MD2-046「レベル以上の強さという物-4」
「出る時も言いましたけど、本当にいいんですか?」
「話が本当なら、少しでも早く礼拝の場所を
立ち上げなおしたいからね」
冒険者として、正しい判断かどうか今も良くわからない。
何が、と言えば依頼についてくるという人達の同行を断れなかったことだ。
ホルコーに乗る僕達の後ろについてくるのは馬車2台。
依頼主であるマテリアル教の神官さんの1人、ランドルさん。
そしてその他に現地で作業を一緒にするという予定の関係者。
力仕事前提ということで僕から見ても体格はそれなりに良い人も何人かいる。
ただまあ、誰もが外でモンスターと戦ったことはほとんどないということだけど。
ランドルさんはおじさんと呼ぶにはまだ若い、
青い髪の青年だった。
少し長めの撫で髪にゆったりとした神官服が相まって
大人しそうな印象を受けていたのだけど、
思ったより行動的な人だった。
依頼を受けることを連絡し、次の日にでもさっそく出ることを言うと
ではこちらもすぐに準備しますね!と来た。
僕はいるであろうモンスターの退治の問題や、
他に何か問題が起きた時に対処できるかわからないからと
一度は断ったのだ。
ただ、それは
・僕達が退治を終えて、じゃあと向かった時にまたモンスターが来ていないとも限らない
・ならばと人を雇えば二度手間である
と言われてしまってはこちらも強く言えない。
ちゃんと祈りの場所を復活させればモンスターが近寄りにくい何かしらが出来るので
それが一回で出来れば一番いい、とのことだ。
「ファルクさん、前に何かいますよ」
「ん? あー……鹿だね」
僕達はホルコーの上。
マリーが前、すぐ後ろに僕、だ。
逆でも乗れるけど、マリーが前を見にくいし
今の状態、僕が後ろの方が便利なんだよね。
防具越しとはいえ、目の前にマリーが密着してるのはその……。
控えめにいってどきどきしてしまうのだけれど。
しかも、マリーはたまに何か問題ありましたか?とばかりに僕を見上げてくる。
その時にこう……もたれるようになるからさらに顔が赤くなってないか心配だ。
「弓だと回収が面倒だから少し遠くに魔法を撃って逃がそうか」
「はい。音だけする感じに調整しますね」
ランドルさんたちに断りを入れ、マリーが馬上で魔法を詠唱する。
ホルコー、だいぶ魔法に慣れたよね。
さすがに最初の頃は大きな音がするとびくっと体がはねていた。
僕達と鹿の中間ぐらいで何かがはぜる音。
距離があるので小さい姿の鹿は慌てた様子で道の横に逃げていった。
『美味そうだったな……良い体付だった』
(ファクトじいちゃん、この状況で味、わかるんだ……)
今さらながらの真実。
どうやら僕を通して食事の味も感覚的にわかるらしかった。
今度、好物とかないか聞いておこう。
「……食事のためには狩った方がよかったかな?」
「どうでしょうね。後処理も大変ですからね……」
冗談交じりにそう言いながら、移動を再開する。
幸いにもそう遠くない場所にあるらしいから、
何日も夜営、ということはなさそうだ。
「キミ達は器用だね。熟練者でもああやって魔法を調整できる人は多くないよ」
感心した様子のランドルさん。
見れば後ろの馬車の人はともかく、
前側の馬車の人も同意とばかりに頷いている。
「まだまだ熟練とはいかないので、工夫で補おうとはしてるんですけど、
詠唱すると本来の威力になっちゃうので難しいところです」
「私の場合、どうも風魔法だとどーんって強くなりがちなんですよね。
近くで撃つとこっちまで風がきちゃいます」
僕達としてはまだまだ、という自覚があるので
そう否定気味に言うのだけど、それが何やら気に入ったらしく、
ランドルさん達は笑顔であった。
『使う魔力量も自分達で選択していかないといけないからな。
実は魔法は奥が深い。薬師のポーション開発も近いところがある』
僕がご先祖様の言葉を僕らしい感じに言いなおすと、
さらに感心したような顔になってきたので恥ずかしくなって前を向いた。
気が付けば結構な距離を来ていた。
速ければもうすぐ現場の近くだ。
事前の調査ではモンスターと言っても大した数はいなかったそうだ。
追加でいるとしたら……先ほどの鹿のような獣だろうか。
実のところ、モンスターと獣たちの
明確な境目ってないのである。
イノジーなんかもほぼモンスターだよね。
強いし。
でも、冒険者やギルド、国の中でも扱いは獣だ。
先ほどの鹿でも、しっかりと育つと
群れをある程度の怪物から守れるようになる。
魔法を使ったかのように駆けだしたりけっとばしたり。
鳥も、一部は弓矢のように早く飛ぶのだ。
だから狩人の人は冒険者のそれと大差ない実力だと思う。
むしろ一部は冒険者以上、と言えるんじゃないだろうか。
森に入れば獲物以外と出会うことだって当然あるわけで、
見晴らしの良い場所で討伐や採取をするのとはわけが違う。
狩人だけで世の中の森が全て管理できるわけではないので
ほとんどの森等はまさに大自然。
そんなモンスターが住んでいるであろう場所で
獣たちは生き残っているのだからすごいことだ。
スキルもどきの1つでも使えるようになるのも納得。
なんとなく、ホルコーはその辺から微妙に飛び出てる気がする。
今も、何か言った?とばかりに、こっちを振り返るしね。
以心伝心、人馬一体、なんて聞いたことがあるけど
あの話は実はそういうスキル持ち同士だったのかな?
