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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-053「夏の冷たさは在るだけで贅沢」

インターミッション的な。


小話です。

目的がどうあれ、先立つ物はどうしても必要。


と、いうわけで僕とマリーは依頼をこなしている。


D評価ともなれば受けられる依頼にも幅が出ており、

護衛や討伐、あるいは街の間の配達といったものも増えていた。


危険度は増すけど報酬の良いそれらを受けているかというと実はそうでもなかった。


理由はいくつかあるのだけど、一番大きな物は……

今、剣を振るうのは危険だと思ったから。


何かを討伐するのが嫌になった、とかそういことじゃあないんだよね。


フォルティアとの戦いの後にも思ったのだけど、

死なない戦いを繰り返し過ぎたのだ。


強くなったとしても人間は簡単なことで死んでしまう。


簡単な依頼だからと油断してはいけないのだけど、

どうも今はそれが上手くできそうになかった。


腕が1本飛んでも大丈夫、なんて動きは現実にやらないに越したことはない。


そんなことを感じていた僕達は塔から戻ってきて、

ギルドへと報告とD評価への上昇を確認してからは日常の中にいるのだ。


採取も近場のみにし、後は街中の依頼を主に受けるようにしていた。


その日も僕達はギルドのカウンターでジルさんと依頼の相談中だ。


「昨日も聞いたけどよ、本当にいいのか?」


「ええ、もちろん」


僕もマリーも笑顔で依頼書を持ってくるのだけど、

ジルさんはどこか納得いっていない顔だ。


「こちらとしちゃ、塩漬けになりやすい依頼だからよ、ありがたいんだが……。

 Fや、いいとこE評価のやるような仕事だからな」


そう、僕達が掛け持ち気味に受けている依頼の多くが

面倒さが先に立つような物なのだ。


例えば失せ物探しや、倉庫整理、

道の補修手伝い等々。


危険は少なく、労力の割には稼ぎが少ない依頼達。


冒険者としては実入りが少ない、刺激が少ない、と言えるかもしれないね。


要は外で討伐が厳しい冒険者が受けるような物、ということだ。


今日受けようとしている、酒場の手伝い募集なんかもその1つだ。


大体は冒険者は乱暴とは言わなくても、細かな礼儀は苦手なもので、

今回の依頼もダメ元で出したらしい。


酒場自体はギルドのすぐそばなので、

僕達は依頼を受けた足ですぐに現場に向かう。






「おや、可愛らしい娘さんに男の子だね」


挨拶もそこそこに僕達を出迎えたのは恰幅の良いおばさん。


今は午後の開店に向けての準備中らしく、

掃除道具もお店の中に置いてある。


奥にはマスターと呼ぶにはやや若い男性がいる。


なんでも数年前に引退した冒険者だそうだ。


料理とお酒が趣味で、依頼もそれらの役に立ちそうなものばかり受けていたそうだ。


今は限界を感じたのと、とある理由からこの酒場で働き始めたとか。


「へー、じゃあ元々の店主さんの代わりにってことですか」


「ああ、そうさ。ちょっと足をやっちまってね。

 こっちにゃ出てこれないが、今も裏で酒樽の管理をしてるよ」


前のマスターが店に出てこない理由が死別ではない、

ということに個人的にはほっとしたのは内緒だ。


他にも娘さんや店員さんがいるそうだけど

どうも病気で休んでいるらしい。


幸い重い物じゃないのですぐに治るだろうとのことだけど、

お客が来てもある程度混んでると帰ってもらってたのが心苦しく、

今回の募集となったようだった。


僕とマリーは程度はともあれ、料理も出来る。


でも今回重要視されたのは店側の給仕役と

厨房での手伝いだった。


やっぱり手が無いとということだね。


マリーが給仕、僕は厨房だ。


単純なようで、意外と仕事は多い。


材料を洗ったり下ごしらえをしたり。


あるいはマリーの方ではいくつも運んだり、

注文を上手く覚えないといけない。


料理自体は作り置きが多いから1人でも一応追いつくらしい。


僕は店に出ているマリーの代わりに、

どちらかというとひたすら魔法を使っていた。


出番の多くは、生活魔法。


ちょっとかまどに火をつけたり、手洗いぐらいの水を出したり。


ほこりが飛んでいくぐらいの風を起こしたり。


一般的な生活魔法というのはこの程度だ。


ただ、僕はご先祖様のおかげで一般からは外れている。


水瓶一杯!とはいかなくても並々と水を産み出し、

肉をあぶりたいと言われればちょっと強めに面で火を産み出す。


「ファルクは器用……というより魔法をこうして使うことに抵抗はないんだな。

 せっかくの魔法を手伝いごときに、なんて冒険者の方が多いと思うんだが」


「そうなんですかね? 僕としては便利なら使わない手は無いかなあと。

 確かに魔力を使うので狩りに出られないのは困るかもしれませんね」


感心した様子のマスターに答えながら

僕は続けて水を産み出して洗い物に手を付ける。


「にしても今日はエールが良く出ますね」


さっきからつまみのための皿は元より、

エールをいれる大きめの容器、ジョッキ等の洗い物が多い。


村ではあまり見ないガラス製品のジョッキが

これだけ並ぶとそれだけでなんだか豪華な気がするのは

僕が田舎者ってことだろうか?


