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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-050「銀狼遊技-2」

翌日、人の気配に目が覚め、小さな窓部分から外を伺う。


目指す先の塔から、何組かの冒険者らしき人達が出てくるのが見えた。


「夜通し挑んでいたのかな?」


街にいたのであればまだ起きるには少し早いかな?という時間だ。

もっと早い時間に挑んで出てきた、とは考えにくかったからだ。


1組目はぼろぼろながらも満たされた顔。


2組目は特に装備が痛んだ様子はないけど悔しそうな顔。


表情だけなら最初の人達は合格できたということになる。


駄目だった場合には試験の最中に多少は痛むであろう装備も

何故か痛まない、ということなのかな?


『ここが俺の知っている奴と同じタイプなら……まあ、やってみないとわからんな』


ご先祖様の返事も曖昧な物。


(そりゃ、ご先祖様にだってわからないことあるよね)


僕は内心でそう返しながら、外の観察を続ける。


眺めていると、それぞれの出てきた扉がいつの間にか消えていた。


なるほど、ダンジョンだね。


日常的にこんな光景が繰り広げられるのはダンジョンぐらいだ。


「おはようございます。どうしました?」


気が付けばそんな時間だったのか、

敷居の向こうから身支度を終えたマリーが顔を出す。


僕も顔ぐらいは洗おうかな……。


マリーに見たことを話し、食事の準備に取り掛かる。


ホルコーにもお水と餌を与えて準備しないとね。


どうも特に順番ということはないらしく、

空いている場所からどんどん入れるらしいから、僕らの好きな時に行けばいい。




「やるだけやってみよう。駄目だったら他の試験でもいいみたいだしね」


「ええ。私の場合どうなるかはちょこっと不安ですけど」


一回でも魔法が撃てたら合格、とかだといいね、

等と話しながら塔へと向かう。


近づくと、先ほどまでなかった扉が1つ、にじみ出るように現れた。


ここか……。


横を見るとマリーも無言でうなずいている。


扉を開けて2人で入った途端、周囲の光景が一変していた。







「……? え?」


そこは広く、高さもある1つの部屋だった。


部屋というのも少し変だけど、そうとしかいえない。


天井は高く、何かの魔法の灯りであろう物が光っている


丸い玉を横に切って上側をかぶせたような感じだ。


横にはマリーがいない


(また離れ離れか、手でもつないでたら一緒になれるのかな?)


『前、いるぞ』


「心配いらない。彼女は彼女で試験を受けている」


警告と同時に届く流暢な声。


そこには、銀色の芸術がいた。


いや、僕には彫刻だとか絵とかよくわからないけどね。


『あれはフォルティア? いや、別人か』


戸惑い声を聞きながら油断なく剣に手を伸ばす。


強い、しかも全くそれ以上読めない。


まるで地竜に出会った時のような感じだ。


何かと比べてどうか、比較自体思いつかない。


この相手が試験の相手である人狼なのは間違いないと思う。


耳もあるし、顔が狼だからね。


人狼は構えていない。


「……」


瞬きを何度かする内、襲い掛かろうという気がなさそうだとわかり、

僕は剣から手を放して姿勢を正した。


「ふむ。君は不思議ですね。よくある力を追い求めての冒険者ではない、か。

 力は欲しいが、目的は別にあると見ました。少し話しをしましょう」


人狼が手を振ったかと思うと2つの岩が出現する


それは座るにはちょうど良い物だった。


「私の名はフォルティア。正確には何代目かのフォルティア。

 試験を担当する人狼はこの名を継いで長寿となるのです」


『そういうことか……。俺が知っているのはもっと西、かなりでかい砦だったな』


「僕の聞いた話だと、もっと西にある別のダンジョンのはずだって話があるんですが」


ご先祖様が生きていたのはだいぶ前のことだ。


新しく増えたのかもしれないね。


僕の問いかけにフォルティアは沈黙で応える。


何かを考えるような仕草だ。


「……だいぶ古い話ですね。確かに、そこにもありますよ。

 いつだったか、この塔のような存在が各地に出来たのです。

 いくつあるかは自分にもわかりませんがね。

 ただまあ、1つや2つということはないでしょう。

 そこにいる私と同じ立場の人狼も様々です。

 荒くれのような物もいれば、女性も中にはいるはずです」


それで、君がここへ来た理由は、と問われ

僕は理由自体は冒険者の評価を上げるためであり、

その先にある目的はなんであるか、を話す。


「ふむふむ。この塔はほかの場所でいう祭壇も兼ねています。

 上手くいけば何かしらの祝福が得られるかもしれませんね」


「それは何よりの朗報です」


話しながら僕は岩から腰を上げる。


雰囲気が、変わったからだ。


その僕の様子に満足したのか、

フォルティアもまた、ごく自然に立ち、こちらを見る。


いつしか岩が消えていたけど、ここは特別な場所らしいから今さらだ。


「さあ、どうしますか? 君は一人では戦えないというならそのように扱いますが」


今日の天気をしゃべるようなフォルティアの声。


その声が指摘することは1つ、ご先祖様の事だろう。


こちらが魔道具としていくつか装備していることもわかっているようだ。


僕はちらりと右腕を見る。


こういう時、ご先祖様はあまり僕に物を言わない。


自分の人生だから、自分で、ということらしいね。


ともあれ、僕の答えは決まっている。


「これもそれも僕の持っている、僕自身の1部ですからね。

 そのまま、行きますよ」


いつでも腕輪の力を稼働する呪文が唱えられるようにしながら、

剣を抜き放って構える。


と、フォルティアの口元が笑みにゆがむ。


「ひとまず合格。そう、良い師匠に出会えたら、

 あるいは実家が裕福であれば卑怯でしょうか?

