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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-049「銀狼遊技-1」

グラディアの夏がいつの間にか過ぎ去ろうとしていた。


目の前には秋。


この時季まで、僕達は稼げるだけ稼いでいた。


正確には、日差しが強くなるにつれてひたすら増える類の薬草類を採取し続けたのだ。


合間に討伐や護衛を挟んでね。


恒例のヒルオ草もパピル草も、十分な水気は必要だけど、

逆に川のそば等、条件さえ整えば良く増える。


特にヒルオ草は川が曲がって湿地になりやすい場所では

夏のような日差しがしっかりある時期にひたすら増えるのだ。


ではそれを好きなだけ採れるかというとそうでもない。


人間の体に良い物、薬になる物はそのまま、動物やモンスターにとっても

有用、ということで結構な割合で両者が食べにくるのであった。


村に住んでいた時も、この時季はすごく気を遣っていた。


幸いにも、僕にはある意味の切り札である地図がある。


討伐の時以外には、

集まっている動物やモンスターを上手く回避しながら

別の群生地でひたすら採取だ。


ポーションの材料であるこれらは需要自体は尽きることは無い。


最近実入りが良いのは気の早いパラーの木。


年に二度、春と秋頃に黄色い花を咲かせ、実を成す。


その実、あるいは樹液には麻痺毒があり、

稀に動物が実を食べてその場で麻痺していることがあるらしい。


そんな状態となれば格好の獲物だよね。


狩り、あるいは討伐に有利となる程度の麻痺毒らしく、

矢に塗り込んだり、投げナイフに使ったりと使い道は結構多い。


問題は匂いだ。


これがまた、独特の匂いなのでパラーの毒、というのは

見え見えな罠、といった事に対する皮肉としても使われているのだと

先輩冒険者達に聞いた。


他にも、実際に外では採取したことがない類の薬草を

いくつか発見し、納品を繰り返す。


村のそばにあった秘密の洞窟で、どんな場所に生えてくるのかを

よく観察していたのがこんなところで役に立つのだった。


勿論、野生のサボタンを狩ったりもした。


無理はせず、確実に経験を積み上げていたそんなある日だ。


僕達はD評価への昇格試験を勧められた。


「最近は二人の話を聞きつけて採取に出かける冒険者も増えたからな。

 そろそろ手を休める頃じゃないかと思ってな」


ずっと僕達の担当になっているジルさんはさすがにこちらの事をよく見ている。


いつでもよかったんだが、ひと段落ついてからの案内がいいかと思って、とのことだ。


確かに、稼ぎ時に評価が上がって依頼の選択肢が増えても

悩んでばかりだっただろう。


冒険者の評価段階は上がるほど依頼の幅も増え、

指名依頼も混じってくることになるらしいから、

生活が大きく変わるということでもある。


冒険者で1番多いのがこのD評価らしい。


C評価への上昇には様々な条件があるのだとか。


なので、長い間D評価、という冒険者も多くいるらしい。


「肝心の試験?のほうはどんなものなんですか?」


ローブを着込んだままのマリーがそう疑問を口にするように、

D評価への上昇も試験があったはずであった。


ちなみに、マリーがローブを着たままでも汗をかいていないのには理由がある。


手足が出ていると探索や冒険の際に危ないということもあり、

昔から魔法使いの間では対策が研究されており、

今もローブの内側では消耗品ではあるが冷房のための魔道具が稼働中だ。


武具や攻撃には到底使えないような魔石が触媒なのだとか。


出来れば鎧の内側にも何か欲しいよね、うん。


「地方によって全然違うが、この土地だと……銀狼の爪か牙を持ち帰ることだな」


「狼……ですか?」


言葉の感じから僕が思い浮かべる獣としての狼では無さそうに思いながらも

思いつかないので疑問をそのまま口にした。


「ああ、人狼ってやつだ。ここから……3日か4日ほどのところにあるダンジョン。

 ちょっとばかし一般のダンジョンとは違うが、古い遺跡がある。

 絶賛稼働中の遺跡だがな。場所的にはどちらかというとオブリーンの王都に近い場所だ」


ジルさんがカウンターに取り出した地図の上で指を動かす。


グラディアから確かに西にいったほうにある地点が目的地の様だ。


(人狼……おとぎ話とまではいかないけど、絵本で見たことがあるぞ)


そう、人狼は強者の象徴だ。


500年とも1000年前とも言われるかつての戦いでも

その戦いは勇猛さを知らしめ、近接戦闘では最強の種族と言われる。


その踏み込みは大地をえぐり、繰り出す爪は岩を切り裂くという。


「場所はわかりましたけど、試験の割に相手がすごくないですか?

 生き残れる気がしないんですけど……」


僕も多少強くなったとはいえ、あくまで僕の戦う範囲の敵に対して、だ。


それこそエルフの里で見かけた地竜とまともに戦うのは無理だ。


噂だけでも、切りかかった途端に背後を取られる未来しか予想できない。


「ファルクさんは少しは行けても、私みたいな魔法使いじゃ何もできないような……」


マリーの顔も引きつった物となり、声も上ずっている。


確かに、僕でも無理ならマリーであればもっと無理だ。


下手をすれば魔法の言葉を口にすることすら叶わないかもしれない。


ジルさんは僕達の言葉に、何度もうなずく。


「間違いねえ。ただ、朗報だ。仕組みはわからんが、そのダンジョン、まあ塔なんだが。

 その中じゃ死なないどころか、切られても大丈夫だ」


(……どういうこと?)


