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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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54/257

MD2-054「剣閃の先-1」

実験的に3000文字前後を3日に1回ペースにできないか確認しています。

書き貯めた結果なので54、55は同日更新です。



季節の移ろいは意外と早い。


村にいた時も農作業の手伝いなんかをしているうちに

いつの間にか落ち葉だらけになっていたりとかしたんだよね。


ザイーダじいちゃん達は

『むしろこのぐらいの歳になると一年が瞬きよ』

なんて言ってたっけ。


路銀がしっかりと貯まったころには夏は終わっており、

秋真っただ中から後半にかけて、といったところになっていた。


幸いにも、王都へ向けての商人の護衛依頼があったため、

僕とマリーはホルコーと一緒にその依頼を受けることにしたのだった。







「出発の時も思いましたけど、随分荷物多くないですか?」


「そうだね。普段はもっと少ないけど、今回は冬越しに向けての食料品が多いんだ。

 多少無理をしてでも運ぶ価値があるのさ」


いざという時の魔法詠唱に備えてという形で

馬車に乗ったままのマリーの問いかけ。


依頼主である商人は笑いながら荷台の樽の1つを叩きながらそう言った。


処理を終えた小麦や豆、干物になった川魚等。


地酒の入った樽も相当数ある。


聞いた話によれば、村でいう収穫祭のように

新年を迎えるという名目でお祭り騒ぎが王都では毎年あるらしい。


冬越しに買い込むか、その時に消費されるのかはわからないけど、

引き取り手には困らないのだそうだ。


「なるほど……そうなると私とファルクさんだけの護衛というのは

 かなり緊張します。てっきりほかにいるのだと思っていました」


そう、商人本人とその身内の人達4名を除けば

僕達しかいないのだ。


道のりはおおよそ2週間。


それでも王都と呼べる土地の端っこまでということだけど

モンスターや、もしかしたら野盗が出るかもしれないと考えると

僕達だけというのは不安が残る。


と思ったのだけど……。


「なあに、私はあまり心配していないよ。君たちはD評価に上がったばかりだから

 自覚がないかもしれないけどね。冒険者ギルドも適当に評価を付けているわけじゃあない。

 実力や人柄なんかでふさわしくないとなればいくら頑張っても評価は上がらないんだよ。

 つまり、君たちは護衛に相応しい評価をギルドから受けている。

 私はその評価を信用してるのさ」


やや太り気味のお腹を揺らしながら、そう笑って商人さんは周りを見渡す。


「考えても見なよ。私も彼らも火の玉1つ起こせないんだ。

 でも君たちは違う。恐ろしい怪物と戦えるだろう?

