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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-060「剣閃の先-7」

実験的に3日に1回更新お試し中。次回更新時に前話を若干修正するかもしれません。


強い相手のいる目的地の扉。


そう言われて想像するのは小さな変哲の無い木の扉だろうか?


あるいは煌びやかな装飾の施された巨大な門のような扉だろうか?


僕達の前にある扉はそのどちらでもなかった。


飾り気は少ないけど、威圧感がある。


重厚なその扉は、見方を変えればある種の安心感を与えるといえるのかもしれない。


「準備は良い?」


「ポーションも持ちました。大丈夫です!」


「後ろからの挟み撃ちの気配もなさそうですね……」


順番に僕、セリス君、マリーだ。


今さらだけど2人共口調が丁寧だよね。


育ちが良いからかな?


今回は守り切れないかもしれないのと、

道中は出来るだけ戦闘を回避する目的からホルコーはお留守番。


正確には、ホルコーが意外と乗り気で騎士に突撃することが出てきたから

ボス以外のそういう時に連れていくようにしようと決めたのだ。


事前に調べた話によれば、この扉の向こうに出るのは騎士1人。


僕のように両刃の両手剣を振るう、重騎士と言える相手だ。


部屋の奥に佇み、名乗りと共に戦いが始まるという。


逆に、入っただけでは戦いにはならないとのこと。


でも……。


(何か……引っかかるなあ)


僕はその情報通りにすんなり扉を開ける気にはならなかった。


既に試されている、そんな気がしたのだ。


『俺もここは経験したことが無いダンジョンだが、何もなければそれでいいし、

 そうでなければ対策は生きてくる。やれるだけのことはやらないとな』


僕の意見を肯定するご先祖様に頷きながら、僕はお腹に力を入れた。


「ファルクさん?」


「2人とも、気合を入れて。本当に重騎士がいるとは限らないよ?」


マリーの問いかけに、僕はそう答えて扉を睨むようにして手をかけた。


セリス君も無言でうなずいたのを確認し、そっと力を籠める。


扉は予想に反してあっさりと開いていく。


そして、突風が吹いたかのような殺気が僕達を貫いた。


逃げたい、逃げろ。


僕の全身が叫ぶ。


吹き飛びそうになる勇気をかき集めて、僕は踏ん張った。


「お……おおお! ウェイクアップ!」


感情のまま、腕輪の力を解放して湧き上がる力に身を任せる。


そのまま明星を振り抜いて何もない、殺気だけがある場所を切り裂いた。


それは儀式のような物。


負けてたまるかという自分自身への鼓舞。


そして僕は賭けに勝った。


正常な呼吸が戻ってくると同時に、せき込むようにしてあえぐ。


振り向く余裕はないけど、マリーもセリス君もなんとか気絶せずに立っているようだった。


「ほう……私の気合に耐えるか……弟子を退け、3人という寡兵でやってくるだけはある、な」


「喋った……そんな記録は無かったのに」


部屋の奥に重騎士はいた。


その情報は正しかった。


頬は痩せこけ、ミイラと言われても納得いく姿だけど、骨では無い。


手入れされていることをこの距離からでも感じさせる全身の金属鎧。


僕の背丈より長そうな両刃の両手剣。


魔法の灯りであろう物が無数に壁に添えられていた。


その光が重騎士を照らし出す。


騎士団長。


そんな言葉が頭に浮かんだけど、恐らくはそれは当たりだろうと思う。


今にも朽ち果てそうな装備で無言の戦い。


そう聞いていた事前の話とは全く違う状況だ。


『ダンジョンには手順をちゃんと踏むと隠し扉が開く、なんてことがある。

 これはそう、その手順でユニークモンスターが出てきたと思うのが良い』


(了解。こうなったらやるしかない!)