『昔は結構あったんだ。特殊な場所だな。その代わり、その中だと剥ぎ取りなんかもできない』


「ということは、その相手、人狼さんを倒すのが唯一の手段ではないということですか?」


「鋭いな、お嬢ちゃん。これまたなんでそんなことをしてくれるのかは仕組みはわからんが、

 人狼によるこういう試験を受けられる場所はそこそこ数があってな。

 他の土地にも同じようなのがあるのさ。今回行ってもらうのはたまたまそこが一番近い、ってだけだ」


ジルさんの説明が続いた。


倒すことが一番簡単で分かりやすい方法だけど、

他にも合格の条件はいくつもあるそうだ。


理由はずばり、人狼がそう言ったから。


人、と名前につくように二本足で立つし、しゃべるらしい。


姿は場所によって違うけど、世界に旅立つのに相応しい強さを示せ、

といった言葉と共に試験を受けさせるというのは共通なのだとか。


注意点としては死なない代わりにそういう状況になるとひどく疲れてしまい、

その日の再挑戦は無理だろうということ。


具体的な回数は不明だけど、何かの決まりで一生に挑戦できる回数は決まってる、ということ。


大体はその前にあきらめてしまうらしいのだけど。


あるいは他のD評価昇格試験に挑むらしい。


「他の試験もあるにはあるけどよ、全属性のお前さんに、素質十分そうなお嬢ちゃんだからな。

 まずはこの試験でいいんじゃねえかと思ったわけだ」


なんでも、無理そうだなと思われたら最初から他の試験を勧めるそうだ。


D評価の冒険者が一番多い理由がここにもあった。


拍が付く、とは少し違うけど試験によって冒険者同士の

評価がなんだかんだで違うようだった。


ともあれ、そうと決まれば話は早い。


納品常連となった街の薬師さんらにはしばらく納品を行えないことを伝え、

僕達は目的地へ向けて旅立つ。







「あれかぁ……」


「大きいですね……思ったより」


僕の声に答えるマリーもどこか疲れたようなというか、暗い。


それもそうだろう。


雲まで、とはいかないだろうけど

上まで見ようとすると大変な高さだ。


あんな塔、登ろうとするだけで大変じゃないだろうか?


『そのまま登るということはたぶんないんじゃないかと思うが……わからんな』


ご先祖様にとってもここは初めての場所らしく、どこか声が弱い。


「行くしかないね。ホルコー、進もう」


僕がそういって首を叩くと、ホルコーは元気に答えてくれる。


ちなみにホルコーはスキルらしきものを覚えた。


そう、覚えたんだよね。


僕達がそれを知ったのはこの旅の途中なんだけどさ。


1つは僕達と同じ感じのタフネスらしい物を覚えていた。


名前は馬のど根性。


名前だけだと無理してるのかな?と思ったのだけど

そうでもないらしい。


全力で走らせたり、長距離の移動でも余り疲れなくなったようだ。


スキルの名前を決めたという昔の偉い人……、

女神様とか戦女神様?はどういうつもりでつけたのだろうか。


もう1つは単純に強・後ろ蹴り。


まあ、馬って言えばこれだけどさ。


単純すぎないかな?


どんなものかと言えばそのままずばり、すごく強い蹴り。


馬にも魔力ってあるんだね。


道に転がっていた倒木を魔力の光りで包まれた蹴りで吹っ飛ばした時には

まさに目が点、だった。


とはいえ、ホルコーがスキルを覚えているというのは不思議だらけである。


理由そのものは推測できる。


多分だけど、僕とマリーがパーティーを組んでいるように

いつのまにかホルコーもその中の一員でいたからじゃないだろうかという物だ。


モンスターを倒したりすると階位、レベルが上がる場合がある。


その時、パーティーを組んでいると要は一緒に経験が得られるようだった。


敢えてパーティーから外す、と意識したことは無いから、

常にホルコーは同じパーティーにいたことなり、階位が上がったんじゃないかなあ。


僕のそんな予想は、ご先祖様も否定しなかった。


『今度意識して討伐してみればわかるんじゃないだろうか』


(だよね、もっと強くなったら……やめとこ)


横にそれた考えを止め、近づいてきた光景を見る。


遠くからの時にはわからなかったけど、塔の麓には建物がいくつもあった。


特に村や町という訳じゃないようだけど……。


どうやら同じように塔に挑戦する冒険者達が利用する様だった。


あちこちに簡素な小屋がある。


と、一番手前の小屋から一人の男性が出てきた。


「あのー」


馬上から失礼かな?と思ったけどそのまま声をかける。


「ん、坊主たちも……冒険者か。若いのに既にD評価に挑戦とは有望だな」


「? 貴方は挑戦者ではないんですか?」


少し話が長くなりそうなので、僕達はホルコーから降り、

小屋から男性と向き合う。


「おう。俺はもう突破済みさ。なんの事は無い。ギルドにある依頼で

 この場所の様子見と管理をやるためにきてるのさ」


言われてみれば、確かに男性は余裕を持った風格で、

試験を受けに来た、という風ではなかった。


「馬がいるなら……あっちの小屋は空いてるぞ。

 店はないが、井戸はある。そうだな……試験に失敗した奴は

 気が立っていたりもする。気を付けてな」


「「ありがとうございます」」


2人してお礼を言ってひとまずその小屋へ。


庭というほどでもないけど、ホルコーをつなげておくのにちょうどいい柱のある小屋だった。


「今日はもう夕方が近いから、明日にしようか」


「そうですね……。お掃除もしたいですし」


マリーに言われ、僕も小屋がそのまま過ごすには

少々汚れていることに気が付く。


広場のような場所にある井戸に水を汲みに行き、

アイテムボックスに仕舞い込んであった布で板張りの床をふいていく。


(出来るだけ早く突破して……いや、あせってもしょうがないか)


後から振り返ると、今まで生きて来て一番長く感じた一日。


そんな一日の前の日はそうして過ぎていった。



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