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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-066「不穏の足音-4」



オブリーン領土、エルファーダ領。


王都からは北東に位置する中規模の土地。


北に険しい山脈を抱き、事実上そこから南が領土となっている土地だ。


冬の中頃から山脈からの風と雪が時折暴れる場所だという。


それ以外は周囲と比べ、特に問題の無い実りの得られる場所。


そんな場所がセリス君の実家だ。


統治に問題は少ないらしく、行き交う人の顔に暗さは少ない。


慕われている、ということだろうか。


だからこそか、セリス君が街の門番に伝令を頼むと

彼は僕が驚くような駆け足で走っていった。


向かう先には周囲で一番大きいように見える家というより小さな砦。


まあ、貴族というのはこういう物かな。


『今のうちにやり取りを考えておかないとな。

 セリスの事だ、家族に紹介無しということは無いだろう』


(確かにね。どうしようか……どう喋ったらいいやら)


「心配ご無用ですよ。両親や姉もあまり細かいことは気にしません。

 若い頃は兵士を率いて自ら鉱山のモンスターを討伐するような人ですからね。

 出来る範囲の形で大丈夫だと思いますよ」


心配が顔に出ていたのか、門番を見送っていたセリス君にそんなことを言われた。


横を見れば、マリーは任せてくださいと言わんばかりの顔だ。


「マリー、色々お願いね」


「ええ、でも……ファルクさんなら大丈夫ですよ、うん。大丈夫です」


何がどうなってそこまでの自信になるのか。


何故だかマリーはひどく簡単な、それでいて唯一できる仕事を任せられた

子供のようなキラキラした笑顔でそう答えてきた。


きっとお店の時のような感じで行けばよほどいいのだろう、たぶん。


しばらく待っているうちにやってきた騎馬兵の先導に従い、

僕達は馬を進ませる。


「今さらですけど、下馬しなくていいのですか?」


「お屋敷の敷地内ではそうしていただくかと思いますが今は結構です。

 また、自分はただの1兵ですので言葉はお気にせず」


緊張しながらの問いかけに騎馬兵の人は振り返らずに丁寧に答えてくれた。


というかこの人……強いな。


さりげなく周囲を警戒しながら先導する技術はよほどの物だ。


「カイはうちの兵士の中でも別格です。私も彼ぐらいになれたら、といつも目標としています。

 同じ武器なのにいつも負けてるんですよね」


セリス君に言われてよく見れば、馬上の人なのに騎馬兵、

カイさんはショートソードを腰に下げている。


通常、馬に乗ったままでも届くような長さの武器か、

射撃武器で過ごすのが騎馬兵の基本だ。


そうなると普段は地上を走る人なのかな。


「セリス様も見違えました。こんな短期間で驚くほどです。脚運びは元より、

 動き1つ1つが非常に良くなりました。自分に勝つ日も遠くないかと思われますよ」


カイさんの言葉に事務的な響きは無い。


かといって感情豊かということではないけど、

セリス君を思う感情が乗っているように感じる。


きっと近所の頼れるお兄さん、ぐらいには仲がいい関係なのだろう。


そうこうしているうちにセリス君の家、エルファーダ家の屋敷が目の前になる。


「あれ? 誰か立っていませんか?」


「え? あっ! 姉上!」


マリーの驚きの声に、セリス君は飛び跳ねるように反応してダンゲルから飛び降り走る。


この距離なら今降りても後で降りてもそう変わらなそうなので、

カイさんに頷いて僕達もホルコーから降りる。


「馬のお世話はお任せを。セリス様を、お願いいたします」


多くは語らずとも、セリス君が何かしらの苦境を乗り越えたことを

カイさんは感じ取っているようだった。


ひと段落したらきっとセリス君が話すだろうから、

今は頭を下げてセリス君を追いかける。






「ああ……女神よ。本当にセリスだわ。よく、よく無事で」


「姉上、く、苦しいですっ」


僕達が追いつくと、セリス君は彼の姉であろう人に正面から抱き付かれているところだった。


正確には姉の方が背が高く、彼女の胸元がちょうどセリス君の顔ぐらいの差であった。


そして豊満な彼女の胸にセリス君は圧迫されているという言葉に困る状況だった。


「いてっ、どうしたの、マリー」


「なんでもないですよー、はい。なんでも」


呆然と2人を見ていた僕の横腹をなぜかマリーがつねってきた。


理由を聞いても答えてくれず、逆に顔をそらされた。


『まあ、男のチラ見は女に取っちゃじっと見てるのと同じだって言うからな』


(あ! そ、そういうこと!?)


