表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/257

MD2-062「剣閃の先-9」


重騎士が崩れ去るように消えてからも、僕達はしばらく動けなかった。


どこからか吹いてきた風が僕達の体を撫で、

それにより自分が如何に汗をかいていたかを思い知らされる。


ふと見れば入ってきた扉が大きく開いている。


長居は無用、ってことだろうか。


血はついておらず、何も切っていないかのような明星を鞘に納め、

だるさが襲ってくる体に気合を入れて箱に近づく。


人の頭が入りそうなほどの小箱。


頭によぎるのは、戦争において大将格の首が手柄になるという昔ながらの習慣。


(はは、まさかね)


『罠の魔力は感じないな。開けても大丈夫だろう』


いつもより疲れた様子のご先祖様の声に頷きながら、

銅で出来ているらしい小箱を開ける。


「騎士証と、ネックガード?」


僕の手のひらの半分ほどの四角い板、それが3枚と

単純な作りながら、品質を感じさせるネックガードも3つ。


ついでに何やら首輪のような大きい物が1つ。


「騎士証は3枚。ちゃんと戦った人数で変わるのでしょうか」


「お姉様、やりましたよ……」


手渡した2人のそれぞれの感想を聞きながら、

僕は余った1つの首輪を見る。


大きさ的にホルコーでもつけられそうだけど……。


ネックガード同様に使い古されたような感じながらも

妙な風格を感じる黒革の首輪。


これ……なんだか普通じゃない?


『当たりだ。この辺にはいないモンスターの革だな。

 これが加工できる職人はそう多くないだろう』


そんなものが、ここにいないホルコーの物であろうとして出てくる。


僕達が装備できる大きさの物、でも謎なのに……。


ダンジョンドロップは謎だらけというのが常だけど……不思議だ。


(そうなると、このダンジョンも全部見ているということになる。

 突入した人間、それ以外も確認して場合により記録に残せる。

 ダンジョンって一体……今はいいか)


いくつかの疑問は残るけど、目的は達成できたのだ。


それを喜びこそすれ、悩む必要はどこにもない。


「一度外に出ようか。あれだね、このままいるともう一回戦うことになるかも」


僕の言葉に2人もはっとそれに気が付き、3人そろって外にでる。


そう、頻度はともあれここの部屋は何度も戦いが行われているのだ。


多分僕達の相手はちょっと違うんだろうけども……。


事前に聞いていた話とはかなり毛色の違う重騎士との戦いを終え、

扉近くの壁にもたれかかるようにして休憩する。


本当は小部屋なりの方が休みやすいのだけど、

今何かに出会うのはできれば回避したい。


一休みしたら脱出しないとね。


僕は手元の騎士証をじっと見つめるセリス君に視線を向け、

同じように手の中の騎士証を握る。


今回の事で僕は思ったのだ。


僕の目標は世界を救うような物ではないけど、

結果として誰かの、何かのために戦って生き残れば

そのうちツテも出来て、見つかる可能性が上がってくるんじゃないか、と。


勿論、苦労もいっぱいあるだろうけど、

日々をただ生きるよりは可能性はありそうだった。


マリーはこんな僕の考えについてきてくれるだろうか?


そんな考えが浮かび、横の彼女を見る。


「どうしました? もう行きますか?」


「そ、そうだね。早めに地上に戻ろうか!」


何故だか僕と目が合ったマリーの声に上ずった返事となってしまった。


ちらっと見えただけだけど、マリーも疲れているからか

うっすらと汗ばんでいて、伏し目がちだ。


「セリス君、頑張って大部屋を目指そう」


「はい! ここでこけないように慎重に、ですね」


大事そうに騎士証を仕舞い込み、マギテックソード(あ、渡したままだ)を

手に周囲を改めて警戒し始めるセリス君。


僕はその通りだね、と言いながらマリーに頷き、歩き始める。


目的自体は達成できているからか、疲労はあっても足取りはやや軽い。


(こういう時こそ危ないって言うよね……)


普段なら静かに歩きそうな場所でも普通に歩いて音を立てそうになる気持ちを抑え、

ゆっくりと慎重に進む。


幸いにも、大部屋までは騎士たちに出会うことなくたどり着けた。


「よし、じゃあ戻ろっか」


こうして、想定外の戦いはありながらも僕のセリス君との依頼はひとまず完了となった。


………


……



翌日、僕はホルコーにさっそく首輪をつけていた。


まるで計ったかのようにぴったりの大きさで、

ホルコーも気に入っているようだった。


「うんうん。女の子はおしゃれも必要ですからね」


何故かそんなホルコーを見てすごくマリーが満足そうだったけど……。


この後はセリス君と合流して、報酬の分配がある。


そう、ギルドでついでに受けていた鎧片等の採取依頼のことだ。


少なくない金額だし、セリス君が帰るにもお金はあって損は無い。


昨日はさすがに疲れたのでギルドには行っていなかったしね。


嬉しそうにいななくホルコーの首を撫で、僕達はギルドに向かう。


相変わらずの活気に満ちた大通りを通過し、ギルドの扉を開く……。


途端、僕達に視線が集中した気がした。


「……?」


マリーと思わず何かしたっけ?と見つめ合うけど

特に騒ぎになるようなことをした覚えはなかった。


不思議な気持ちのまま、なぜかカウンターで立ったままのセリス君を見つける。


「おはよう。よく眠れた?」


まずは挨拶と声をかけるも、セリス君の顔は少し硬い。


いや、戸惑いというところか?


