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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-063「不穏の足音-1」

セリス君の実家まではどう向かうのか。


時間的には朝食が終わったころで、大体の護衛依頼や

商隊は出発済みだろうと思う。


誰もが夜営は出来れば行いたくなく明るいうちに移動するようにするので、

夜明けとともに、というのが一般的だ。


季節的にも秋も深まり、もう冬の気配を感じる朝晩。


今年の冬は随分とせっかちなようで、干し肉を買った店では

霜が降りるのが速いかもしれん、などと言っていたのが印象深かった。


そんな時であれば夜営の際にはしっかりと準備をしないと眠るどころではないだろうと思う。


僕としては野営用の天幕をアイテムボックスに入れて

いざとなれば取り出して過ごせばいいとも考えているので後は移動手段だ。


都合よく護衛依頼等が無い以上は3人で馬という形だろう。


セリス君はイオリアまで馬車で来たそうなので馬は持っていない。


僕としては今なら手に入りやすいとは思っている。


村の経験からいえば、この時季の家畜はいるだけで維持費がのしかかってくる。


生きているだけで何かを食べるわけだからね。


しっかり準備しておかないと冬の最中にどうにかしなくてはいけなくなるので

売れるのならば売ってしまいたいと思うはず……。


1頭減ればその分冬の間の消費が減るわけだ。


そうセリス君に伝えると、さっそくとばかりにイオリアの街に駆け出していく。


「僕達はその間にホルコーを迎えに行って、宿も引き払わないとね」


「そうですね。セリスさんが戻ってきたら一緒に市場で買い物をして出発しましょう」


幸いにもというべきか、僕の使えるアイテムボックスには

いくつもの保存食や水が瓶に入った状態で既に仕舞われている。


まとめ買いが出来れば僕達程度の収入でも結構な量を買うことは出来るのだ。


後はこまごまとした買い物ぐらいなものだ。


近くなっている冬を前に準備を終えようとしているのか、

市場の喧騒はここからでも十分わかるほどにぎわっている。


中には懐が寒そうな冒険者もいれば、

既に朝から飲んでいるのか赤らんだ顔の冒険者もいる。


ダンジョンの関係からか、僕のような若い子を年長者、

あるいは30歳、40歳と思える大人が引き連れている、

なんていう光景もあちこちで見える。


大多数は普通に暮らしている一般の人なのだけど、

そんな中に彼らが混じるとここが活気ある場所だと

余計に思えるのだから面白い。


そんなことを考えながらホルコーを迎えに行き、

市場の入り口付近でセリス君を待っていると

道の向こうから一人と一頭がやってくる。


どうやら無事に馬を確保できたようだった。


「お待たせしました! 良い子がいました。

 良すぎてえさ代が馬鹿にならんって喜ばれました」


笑顔でそう報告するセリス君にこちらも微笑みながらその馬を見れば、

黒みの強いこげ茶色の体躯で、どうやら雄らしかった。


ホルコーと仲はどうかな?と心配した僕を他所に、

2頭は鼻を近づけたかと思うとすぐに頭を交差し、交流を計っている。


(雄雌だし、もしかしたらもしかするかも?)


