MD2-045「レベル以上の強さという物-3」
短め。区切り的にこの辺であげときます。
今の僕の主武装である両手剣は魔法剣での戦いを主眼に置いている。
元の切れ味もかなりの物なのだけど、
普通の鉄剣では何度も、あるいは強い魔法を使うと
すぐに駄目になってしまう。
かといって属性武器は高い。
でも魔法剣に適した素材、というのはそう高くないそうだ。
理由としては単純に、攻撃に使える適性を持つ人が
さらにその武器を使わなければ用がないからだ。
需要の問題だね。
その点、僕はついてた。
グラディアでたまたま、その職人さんの話を聞いた。
腕が良い、その割に値段は安い、と。
話を聞いた際にはその後に、でも……と付く。
数打ちの装備を良しとしない、昔ながらの職人気質な人なのだと。
時間をかけて聞き取りをし、
本人に合った造りで仕上げるらしく、時間がかかる。
だから最近の冒険者には敬遠されがちなのだそうだ。
僕がその人に出会った時、感じる物があった。
それはカンというよりは、同じだと感じたからなんだよね。
この人も、僕のように普通じゃない形で何かを受け継いでいる人だって。
相手も同じだったらしく、疑問が表情に浮かんだけど
すぐにそれは消え、仕事をする職人の顔つきとなる。
そして、なぜか旅の目的まで色々と細かい部分まで聞かれた。
「道具は道具だ。いざという時に惜しんで身を亡ぼすなよ。
まあ、大事にしてもらうのはうれしいことだが」
僕が受け取る際、大げさなほどに丁寧に受け取ったからだろうか、
そんなことを偏屈、と周囲から言われる声色で職人さんは言ってくれた。
鉄剣ともジガン鉱石だけとも違う輝き。
使う機会がなかったから試したい技術が試せてよかった、
と言われ代金は普通の一振りとそう変わらない物になる。
僕は出来上がった姿を見て予定より支払うつもりだったのだけど、
その受け取りは断られてしまった。
そして最後に、銘を、と言われたので名付けた。
すごく目立つわけでもなく、主張しすぎない中にも
確かな輝きを放つ空の星。
明星、と名付けた。
「はぁ!」
そして森のそばで出会ったティガ種。
明星はその力を発揮する舞台に恵まれた。
フローラさんや、ルクルスさんらも言っていた。
隠れる必要がある時以外は、声を出せ、と。
こちらに飛びかかろうとしていたであろう
ティガ種……そういえば名前はわからない、に向けて手の中の刃を繰り出す。
片手で扱うにはやや長い長剣。
それは僕の手の中で今、赤い光を伴って力を解放していた。
「速いっ!」
必殺となる一撃は相手をかするだけにとどまり、
僕も手ごたえを感じることはできずに剣は空を切る。
相手に当たらないということは勢いが殺せなかったということになる。
そうなると体格的に剣に負け気味な僕の姿勢はそのままでは崩れる。
(でも……ここからだ!)
「ブイレイド!」
力ある言葉と共に手の中に白い光。
ご先祖様の力を借りながら、
半ば無理矢理にスキルの発動へとつなげ、
不思議な手助けを感じつつ追撃の動作に移る。
相手が驚くがこの距離だとよくわかる。
無理もないと思う。
避けたと思ったらその刃物が光を帯びながら
すぐに自分へと伸びてくるのだから。
回避しようとしたであろう相手の動きが唐突に止まった。
今度は確実な手ごたえを感じながら手の中の力で相手に死を運ぶ。
わき腹ぐらいの位置から、
首元へと救い上げるようにして刃が入り込み、切断した。
新しく覚えたスキル、ブイレイド。
振り降ろした状態から逆向きに切り上げるスキルだ。
昔々の文字になぞらえた名前らしいのだけど、僕は知らない文字だ。
(まずは一匹……。ここで死角から襲ってこない、ってのが変なんだよね)
僕は一匹仕留めたことに喜ぶ感情を押しとどめ、
少しだけど間合いを取るべく下がる。
相手が熟練であれば同じように間合いを取るか、
魔法などを警戒して森に潜むはずだった。
しかし、今回は予想通り、若くない。
敵、とばかりに僕へとつっこんできたのだ。
「木よ、花よ、我が意を汲みて力となれ、いたずらな手!」
詠唱の割に妙な名前の魔法が後方にいたマリーの杖から発動する。
瞬きの間に伸びた緑のそれは悲鳴と共に残り2匹の足をいくつも拘束した。