「おはようございます。ファルクさん、昨日のアレ、どうやら30年ぶりらしいんですよ」


「おう、来たか。多少はやるなと思ってたが、まさかな。まあまずはそこに座れや」


要領を得ないセリス君のつぶやきと、

どこか疲れた様子の受付さんの言葉に僕の頭に疑問だけが浮かぶ。


ただまあ、座れと言われたので言われるがままに座る。


そして受付さんがカウンターから出てきて僕達の机に置いてくれた1枚の紙。


何か絵が描かれているけど……ん?


「これ、重騎士ですか?」


細かい部分は記憶から描いたであろうからか違うけど、明らかに僕達が倒した相手だった。


「おう。あの部屋に出るのは重騎士は重騎士でも、一味違う。

 騎士団長って感じの奴だな。そんで、こいつはさらに違う。

 しゃべるし、強い。記録じゃ実在の騎士団長が後続を鍛えるために

 自ら魔法の儀式であのダンジョンに宿った、なんて言われてる」


なるほど……フォルティアのような物だろうか?


一度前例がある以上、あまり驚くものでもない。


自分がそうなりたいか、と言われると別の話だけどね。


「出現条件が不明でよ。ここ何十年か目撃例が無いから当時の勘違いじゃねえか?

 なんて今じゃ言われてた。ところが、だ。坊主が持ってきた騎士証は勘違いじゃないってことを

 見事に証明しちまったんだ。えーっと……おい、俺の希少品入れ持ってきてくれ」


カウンターの後ろで書類作業をしていた女性が

駆け出しでどこからか小箱を持ってくる。


こちらは本当に両手ぐらいのがっちりした小箱だ。


「俺もあのダンジョンに挑んだ口でよ。騎士証までは手に入れてるんだ。

 馬鹿ばっかする冒険者の野郎どもをなんとかしたくてここで受付してるけどな。

 ほれ、見比べてみろ」


受付さんの首にかけていた鍵で開いた小箱。


その中にあった1枚の板は騎士証……だけど確かに違う。


受付さんのは単純な、国のため、力ある者と認める、みたいな文言しかないのだ。


対して僕達のはもっと豪華だ。


文言も意志がどうとか、歩みに栄光あれ、等と書かれている。


見た目もテカテカしてるしね。


「僕達は運が良かったんでしょうか? 一応、やったこととしてはこうなんですけど」


ふと、その時に僕はご先祖様が言っていた、

あの重騎士が手順を踏んだうえで出てきた特別な物という話を思い出す。


そして、受付さんに僕達の行動を簡潔に報告することにしたのだ。


僕の報告を聞いた受付さんは顎を撫でながら息を大きく吐いた。


「ふむう……放浪騎士の撃破あり、か。あり得るな。

 大体が重騎士は狙う相手が少ない。

 それはつまり、情報が少なかったんだよな。

 ありがとう。少なくとも、糸口にはなりそうだ。

 騎士証以外にそんな装備が出てくるかも、ってことで

 挑む奴は増えるかもしれんな」


受付さんは指さすのは僕達の首。


そこに装備されているネックガードは確かに安物ではなかった。


お金に目ざとい冒険者達が、儲かるかもしれない話を見逃すわけがない。


その後もこまごまとした話をして、僕達はギルドを後にする。





「それで、セリス君はすぐに故郷に戻るの?」


「その予定です。馬車で数日ですからね。戻るなら早い方がいいです」


朝ごはん代わりにお店で軽食をつまみながら、

セリス君に問いかけると元気な声でそう帰って来た。


確かに、そのほうがいいよね。


そうなると僕とマリーは王都か……。


(どんな場所だろうね。お金、足りるかな)


そんなことを考えていた時だった。


くいっと引かれる服。


犯人はマリーだった。


何か考え込んだ表情で僕を見る。


「ファルクさん、このままセリスさんに一緒についていきませんか?

 自分の家の事で申し訳ないですけど、叔父達が大人しく引き下がらないかもしれません」


「いいよ。僕も気になるからね」


あっさりと僕が了承の返事をしたことに驚くマリー。


僕はそのままセリス君に頷き、残った飲み物、南から伝わったという苦い黒いお茶を飲み干す。


「さ、そうと決まれば買い物をしてすぐに向かおう。

 速い方がいいんでしょ?」


僕の言葉に、マリーもセリス君も笑顔で頷くのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