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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-042「壁1枚向こう側は何がある?-4」

スライム。


冒険者ギルドに登録し、先輩冒険者達に

話を聞いた中にある要注意のモンスターだ。


大きさは膝より低いときから、見上げるほどまでばらばら。


核となる物を中心にしてぶよぶよとした体、

這いずるようにしての移動。


目や口等は無く、接触した物を取り込んでいくやつだ。


倒すこと自体は簡単で、核をどうにかすればいい。


あるいは周辺の体部分を大きく損傷させるか、だ。


切りかかるとすぐに武器が溶ける、

という場合もあればそうでもない相手もいる。


共通しているのは、捕まってしまうと脱出が容易ではないこと、

そして思ったよりしぶといということだ。


「ミルと嬢ちゃんは負傷者の確認! ドゴールとファルクは俺となぎ倒す!

 ファルク、魔法剣は雷にしておけ、はかどるぞ」


ベルフさんが叫び、手にするのは背に背負っていた両手剣というか大剣。


洞窟探索にはやや不向きに思える武器だけど、

彼の構え方からその意図を悟る。


僕達の答えを聞くや否や、ベルフさんは雄叫びと共にスライムに迫り、

まるで平たい槍のように大剣を勢い良く振り抜き、

それは水に飛び込んだ時のような音を立てて沈み込み、見事に核を貫いた。


痙攣するようにスライムが震えたかと思うと、すぐさま溶けるように消えていく。


「やった。あっさり終わっちゃいましたね」


そのあっけなさ具合に、僕は思わずそうつぶやいてしまった。


ベルフさんたちはC評価の冒険者だ。


そんな彼らがわざわざ仕事を割り振ったのに、こんな簡単に終わるわけがない。


そのことに思い至ったのは、すぐ後の事。


『来る!』


ご先祖様の声と共に、強制的に顔が思っていたのとは違う方を向く。


それは川の流れる先。


暗闇の中から気配が生じた。


咄嗟に打ち出した魔法の灯りがその正体を照らす。


狭いとは言い難いがやはり自然の洞窟だと思わせるだけの空間に

川をせき止める勢いでやってくる半透明の塊。


スライムの増援だ。


と、魔法の灯りにスライムが触れたかと思うと、

まだ消えるまで十分あるはずの魔法の光がすぐさま薄く、暗くなっていく。


「魔法を……食べてる?」


「ちっ、学習してやがる。攻撃魔法以外は食われちまう。

 魔法の灯りはこちら側にだしておけ」


ベルフさんの指示に従い、僕は全員がいる天上付近に続けて光を撃ち出す。


(なるほど。倒しても倒してもこう出てくるんじゃ、前にも後ろにも、か。

 怪我もしてるみたいだし……)