マリーの使ったのは森魔法。
元々はエルフの使う物で、人間のそれとは少し違う。
現在はともかく、始まりは生活魔法と呼ぶべきものだったらしい。
収穫や日常生活の中で、ちょっと木にどいてもらったり、
高いところ、足元の物を取ったりなどに使っていたようで、
それが必要に迫られて様々な形に進化したのだ。
ツルを巻き付けたり、葉っぱで目つぶしをしたり、
あるいは……鋭い枝が貫いたり、とだ。
まだマリーも覚えて日が浅いので今使ったのは
ツルが伸びて足止めをする物。
「……さよなら」
命のやり取りの最中では致命的な隙。
僕もマリーも冒険者だ。
そんな隙を逃すわけにはいかない。
一息に近づき、一閃。
視線は合わせない。
どうせ互いに主張があるのだから、
生き残ったほうが勝ちなのだ。
「追い出された先で、なんですかね」
「かな……でも、依頼だからね」
3匹の若いティガ種との戦いを終えた後、
僕達はそのまま少しだけ森の中に入った。
そこで見つけた物は、既に力尽き、屍となっていた親だった。
自分自身を糧とさせていたのか、既に骨と皮だけ。
でもその姿は恐らく力尽きた時とあまり変わっていない姿勢だった。
だからこそわかる。
生きていた頃はどれだけの強さの狩人であったかが。
妊娠し、縄張りを追われた先での出産。
そして子育て。
これまでは奥地で静かに暮らせていたのだろう。
でも、何かが起きてこんな近くまで出てきてしまったのだ。
死んでしまった理由はわからないけど、
僕達は子供であろう個体と親であろう目の前の相手から
牙だけは切り取り、残りは土魔法で掘り起こした穴に入れることにした。
自己満足でしかないことだけど、なんとなく必要な気がしたのだ。
村に戻り、本当に脅威になるであろう相手がいたこと、
既に討伐できたことを牙を見せながら報告する。
村長さんたちが祝い事のようにすごく喜んでくれたので
僕とマリーの気持ちは多少なりとも晴れるのだった。
「……ファルクさん」
「うん。わかってはいるんだけどね」
何日か後の昼下がり。
僕たちは薬草採取だけを手早く終え、
まだ日も高いというのに宿の同じ部屋で
ぼんやりと空を見ていた。
疲れている、というわけじゃあない。
2人とも、ちょっと気にしてしまったのだ。
モンスターだ、倒さないと、などと言っている中にも
家族がある相手が含まれているのだと。
自分達冒険者が、一体どれだけのモンスターたちの上に成り立っているか、
を考えてしまったのだ。
上手く折り合いをつけないと、とは思うものの、すぐには上手くいかない。
ぶらりと街に出た時にたまたま出会ったベルフさんは僕を見るなり、
ひどい顔をしてるんじゃねえ、と叱ってくるほどだ。
そんな顔の冒険者に依頼をこなしてほしいと思う奴がどこにいる、ってね。
そんなベルフさんは説教染みた話の後、
背中を叩きながらこういった。
それで悩める奴が生き残れる。
怖さを知らないやつは恐れ知らずにつっこんで死ぬ。
可愛そうと思うだけの奴は、どこかで手を出せずに死ぬか
倒すべき相手と追い帰すだけでいい相手と区別が出来ずに死ぬ。
怖さを忘れないやつが警戒し、
相手への同情を忘れないやつが区別をつけられる、と。
その辺は評価や階位の外にある力だ、とのことだ。
街に戻って5日目。
僕とマリーはようやく自分たちの気持ちとある程度仲良くなれた気がした。
「階位……か、どこでわかるんだろうね?」
「ギルドの評価とは違う、指標になる強さの段階、らしいですけど」
物事を調べるのも必要、とベルフさんは細かい説明はせずに立ち去ってしまった。
そんなある日、僕達はとある依頼を目にする。
冒険者に頼むことかな?と思ってしまうその依頼。
それは街から1日もいかないような距離にある祠の掃除の依頼。
なんでも戦女神をまつっている場所だったのだけど、
いつしか守り人が途絶え、管理がちゃんとされていないのだとか。
そこで新しく管理をしようと考えた人がいたのだけど、
既にその周囲にはモンスターが住み着いているらしい。
『ちょうどいい。戦女神の像なりに祈れば階位、レベルもちゃんとわかるんじゃないか』
そんなご先祖様の話が一押しとなって、僕達はその少し変わった依頼を受けることになる。




