同士だと大体はどちらかが食われる」


僕達がいるのはエルファーダの街から半日もしないところにある街道の休憩所。


休憩所と言っても、少し広間のように整備された場所で、

たき火がしやすいように岩が置いてあったり、そのぐらいだ。


建物があるわけじゃあない。


それでも街道の適当なところで休むよりはかなりマシだ。


牙や毛皮等、必要な部分を剥ぎ取るなどして

残ってしまった部分は魔法で焼く。


こうしておかないとそれを食べにすぐに次の相手が来てしまうからね。


休む時間というのは大事だ。


小さなたき火を作り、多少ながらも暖を取る準備をする僕。


「……少し、オルファン領のことを街で聞いてみたんです。

 予想より悪かったです。運営は元々の代官に任せて本人達は何もしていない同然だそうです」


そんなたき火に細い枝をつっこみながら、マリーが小さくつぶやいた。


「そっか。まあ、重税にあえいでいるとかじゃなくてよかったんじゃないのかな?」


僕はマリーの事情を詳しくは知らない。


けど、後悔はあるんだろうなと思う。


マリーは優しい子だ。


どうやら一人娘らしいから、本当ならばご両親の後を継ぎながら

お婿さんを迎えるような立場だ。


でも、彼女はそれを良しとしなかった。


もっとも、不在の間に叔父が代理領主として就任しているからには

色々と問題が出るだろうという考えでもあるわけだけども。


というか、僕の印象だと貴族ってある程度子だくさんになって

継承の問題は出るかもしれないけど血が絶える危機は回避する、

ってものだったんだけどね。


マリーのご両親の考えは今となってはわからないけど、

ちょっと微妙な状況なのは確かなのだろう。


「聞いてくれますか?」


何を、とは彼女は言わなかった。


幸いにも、今のところ襲撃の気配はないし、

見える地図にも反応は無い。


「うん。いいよ」


肌寒いのか、他の理由なのか。


僕のすぐ横、というか腕を触れ合うようにしてマリーが口を開く。


「私は、ひどい子なんです。領地にはみんながいるのに。

 父や母を慕う領民がいて、本当なら自分が運営するはずの土地なのに。

 私は……逃げました。倍以上年の離れた親戚の男と結婚するのが嫌だからと」


揺れる火を見ながらのマリーの瞳は揺れている。


うっすらと浮かび始めた涙にだ。


僕は無言でうなずき、マリーの次を促す。


「オルファン領の話を聞きこむとき、どこかで期待していました。

 ちゃんと運営しているか、もしくは……

 大手を振って復権を挑めるようなひどい運営をしていないかって」


そこまでいって、マリーは静かになる。


自分がいなくても領民が泣くようなことの無い運営ならそれはそれでよく、

もしもひどい噂が流れるような物なら堂々と非難できた、ということだろうか。


そして今回、あまり良いとは言えない状況に、

大義名分が出来たかのように感じたのだろう。


でも自分だって逃げた、だからこそ声を上げていいのか、悩んでいる。


そんなマリーを見て僕は……。


「そんなもんじゃないのかな」


「……え?」


横を見ずに、たき火に枝を投入して言い切った。


マリーが僕の方を見るのを感じるけど、そちらを見ずに長い枝で火を調整する。


「そりゃ、セリス君にしてもマリーにしても、貴族としてちゃんと教育されて、

 こうあるべきだ、貴族の心得とは、なんて教えてもらったかもしれないけどさ」


枝を横に置き、アイテムボックスからごそごそと干し肉を取り出す。


何のためにって? 炙るためさ。


「僕達は人間なんだよ。怒りもすれば泣きもする。

 やりたいことのために頑張ったり、やりたくないことのために我慢することだってある。

 それはきっと王様だって誰だって一緒じゃないかな」


だから、マリーがその時、投げ出したくなったっていいじゃないか。


僕はそういって干し肉を枝に刺し始めた。


「でも……きっと私は逃げた。そういった目で見てくると思います」


「そうだね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 僕ですらわかるんだから、他の人だって思うんじゃない?

 こんな結婚無いわー、とかさ? 責任はついて回るかもしれないけど」


中には貴族だからしょうがない、って思う人もいるだろうけど

それはそれで正しい意見だ。


貴族にせよ、そうでない村人にせよ、人からの評価が1つなんてことは無い。


でも、マリーの両親が良い人であればあるほど、

きっとマリーの事を気にしている人も多いはずだ。


「仮にマリーがご両親が亡くなられた時に声を上げて、

 若くして継いでいたとしても苦情は出たと思うよ?

 もしくは、自分を押し殺して結婚してたとしても、ね」


このあたりは僕の勝手な想像だけど、大きくは外れていないと思う。


「そう……でしょうか?」


マリーの声からは少し暗さが抜けてきた。


その分、迷ってる感じだけどね。


「そりゃそうさ。何をどうしたって全員が満足いくことなんて世の中ないもんね。

 大切なのはさ……」


干し肉を刺した枝を2本、僕はたき火のそばに置く。


すぐに炙られて匂いを出し始める干し肉。


この干し肉は要は時間制限の証なのだけど、きっとマリーもわかっている。


「自分がどうしたいか、選んだ結果に最後まで責任を取ること。

 そして、間違ってると思ったら修正しようとする勇気じゃない?」


「自分が……どうしたいか……過ちを認める勇気……」


火を見つめるマリーの瞳は……揺れていた。


それは涙ではなく、次の言葉をどう出そうかという悩みに僕は見えた。


「ファルクさん」


「なんだい」


僕は枝の向きを変えながら返事をする。


「お願いがあります。しばらくの間、私と……」


「だめだよ」


言葉の途中で、僕はそう言い切った。


パチンと、たき火の中で音がはぜる。


え?と時を止めるマリーに、僕は向き直った。


「しばらく、じゃ駄目だよ。マリーの家の問題が解決するまで、ずっとならいいよ」


「あの……その……!」


最初にマリーに言われた言葉をそのままに、僕はそう言い切った。


ちょうどよさそうな干し肉の刺さった枝をつかみ、

彼女に差し出しながらなおもいう。


「言ったでしょ? 君以外考えられないんだって」


「……はいっ!」


涙声でマリーは枝を受け取る。


これを食べる頃には次の襲撃がきっと来る。


餓えているモンスターには酷な匂いだろうからね。


数も多いかもしれない。


でも、僕達ならやれるさ。


「ファルクさん!」


「なんだい」


立ち上がり、自分に手を差し出すマリー。


僕はその手をつかみ、立ち上がる。


「私……頑張ります!」


「うん。僕もさ」


気のせいか、冬の寒さを僕はその時、全く感じなかった。


そしてマリーも同じだといいな、というのは僕のうぬぼれじゃないといいと思う。


……ちょっと贅沢かな?



砂糖が出るような雰囲気が書けてたらいいなと思います。


なかなか頭でイメージした通りの描写ってできないんですよね……。


次のお話の塊で1章が終わる予定です。


感想やポイントはいつでも歓迎です。


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