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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-038「自覚と書いて……何と読む?」


エルフの里での事件を終え、

請われるままに滞在して三日目の朝。


僕とマリーは旅支度を整えていた。


といっても汚れた衣服を洗濯して

アイテムボックスに入れたりホルコーの背中にくくったり、

と言ったぐらいなのだけども。


里での経験、というにも濃い経験はきっと掛け替えのない物になる予感がする。


一番の収穫は、僕とご先祖様の関係や自分自身の力への自覚が出来たことだろうか?


『昨日も言ったが、今の俺は道具だ。遠慮なく、使うといいさ』


どこからか漂う朝靄と、鳥の声を背景に

響くご先祖様の声に頷く。


僕はこれまで、ご先祖様の力を使ってはいたけれど、

どこかで遠慮していた自分に気が付いたのだ。


それは僕の一人の人間としての意地と呼べるような物だったのかもしれない。


でも、ユグドラシルとの出会いやエメーナさんとの語らいで思い直したのだ。


──人より師匠に恵まれて強くなった人はずるだろうか?


──あるいは偶然でも町一番の鍛冶師から武具を得られた冒険者は卑怯だろうか?


と。


どれもこれも、その人を構成する要素の1つでしかないのだ。


だから僕はせっかくの力を存分に振るおうと思う。


そのためにはユグドラシルでの声のように、体も鍛えないといけないんだけどね。


「あ、ファルクさん。エメーナさんですよ」


「え?」


振り返れば、里の奥からいつもの2人と、サフィリアさんを連れたエメーナさん。


その手には何かを持っている。


「よかった。間に合いましたね。出発に間に合うか微妙なところでしたので

 昨日は特に言いませんでしたが、こちらを」


エメーナさんが手にしていた手触りのよさそうな布を開くと、

そこには緑の中にやや茶色がかった半透明の塊が2つ。


それを見たエルフの2人が目を見開いた気がするし、

サフィリアさんも表情を変える。


「ユグドラシルの樹液が固まった物を土台に処理を施した物です。

 これを飲み同化することはエルフのそれに連なるのと同じ意味を持ちます」


差し出されるままにそれをつまもうとした僕とマリーの手が止まる。


そんなすごいことを今言われても、ね。


「ふふ……。人間をやめてエルフになれ、ということではないですよ。

 人間にもたまにいるでしょう? 何々の化身の様だ、のような方が。

 これはちょっとその手助けをするものです。どこまで効力を発揮するかは

 貴方方の今後次第。森では木々や花々に少しだけ優しくしてあげてくださいね」


そういうエメーナさんの顔は言うなればいたずらの成功した子供のそれ。


皺の深い顔ながら、こうやって笑っているときは少女の様だ。


「先ほど、飲むと言われましたけどかみ砕いてはいけないんですよね?」


マリーはそういうけど、結構な大きさだ。


エメーナさんは頷いてしまったので、僕も覚悟を決めて

それを口元に運ぶ。


引っかかるなり、苦労するかと思ったのだけど

予想外にするんとその塊は僕の喉を滑る。


味はほのかに甘かった気がした。


ごくりと飲み、何かが僕のお腹に落ちていくのを感じる。


「あっ……すごいっ」


体を抱きしめるようにして甲高い声を漏らすマリー。


僕もまた、いつかのような高揚感を感じながら体を震わせる。


『指の先から頭のてっぺんまでそれを行きわたらせろ。

 体の隅々までな』


「体の隅々までこれを馴染ませる……マリー、頑張れ」


時間にすると瞬きを何回かするほどだったと思うのだけど、

妙に長く感じる時間だった。


それが終わった時、僕が見るマリーも以前の彼女とはどこかが違った気がした。


「無事に馴染んだようですね。具体的に言えば、エルフのように

 緑に関する魔法が使えるようになるでしょう。木々の声を聞いたり、

 花と歌うこともそのうち出来るかもしれませんね」


丁寧に説明をしてくれるエメーナさんに頭を下げ、

傍らにいるサフィリアさんに顔を向ける。