「そうだな。まだ暑いからな……っと、だいぶ混んできたな」


日も暮れようかという頃、

確かに店の方の騒がしさも増した気がした。


今のところ大丈夫そうだけど、

このままだとちょっと大変だと思う。


なんだかんだと火を入れる料理は時間がかかるのだ。


調理人がマスター一人、僕が手伝いでしかないのが原因だけど、

僕が代わりに作るという訳にもいかないしね。


「ちょっとでも時間が稼げりゃいいんだが……」


つまり、テーブルごとに少し時間が経てば

注文は大体まとまるもので、今のままだと

個別の注文が多いので少々手間、ということだね。


状況はわかったけど、かといって僕に出来ることは……。


『こういうのはどうだ。魔法の練習にもなる』


唐突に響いた声と頭に浮かぶ映像に僕はなるほど、とうなる。


……これは商売になるな、と。


そうと決まれば話ははやい。


「マスター、こういうのはどうです?」


ご先祖様に提案されたことを手早く説明。


するとマスターは厨房の隅にある小樽を指さした。


「よし、あれはレリーのジュースが入ってる。適当にやってみてくれ」


「了解ですっ」


許可が出た以上、精一杯やらねば。


手早く前掛けを身に着け、僕は小樽といくつかの木製のコップを手に店の方に出ていく。


今からやることはガラスだと砕けちゃうからね。


小樽といっても僕の膝ほどの樽を持って歩く。


中身はレリーという夏におすすめのさわやかな酸味が特徴の

黄色い果物を使ったジュースであり、相当重いであろうそれを

意外と持てる自分に驚きながら近場のテーブルで汗をかいているとあるお客さんの元へ行く。


レリーのジュースは香りも良くってこの地方ではよく飲まれている物だ。


値段も安く、普段飲むのはお茶かこれかぐらい。


なので新鮮味はないんだよね。


そのままじゃ、ということになるけど。


「ん? なんだ、追加の酒はまだ頼んでないぞ」


「いえいえ、待っている間にどうぞってやつですよ」


僕はにこやかに笑いながら、コップの1つに樽から中身を注ぎ、魔力を集中。


使うのは手のひらに限定したブリーズ。


本当ならある程度飛んでいき、モンスターを凍らせるのが目的の攻撃魔法だ。


今回は色々と省略し、どう頑張っても手のひらの上ぐらいにしか飛ばない。


でもその魔法は目論見通り、僕の手のひらで効力を発揮する。


威力もかなり減少し、中身まで凍ることは無く

ほんのりと凍る、という絶妙な状態になった。


混ぜるとすぐに溶ける、ぐらいぎりぎり。


これ、僕とマリーはよくやるんだよね。


お茶がすごい冷たくて気持ちいいんだ。


「おお? 魔法……か、あんた冒険者か」


「ちょっと手伝いで。じゃ、お待ちの間にどうぞ」


値段としてはこの樽1つでも銀貨1枚もいかない。


となればこのコップ1杯じゃそれこそ何倍飲んでも店は気にしないぐらいなのだ。


なじみのある、言い換えればありきたりなそれが

この暑さの中では、喜びの顔を作り出すのだ。


「どれどれ……いいねえ、元々さっぱりしてるやつが冷たいせいでより旨い。

 ははっ、もっと料理も頼みたくなるぜ。おい、あんたらも一緒に頼まないか」


最初にそうして涼をとったお客さんは