「あれ……ですかね?」
「そのようですね。馬車はここで止めましょうか」
マリーのつぶやきにランドルさんも
前にある建物らしきものを見つけ、全員がひとまず止まる。
嫌な気配は今のところ、無い。
『かすかにだが魔力……ちょっと違うか? 感じが変だな、気を付けろ』
でもご先祖様からすると何かあるようだ。
「僕とマリーで偵察してきます。
皆さんはこの角で周囲に気を付けながら隠れていてください」
そういってホルコーを預け、僕達はゆっくりと木陰から近付く。
まだまだ明るいけど夕暮れは近い。
場合によっては少し戻って目立たない場所で火をたかないとだね。
………
……
…
「ゴブ……リンですよね?」
「だと思うんだけど、赤に緑に青に茶に……すごい色だね」
(なんだろう、あれ。亜種?にしては普通の体格だしなあ……)
手には作られたと思えるらしき棒。
この遠さだとしっかり見えないけど、間違いないと思う。
「マリー、杖を持ってる。魔法を使いそうだ」
「ゴブリンが……一度戻りましょうか」
『待て。俺の記憶が確かなら……あれと同じのが霊山にいたぞ』
マリーに言われ、腰が浮きかけた時、衝撃の証言がご先祖様から飛び出す。
動きの止まった僕をマリーが不思議そうに見るが、
先ほどより伏せることで彼女もそれに従う。
「霊山に……。ファルクさんの目的の何か助けになるかも、ってことですね。
それにしても、すごいですね。そんな昔のことも覚えてるんですから」
『年寄りの昔話と同じさ。何かあれば、とかでしか思い出せん』
「だって。数が……20もいないかな」
マリーにはご先祖様の言葉をそう伝え、
僕達は観察を続ける。
どうやらこの建物を住居にしているらしく、
ゴブリンたちはそこかしこで思い思いに過ごしている。
戦うなら誘い出さないといけない。
しばらく後、動きに変化がないのでゆっくりと戻ることにする。
「そうですか……お二人だけならいつ、行きますか?」
報告を受けたランドルさんは少し考え、
そう僕達に任せてきた。
僕はその言葉にかなりほっとした。
手伝いましょう、とか言われたら逆に守りきる自信がなかったからだ。
奇襲として夜襲は常とう手段だ。
以前の砦跡への攻撃もそれに近い。
でも今は僕達2人。
かつあまり見通しはよくない、となれば夜襲も必ずしも効果的とは言えない。
何より、外に出てきてもらわないといけないからね。
僕がゴブリンだったら、夜にいきなり襲われてるときに
外に出るかと言われると中に立てこもろうとすると思う。
狙うは早朝。
こちらの視界は確保しつつ、ゴブリンにとっても
よくわからないけど誰だ、と出てきそうな時間帯を狙う。
そんな僕の考えを伝え、夜営が必要ということで
全員で今より少し下がって岩場に隠れることにする。
「本当はゴブリンだけだったら大丈夫なんですけどね。
どうも不思議な相手ですから」
「いえいえ、時には豪快に、時には慎重すぎるほどに慎重に。
生き残る秘訣だと思ってますよ」
見たまま、妙な色合いのゴブリンで何をしてくるかわからないことを
隠さずに伝えていた結果なのか、
弱腰とも取れるこの動きに文句を言う人はいなかった。
ゴブリン相手に大げさな、と言われるのを覚悟していたんだけどね。
………
……
…
「ご武運、お祈りしていますよ」
「外で祈りを受けられるなんて冒険者としては贅沢ですね」
ランドルさんに僕はそう笑い、マリーと頷きあって
昨日進んだ道を再び進む。
たどり着いた先にゴブリンはいた。
暑かったのか、寝床が足りないのか、
外に数匹。
ならばやることはただ1つ。
普段なら警戒されないように静かにやるところだけど、
今回は外に出てもらわないといけない。
なので、少々派手に音が出るようにして魔法を撃つことにした。
そう、鹿に向かってやったように。
「うわぁ……」
目論見は成功、というか効きすぎるほどにゴブリンたちは建物の外にあふれ出てくるのだった。