『ま、なるようになるさ。男女間なんてのは馬も人もな』


ご先祖様の妙に達観した台詞に内心脱力しながら、

市場の入り口で馬を預け、3人で市場に向かう。


と言っても先ほど考えたように多く買い込む必要はないんだよね。


ちょっとした小物や、今日食べる新鮮な野菜等ぐらいだ。


そんなわけで短い時間で買い物は終わる。


後は出発するだけなのだけど……。


途中、変な話を聞いた。


黒い夜渡り、という話だ。


夜に渡るとして、よわたり。


名前の通り夜の間に、何者かが空を舞っているのだという。


それだけなら何かしら空を飛ぶモンスター等が夜に飛んでいるだけという話になるのだけど、

干し果物を売っていたおじさんの話によれば、先ほどまで星でいっぱいだった夜空に、

ぽっかりと穴が開くように黒い部分が出来るほどだということ。


つまり、相当な巨体か低い場所を飛んでいるということになる。


どちらにせよ、そんな何かが襲ってくるかもしれないとなれば

考えるだけで怖いよね、という話である。


空を飛ぶと言えばワイバーン等が考えられるけど、

聞くところによればワイバーンって夜に弱いんだよね。


そうなると夜に強い類のドラゴン……なんだけどそうだとしたら厄介なんてものじゃない。


少なくとも今考えてもどうしようもない話だ。


「あまり開けた場所で夜営はしないほうがよさそうでしょうか?」


「自分はどちらでも……」


「道中次第だよね。良い場所があればいいんだけど」


心配して隠れて夜営をすべきかとつぶやくマリーに、

ここに来た時も馬車だったせいか何とも言えなそうなセリス君。


僕自身はこう答えてごまかしながらも別の事を考えていた。


僕には心当たりがある。


マリーは気が付いていないか、口に出していないだけかもしれないけどね。


オーガの角を手に入れることが出来たあの日のことだ。


あの日の上空の何者かも夜に飛び、オーガを落としていった。


正体は不明だけど、近い存在のような気がする。


何でもないただのカンだ。


『どちらにせよ、空を飛ばれちゃどうしようもないからな。考えるだけ無駄だ』


(まったくだね。魔法で飛ぶにしても限界があるよ)


ひとまず今はセリス君の実家に向かうのみだ。







少し後、僕達は街道を進んでいた。


時折吹く風は明らかに冷たさを含んでいるけど、

まだ外套の前を閉じるほどとは言い難い。


夏の名残なのか、日差しが強いからね。


セリス君がこげ茶の馬、ダンゲルと名付けた馬に1人。


僕とマリーはホルコーに2人乗りだ。


よく考えるとすごいのだけど、ホルコーはダンゲルに負けていない体格になっていた。


元々良い馬ではあるのだけど、やはりレベルアップの都合だろうか?


毛並みも良く、僕達2人を乗せてるのにつらそうな様子はない。


もしかしたら一頭で馬車が引けるかもね。


さすがに馬車は高いからぽっと出の冒険者の僕達が買える値段ではないけども。


そう考えている間にもとっとっと、と2頭は順調に進む。


セリス君は馬車で数日と言っていたから、

この状態なら1日半ぐらいで着けるかもしれない。


平和な時間なので、僕は気になっていたことを口にすることにした。


「物凄く今さらな話なんだけど……いいかな、2人とも」


「はい?」


「何か問題でも?」


隣、そして背中からくる言葉に僕は少し溜めてから口を開く。


「よく考えたらセリス君は貴族の跡取りなんだよね?

 マリーも、まだ継いでないけど血縁みたいだし。

 そのさ、敬語とか使った方がいいのかなって」


つぶやいた僕の言葉に、2人からの返事はすぐには無かった。


今さら気が付いたの?とか思われてるのかな?


『たぶんそれは無いと思うぞ。後ろ見てみろよ』


落ち込みかけた時、ご先祖様にそう言われて後ろを見る。


そこには怒った顔のマリーがいた。


(嘘つき! 怒ってるじゃん!)


心で叫ぶも返事は無い。


どう謝罪の言葉を口にしようかと考えた時だ。


僕の腰に回っていたマリーの手に力が入る。


予想していなかった僕は馬上で緊張に体を硬直させてしまうのだった。


「えっとですね、今さらだし確かに立場はそうかもしれませんけど、

 私は気にしてないですよ、戦友というか、仲間ですし。ねえ?」


「え? あ、はい! 自分もお二人がいなければまだイオリアにいたか、

 下手したらダンジョンで死んでしまってたかもしれません。

 そう考えたら感謝こそあれ、身分差を、なんて考えてもいませんでしたよ」


僕の思った方向とは別の意味であきれた様子のマリーの言葉に、

セリス君はそういって笑う。


さらに、だったら自分がこうして丁寧に話してるのがおかしくなっちゃいますからね、と続けた。


そう、確かにそうだった。


「そっか。ごめん、変なことを聞いたね」


言いながら、僕は自分の心が随分と晴れやかなことに気が付いた。


何を見てきたんだろうという自戒の気持ちも多少含みながら、僕は空を見上げる。


「いいんですよ。若者は悩んで失敗してこそ成長するって師匠が言ってました」


「今回はそれに当てはまるんですかねえ?」


背中に届くマリーの声がくすぐったく、

横から伸びるセリス君の声もどこか笑いを誘う物だった。


そうして3人で談笑しながら進む旅路。


そんな時だ。


「……煙?」


太陽の高さからして昼過ぎ。


お昼のためにたき火をする旅人は少ない。


大体は馬車で済ますか、火を起こすまでも無い休憩にとどめるからだ。


夜のために夕方に速めに火を起こすことがあるけど、

こんなに大きく煙が上がることはまず無い。


僕は横のセリス君、そして後ろのマリーに頷き、ホルコーを走らせる。


厄介事が僕に近づいてくる運命なのか、厄介ごとに近づいていく運命なのか。


もしかしたらどっちもかもなあと自問自答しながら僕達は馬を走らせる。




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