すぐに隣のテーブルにいる数名のお客にも声をかける。


僕は素早くそちらにも向かい、同じようにジュースを

既に頼んでいるコップ等に注ぎ直しては魔法をかける。


そうして皆が口をつけては驚きの表情になり、

笑顔で追加注文をまとめてする。


そう、注文自体がまとまればそれを一度に作ればいいということだ。


マスターはそれが出来る腕を持っている。


注文がばらばらに、種類も分かれてくるのが大変なだけなのだ。


僕はマリーとおばさんに視線をやり、

残りのお客さんの応対に向かう。


そうしているうちにエールも冷やしてくれないか、

なんて要望に応えたりしているうちに時間はどんどん過ぎていった。


これまでになんで飲み物を魔法で冷やすという考えが

広まっていないかという疑問があったのだけど、

仕事して続けているうちになんとなくわかる。


やっぱり一人でやり続けるには魔力の消費が馬鹿にできない。


次の日や外に出る依頼を受けることを考えると

魔力回復のスキルなしだと結構きつそうだ。


もっとも、手加減して使える魔法使いがあなりいないというのもありそうだけどね。


「マスター、今日は贅沢だな! 値段が上がってもこれなら通うぜ!」


そんなお客さんの声が大多数だったのが救いと言えば救いかな。


マリーもどこで身に着けたのか、

優雅とも言えそうな動きで給仕の仕事は完璧だ。


間違いもないし、酔客のあしらいもなぜかうまい。


そんなこんなで、その一夜はあっという間に過ぎていった。


ついでに明日もお願いされたりした。


予定以上に儲かったらしくて、依頼の報酬も

増額された結果、思ったより稼ぎも良いので僕とマリーは承諾した。


攻撃魔法という物に疑問を覚えそうな、

夏も終わりそうな数日は平和に過ぎていく。


マスターたちはできれば暑いときにいつも提供したいと考えたようで、

同じ手伝いでも魔法使いの冒険者とかに受けてくれる人がいないか、

具体的に募集をかけるとのこと。


具体的に描いたのが良かったのか意外と受けてくれる人が出てきた。


なんでも攻撃に使えるほどの威力が生み出せないという

微妙な状態の使い手が何気に何人もいたのだ。


そういえば属性の説明を受けた時にも

水を産み出すことで砂漠で儲けてる人とかいるって言ってたし、

攻撃魔法だけが全てじゃないってことだよね。


僕達だけの仕事じゃなくなったのは寂しいけど、

ちょっと誇らしい結果となったのだった。





「へー、なるほど、こりゃうまい」


依頼が終わったことを伝えるカウンターでジルさんの声が響く。


顛末を気にしたジルさんに僕がお茶に魔法を使って飲んでもらったのだ。


「生活の中で魔法の制御を学ぶ……か。意外といいかもな。

 上に話を通しておくわ」


僕とマリーからの報告、街中の依頼でも

魔法はうまく使えば非常に便利、という話を

ジルさんは真面目に聞いてくれるのだった。


何年もしないうちに生活魔法と攻撃魔法の中間のような魔法が

あちこちで開発されることをその時の僕達は考えもしなかったのであった。



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