ご先祖様の直球なようなそうでないような指摘に僕は理由に思い当たるも、

2人を見ないという訳にもいかずおろおろするばかりであった。


「まあ、いつものようにスィルお姉様とは呼んではくれないのかしら?」


そういって彼を胸元から解放するも、からかう様な声で問いかけるセリス君の姉、スィルさん。


腰ほどに伸びた銀髪はさらさらと動きと風に合わせて揺れ、

たれ目気味の瞳は声同様におっとりした印象を与えながらも

先ほどからのやり取りを見る限り意外と活発そうだ。


後はまあ、確かにセリス君が言い寄られてる、と評するだけあって

あちこちから声がかかりそうな体つきの人である。


って。


「セリス君!」


横合いの気配が何やら不穏な物になりそうな気がした僕は

思わず彼を呼んでいた。


「あ。そうでした。スィルお姉様、彼らが今回私を助けてくれたんです」


まだほどいてくれないスィルさんの腕の中で器用にこちらを向くセリス君。


「あら……ご挨拶もせずに申し訳ありませんわね。お若い冒険者様。

 弟がお世話になったようで、お礼のための一席にご参加いただけますか?」


流れるような仕草でセリス君を自分の横に解放し、

スィルさんはそういって挨拶としてか僕達に小さく頭を下げた。


「ご厚意、お受けいたします」


このぐらいで大丈夫だよ、と示すかのようにマリーも丁寧に思える仕草で頭を下げ、

気が付けば僕達は屋敷の中に通されていた。


………


……



「そうですか……発見されず、の報しか届かず、日々心配でした。

 それがまさか、ダンジョンに挑んでいるとは……。

 しかも騎士証を手に入れているとは二重三重に驚きです」


一杯の値段が気になるお茶を出されながら、

ふかふかの椅子で向かい合う僕達とスィルさん達。


調度品1つ1つが相応の値段だとすぐにわかるあたり、

やっぱり貴族なんだなと僕に感じさせる。


だからどうこうするってわけじゃあないけどね。


「これで私が家を継げます。そうしたら、お姉様は今より自由です」


テーブルに騎士証を置き、隣のスィルさんを見るセリス君。


歳も離れているし、普段から年下だけど自分は男なのだから、

という意識で動いていたのであろうことがよくわかるという物だ。


と、扉の外に気配。


でも、ちょっと弱っているような感じだ。


となると……。


静かに扉が開き、誰かが入ってくる。


「お父様!」


「おお……セリスよ、よくぞ無事に戻った。そちらはお客人かな?

 ゆっくりしていくといい」


いつの間に戻ってきたのか、カイさんに押される形の車いすに座る男性。


自力では歩けないのか、だいぶ痩せている。


まなざしは鋭く、当主の風格は衰えてはいないように見える。


ただ、全身に疲れた気配があるのでやはり領地の運営という負担が辛いのだろう。


無言で従うカイさんと、何やら鞄を抱えたままの男性。


格好からすると街にいた薬師さんに近いけど……。


「ゲイル、あれを」


「よろしいのですか? 1日に処方は1瓶ですぞ」


「良い。戻ってきた息子と客人のために動かずいつ動くのだ」


何やらやり取りの後、ゲイルさんは鞄からポーションらしきものを取り出す。


セリス君の父親はそれを受け取り、失礼とこちらに断ってから一息でそれを飲み干す。


(? この匂い……まさか……)


「ふう。すまぬな。事故の後遺症で専用のポーションを飲まねば長話も出来ぬ。

 これでしばらくは大丈夫だ。さあ、セリスよ。旅路を聞かせてもらおうか」


「は、はいっ」


ゲイルさんが部屋から出ていき、場所を移動したセリス君の父親の視線が僕達に注がれる。


だが僕だけは別の事を考えていた。


先ほどフタの開いた瓶から漂ってきた匂い。


かすかながら、僕には覚えがある。


店で売っていた薬草達、それを調合したある種のポーションにそっくりなのだ。


ああやって飲んだということは治療薬かその類だと思っているに違いない。


でも、それは違う。


あの匂いが僕の記憶違いでなければ、あのポーションは

緊急時に元気の前借をするかのように体の栄養を燃焼させ、

一時的に活力は得られるものの──後から脱力感と体への被害が出る、

そんな冒険者の切り札の1つとなる劇薬だ。


決して、治すつもりのある人が飲むような代物じゃない。


セリス君と話をするためにそれでも飲んだ?


いいや、違う。


先ほどゲイルさん、あの薬師とは1日に1回、というやり取りをしていた。


であれば日常的とは言わずとも、それなりの頻度で飲んでいることになる。


これは……。


『今すぐ暴くのはまずいな。話が終わってセリスだけと話せるようになってからにしよう』


ご先祖様の忠告に心で頷き、セリス君との冒険談を口にすべく

そのまま会話に僕は参加していく。


僕にはスィルさんやセリス君の父親の相槌の声が

不穏の源が生み出す足音のように聞こえて仕方がなかった。



メリットデメリットの大きい栄養ドリンクみたいなものです、はい。


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