MD2-061「剣閃の先-8」
出来たので早いけど上げ。
「むううん! ブラッディ・クロス!」
くぐもった重騎士の声。
殺気とも気迫とも取れる気持ちの乗った攻撃に
僕はとっさに前転、普段であれば無謀な行動をとる。
が、このスキルに対抗するにはこれしか無い。
正面からの重騎士による攻撃が僕のいた場所を切り裂き、
ぶれるようにして消えた重騎士が移動してもう一撃。
あのままだと前から1回、後ろから1回と斬られてしまうところだった。
スキルは使う者に様々な力を与えてくれる。
強さ、威力以外に目立つのがその移動や動きだ。
利点ではあるけど、逆に弱点にもなりうる動き。
普通ならできないような動きが出来てしまうのだ。
2連撃や今の重騎士のように背後に高速移動する、等だ。
(言葉は訓練を部下に付けるような感じだけど殺しに来てる!)
「ウィンドチャージ! ブイレイド!」
風魔法で体ごと浮き上がり、半ば無理矢理な姿勢からスキルを放つ。
精霊が補助をしてくれるのだと推測されている力で
僕の腕は明星を的確に振るう。
響く金属音。
明星が相手の右腕の小手部分にぶつかった音だ。
「そこっ!」
僕の攻撃で重騎士の片腕が止まった隙に
セリス君のショートソードが肉体部分に食い込む。
そして2人ともすぐに離脱。
2人がいた場所を薙ぎ払うかのような重騎士の範囲攻撃。
離れていても風が飛んでくるかのようだった。
(スキル以外での攻撃がなかなか通らないね……セリス君のだとちょっと弱い)
上がりそうになる息を整えながら僕は打開策を模索する。
相手は騎士、となれば体力は言うまでも無く十分あるだろう。
今の彼がどうであるかは不明ではあるけども。
であれば長期戦は不利。
ある程度の時間に決めなければいけない。
まずは一手、セリス君の攻撃力を上げよう。
僕の魔力が上昇したことで、ご先祖様が出来ることは増えてきている。
そのうちの1つが、かつてご先祖様がため込んだ物品への接触。
正確には何かの魔力を利用してどこかにあるご先祖様のアイテムボックス、だ。
まだまだ見える先は狭いのだけど、1つも無いという訳じゃない。
その中の1つ、短いショートソードに見えるそれの柄をつかみ取る。
「これ、使って。合図は光よ、だよ」
「え? あ、はい!」
セリス君に取り出した武器を手渡す。
その間、重騎士は襲ってこない。
何故なら、そういう存在だからなのだと思う。
「お待たせ。待っててもらって申し訳ない」
「なんの。本気を受け止める。それが我が役目
途中で邪魔だてなど、無粋なことはせぬよ」
そうして再び、僕は重騎士に切りかかる。
主な攻撃は自分だ。
同じ両手剣というのもあるけど、僕の攻撃は
恐らくだけど決定打になりうる。
だからこそ重騎士は僕の攻撃を防ぐのだ。
時にスキルを交え、僕は重騎士を釘付けにする。
「はぁ!」
その合間合間にセリス君が新たな武器で切り付ける。
今までであればそれは大した痛手にならない。
だから重騎士も余り気にしていなかった。
注意すべきはあのスキルのみ、ってところだね。
でも、今は違う。
「光よ!」
「なんと!」
言葉と共に新しく光が産まれる。
──マギテック・ソード
魔法ではないけど、光の剣を産み出す魔道具としての武器。
普段はただのショートソードだけど、こうすると長剣となる。
でもそれは金属ではないので軽いまま。
ショートソードが主武装のセリス君には向いているってことだね。
光の剣は重騎士の左手首付近に沈み、その力を発揮する。
「ホーンストライク!」
重騎士の両手剣をつかむ力が緩み、
そこを逃さず僕は体当たり気味に明星でスキルを放つ。
「あた……りなさい!」
結果として僅かに離れた間合いを食らいつくすように飛び込んでくる2種の魔法。
まだまだこれでは倒れないだろうけど、効いてはいるはずだ。