 だったら命を預けるに足るということさ」


もっとも、この街道は王軍による見回りも多いからというのもあるけどね、

と付け加えながら馬上の僕の方を向いて笑う。


「頑張ります」


信用、信頼。


そんな言葉が頭に浮かびながら、僕はそう答えるのが精一杯だった。


その間も虚空の地図は展開中であり、

時折範囲ぎりぎりに獣であろう反応があるけど近寄ってくる相手はいない。


『きっと王軍による討伐が効果を発揮してるんだな。人間を襲うと痛い目を見るぞ、と』


ご先祖様の声に小さくうなずきながら、

不慮の事態に備えるべく、警戒は続ける。


獣やモンスター相手は問題ない。


無理はしないように感覚の調整も終わったと自信がある。


それでも不安は残る。


経験はあるとはいえ、いざという時に

僕は野盗のような相手を切れるだろうか、ということだった。


村の時には家族を、ずっと暮らしてきた村の人を

守るためにということで覚悟は決めやすかった。


でも今回は若干違う。


それでも、だ。


やらなければやられる。


フォルティアも言っていたことを心で唱え、

D評価の冒険者、駆け出しを終えた立場にあることを自分に言い聞かせる。


ちなみにだけど道中の食事等はみんな一緒だ。


アイテムボックスは使わず、一般的な麻袋等に

携帯食料などを入れての旅路だ。


水だけは魔法を使って自由に補給したけど、

2人とホルコーだけだったらもう少し食事が楽しかったかな、

なんてことを思いながら日々を過ごす。


そして出発から5日目。


もう少しで行程の半分ほどという頃だ。


その日もさわやかな風が吹く典型的な秋の日だった。


「よし、今日も頑張って進もうかね」


「はいっ」


商人さんの合図で野営場所から動き出して1刻か2刻といったころ。


「……何か、変な気がする」


僕はホルコーの背の上でそうつぶやいた。


今のところ襲われているでもなく、

天気が悪くなりそうという様子も無い。


それでも、何か落ち着かないのだ。


こういう時はその感覚に従うのが一番いい。


これまでの経験や先輩冒険者達の教えから僕はそう確信していた。


勝手に隊列を崩すわけにもいかないので、ホルコーに進むのを任せて

背中の上で魔法を使うように魔力を巡らせる。


目的は地図範囲の拡大。


全周囲ではなく、前の方にだ。


まだ行ったことが無い場所なので、地図は真っ黒なまま。


それでも疲労を感じるほどに範囲を伸ばした地図の上に、

僕は何かを感じた。


「前の方に何かいるみたいです。モンスターかどうかはわかりませんけど」


「矢避けはやっておきましょう。守護の息吹、抗う術を彼の身に。ウィンディアゾーン!」


僕の言葉を疑うことなく、マリーが矢よけになる風魔法を唱える。


長時間続けると息苦しくなる問題がある魔法だけど、

ちょっとした防御には向いている。


僕はその間に荷物から遠見の筒を取り出し、

ホルコーの背に持たれるようにして前を観察する。


『確かに何かいるな。街道を目的なく走っているとは考えにくい。

 これはひょっとすると……他の商人が襲われてるとかじゃないか?』


(確かに……そうなると……)


僕は頭の中で今後の動きを考える。


まだはっきりしないのでこのまま放っておくか?


それとも確認に行くか。


それぞれに問題があり、利点もある。


「何かが、たぶんこちらみたいな馬車か、あるいは冒険者が

 何かに襲われてるんじゃないかなと思います」


何か、が続きわからないことだらけだけど

遠見の筒でもまだ少し砂煙が上がってるような?と言ったぐらいなのだから仕方がない。


「なるほど……仮に同業者が襲われてるとしたら問題だな。

 対処出来ればよし、もしそうでなければ次は私達だ。

 対処できたとしても何かしらの被害は受けているであろうし……。

 ファルクくん、いっそのこと私達も前に進もう。

 構わないので君だけでも先行して確認と、

 必要であれば援軍に入ってしまってくれ」


僕とマリーが受けているのはこちらの護衛。


となれば勝手に僕が抜けるわけにはいかない。


でも依頼主がそれを望むのであれば話は別だ。


仮に別の何かが襲ってくるとしても

同じように前に進んでくるのであればやりようがあるという判断だ。


「わかりました。マリー、先に行くよ」


「はい。こちらはお任せあれ、です」


自信たっぷりに杖を握って構えるマリーに頷いて、

僕はホルコーの背中を叩く。


駆け出す合図だ。


いななき1つ。


ホルコーは勢い良く駆け出した。


僕はその背中の上で長剣、明星を

右手に構えて前を睨む。


流れるように横の景色は変わっていく。


「……! いたっ!」


そしてついに僕の目でも相手が見えてくる。


馬車は3か4。


護衛であろう人たちが数名立っているのが見える。


その周囲を囲むいくつかの人影。


恐らくその中に弓手が混ざっているのだろう。


上手く釘付けにされているに違いない。


僕は地図上の光点の位置などを見ながらそう判断していた。


であれば狙うは外周にいるそんな弓手達だ。


「ホルコー、右!」


小さな僕の指示の声にホルコーは素早く走る向きを変える。


後でほめてあげないとね。


そんな気持ちの良い動きだ。


ようやくホルコーの走る音に気が付いたのか

人影がこちらを向くのがわかる。


でも、迷ってるよね。


僕が何者なのかってさ。


でも、その迷いが運命の分かれ目だ!


僕はホルコーの走る勢いを利用して、

薄汚れた革鎧を着こんだ野盗の1人であろう男に

明星を迷うことなく振るうのだった。



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