表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/257

MD2-044「レベル以上の強さという物-2」


「一匹見たら30匹はいると思え、って……なんだっけ。

 砂漠にいるやつだっけ?」


「見たことないですけど、人ぐらいの大きさのアリがいるらしいですね。

 それのことだったような」


太陽の下、のんきな問いかけが僕とマリーの間で行われる。


2人がいるのは、街道そばの岩場。


視線の先には、村人が例の相手を目撃したという森がある。


今のところ影はないけどね。


村からはそこそこの距離があるけど、朝出て夕方前には帰る、が不可能ではない距離。


護衛をつけるには近すぎるけど無しだと不安、と微妙なところ。


そんな場所に何の用が、というと

このあたりに自生している木の中に、

樹液を煮詰めると蜂蜜のように甘くなる木があるそうで、

村はそれを特産品の1つにしているらしい。


邪魔な他の木を切り倒し、地道に増やしていったそうだ。


村のそばで育てればいいという気もするのだけど、

何故かこのあたりじゃないとちゃんと育たないとか。


「川があるとかそういう違いも無いのに不思議な話ですね。

 何か地下にあるんじゃないです?」


「かもしれないけど……掘り起こすわけにもいかないし、

 地下を探るにも限界があるからねえ」


ご先祖様の力を借りれば地形自体は確認できるかもしれないけど、

具体的に何かがあるかどうかまではわからないのだ。


『今のところ反応は無いな。動く奴も』


(うん……平和なもんだよ)


僕が視線を向けた先では普通に鳥も飛んでいる。


村人によって目撃されたという謎の影はない。


実はいなかった、ということは無いだろうけど、

この状況からすると、ここに住み着いていないのかな?


最近住み着いた、という線は残ったままだけれども、

この感じからいくと流れの相手かも。


「縄張りから押し出された相手だとしたらちょっと厄介ですね」


「そうだね。間違いなく必死だ。こんな街道沿いじゃ、獲物がいなくなるか

 冒険者に退治されるか、大体どちらかだからね。

 それなのにこのあたりに出没するとなると……」


なりふり構っていられないほど余裕がないか、

それを知らないような世代か。


ウルフにせよ、ティガ種にせよ、狩をする獣は頭がいいはずだ。


よほど若い個体でなければ、最終的に不利な、

こうして冒険者がやってこれるような街道沿いに出てこない。


あるいはすぐに自分の縄張りに戻ってほとぼりが冷めるまで出てこない。


そう言った判断が出来るはずの種族というだけでそれだけ厄介に思える。


っていってもこのあたりは全部ご先祖様がことあるたびに

どこからか僕に教えてくれる知識でしかないんだけどね。


僕の課題にはこういうご先祖様が教えてくれた

いつの間にか覚えている知識をちゃんと自分の物にすることも含まれている。


時代が違えば違うことはやっぱりあるだろうからね。


「ひとまず今晩は様子を見て明日から本格的に森に入ろう」


何度も夜営に使われたのか、

たき火のあとがある岩を拠点として

僕達は火を起こし、明日に備える。







翌日。


入念に準備をして森に分け入った僕達の前には

小さな小指の先ほどの黒い塊たちが転がっていた。


「間違いなくフンだね。昨日、こんな近くまで来ていたのに

 僕達に襲い掛かってこないんだ。頭は良いみたいだ」


僕達がそうであったように、様子をうかがっていた、ということになるのだろう。


木の上に登っていたらこちらのたき火も見えたはずだ。


今のところ、僕とマリーの持つスキルである気配察知には

危ない気配はない。


「頭の上とかには気を付けてね」


「村の人が通る道があるのが幸いですね」


マリーの言うように、ここは村の人が目的地へいくために

立派とは言えないけど十分通れるだけの道が作られている。


そこを歩いているのだ。


周りの木々からは少し離れており、

真上から襲われる、といったことはないのが救いだ。


枝の上から飛んでこられたら十分届いてしまう距離だけどね。


虚空の地図の確認はご先祖様にお願いし、

僕とマリーは実際に周囲を警戒しながら進む。


と、鼻に届く嫌な臭い。


しっかりと嗅いだ回数はあまりないけど、

間違いなく血の匂い。


しかも、人間以外のだ。


「ファルクさん」


「うん。どうやらまだいるみたいだ」


とある木の根元に横たわるようになっている物。


そう、物だ。


既にこと切れているゴブリン。


問題はその死体が切り刻まれるようにばらばらということだろうか。


『柔らかいところだけ食いちぎった……ようだな』


(よくわかるね。さすが)


僕はマリーのいる前でかっこ悪い姿を見せないようにするのに必死だ。


それでも目をそらさずにいると、確かに目の前のゴブリンだった物は

ひどく乱暴なやり口だったということを証明していることがわかる。


いい気分ではないのは間違いないのだけど、

僕の何かが警告を発している。


鍛えてもらった冒険者のカンという奴だろうか?


