MD2-055「剣閃の先-2」
実験的に3000文字前後を3日に1回ペースにできないか確認しています。
書き貯めた結果なので54、55は同日更新です。
ちらりと見えた首から上となった顔には『何者だ』と書かれていた気がした。
馬の走る速度そのままに剣を振るったのだ。
一撃必殺とならない理由はどこにもなかった。
血しぶきを浴びることなく、男のそばを駆け抜けるホルコー。
僕は騎馬兵としての訓練は積んでいないので、
ホルコーに合図をして一瞬だけ風魔法で浮遊する。
そうすることで手早くその背中から離脱出来るのだ。
ホルコーにはそのまま走り去ってもらう。
「てめえ!」
襲っている側も経験者なのか、全員が僕の方を向くということは無く、
近くにいた1人だけが僕の方を向いた。
こちらを向けば、元々の相手にやられてしまうからね。
でも……。
「雷の射線!」
それは即ち、僕からの攻撃が見えないということなんだよね。
速さを重視して魔法を放ち、そのまま明星を構えて目の前の相手に集中する。
武器の手入れだけはしっかりしているのか、
陽光に野盗の手の剣が光る。
「せぁ!」
こういう時、問答はしないほうがいい。
気合が逃げるから、とフォルティアは言っていた。
よくよく考えれば、武器同士がぶつかって片方が負けるということはあまりない。
よほどの素材差と品質の差が無い限りは。
そうなると、後の結果を決めるのは……。
「くっ!」
呻き、押し込まれそうになる剣を後ろに飛ぶようにして受け流す。
「なんでぇ、ガキじゃねえか。おらっ!」
そう、単純な腕力というのが1つ。
僕は多少強くなったとは言っても体格はやはりまだしっかりしているとは言い難い。
単純な力比べであれば僕にはやや不利である。
でも僕は僕だけじゃない。
にやついた笑みを張り付けて襲い掛かってくる相手に対し、
湧き上がる力に逆らわずに今度はその剣を弾き飛ばす。
受けるのも受け流すのも危険なフォルティアの爪をどうするか、
で学んだ手法だ。
「ホーンストライク!」
声と共に体は弾かれるように導かれ、男の胸元に剣が突き刺さる。
スキルの一撃は通常の攻撃と比べ強力だ。
あっさりと男の胸元を貫通し、即死だと実感させる。
その間、僕が魔法を撃った相手などから反撃が始まったのか、
気が付けば周囲の男達は全員倒れていた。
「何者だ! 助けれくれたのはありがたいが……」
声に振り向けば、馬車の1つを守るように立つ騎士風の男達。
(あ……めんどくさい予感)
商人でもなく、冒険者でもなさそう。
では一般の人達か、というとその場合にはまた別の形だろう。
「D評価冒険者のファルクです。あの商人さんの護衛中でした。
騒動が見えたので依頼主の考えで援軍に来たところです」
既に小さいながら見えてきた馬車を指さしてそう言った。
「……そうか。感謝する。けが人の治療もしたい。しばらく同行願えるとありがたい」
僕は頷き、野盗の仲間やモンスターが出てこないかを警戒し続ける。
合流したマリー達に状況の説明を行い、
大所帯となった状態で僕達は先に進む。
彼らも目的の方面は同じだとわかったからであった。
彼らはオブリーンすぐ横の街、正確にはもうそこはオブリーンなのだそうだけど、
担当する部署はその場所の方が都合がいい部署なのだそうだ。
そう、彼らは一般人でも商人でも冒険者でもなく、官僚の一員だった。
馬車には2名の文官と呼ばれる類の人達が乗っていたのだ。
そうなると疑問が残る。
道すがら、僕はそのことを考えるが答えは出ない。
下手に聞いてしまえば深みにはまりそう、というのが一番の原因だよね。
野盗と言えど、目的なくなんでもかんでも襲うとは考えにくい。
わかって襲ったのか、わからずに馬車の数だけ見て襲ったのか。
そう考えると全員殺してしまう結果になったのは痛手と言った方がいいのだろうか。
『俺達に尋問は難しいしな。いいんじゃないのか』
ご先祖様の慰めのような声に1人頷き、周囲の警戒に戻る。
幸いにも、その後はモンスターの襲撃も無く、
敢えての不干渉のまま、同行者との旅も終わりを告げることとなった。
「今回はありがとう。君がこなければけが人は増えていただろうからね」
「いえ、依頼ですから」
護衛の代表者であろう男性からの言葉に僕はそう答えるだけにとどめる。
実際、何かを要求するという立場にもない以上、
それ以上話が弾むことも無い。
なんとなく、また出会いそうな予感を胸に、僕達は予定通りの場所へと向かうのだった。
「いやー、脱落者も馬車の欠損も無く、順調だったな」
「ファルクさんが戦っただけなのでちょっと心苦しいですけど」
満足そうな商人さんだが、マリーは事実上馬車の上にいただけなのが少し不満なようだった。
「ふふ。どんな数に襲われても変わらない料金の代わりに、
何事も無くても既定のお金が受け取れる。それが護衛の依頼だ。
覚えておくといい。うっかり受けるとひどい目にあうかもしれんよ」
同じ依頼でも、危なそうならやめるのも冒険者の自由、そう言われた気がした。
(勉強になるなあ)
春先から夏など、獣やモンスターが活発になる時期は
それらに襲われやすいことを意識して受けるべきだということなのだろう。
気が付けば道も土から石畳となり、
商人の馬車からは次々と樽や木箱が下ろされていく。
この街も王都ではないけど、十分に栄えているということで
僕達はこの街でしばらく過ごすことにした。
ギルドへと報告に向かい、この場所での活動のために諸々の申請を行う。
それが終われば宿だ。
上手くホルコーも預けられそうな宿を見つけ、
早々と翌日に備えて2人とも寝てしまうのだった。
翌日、改めてこの街のギルドで依頼を眺める。
常設の採取、あるいは討伐依頼のほか、
いくつも土地ならではの依頼らしきものが並ぶ。
そんな中の1つに奇妙な物を見つける。
「マリー、これ」
「はい? えっと……騎士鎧片の採取? 袋3つ分……って、どういうことでしょう」
名前が騎士鎧片という薬草、なんてことはないだろうから
文字通りなのだろう。
でも入手手段はどうなるのか。
よく見ると同じような依頼はいくつかあった。
いずれも、騎士を襲って手に入れて来いと言わんばかりの内容。
こうなってくると僕にもなんとなく見えてくる。
「あのー」
「ん? どうした。って見ねえ顔だな。なるほど、あの辺の依頼はなんだ?ってことだな。
すぐそこっても壁があるけどよ、そこにあるのさ。ダンジョンが」
声をかけた僕に、ギルドの受付の男性は最初は疑問を顔に浮かべていたけど
すぐに納得したような表情になって外を指さす。
確かにここに入る前に、遠くに石壁が見えたけど……。
「街中にダンジョン、ですか」
「おうよ。王国軍兵士の育成にも使われる、謎の騎士風の奴らが出るダンジョンさ。
行くなら覚悟しておけよ? 本当に相手は騎士そのものだからな」
そういう受付の顔には、どこか誇りのような、自信のような物が見え隠れしている気がしたのだった。