「ふふ……まさかお主らのような若者がここまでやるとは。
名前を……聞いてもいいか?」
「苗字は無いよ。ファルク。勝手に冒険に出て
行方不明になった両親を連れ帰るべくここにいる」
回復のための時間稼ぎ、というわけでもなさそうな声に
僕は武器を構えたままで応える。
ちらりと、瞳の無い目が2人を見た気がした。
「セリス、セリス・エルファーダ。望まぬ婚姻をさせられるだろう姉の代わりに
自分が当主となる。だからこそ騎士証がいるんだ」
「マリアベル・オルファン。ファルクさんのお手伝いと、馬鹿をする実家を止めに。
婦女子をないがしろにする男なんて貴族にふさわしくありませんからね」
律儀に2人が答え、微妙な空気になるかと思いきやそれを砕いたのは重騎士の笑いだった。
お腹の底から、と言わんばかりの笑い。
「まさか、という思いしかない。ここはダンジョンである。しかも私は名も知れぬ異形。
であるのに3人ともが名乗る……そう、まさかという他にあるまい」
ひとしきり笑った後、重騎士はそういって剣を構えなおした。
「出しきれ。であれば我にも届こう」
僕を先頭にセリス君、マリーと同じ陣形。
もっとも、それ以外にやりようがないんだけどね。
ただ、使う手段は違う。
『どうせこの相手が何とか出来たらレベルが上がるから問題は無い。
さあ、ぶつけてやれ!』
「とどめは任せるよ、セリス君」
そういって僕は明星を構える。
作られて間もないのに何度も攻撃を受け止めるという
武器には優しくない戦いだと思う。
それでも刃こぼれなく、僕に力を貸してくれる明星。
ほんのわずかな間に僕は思いを心の中で言葉にして重騎士に向き直る。
重騎士は無敵ではない。
まあ、そういう前提じゃないとなんともできないんだけどさ。
ともあれ、攻撃は通っている。
でも大した怪我を負ってないように見えるのは、
元々丈夫であまり減っていないのか、体力が有り余ってるのでまだまだなのか。
僕にはなんとなく、前者に思えた。
だからこそ、この手を使う。
「巡れ、廻れ、回れ、マテリアルドライブ!!」
「むう!」
叫びと共に僕の体を中心に世界が回る。
唱えるのは魔法。
でもそれは撃つわけじゃない。
マテリアルドライブはご先祖様に聞く限り、反則もいいところだ。
普段なら消費する魔力も消費無し。
触媒として何かが必要な物も必要なし。
あるのは時間制限と、使った後の反動。
僕の手の中で明星が猛烈に輝きだす。
それは魔法剣の光。
しかし、それは異常な光り方であった。
普段なら重ねがけは精々2度なのだ。
でも今の明星はそれ以上に輝いていた。
実に僕が覚えているだけで400回以上。
そう、切り札は魔法剣の制限自体を無視しているのだ。
「おおおお!」
驚いている重騎士へと僕は踏み込み、一閃。
スキルも何もない、身についた技術からの剣閃。
どうせなら何か戦闘スキルの制限を解放した方がよかったのかもしれない。
でも、僕の中の何かとご先祖様はこういうのだ。
軽い一撃が今は重なっても意味がない、重いのを叩き込め、と。
そして思惑通り、多重魔法剣と化した明星が重騎士の防御をそのまま切り裂く。
その隙を逃さず、背後から飛ぶ魔法が重騎士を繋ぎ止める。
そうして幾度かの攻撃を繰り返し、僕の体から何かが抜ける。
時間ぎれのようだった。
でもそれは僕にとって、だけじゃない。
「斬岩……剣!」
セリス君の手の中にある光の剣が意志のこもった剣閃となって振るわれる。
腕を切られ、兜が飛び、あらわになった首へとセリス君の一撃が見事に吸い込まれていった。
討伐の証拠に、重騎士の体から僕でも見えるほどに
精霊であろう何かが飛んでくるのが見えるのだ。
これで……騎士証が手に入る!
僕の視線の先で重騎士は崩れ去って、そこにはどこにでもありそうな小箱が残るのだった。




