MD2-064「不穏の足音-2」
話の進み方自体はのんびりしております。
突然だけど、何かを襲う方と何かに襲われる方。
どちらを助ける?
まあ、中には襲う方を手助けして、後からそっちもどうにかして
全部自分の物、目撃者は無し、なんて人もいるかもしれないけど、
大体において、どうせ助けるなら襲われてるほうだと思う。
こういうのって巡り巡って自分に返ってくるしね。
精霊がみんな見てるって感じなんだろうか?
ともあれ、見えてきた煙の元には馬車が数台。
恐らくは何かの荷物のための荷台付ではなく、人が乗るための箱馬車。
となると、この先の村や町へ帰る人たちの物だろうか。
予想でしかないけど、休憩中に襲われたのだと思う。
この先はちょっとした山があるようなので
超えるには少し苦労が必要だ。
休憩後に速度を上げて通り抜けるか、無理をして夜になるよりはと
少し早いけどそのまま次の日に備えても不思議じゃない。
どちらの予定だったかはわからないけど、
たき火に馬車が倒れこんでいるのだとすると煙の多さにも説明がつく。
より近づくことで、馬車を襲った犯人が見えてくる。
「ファルクさん!」
「うん。オークだ、こんな時期に!」
接触しない様、少し横に離れたセリス君の声に僕も叫ぶようにして答える。
背中でマリーが既に魔法の詠唱を始めるのを聞きながら
ホルコーの速度を少しでも早く、と上げる。
護衛の人はいるようだけど防戦というのは大変なのだ。
僕は腰に回っているマリーの左手をしっかりと自分の手で
抱きこむようにして支えながらホルコーを走らせる。
イオリアにつく前の野盗と違い、今度はマリーとセリス君が一緒にいる。
攻撃は任せればいいのだ。
馬上からのマリーの魔法攻撃とセリス君の騎馬としての突撃。
予想していなかったであろう横槍にオークは大いに慌て、
護衛と僕達にと挟み撃ちとなる形ですぐに命を散らすこととなった。
………
……
…
「助かりました。護衛の依頼でも無いのになんと優しい方達だ。
先頭の1台が最初に潰されてしまいまして……動くに動けませんで……」
「いえ、被害が少ないようで何よりです。たまたまですし」
馬車の持ち主らしい旅慣れてはいるけど一般人であろう男性は
戦いが終わるとすぐにこちらにやってくるとそういって頭を下げる。
よく見ると腰にショートソードを下げているし、
手も汚れているから何もできないという訳じゃあないみたいだった。
「飛び込みに助けられるとは情けねえ話だが、まさかあの数のオークとはね。
死人が出なかったのは3人のおかげだ。ありがとよ」
護衛の代表らしい冒険者の男性は僕達の見た目の若さにか
最初は驚いていたようだけどすぐに表情を改め、冒険者らしい言葉で握手を求めてきた。
「間に合ってよかったです。こんな街道にオークが出てくるなんて災難ですね」
僕もその手を握り返し、本心でそう答える。
本当に偶然の事だ。
本来は護衛の依頼を受けている冒険者の仕事を取ってしまうことであるし、
もしかしたら料金を減らされることになるかもしれないので
手助け無用、という考え方もあるにはあるのだ。
ただまあ、護衛に失敗したら料金どころじゃないのも確かなのだけど。
セリス君とマリーは馬車の片づけや荷物の整理などを手伝っている。
焼けたりつぶれてしまったものだってあるし、こういう時は
意外と第三者の方が冷静に判断できるものだ。
護衛の立場からはもうそれは捨てていこう、とかなかなか言えないしね。
話を聞くと、目的地は隣の貴族領地の境にある街らしい。
エルファーダ領って言ってたからセリス君の実家の領地ということになる。
もしかしたら領民もいるかもね。
と、そんなことを考えているとセリス君とマリーが戻ってくる。
「お帰り。どうだった?」
「整理の方は終わりましたけど……少し問題が」
マリーに言われ、そちらを見ると無事な2台の馬車と、
修理中らしい1台の馬車。
小さめだけど箱馬車らしく、修理中の箱馬車の屋根が無い。
1台は完全に焼け焦げたうえに壊れた状態で残骸となっている。
周囲には馬が4頭。
(……あれ?)
僕の疑問が顔に出ていたのか、視界の隅でセリス君が大きく頷く。
「そうなんです。2台分の馬が逃げてしまったそうで……すぐそこでオークに殺されていました」
オークは雑食というか肉食が主だ。
場所柄、基本的には動物を襲うことになるんだけど
人間を襲う時もあるんだよね。
オークからすると、武装していない人間は良い餌扱いなんだろうなと思う。
だからこその護衛なのだけど、逃げる馬をどうにかするというのは無理な話だ。
(さてっと……この選択をするのは簡単だけど、ね)
『わかってるなら俺はどっちでも構わないぞ。先を急いでも恨む人はいないだろうからな』
僕の心が伝わるご先祖様からの声も暗い物ではない。
こういうこともあるよね、といった雰囲気だ。
歩けそうな男の人が馬車を下り、女性や子供、老人が馬車に残る。
そうしないと残った馬で3台を引くのは難しいからだ。
人数や荷物を考えると1台に2頭は必要だからね。
「そっちも気をつけてな」
「それなんですけどね、ちょっと提案が」
別れの挨拶をしようとする相手を制し、
馬車の御者、つまりは雇い主の方を見る。
「街についたら適当におごってくれればお手伝いしますよ」
最初は僕が何を言っているのかわからなかったのだろうか、
パチパチと目を瞬かせ、次に驚愕の表情になる。
「それはありがたいことですが、よろしいので?」
僕はすぐそこでしたり顔になっているマリー、
そして何に感動しているのか顔をキラキラさせているセリス君に目を向けながら
僕は護衛の人と、雇い主の方に向き直る。
「ええ、そっちの男の子が街向こうの関係者でして。
下心満載な申し出ですから気にしないでください」
雇い主の了承の返事に、すぐにセリス君とマリーが
ダンゲルとホルコーを余った1台の馬車へと連れていく。
それを眺めながら、僕は冒険者の人達と目的地までの予定などを話すこととなる。
急ぎで山を越えるのは確実だ。
遅れを取り戻すべく急がないといけない。
最初は呆れた様子の冒険者の先輩方だったけど、
すぐに出発のために気持ちを切り替えたようでそれぞれに動き出す。
再び動き出すことになった馬車達の3台目をダンゲルとホルコーが担当することになった。
一緒になった冒険者の人と談笑しながら僕はふと街道の脇を見る。
冬に向け、枯れ草が増えてきた道。
特別不作だとか、問題があるとは市場でも聞いていない。
であるのに、オークはこんな街道に出てきた。
オークはほとんどが人間と比べると頭が悪い。
村のような集まりを山の中に作ることはあっても、
建物を作るようなことはできない。
それと一緒で道具らしきものを作ることはあっても
あくまでもそれらしいもの、というぐらいにとどまる。
でも、人里に近いオークほど下手に人を襲わないのだ。
そうなればいつか退治されると身をもって知っているから。
冒険者の人らに聞いた話によれば、
彼らと依頼主はこの道を往復することが多い常連の間柄らしい。
そんな彼らですら、今回のオークは意外な襲撃とその数だったのだ。
あり得ないとは言わないけど、まず無いはずのオークによる馬車の襲撃。
理由のわからない何かの嫌な気配。
そんな根拠のない物をふと感じてしまう、悩ましい話だった。
3日に1回にした結果、なんだか更新頻度と文章量は前より1.5倍ぐらいになったような……。
感想やポイントはいつでも歓迎です。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。