「サフィリアさんもありがとうございました。これで、僕の目的にも近づけそうです」


「はは、私はほとんど何もしてないさ。君が考え、君が判断し、君が手に入れた物だ。

 自分も付いて行ってもいいのだけど、ここは2人だけにしておいた方が

 次に会った時に面白そうだと私の何かがいうからね。旅先で出会ったらよろしく」


差し出される手と固く握手。


ほんの少しの出会いと時間だったけど、すごくいい時間だったと僕は思う。


「じゃ、いつまでもいたくなっちゃうので行きます」


「みなさん、お世話になりました」


ホルコーの上にマリーと一緒に飛び乗り、

見送りに来てくれたエルフの人達にもお礼を言う。


見れば一塊になってこちらに手を振るエルフの子供達。


あの子たちが悲しい目に会うようなことが少しでも無くなるといいのだけど……。


「ファルクさん。貴方は世界を変えられるかもしれないし、変えられないかもしれません。

 大事なのは、出来ることをやることです。それが日々の糧を得るための狩かもしれません。

 あるいは魔の王のような相手との死闘かもしれません。

 悔いのない人生を。幸いにも、おせっかいな同行者が常に腕にいるようですしね」


「そうですね。まったくです」


『さてさて、誰の事なんだか』


そのまま笑顔で僕達はエルフの里を後にする。


出るのは意外と簡単、転送中に魔力を込めるだけで出ていけるのだった。









「なんというか、私、驚きっぱなしでしたよ」


「僕もさ。まさか、ってとこだね」


雲1つない、というわけではないけれど良く晴れた空。


冬が少しずつ近づいてきているような少し冷たい風。


2人の乗ったホルコーはどこかのんびりとした足取りで

シルファンから西、オブリーンの版図へと少しずつ近づく。


シルファンの街で仕入れた情報によると、

ジガン鉱石とその亜種のような魔石が稀に出る鉱山があるのだとか。


魔物が沸くらしく、常に採掘者の護衛の需要があるらしい。


「潜ってもいいし、逆に周囲で薬草の二つ名を再び、でもいいかな」


「うんうん。私、ファルクさんとならどこでもいいですよ」


不意打ち気味にマリーの声と僕のお腹にかかるその軽い体重。


僕は下を見ない。


「うん。ありがとう」


そうつぶやく声も小さめ。


きっと見たら見上げているマリーの目と合ってしまうから。


声も上ずっているのがわかってしまうかもしれない。


でも、高鳴ってしまった僕の鼓動は丸わかりだろうな、と思う。


もっと、もっと強くならないと。


僕は言葉を口にするためには、まだまだ冒険者としての実力は足りなかった。








「私の元実家はもっと北の方なんですよね。だから大丈夫かな?

 あ、そうだ。ファルクさんって海って知ってますか?」


彼女は僕の気持ちをもしかしたらもう知っているのかもしれないなと思う。


唐突な話題の切り替えに僕は戸惑いながら、

言われた内容を考える。


(海……? 聞いたことはあるけど)


「見たことは無いかな。そのうち行ってみようか」


「といっても私もすごく小さい頃に1度だけなんですけどね。

 すごいですよー。約束ですからね!」


はしゃぐマリーに、自分も自分も、と言いたいのか

ホルコーがぶるぶるといななく。


「もちろんホルコー、君も一緒さ」


「そうそう、駄目ですよ。ホルコーちゃんって呼ばないと」


……え?


あれ、そういえばしっかり確かめたことは無かったっけ。


ホルコー、女の子だったんだ?


でもだとしたら……気を利かせすぎじゃないのかな?


僕はこれまでのホルコーによる明らかにこっちのことを

わかっていそうな言動を思い出す。


え、馬にも女の子のカンみたいなのがあるんだろうか?


「そ、そっか。でもホルコーって名前だけで呼ぶことにするよ」


僕はホルコーの見えない視線を感じた気がする中、

そう口にして前を向いた。


そうだ、街についたら手紙をださないとね……。


ネトゲーで妙なレアを拾ってしまった時。

思わぬ収入で装備が整ってしまった時。


徐々にグレードアップする楽しみがなくなってしまったと

感じること、ありませんか?

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