川の上流、僕達が来た方からも同じ気配。


そうして僕は彼らがここに結果としてとどまることになった理由の一端を知ることになる。


怪我から冒険者達が復帰し、戦線に戻ってくるまでの時間は

思ったよりも圧迫を感じる物だった。


やはり、相手が見えにくいのもあるけど、

牽制に投げた周囲の石が音を立てて消化されるのを見てしまうと

自分が捕まったら、と考えてしまうのだ。


「ファルクさん、上!」


「! ありがとう!」


後方からのマリーの声。


それに従ってそちらを見れば、

岩の隙間から押し出されるようにして落ちてくる直前のスライム。


意識してはいないだろうけど、既に下にいるスライムの相手をしていると

上に落ちてくるという絶妙な位置だった。


咄嗟に数歩下がり、落ちてきたところで

長剣を魔法剣として切りかかり、そして同時に魔法で後ろを狙う。


使う魔法は雷だ。


雷鳴の拳を後方のスライムに投げつけると、

運良く核付近に当たったのか、崩れ落ちた手前のスライムの向こう側で

伸ばしていた体を防御姿勢として引っ込めていたスライムが見える。


「どっせい!」


そこに丸っこいながらも鍛えられている体を揺らしてドゴールさんが

手斧を構えてつっこんで核を潰す。


後ろではベルフさんが最初と同じように何匹もスライムを貫いていた。


今のところは順調にスライムを押し返している。


スライムは何のためにこちらにやってくるのか。


生き物が狙い、だけであれば洞窟の中に出てきていないという状況に説明がつかない。


そうなると、だ。


「ベルフさん、ファルクさん、治療が終わりました!」


「逃げる分には今すぐでも行けるよ」


マリーとミルさんの声に僕の心に安堵の気持ちと、

冒険者としては油断の気持ちが産まれる。


『そういうことは倒してから考える!』


抜けかけた体の力をご先祖様が強制的に入れ直し、

少し離れた場所にいたスライムへ向けて

腰に下げた投げナイフを魔法剣化して投げつけ、沈黙させる。


確かに、まだここは危険地帯なのだ。


反省しながら少し戦端を下げ、全員が一塊になる。


スライムに取り込まれた際に防具や服はある程度駄目になってしまったようだけど、

大きな怪我は今のところ無いようだった。


「それで、原因はわかったのか」


打ち止めというわけではないだろうけど、当初より沸く速度の遅くなった

スライムを警戒しながら、ベルフさんが問いかける。


「ああ……予想でしかないけども……」


ポーション、そしてヒルオ草の軟膏等で怪我も治った様子の

ヤグーのお父さんから語られた内容はこうだ。


やはり、穴が開いた後に調査はしておこうと乗り込んだ先で突然、

スライムが沸いてきたらしい。


その時には命に別状はなかったが、足をくじいたり

怪我をおってしまうことになる。


何もないならともかく、斜面をスライムと戦いながら

けが人を運ぶのは厳しい。


スライムも無限に沸くわけではない。


経験上、そう知っている彼らは

厳しいながらも戦い続け……今に至る。


ではなぜ、スライムが外にいなくてここにいるのか?


それはこの場所で彼らが掘りあてた物が原因であろうとのこと。


「水の属性石の鉱脈だぁ?」


「ああ。しかも精錬無しでそのまま直に加工できそうなほどのな。

 あっちがそうだ。最初は顔を少し出してるぐらいで、少し掘ってみたら、な」


どこからかスライムがやってきたところからすると、

この川の下流にも同様の場所があり、そこにスライムが集まっていたのだろうということ。


つまり、ここのスライムは属性石の味を覚えてしまったのだ。


スライムにとって水分は死活問題だ。


川や湖はともかく、沼地ですら、数が増えると水分を求めて争ったり、

分化していくことがあるという。


そんな中、地下水があるのはこれのおかげ、などとも言われる

水の属性石はスライムの正に好物と言っていい。


目の前に流れる川そのものも良いけど、

せっかくなら美味しい方に惹かれる、というわけだね。


少しずつ露出していた属性石をかじるために

スライムが集まっていたところに掘られた属性石の鉱脈。


光に虫が集まるようにスライムが続々と、どこからか集まってくるわけだ。


「なるほどな。ということは脱出するのはいいが、もったいない話だな。

 このまま帰れば次来た時は食いつくされてるかもしれん……うーむ」


この救出作戦を事実上、タダで受ける決断をしたベルフさんではあるが、

お金に困っていないという訳ではなく、

本当に今回はたまたま余裕があったから、なのだ。


つまるところ、儲け話は別に嫌いではないということ。


「あっ……」


「どうしたの、マリー」


会話の間もゆっくりとだけどスライムは迫ってくる。


どうやら溜まっていたスライムは倒したのか、

後は自然に沸いてくるのを相手してるだけの状態なので

話す余裕がないわけじゃあない。


「えっとですね。ここ、土系統の魔法でひとまず塞いじゃったらどうでしょう?」


「……場所はわかってる。手勢を集めて掘りに来る分には余裕、か。

 それでいいか?」


ベルフさんの確認に全員が頷き、たまたま僕以外にも土魔法の使える

冒険者と共に柔らかすぎないように土壁というか岩壁をどんどんと作っては敷き詰め、

スライムから属性石を遠ざける。


すると、スライムはまだどこかに残っているであろう

属性石を求めてゆっくりとだけどこちらから離れていった。


「他の場所がどうなっているか気になるところだが、それは今後、だな」


疲れたようなベルフさんのつぶやきは全員の気持ちを代弁しているかのようだった。







「お父さん!」


「おお、ヤグー!」


親子の再会を横に、僕達はギルドへの報告を行っていた。


報酬無しで引き受けていた僕達だけど、

一緒に助けられた形の冒険者達は僕達がタダで引き受けていたことに驚き、

それではいけない、と私財から相場通りの報酬を払うということで決着がついた。


僕自身はどちらでもよかったのだけど、ベルフさんからの

こういう時は受け取っておいた方が次の時に互いに遠慮しないですむ、

といった助言を聞いて受け取ることにした。


そして鉱山の中の新しい採掘場所に関しては

ギルド管理で十分な人数と準備で定期的な採掘とすることになった。


掘ってはその分を埋めて、また別の日に掘って、という形で

スライムの襲撃を抑えるようだ。


奇襲にさえ気を付ければスライムはスライム。


対処自体は可能であるからこそ、だった。


僕とマリーはいい機会ではあるのでベルフさんらに方針というか

今後の相談をしていた。


祝福を多く得、出来れば霊山に登りたいと思っていることもだ。


「手っ取り早いのはこの属性石の採掘に付き合って武具の材料を得ることだが……。

 それだとまた変な奴らに目をつけられるかもしれん。

 やはりしばらくは外の依頼で評価と経験を稼いだらどうだ?」


先輩冒険者からの重みのある助言に従い、

僕とマリーはある意味当初の予定通りに

この街を拠点に力をつける生活に戻るのだった。



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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
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