MD2-250「白亜の願い-3」
「サークル……カッター!!」
「お見事! 腕をあげたようだの!」
再会は騒動の最中に行われた。いつだったかシーちゃんと共にやってきた竜の眠る場所で国を守る骨の兵士達は奮闘している。相手は空を飛ぶことも出来る天使人形だった。そんな相手を前に、スケルトンたちは1歩も引かずに戦っている。
上空からそれを見つけた僕たちは何度もそうしてきたように、空から奇襲となったのだ。
「今のうちに回収を!」
「任された! いくぞい、コルタ!」
骨が砕かれてもどこかに魂と言える核があるのか、そのうち蘇ってくるオブリーンの兵士達。国の危機に立ち上がるべく、その体と魂を国に捧げた勇者たちだ。今もなお、その力は健在である。唯一の弱点と言えば、専用の魔法やスキルの他、体があまりバラバラになって離れると復活に時間がかかるというところだろうか?
「水弾、行きます!」
逃げ出すように動くスケルトンを追い、天使人形達が向きを変え……その時を待っていたマリーと、この砦にいた生身の兵士達からの魔法が放たれる。炎だとスケルトンにも効いてしまうということで水を中心とした魔法だ。
竜の墓場を守る兵士達もそう多くはないが天使人形が無視できるほどでもない。それでもスケルトンに向かっていくということはそれだけ彼らが強く、厄介だと天使人形もわかっているということだ。だからこそ、僕もそこにつっこむ。
「数があんまり減ってない……どこかに増援が……」
『北だ! 何かあるぞ!』
戦場への乱入からしばらく時間はたったのだけど、あまり天使人形が減った気がしない。既に何十も倒して瓦礫と変わるのを見届けているのだけど、まだ視界には動く天使人形があるぐらいだ。元々が白いから、スケルトンと混ざるとどっちが多いんだかわからないぐらいである。
僕のすぐ後ろではシーちゃんが飛竜に跨ったまま、その強そうな爪や尻尾で天使人形をなぎ倒している。口元には炎が噴き出しており、合図があればいつでも炎が地面を舐めることだろう。
「よし、ホルコー!」
こちらも思うままに戦場を駆け抜け、天使人形を蹴り飛ばしていたホルコーを呼び、白い同士が戦っている場所を一息に飛び越え、向かう先は竜の墓場のすぐ隣。丘のようになっている高台に隠れた場所に、力を感じた。
高さは僕よりも少し高い位置に伸びている太い2本の柱……その間が魔力の輝く壁となっている。そしてそこから……天使人形が出て来た。王子ったら……何が兵士達が知っている、だ。知ってるも何もこんな場所にあるのか。
『転送門から!? この場所……あの都は占領されているのか……』
「よくわかんないけど、しばらくは倒した方がいいんだね?」
たぶん、この転送門の向こうが今回僕達が目指す白亜の都なんだろう。となるとこのまま突撃しても向こう側は敵だらけ。出来るのなら少しでもこちら側で数を減らしたいところだ。あくまで、有限であれば……だけど。
出てくる数に対してこの場にいるのは僕とホルコーだけとなるとさすがに分が悪い。一度後退し、スケルトンなアランさんらと合流する必要があった。手早く後退した後、事情を説明するとすぐにスケルトンの動きが変わる。
「構えい! 目標はこの先の転送門! 奴らをそこに押し込むぞ!」
「「はっ!!」」
綺麗に構えを戻し、声をどこからか出すスケルトンたちは立派な兵士なんだと思う。兜とか鎧は新しくしたみたいだけど、やっぱり見た目が骨だからなかなか区別がつかないのだけが残念だった。骨と、普通の兵士と、僕たちのような子供と、シーちゃんなんて王族と、よく考えると謎の深まる組み合わせで戦いは続いた。
地面のあちこちに天使人形の残骸らしきものが目立つようになったころ、ようやく転送門から出てくる天使人形の数が減ってきた。強さもまばらで、単純に追いついていないように感じたのだった。
「ファルクさん、さっきの片腕が無かったですよ」
「こっちの増援は終わりなのかな?」
『くぐってみればわかるが……少し怖いところだな』
ご先祖様が心配するように、天使人形とその後ろにいる存在がこちらの状況を察し、罠にはめようとしてるという可能性だってある。不用意に転送門につっこむのもどうかというところだった。
(誰かが様子を見ないと……ここは用事がある僕のほうがいいかな?)
「って、アランさん!?」
「我らには生身ではできないことができるからのう」
僕がそんな決断をしようとした時、一足早くアランさんがその手に抱えたどくろ、つまりは同僚であるコルタさんの頭部分を無造作に転送門につっこんだのだ。慌てる僕たちを尻目に、残されたコルタさんの首から下は元気に動き、よくわからない踊りを踊っている。
「大丈夫ということなのだろうか?」
「た、たぶん?」
「あはは、おもしろーい!」
誰もが見守る中、踊っていたコルタさんの体部分が動きを止め、そのまま転送門へと近づき……これまた無造作に両腕を門に突っ込んだと思うと戻してきた。その手の中には、どくろ。見分けがつかないけどたぶんコルタさんだ。
「うぷっ、久しぶりなので転送酔いが……ほとんど奴らはいませんでしたよ」
「そうかそうか! 少年よ、後はそちらの役目だな?」
「……はい!」
戦力として考えるならアランさんたちにも来てもらいたいところだ。けれど、彼らには彼らの役目がある。他の場所から天使人形が来ないとも限らないしね。生身の兵士たちも同様だ。ここから先は……。
「僕とマリー、ホルコーの役目です」
「ええ、行きましょう。あ……シーちゃんは危ないです……よ?」
何かあってもいけないと思っての発言だったのだけど、やはりというべきか振り返ったところでシーちゃんの涙目の顔が僕たちを直撃する。ここは耐えるべきだ、そうわかっていてもなかなか抵抗しにくい。王家にだけ伝わる不思議なスキルでもあるんじゃないだろうかという気分だった。
『あの飛竜がくぐれるならよっぽど大丈夫だと思うが……大きさがなあ』
そんなつぶやきをそのまま伝え、シーちゃんから飛竜へと伝わり……見上げるほどの大きさの飛竜は恐る恐るという様子で転送門に爪先をつっこみ……瞬きの間にいきなり向こう側に消えた。
突然のことに、さすがにご先祖様もツッコミが追いつかない。僕もまた、起きたことが信じられなくて少し呆けてしまう。しばらくしてようやく現実に思考が追いついてきた。慌てて僕も転送門をくぐり……独特の浮遊感に身を任せる。
足元の感触が戻り、視界を太陽の光が染める。少し、ひんやりとした空気を感じた。これは涼しいというよりも、生き物のいる気配がまったくしないことへの冷たさだろうか?
『懐かしいな。こっちだ』
無事に続いて転送して来たマリー、ホルコーと一緒にシーちゃんと飛竜とも合流し、僕たちは白亜の都にたどり着いた。そこはあちこち壊れてきてはいるけれど、人が住んでいたことを感じさせる建物が立ち並ぶ、かつての都だった。