「騎士証、いただきに来ました」


事前情報とは違う、恐らくは上がっている難易度。


だからこそ敢えて僕はお使いを頼まれた子供のように言い、

少し青ざめているセリス君の前に出て明星を構える。


「なるほどな……騎士証は強者の証にあらず。守るべきものがあり、

 そのために心の刃を振るい、魂の盾、信念の鎧で守ろうとするものにこそ与えられん。

 心折れずに私と戦えればおのずとその資格はあるだろう。

 さて、久方ぶりの出番だ。しっかりとその意志、示すがいい!」


重く、それでいて鋭い動きで重騎士は剣を構えた。


「二人とも、予定通りに……行くよ!」


「「はいっ!!」」


叫びと共に僕とセリス君は駆け出し、マリーの詠唱が始まる。


そしてすぐに背後から飛ぶ2つの魔法。


「ダブルスペル! 良い精度だ!」


重騎士が叫ぶ通り、マリーの両手、構えられた杖から飛ぶ火と風の矢。


互い互いに混じらないようにされた魔法の力が僕とセリス君を追い抜いて重騎士へと向かう。


僕は並走するセリス君より数歩早く前に出、

小細工を考えずに明星を振るう。


「正直すぎるな! だが、良し!」


重騎士はどこか嬉しそうに僕の剣を受け止め、そのまま押し返そうとしてくる。


が、それは僕の予想通り。


熟練者ほど、1つの動きでいくつものことをこなすであろうという予想による動き。


それに逆らわずにその力を利用して僕は姿勢をくるりと変える。


そこにすべり込むのは、セリス君だ。


「斬岩剣!」


僕を押し返すために動いた体。


伸びきるまではいかなくても、動いてしまった腕は勝手には戻らない。


そこに襲いかかるセリス君のスキルの乗った一撃。


「ぬ……おお!」


カキン、とやや軽い音を立ててセリス君の攻撃は当たった。


半ば無理矢理に動いた重騎士の体ではなく、両手剣の先端に。


ナイフほどの幅だけど、両手剣は切断された。


ほんのわずかに短くなった剣。


でもそれは、僕達の攻撃が通用するという明確な証拠だった。


「フレアアロー! もひとつフレアアロー! おまけに雷鳴の拳(サンダーバッシュ)!」


彼女の持つ杖の1つは花咲く森の乙女という祖父が手に入れたという魔道具だ。


発動直前の魔法を待機のまま保持できるというすごい効果を持っている。


右手の花咲く森の乙女で1つ、左手の量販品の杖で1つ、

そして待機させていた魔法で1つ。


マリーは合計3つの魔法をほぼ同時に発動させ、

若干開いた間合いを詰めるようにその力が重騎士に襲い掛かる。


打ち合わせ通り、熱から逃げるように僕とセリス君は後ろへと飛び、次に備える。


ブスブスと音が聞こえそうな具合で重騎士は火にまみれ、雷を浴びている。


でも、手ごたえという点ではまだまだに思えた。


放浪騎士は手さえ届けばなんとかなりそうな耐久、手ごたえに感じたのだけど、

重騎士は当たることは当たるだろうけど、一体何回やればいいのか、と思わせる物だった。


深い、底の見えない井戸の様だ。


「素晴らしいな。私の生きていた時代に諸君らのような部下がいれば……」


つぶやくような言葉に、僕の動きが一瞬止まる。


このダンジョンの騎士はアンデッド、不死者ではない。


そう聞いている……。


でもだとしたら、これは、この発言はなんだ?


彼は、彼らは生きていたのか?


『前!』


「っ! くうう!!」


咄嗟の声と勝手に動く僕の腕。


構えた明星に、重すぎる一撃がぎりぎりで止まった。


(僕は……馬鹿だ! 戦いの最中に!)


「そうだ。それでいい。戦った相手に思いを寄せるのは戦いの後でいいのだ。

 私が言えることではないがな……少年少女よ、まだ勝負は始まったばかりぞ!」


全身に力を入れ、重騎士の剣を弾き返す。


考えることはいくつもあるけど、今は……戦わないと!


僕はそばに寄り添うセリス君とマリーに頷き、再び重騎士と相対するのだった。







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