 ましてや、素質などどうにもなる物ではありません。

 大事なのはどう生きるか、です。では……」


宣言と共に殺気。


フォルティアの言葉は、偶然にも僕が前に考えたことと似通っていた。


一瞬だけど、それが頭に浮かんだ間に

フォルティアは飛び込んできていた。


彼の殺気、それ自体が物を動かせるんじゃないか、と錯覚するほどの

濃厚な死の香りが僕へと襲い掛かってくる。


「ああああああ!!」


叫び、剣に力を籠める。


受け流そうなんてことはまともにできない。


左上から襲い掛かる金属の刃に向けて長剣を繰り出した。


全力で振り抜いて、ようやく軌道が変わって回避できそう、なほどだ。


重く、鋭い一撃が僕の左側に抜けていくのを感じながら

僕は相手の剣以外を警戒していた。


相手は人狼。


絵本でも書いてある。


その爪は岩を切り裂き、牙は竜の鱗をかみ砕くという!


「エアスラスト!」


警戒していた通り、普通ならつばぜり合いでも起きそうな距離で

フォルティアはこちらに大きな口を開いていた。


そこに遠慮なく、突風の塊と表現すべき状態に調整した風魔法がさく裂する。


勿論、この距離なので僕も無事ではすまず、

互いにはじかれるようにしてはじけ飛んだ。


「イタタタタ……よし、仕切り直し!」


「単詠唱でこれとは、随分器用なことをしますね。

 北の私なら笑いながら褒めているところです」


剣だけが試験、とは誰も言っていなかった。


なら、僕の出来ることをやるだけだ。


「精霊よ、我と共に在れ。ウェイクアップ!」


僕の体を覆うのは毛穴から噴き出すような力。


ご先祖様がいつだったか言っていた。


この力は直接増やすんじゃなく、僕の元々の力を増幅する物だと。


僕自身が鍛えるほうが効率が良いのだと。


であれば、以前より手ごたえがあるのは僕が成長した証だろうか?


『その通り。来るぞ!』


咄嗟に振るう剣にぶつかる相手の剣。


幸いにも、剣に刃こぼれする様子はない。


「今度はこっちから!」


近接は正直、かなわない。


でも、中距離だったら行けるかと言われたらもっと無理だ。


危険だけど、切り合うしかない!


「もっと、覚悟を決めなさい。理性無きモンスターは無慈悲です。

 やれるときにやらねば、死にますよ」


小さな、それでいて冷静な声。


予言めいたその言葉に僕の背中に寒い物が走る。


気が付けば鈍い音。


そして激痛。


「あ……」


気が付けば首元に剣……あれ?


暗転。


………


……



そして瞬きが出来たかと思うと僕は

部屋のどこかに立っていた。


10歩も歩けばという距離に剣を鞘に納めた状態のフォルティア。


「あれ?」


「いかがですか、擬似的にとはいえ、死んだ気分は」


フォルティアの声に、僕ははっとなって首を触る。


確かにそこを刃が貫いたはずなのだ。


(死なないってこういうことか……)


仕組みはわからないけど、やり直してる、ということだ。


思い出すたびに、言いようもない吐き気のような物がこみ上げてくる。


まだ戦いは終わっていない。


フォルティアを見ながら、なんとかして呼吸を整える。


「そう、それでいい。心が折れることをダメとは言いません。

 世の中は様々な立ち位置の存在がいてこそ回るのですからね。

 突き抜ける物、そうでない物。どちらも大事です。

 君は突き抜けたいと願っている。なら、続けましょう」


フォルティアの言葉は、僕がこれから何度も

同じことになるであろうと予言している。


この不快感が何度も?


正直嫌だ。


でも、やれるだけのことをやらないうちにあきらめるのはもっと嫌だ!


腕輪の解放は維持されているらしく、

全身の力はそのままだ。


「本来であれば死ねる回数は階位相応、ということで大体50もありません。

 おめでとう。君は幸運ですね。君は恐らく1000はやれますよ。

 さあ、納得いくまで……遊びましょう」





それは命を懸けた戦いを模した遊戯。


この場にいないマリーの心配をどこかでしながら、

僕はその遊技場に身を躍らせる。

アップデートで初心者救済イベントが常設されるような感じで

増えていったようです。


挑戦回数はレベル依存。

ただしファルク君は一緒にいる誰かさんのせいで判定がおかしいようで。。。

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ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
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