表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/257

MD2-034「グリーングリーン-4」

僕にとって、お祭りや宴という物は

年に一回の収穫祭ぐらいなものだった。


厳しい冬を迎えるにあたって、元気よく行こうという感じの物だ。


僕ぐらいの歳になれば、軽い物ならお酒も飲めたし、

数口ずつではあったけど家畜を潰したお肉が振舞われた。


そんな思い出と比べると、この騒ぎはすごく豪華で、

それでいて村のソレとどこか似た空気を感じた。


順番に注がれる果実酒のような飲み物を

互いに器を打ち鳴らしながら飲みあう。


なんでも最近の流行りだとか。


エルフにも流行ってあるんだなどといった事を考えながら、

僕はすぐそばで女性のエルフたちに囲まれて

あれやこれやと楽しそうに話しているマリーを見る。


語りある彼女たちを見る限り、そこに種族の差は感じない。


なぜ人の中にはこんな彼らをさげすみ、力を利用しようとする人がいるのか、

ひどく暗い気持ちが少しだけ産まれるような光景だった。


その他にも、エルフも同じ言葉をしゃべるんだ、とか

サフィリアさんでわかっていたことを改めて実感したり、

思ったより子供のエルフがいっぱいいるんだな、と

なんでもないことを片隅で思いながら、

宴を楽しく過ごしていく。


そんな時だ。


視界に光。


それはふわりと空を舞う何かだった。


思わず視線を向けると、

そこには半透明のエルフの子供。


いや、これは……。


(もしかして、精霊?)


僕の考えがわかったわけでもないだろうけど、

目が合ったその相手はにこやかに笑みを浮かべ、僕のそばに降り立った。


『久しぶりに見たな。話しかけてみるといい』


ご先祖様に言われるでもなく、僕もこの相手に興味津々だった。


赤ら顔で話しかけてくるエルフの1人に断りを入れて

体の向きをその相手に直す。


背丈は3歳ぐらいの小さな相手。


緑の長い髪がほぼ足元まで伸び、ぎりぎり届くか届かないかといったぐらいだ。


顔立ちはエルフのそれによく似ており、

服装は周囲のエルフと比べて妙に時代を感じる。


一番の特徴はその目、そして纏う気配だった。


この場の誰よりも年下にも見え、誰よりも年上に見えた。


理屈ではなく感覚で、僕は思うままに膝をつき、頭を下げていた。


「こんばんは。お邪魔しています」


何というべきか、すごく悩んだけど結局は

こんな無難な言葉しか出なかった僕だったけど、

どうやら相手の思っていたものとは違ったようだ。


怒ったような、どちらかというといたずらを駄目にされた

村の子供達のような微妙な顔と言えばいいだろうか?


そんな顔をして僕と自分とを指さし、にこっと笑いながら手を差し出した。


(ああ……なるほど)


