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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-040「壁1枚向こう側は何がある?-2」

「えーっと、白の3番、その右……だったっけ?」


「そう言ってましたね。こんなに穴があるなんて思っていませんでしたけど……」


既に疲れた僕の声。


答えるマリーもどこか疲れている。


無理もないんじゃないかなと思う。


入り口や所々にある目印代わりの杭以外、

代わり映えしない光景が続いているからだ。


予想よりも静かだけど2人の立てる足音以外は音が無いわけではなく、

時折吹く風の音がどうも落ち着かない。


いや、どうももやもやというか、嫌な気配というか、

何か、そう何かがあるのだ。


かといって怪物に出会う訳でも無く、

原因がはっきりしないので気味が悪い。


『順序だって掘らないと事故の元とはいえ、わかりにくいな』


(うんうん。この地図がなかったらもっと迷ってるよ、たぶん)


ため息交じりに虚空に浮かぶ地図でこれまでの道順と、

ここから先の道を再確認する。


そろそろ目的地のはずだ。


「近いからってあの子が行くって言いださなくてよかったです」


「そうだね。確かに入り口までは近いけど、中がこうじゃねえ」


既にかなりの時間、僕達は鉱山の中を歩いている……と思う。


外と比べてわかりにくいので思ったよりは

時間が経っていないことも十分考えられるのだけれども。


それでも今いる場所は入り口よりだいぶ下のはずだった。


グラディアはここを中心とした鉱山が主要な産業というか、

賑わいの素なのだけど僕はこの街についたときから不思議だった。


遠くに小山のような丘はあるけど、

とても町が出来上がるような鉱山があるようには見えなかったからだ。


その答えは、地下だったのだ。


言われてみれば僕が勝手に鉱山と言えば大きな山を

どんどんと掘り進んでいく、と思っていただけなんだよね。


グラディアの鉱山は、小高い丘から下へ下へと掘る形だったのだ。


それはまるでアリの巣に潜り込んでいくかのようだった。


入り口自体は街から馬に乗ればすぐ、

自力で走ってもいけるぐらいだ。


入り口近くには他の採掘師も持ち帰るためにか

馬車を待機させる場所があり、ホルコーはそこで預かってもらえた。


そして僕達は依頼の相手である父親を捜しに現場に潜っているという訳だ。






「おお、あいつならもう少し奥に掘り進んでるぞ」


僕達が鉱山の奥で出会ったのは同じように掘りに来ていた職人と、

その護衛であろう冒険者の人達だった。


休憩所のように大きく掘られたこの場所には人が良く集まるらしい。


その理由の1つが、水だ。


広間となっている場所の隅に、ぽっかりと空いた穴がある。


その奥には小川程度だけど水が流れている。


地下水という奴だろうか?


