表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/257

MD2-051「銀狼遊技-3」

恐らく生きていく上で、一度も味わいたくはない感覚が僕を襲う。


自分の体が何かしらに切断されるという感覚だ。


同時に襲いかかる何度目かの激痛。


回避しきれなかったフォルティアの斬撃が僕の左腕を襲ったのだ。


「まだまだあ!!!」


痛みは痛みとして、それにひるまないように気合を入れるべく叫ぶ。


視界に自分だった物、左手であろうものが飛ぶのが見えるけど我慢。


スキルの気配感知以外に実際の音、臭い、

使える物を総動員して相手との間合いを把握する。


その結果に従い、右手に構えたままの長剣を感情のままに振り抜いた。


(切った!)


手ごたえ、というにはやや浅い。


それでも僕の力は銀色の肌を切り裂き、

その下の肉を露出させることに成功する。


でもここでは止まらない。


右手は剣を振り抜いた状態。


左手は、無い。


でも僕にはまだ手がある!


「ウィンドチャージ!」


「むう!?」


本来なら、高速移動用の風魔法を相手に向けて進む形で発動。


姿勢はそのままに、僕は勢いよくフォルティアにぶつかる。


省略詠唱のため、効果時間はわずか。


それでも彼の呼吸すら感じられそうな至近距離、

というよりも彼の口元に近づいたと言っていい姿勢だ。


体当たりというにはあまりにも弱い衝撃。


フォルティアが疑問の声を上げたのもそのせいだと思う。


「レッドバンカー!!」


「なんとぉ!」


その吹き飛ばしはレッドバンカーの反動なのか、

フォルティアが僕を蹴り飛ばしたからなのか、それもわからない。


魔法の発動部分は僕の肩。


射出型の魔法が別に指先でも杖の先でも、あるいは手のひらからでもいいように

接触が必要なこの魔法だって別に手のひらでなくていいのだ。


転がるようにして吹き飛ぶ僕。


瞬間、上下とかがわからなくなるけど

足裏の地面の感覚に迷わずに踏み込んでそこから飛びのく。


そしてその場所に振り降ろされるフォルティアの左腕の爪。


右手は……かろうじてぶら下がっている、という様子だった。


どうやら先ほど吹き飛んだのは魔法の反動だったようで、

フォルティアは荒い息のまま、その場にしゃがみこむようにして

こちらを見て口を開く。


「そうです。モンスターはほとんどの場合、遠慮はしてくれません。

 稀に人の話を理解して話す者もいますがね。

 そういう場合、大概は交渉しても碌なことになりません。

 原則的には命の奪い合いですからね。

 つまり、今の君のように負傷し、重傷だとしても生き延びさえすれば芽があります。

 間合いを取るか、倒しきるか、どちらかが大事です」


立ち上がり、残った腕で構えるフォルティアに僕も相対する。


が、視界がぐるりと回転するのだった。


『出血多量だな』


そんなご先祖様の声だけが妙に耳に残るのだった。








その後も僕は戦い続けた。


どうやったら死ぬような隙となるのか。


どうしてるとその隙につながるのか。


どうしたらそうならないで済むのか。


それは貴重な体験だった。


「! ここだ!」


それは何度目の戦いだろうか。


数刻かもしれないし、何日かもしれない。


あやふやな時間の中、僕は感じるままに体をひねり、剣を繰り出す。


鈍く、金属同士がぶつかる音が響く。


力に逆らわず、それでいて負けないように受け流しと踏ん張り。


おかげで僕のすぐ横を剛剣が通り過ぎる。


『まだだ!』


「ホーンストライク!」


片手剣、両手剣、あるいは槍系統でのみ発動可能なスキル、

単純に自分の正面に魔力をまとった突きを放つ一撃を発動させる。


これは相手への攻撃が主な目的じゃあない。


剣を受け流し、崩れた姿勢を強制的に整えるための手段なのだ。


僕の体を精霊由来であろう力が包み、

無理やりな姿勢から何かに引っ張られるように長剣がその向きを変え、

少なからず威力を誇る攻撃としてフォルティアに迫る。


「ぐぬっ!」


えぐるように肩をかすめた結果を確認しながら、

僕はウィンドチャージで一気に間合いを取った。


こうしているとよくわかることがある。


フォルティアは僕に対して、いや、試練を受けに来た相手に対して

同じ力では相手をしていないと。


事前にマリーが懸念していたように、戦い方がそもそもかみ合わなかったり、

実力差がありすぎる場合、試練にならないだろうからだと思う。


つまり、このダンジョン、あるいはフォルティアには1つの特殊な能力がある。


──入室した相手の実力や素質を知ることが出来る何かが


死なないとは言われても、恐怖はいつか人を壊す。


これは僕にでもわかる。


だからこそダメな時にはあきらめるのだし、

無意識にそうなってしまうのだろう。


でも僕は気が付いてしまった。


そう、彼も言っていたじゃないか、遊戯だと。


「首切り50回目までにはスキルを覚えて見せる、ですか。実現してしまいましたね」


「さすがに休憩を挟んだらもう立ちあがれそうにないですけどね」


正直、遊戯だとは言ってもこうも繰り返せばさすがに疲れる。


妙な気分だし、外でもここと同じ感じで戦ってしまいそうだ。


この試練が終わったら落ち着けるまで

下手に危険度の高い依頼は受けるべきじゃないな、と思う。


確認したいこともあるしね。