僕もさすがにその姿を見てピンときた。


確かに間違えていたようだ。


「よろしくお願いします」


そっと、小さな相手に手を差し出す。


そう、敬うのではなく親愛を。


半透明の相手、恐らくは精霊なんだろうなという子は

笑顔で僕の手を握るようにし、笑顔であることは同じなのに

ころころとその受ける印象を変えた。


接している場所からは何か不思議な、暖かい気配が感じられた。


瞬間、僕の体に緑の光、としか言えない物が入ってくる。


それは草原を走る風のようにさわやかで、

最終的に僕の口からは感嘆ともため息ともいえない吐息だけが漏れた。


僕は直感する。


今、森の祝福を得られたのだと。


「ありがとう。大事にします」


僕がそういうと、相手から意識のような物を感じた。


言葉に敢えてするなら、間違ってるかもしれないけどこうだった。


──まだ硬いなあ、でもいいよ、と


気が付けば宴の騒ぎは静まり、周囲の視線が僕に集まっていた。


「おお……今のは」


「間違いない。古の意志様じゃ」


ささやきはざわめきとなり、若干居心地は悪いけど

非難の視線といったものではない視線にむずむずするにとどまった。


「あの、サフィリアさん?」


「おめでとう。まあ、君なら遅かれ早かれ祝福は得られると思ったけど、早かったね」


サフィリアさんは僕の疑問に正確には答えず、

何かに納得したように頷くだけだった。


それまで離れていたホルコーが僕のほっぺたを

ぺろぺろと舐め始めてようやく周囲の騒ぎもそれを肴にといった様子で再開となる。


こちらを手招きするマリーの元へといくと、彼女は慌てた様子で僕の手を取った。


「すごいじゃないですか! 私、良く見えませんでしたけど何か、来てましたよね。

 あれが森の守り人、古の意志が1つ。火山とか住むには厳しい場所にたまに出てくるらしいですけど、

 森の場合にはよほど深い森じゃないと感じることすら叶わないって言われてます」


興奮した様子でマリーは僕の手を取りながら次々にまくし立てた。


僕はと言えば、自分1人だけ祝福を得たことを少し気にしていたのだけど、

彼女は首を横に振る。


「いえいえ。あれはきっとファルクさんが気に入られたからですよ。

 私は私で、祝福を目指します。この森には実際にいることがわかったんですから

 それで十分価値のある情報です」


そういってマリーは左右のおさげを揺らしながら笑う。


さすがに1人旅を決意して実践していたあたり、

めげない精神も持ち合わせているようだ。


僕はと言えば宴のほうに視線を戻し、

その広間の向こう側から数人が新たに歩いてくるのを見、

そこから視線を外せなくなっていた。


『ほう……まだ生きていたか』


ご先祖様、ファクトじいちゃんのつぶやきは

馴れ馴れしくもあり、久方ぶりの出会いへの喜びのようでもあった。


僕の視線の先で、静かに歩いてくる人、それはやはりエルフ。


サフィリアさんや他のエルフの人達も

歳がわかりにくいと言えばわかりにくいけど、

視線の先のエルフは間違いなく、上から数えたほうが速いだろう。


僕は言葉なくそちらへと歩いて行く。


途中でサフィリアさんが僕に、そして視線の先のエルフに気が付き、駆け寄ってきた。


マリーもまた、会話の輪の中から僕のそばへと走り寄る。


「お婆様! いえ、長。ご無沙汰しておりました」


「いいのですよ、サフィリア。友との語らいはどんな宝物よりも尊き物。

 それよりも、新しい友を紹介してちょうだいな」


長と呼ばれた女性エルフの護衛なのだろうか?


彼女の後ろには男女1人ずつの若いエルフが立っている。


見た目はどちらもかっこいいな、という印象が先に立ち、

感じる魔力は強い物だった。


「はい、エメーナ様。外の、人の街で出会ったファルク、そしてあちらがマリー。

 ファルクを一目見て感じました。彼は我が友となる、と。

 マリーからも今もこうしてそばにいるだけで感じます。

 彼らの中、魂から合図さえあればいつでも飛び出しそうな精霊の力を。

 濁流、導きて清流とならん。そう、感じました」


どちらかといえば砕けた様子で話してくれていた

サフィリアさんはひどくかしこまった口調でエメーナさんに

僕とマリーの事を伝えていた。


恐らく褒められているんだと思うのだけど、

そんなに言われるほど僕達は強いわけじゃないなあ、と

くすぐったさすら感じるのだった。


マリーも同じようで、どこか困ったような表情をしている。


「ふふ……サフィリア。外に出てだいぶ柔らかくなったと思っていたけど、

 やはり血は争えないのかしらね。ほら、彼らが困ってしまっているわ。

 せっかくのお友達なのにそんなに硬くてはいけないわ?」


長、エメーナさんは立場の割におちゃめな人なのか、

そう笑いながらサフィリアさんに小言のように話しかけ、

僕達に向き直った。


「ようこそ、人の子よ。ひどく懐かしい気配と精霊を感じたと思ったのだけど、

 さすがに貴方達が見た目と違う歳ということはないでしょうし……」


鈴の音を立てるような声が耳に届いたかと思うと、

言葉は途切れ視線が僕の方を向く。


いや、これは……。


「人の子、ファルク。ぶしつけですけど、その腕輪はどこで?」


「自分の故郷で手にしました。すごく、そう……すごく大事な物です」


エメーナさんは僕の言葉に目を閉じ、何度もうなずいている。


先ほどのご先祖様の言葉と言い、面識があるのだろうか?


もっとも、腕輪の中のご先祖様は本物ではないと

常々本人が言っているので知っているだけ、ということかな。


「そうですか……なるほど。人の子、マリアベル。貴女の杖は?」


「私も、大事な物です。師より譲り受けた物ですが、

 口伝によれば精霊戦争の折より在る物、とだけ」


マリーが手にしていた杖、魔法をためて置けるそれもどうやら

僕が思ってる以上の業物だったようで驚きの背景が飛び出してきた。


「素晴らしい事です。サフィリア、良い出会いを得ましたね。

 古き精霊と新しき精霊が共に舞う時、新たな恵みが産まれるとも言います。

 今日はその良き日となるでしょう」


エメーナさんが何かを呟く。


それは僕の聞いたことの無い詠唱だったけど、明らかに魔法だった。


『見逃すなよ。エルフの秘伝が1つ、森の目覚めだ』


ご先祖様の言葉を理解するより早く、エメーナさんから

膨大な量の魔力が吹き出し、地面にいつの間にか描かれた

光る魔法陣にそれが吸い込まれていく。


炎が産まれるでも、風が吹き荒れるでもなく、

僕は力を感じた。


最初は些細な物だった。


視界に、一輪の雑草の花が咲いた。


「ん?」


感じる魔力に驚いていた僕は思わず間抜けな声を漏らしてしまう。


普通、花と言えばゆっくりと咲くものだ。


ところが、だ。


「うわぁ! すごい!」


「おお……久しぶりに見るお婆様の魔法だ」


マリーやサフィリアさんの驚きの声。


それは周囲の花々、そして木々ですら

まるでいっぺんに花咲く季節が来たように

次々と花を咲かせ始めたからだった。


「魔法とは何か? 争いのため、力のためではなく、

 明日を誰かと共に歩むための物だと私は思います。

 人の子よ、森がそれを教えてくれるでしょう。

 明日にでも向かいなさい。世界樹、ユグドラシルが1柱の元へ」


何所から取り出したのか、1本の小枝をエメーナさんは

僕に手渡した。


ただの小枝に見えたそれはとんでもない力を感じる物だった。


エメーナさんの言葉通りならこれは……。


僕とマリーの視線の向こう。


大木ばかりのエルフの里であってすら、

これと比べたら、と思わず思うほどの巨大な木。


それはエルフの集落の奥に見えた。


いくつかあるというエルフの里をそれぞれ支えているというユグドラシル。


世界樹とも聖樹とも呼ばれる伝説の木。


(そこに僕達が行ける?)


僕の胸はその驚愕の出会いに今から高鳴ってばかりであった。









まだ一章なのにユグドラとか話が速い?

いえいえ、この作品だとユグドラシルさんは二桁以上あります。

里ごとの管理者みたいな感じで存在しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://book1.adouzi.eu.org/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