非常に冷たく、お腹を壊すような物ではないということで

ここを拠点に周囲に掘りに行く、ということが多いようだった。


情報にお礼を言い、僕達は再び歩き出す。


すぐに聞こえてくる硬い物同士がぶつかる音。


恐らくは掘っているときの音だろうと思う。


曲がり角を曲がると、そこには数名の壁に向かっている人と、

怪物に備えてかこちら側を向いている冒険者数名と出会えた。


「なんだお前たち。護衛相手とはぐれたのか?」


「ヤグーのお父さんを探しに来たんです。お弁当を届けに」


こちらを念のためにか警戒している冒険者に、

僕は武器から手を放しておどけるようにそう答えた。


「ヤグーだって? 俺の息子じゃないか」


と、僕の声が聞こえたのか壁に向かっていた1人が振り向く。


普段から手入れしていないのか、無精ひげと呼ぶにももう辛いほどの

髭があふれた顔。


でもその目はギルドで出会った男の子によく似ていた。


「はい、そうですよ。今日のお弁当はどうしても食べないとだめだよって伝言を預かってます」


僕は後ろ手に、みんなからわからないようにアイテムボックスから

お弁当を取り出し、マリーがそれを受け取って

さも最初から持ってきていました、というふうに掲げて見せる。


「確かに俺の弁当だ。ああ……そうか、そういえば今日はそうだったな。

 みんな、悪いな。先に飯にするわ」


今日が自分の誕生日だということ、だからこそのお弁当だということに気が付いたのか、

ヤグーのお父さんは苦笑いとなり、仲間に声をかける。


「おう。ついでに戻るべ。その方が冒険者も楽だろう、なあ?」


仲間の1人、こちらもすごいひげだ、な太り気味に思える男性も

そういってつるはしを抱え直して掘ったのであろう石の塊たちを

台車に乗せるとこちらに歩き出した。


僕達もそれについていくように一緒に歩いて行く。


「お前たち、ここに来るまでにスライムは見なかったか?」


「いえ、逆に何もいませんでしたよ?」


「ええ、不気味なぐらいですけど」


最後尾で襲撃を警戒しているらしい冒険者の男性の言葉に

僕とマリーが答えると、冒険者は考え込むように黙り込んでしまう。


「おかしいな。他の怪物はともかく、スライムは大体どこからか湧き出て

 掘った時に出た屑石なんかを食べる物なんだが……」


やがて冒険者の口から出てきたのは僕とマリーも思わず周囲を見回してしまうような

不安を感じさせるものだった。






「へー、主にジガン鉱石と鉄ですか」


「うむ。その上、鍛冶に使うにもすぐにインゴットに出来そうなぐらい高純度だ。

 重量の割に他の土地と比べても金になる」


広間に到着し、魔法の灯りで一時的にだけど

明るくなった場所での休憩時間。


僕とマリーは冒険者や採掘師からこの場所の事を聞いていた。


聞いた限りだと、この鉱山はスライムのほか、

どこからかゴブリンが沸くらしい。


ダンジョンなのかな?と思ったけど少し違うそうだ。


「2つ以外にはどんなものが出るんですか?」


「そうだな……魔石に近い派生の属性石がたまに出る。

 掘る時にも光ってるからわかりやすいな」


属性石というのは名前の通り、何かしらの属性、

火や水などの力を帯びた鉱石などの総称だ。


魔石に近く、魔水晶とは全く違うものだ。


ただ、力の強い属性石が魔石であるという説があるらしいけど、

僕にはあまり違いは無いように見える。


ご先祖様の鑑定は元より、僕の目にもそう感じる。


ともあれ、それらはただの鉄やジガン鉱石より割高な相場らしい。


その理由は使い道にある。


「属性剣の材料になるやつですよね。いいなあ……」


僕のそのつぶやきは思わず、という物だった。


文字通り、属性を帯びた武器。


火の属性武器は砂漠などではあまり効力を発揮しない、

といった弱点はあるのだけど例えば剣の切れ味が落ちる、といったことはない。


単純に属性分だけおまけで強い、ってことだね。


良い物だと金貨で何枚もするはずだ。


『心配しないでも強くなればそのうち、な』


含みのあるご先祖様の言葉にわずかに頷く。


その頷きをどうとらえたのか、

僕のつぶやきを聞いていたらしい冒険者達も勝手に頷く。


「だよな。俺もついこないだ1振り手に入れたばかりだ。属性武器はいいぞ」


そんな調子で会話が続き、少し早い昼食の時間が終わって

採掘も再開しようか、となる。


「ヤグーに伝えておいてくれ。夜には帰るってな」


もう少し採掘を続けるという父親に頷き、

僕とマリーは街に戻ることにした。


いつもなら途中で何回かスライムなどと戦うことになる、

と冒険者が言っていた道を僕達は特に何かに出会うことなく進む。


「本当に何もいませんね。冒険者なんかいらないぐらいです」


「確かに……不思議だね」


魔法の灯りを短剣の先に灯し、2人は進む。


出口までちょうど半分ほど来た頃だろうか。


『やっぱり何か気になるな、少し、下を見るぞ』


(う、うん)


僕はマリーにご先祖様が下を探りたいと言っていることを伝え、

休憩がてらに手ごろな石に座る。


僕は食後の休憩をしていますという風に

椅子代わりの石に座り、マリーもそれに気が付いたのか隣に座る。


他から見れば微笑ましい駆け出しの冒険者に見えるかもしれない。


僕はそのままご先祖様が

地下へと虚空の地図を広げるのを見守ることにした。


消耗の少ない範囲から、明らかに魔力が減るのがわかる範囲へと

地図の大きさが変化していく。


僕がその時声を出さずに済んだのは幸運だったといえる。


距離的にはかなり下の方だけど、大きな空間があったのだ。


それは地下の湖とでもいうべき大きさ。


そう、そこには明らかに水があった。


まっすぐ掘り進めば到達にはそれほど困らないであろう距離にだ。


今のところ、鉱山としては横に進むことが多いようなので

実際に到達する可能性はかなり低いに違いない。


問題はそこにいるナニカ、なのだ。


細長く見えるけど、大きさを考えるとそれはすごく……大きい。


『こいつは……そうか、泥蛇の住処か』


「泥蛇?」


僕は動揺も手伝ってそう口にしてしまう。


実際にはマリーしかいないのだから

僕がご先祖様と話していて口に出た、ということはわかってくれると思うけどね。


「大地を揺らすとか、世の中の川の流れを全て作り出したとか

 そういう伝説のあるのが確か泥蛇という竜……だったと思いますけど」


マリーが覚えている話によると、泥蛇は手足のほとんどない竜種だという。


水中や泥の中を泳ぐように動き、

時に山や大地を削りその後を雨がたどり、川となったという。


山などを通る時に大地が揺れるという話もあるそうだ。


そんな泥蛇が、下にいる?


『恐らく地下とどこかの川や湖がつながってるんだろうな』


ご先祖様の言うように、どこかとつながっていなければ

泥蛇はずっとこの山の下にいることになる。


それは確かに考えにくかった。


この距離、地図越しの反応ですら感じるこの圧迫というか

生き物としての強さ。


僕がこの鉱山に入ってからどことなく感じていた違和感の正体はこれだったのだ。


『だが泥蛇はおとなしいからな。これが何かしてくるってことはたぶん無い』


大きい動物に意味も無くびっくりするようなものかな?


ちょっと安心してマリーにも伝え、再び歩き出す。




そして、翌日僕達は知ることになる。


ヤグーの父親たちが戻ってこないということを。



海では船底の板一枚下は……とか言いますけど、

採掘もすぐ向こうに何があるかって考えるとちょっと怖いですよね。

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