「ここにいるのは今まで奥地にいた奴か、どこからか追い出された奴。

 どちらにしても食べる物には困っているはず。

 なのに……」


マリーには無理に見ずに周囲の警戒だけをお願いして

僕はそれに近づく。


近くになるほど、そのむごさがわかる。


と同時に、どこかわざとらしさを感じたのだ。


大抵の獣は仕留めた相手をその場で全て食べきるか、

自分の安心できる場所に持ち帰ると聞く。


決して遊ぶような真似はしない。


そう考えればこれはあまりにも目立っている。


……ゴブリンをわざとこうして放置しているとしか思えない。


そこまで考えて咄嗟に虚空の地図に目をやり、

ご先祖様にも声に出さずに問いかける。


『何もないが、その感覚は大事だ。俺の感知はあくまでファルク自身の物だからな。

 最大限引き出しているに過ぎない』


つまり、どう頑張っても僕がわからないものはご先祖様にもわからない。


特訓してしっかり技量を身に付ければわかる、というようなものは

ご先祖様にはわかる、ということだ。


段々と僕の頭の中で色々な欠片が形を作る。


瞬間、背筋に届くチリチリした何か。


「マリー!」


体をひねり、飛び跳ねるようにして僕はマリーの手を取った。


僕はもう知っているはずだった。


スキルが人間達だけの物ではないことを。


「ウィンドチャージ!」


詠唱を省略し、即座に起動した移動に使える風魔法が2人を包む。


効果時間も考えていない短い発動だったけど、

狙い通りに後方に移動することが出来た。


先ほどまで僕達がいた場所に襲い掛かるいくつもの影。


虚空の地図には光点は映っていなかった。


いつもなら敵対している相手は赤い点で表示されているはずの物が、だ。


でも、それは相手が気配を隠すようなスキルを持っていれば意味がないのも学んでいた。


斥候職を担う冒険者の人達はこの地図になかなか映らないことを

僕は経験しているのだ。


いつ襲われるかわからないのが外の世界。


そんな中で生き、さらい狩りをする獣なら、スキルを持っていても不思議ではないのだ。


「ウルフとは違う……ティガ種?」


「たぶんね」


ウルフ達は怖い相手だ。


仲間も呼ぶし、数も多い。


でも、出会った時の怖さではティガ種のほうが上であろう。


僕がダンたちに聞いた話でも、年に何人も旅人がこいつらにまさに人知れず食われている。


ひどいのになると馬車につながれたまま馬が骨になっていたり、

食べた後の死体をわざわざ荷物のように街道脇に積み上げたり。


まあ、そこまでいくとすぐに退治の依頼が出回るのだけれど。


ただの獣だけではない頭の良さがあるのだ。


今回もわざとゴブリンの死体を半ばで放置し、

ゴブリンの仲間を誘い込む予定だったかもしれない。


僕達が先に来てしまったわけだけどね。


『グルルル……』


よだれか何かをたらしながらこちらを睨む3匹の獣。


見ればそれぞれの足や口元はゴブリンであろう血で汚したままだ。


匂いで気が付かれる可能性を考えれば下策であるから、

僕達は予想外の出会いだったのかもしれない。


フンがあった位置からいって僕達のことを知っているはずなのにこの手際。


慣れているとは言い難い。


つまりは体格からしても若い……ようだ。


この類の獣は生きるほど狡猾になるのだ。


「大丈夫です。いけますから」


「あ、うん……」


いつの間にか強く握っていたらしいマリーの手を放す。


視線はあいつらに向けて牽制したまま。


それでも、きっと顔が赤いのはお互い様だ。


『さて、親はどこだ……』


ご先祖様が呟くように、ここで一番怖いのは親の奇襲だ。


目の前に注意を引き付けておいて、ってね。


でもそうはいかない。


「広がれ、全ての源! マナ・ウォール!」


草を、木々の枝を撫でるように力が広がる。


効果範囲重視、威力はかなり低めでそれを撃つ。


大体周囲200歩ぐらいに一気に広がったはずだ。


(他にはいない……!)


親らしき反応はその範囲の中にはいなかった。


勿論、親がこの魔法を無効化できるような能力であれば

無意味なのだけど、単純であるがゆえにそうそう無力化はできないはずだ。


となると目の前の3匹で全部、ということになる。


既に親が死んでいるのか、3匹だけこちらに来ているのか。


いずれにせよ、ここで何とかしなければ。


「マリー、相手の動きを邪魔する方向でいこう。打ち合わせ通りにね」


「はい。悲しいことに直撃させるのは難しそうです」


嘆くマリーの手には普段使いの安物ではなく、

受け継いだという高い方の杖。


僕も腰から獲物を抜いて手にする。


かなり手になじんできた両手剣。


僕自身の魔法に対する適正を考え、

どれかの属性に偏らずどれも扱えるように調整されている。


クセのない、良い買い物だったと思う。


高かったけど、他にお金を使わずに済んでいるのである意味安い物だ。


今にもこちらに飛びかからんという姿勢で吠えるティガ種。


イノジーと比べこいつらの毛皮はあまり防御には向いていない。


他と比べても非常に厄介なしなやかな動きのためだ。


受け身に回っては不利な状況に追い込まれる可能性がある。


であれば、だ。


「待っている理由も無いからね!」


叫び、僕は突進する。


元はもっと美しかったであろう毛並みも

薄汚れ、土の色があちこちについたままの相手へと

手の中の刃をたたきつけるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