『思ったより上がってるな。実感があるんじゃないか?』


僕が気にしており、ご先祖様が言うのはスキルたちの熟練度だ。


スキルは魔法と同じく、体に満ちた精霊にお願いして

不思議な結果を産み出す術だ。


それは得手不得手があり、得意なスキルは

その動き、あるいは威力も違ってくる。


スキル自体はどうも何かを倒すなりしないとあがらないのだけど、

熟練度はそうではないらしい。


そりゃそうだよね。


素振りや練習で何もない、なら日ごろの訓練は無意味になる。


「それはこちらのセリフですよ。まったく、100も戦ったのは一体いつ振りですかね」


ため息交じりのフォルティアの声。


そんな脱力した姿勢からでも切りかかってくるのだから、

フォルティアは強い。


そして、そんな動きをフォルティアにさせるほどに

僕の戦い方はちゃんとした冒険者のソレになってきているということだった。


回避に関するスキルは新しくは覚えていない。


それでも回避できる回数が増えたのは

スキル以外の間合いや攻防の瞬間の見極めが上手くなったせいだろう。


判断が速くなった、とも言い換えられそうだね。


「ふーふー……」


斬り合いを始めておおよそ半刻。


今回はこれまでで一番粘れている。


でも、なかなか決定打が放てない。


(何かないか、何か!)


ご先祖様は僕の力の増幅に注力してもらっている。


視界には僕の放った魔法であちこちに開いた穴が見える。


おなじみのファイアボール、エアスラスト、サンダー・スプリット。


土壁を槍のようにして攻撃魔法とするアースピラー。


魔力と化した冷気の線が当たった場所を凍らせるブルーライン。


普通は水をぶつけるぐらいが限界なんですけどね、と

フォルティアが呟いたのは記憶に新しい。


(そうか……)


何も新しいスキル、魔法を覚える必要はないんだ。


今使える手札の力を最大限に発揮させれば!


「疾く走れ、無色の波、七色の波。我が足元で! ウィンドチャージ!」


十分な詠唱により、その力を発揮したウィンドチャージが

僕の足元で音を立てるかのように荒れ狂う。


「来ますか……いざ!」


構えるフォルティアに向けて、

僕は高速で切り付けていく。


右、左、下から、他にもだ。


その都度、フォルティアはこちらの何かを調べるように受け、

はじき、捌いてくる。


「どうしました、今さら破れかぶれですか!」


言いながら、フォルティアにも僕が何かをしようとしてるのはわかっているんだと思う。


でも、下手に動けないように切りかかることはやめない。


僕は武器も使えるし、魔法だって使える。


つまり、スキルと魔法どちらもいけるのだ。


そして、スキルとは魔法と大差なく、言い換えれば魔法の一種だ。


であるならば……。


何度目か、ぶつかった長剣がフォルティアのそれに刃こぼれを産み出す。


「くっ、魔法剣! でもそれだけでは!」


そう、僕は長剣で飛びかかる直前に

いくつもの魔法を魔法剣として付与していた。


それは火であり、風であり、土であり雷であり。


発動しては効力を失っていく魔法を連発した結果、

僕には周囲に精霊が躍っているのが見えた。


物言わぬ精霊の視線がどこかに集まるのがわかる。


それは僕の剣。


精霊は暇というのは変だけど、頼られたらうれしいという感情に近い状態になるそうだ。


強い魔法、規模が大きいほどそれは顕著だ。


僕の場合、強さは別にして種類は多彩。


そうして精霊たちが同じ場所にいるのは珍しい事なのだろう。


「もちろん! これでっ!」


脳裏に浮かぶのは夏の日差し。


遮るのは難しく、どこにいても浴びてしまう強烈な光。


雲間から降り注ぐそれはまるで光の階段のようでもあり、

長い長い刃のようですらあった。


そう、光は極まれば力となる!


「まばゆく力、煌めきて……この手に集え! ライジングアロー!」


浄化魔法とも違う、かといって聖なる魔法ともちょっと違う力。


まぶしいほどの光がそこに合った。


でもこれで撃つわけでもない。


その光は僕の長剣に吸い込まれる。


まだ足元に残るウィンドチャージの力で僕は突撃する。


スキルだけでも、魔法だけでもまだ、足りないんだ。


「ツイン……ブレイク!」


発動するスキルは特別な物じゃあない。


でも、今僕の長剣には魔法がかかっている。


だからこそ……。





僕の手の中に生きていく上で、あまり味わいたくはない感覚が産まれる。


そう、生きている何かの体を切断するという感覚だ。


魔法剣となった剣によるスキルはその威力を増大させていた。


受け止めようとしたフォルティアの剣ごと、

その右腕を切り取り、さらに足までもだ。


「お見事。武の試練を階級調整なしに突破したのは何年振りですかね……。

 さあ、そのうち私はまた復活してしまいます。

 今のうちに証明部位を……」


息を荒げたまま、僕はそのフォルティアの声に従って

部位である爪を切り取った。


そして間もなく消えていく体。


と、視界に新しい影。


復活したフォルティアだ。


「ではお戻りなさい。小さき英雄よ。いつしかここで君の話が

 伝説となって伝わってくる日を楽しみにしていますよ」


僕は頭を下げて礼を言い、扉に向かう。


マリーは……無事だといいけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