MD2-025「よぎる不安-2」
体調不良が続いてるのでちょっと文章へたってるかもです。
誤字等あったらご指摘ください。
「二人はオークを討伐したことは無いんだったな」
「どんな相手かって聞いたことはあるんですけどね」
作戦実行の時間まで、僕達は少し離れた場所で
警戒を続けながらも時間を過ごしていた。
そんな中の事前の会議というか、意識のすり合わせといったところだろうか。
オークは見た通りの、巨体を持つモンスターだ。
全体的に太っており、ぶよぶよとした印象を受ける。
けどその体からわかるように力は強く、
こん棒程度の適当な武器でも十分破壊力を持つ。
まともに受け止めない、のが鉄則らしい。
火山や雪山を除き、あちこちに生息しているが
その分、人間やそのほかのモンスターの生息域とぶつかることも多いので
モンスター同士でぶつかり合ったりすることで
増えたり減ったりしているらしい。
頭がすごい悪いわけではないけど、まともに言葉をしゃべらないので
見た通り、猪人間だとか呼ぶ人もいるそうだ。
自分より弱い相手を支配下にして集団をつくることもあれば、
逆に強い相手に従い、良い用に使われることもあるという。
「なんだかそう聞くとかわいそうな立場のモンスターですね」
微妙な顔をしたマリーの感想が全てであった。
とはいえ、脅威には変わりなく、討伐をしなくてはならない。
ゴブリン程度なら村の力自慢でもなんとかできるとしても
オークはそうもいかない。
少なくとも、そうするつもりの冒険者でなければどうにもならない程度には強いのだ。
後続の冒険者達も配置につき、夜が明けようかという空がうっすらと白む頃、僕達は動き出した。
「ピッ!」
本当はピグウなどと叫びたかったのだろう。
哀れな犠牲者のオークはその喉元に2本の矢を受け、一気に命を刈り取られる。
その隣の見張りだったオークも顔を氷の魔法を受けることで封じられ、
続けての矢に命を散らす。
「よし、各自突入。狩りつくすぞ」
ルクルスさんの宣言に、冒険者達は各々、オークの住みついているらしい
森の奥の砦跡を目指して飛び出していく。
僕とマリーも緊張にやや浮つきながらもルクルスさんたちの背中を追いかけていく。
森に入り、獣道よりはオークの体格の都合か広い道を進む。
「もう一度確認よ。坊ちゃんとお嬢ちゃんはホリィと一緒に
出てきた相手に自由に矢を放ちなさい。ワタシは追加の相手に打ち込むから」
魔法使い然とした服装の割に軽快に歩くランダさんはそういって
自身の杖の先端にある魔石を光らせる。
「森は燃やすにもなぎ倒すにも厄介なのよね。
だから、大きく打ち込むのは砦に行ってからってことよ」
「「はい!」」
確かに狭いわけではないけども、魔法の影響がすぐ近くに来そうなこの場所では
下手な魔法は使えない。
と、視界に入る外周で見たばかりの巨体。
マリーが急いで矢を放つのを見ながら、僕も続くように構える。
そっとご先祖様の補助を受けて少し多めに引かれた状態で手を放すと
思ったよりも鋭い音を立て、矢が飛んでいく。
それはオークの胸の付近に当たり、
突き刺さったかと思うとそのオークはわずかに震え、動きを止める。
「おおっと、俺の出番がねえな。おいボウズ、今のは魔法を乗せたな?」
「あ、そうです。まともな魔法になる前の雷の力を先っちょに乗せて撃ってみました。
動きを止めるならこのぐらいでも大丈夫かなって」
ホリィさんがおどけたように言いながらも別のオークを見事に射抜いていた。
僕は2人の矢でほぼ無力化されたオークがとどめを刺されるのを見ながら
自分のしたことを口にした。
ただ撃っただけでは大した威力にはならないと思った僕は
ご先祖様に力を借りてちょっと試してみたのだ。
ちょっとした魔力の消費で当たれば行動不能。
大成功と言っていいと思う。
「誤射だけはしないようにね。よし、次だ」
穂先についたオークの血を振るって飛ばしたサフィリアさんが
鋭い視線で森の奥を睨む。
「思ったよりもいやがるな。ギルドの奴め、100どころじゃねえぞ」
森の奥に、いくつもの巨体が見え隠れする。
奇襲自体は成功しているようだけど、実際にはあまり意味がなかった。
というのも、予定よりオークの数が多かったのだ。
この森は既にオークの領域と化していた。
溢れている、とはほど遠いぐらいだけど、
このまま見つからずに進むのは難しそうだった。
「真昼間よりマシだな。あいつら、やっぱりどこか寝ぼけてやがる」
「……今のうちに戦いやすい場所まで突っ切る」
全員で気配を探りながら、順繰りにオークを仕留めていくことになった。
ルクルスさんたちは伊達にC評価ではなかった。
一撃一撃は鋭く、確実にオークを倒していく。
僕とマリーはその合間合間を何とかついていくだけで精一杯だった。
ルクルスさんたちは、実戦でこれだけついてこれれば十分だと言ってくれたけど、
砦跡が見えてきた時の小休止で息が荒くなっていた僕とマリーにとっては
その時は一言お礼を言うのが限界だった。
「どうやら、俺達が一番乗りらしいな」
「そうねえ……他の連中は足止めというか、苦戦してるのかしら」
ランダさんの独自魔法である特殊な結界の中で僕達は小休止を取っていた。
一日2回ぐらいしか使えない取っておきよ、だそうだ。
なんでも匂いや音が漏れない、隠れてさえいればよっぽど見つからないという物らしい。
『どうもおかしいな』
ぽそっと、ご先祖様が呟くと
僕も見ている虚空の地図が目まぐるしく変わっていく。
正面の砦跡にあった赤い点が小さくなり、
恐らくは範囲を広げているであろうことがわかる。
赤い点がいくつもまとまっている部分が他の冒険者が
戦っている場所ということになるのだろうか。
(あれ……減ったり増えたり、おかしくない?)
『ああ。この感じ……まずいな。このあたり一帯がダンジョン化しているんじゃないか?』
(ダンジョン化? ということは……)
僕の多くない知識でわかることとしたら、ダンジョンからはモンスターは
基本的に出てこない、そしてダンジョンのモンスターは倒しても倒しても復活する。
そして、倒してもモンスターは溶けて消えていく。
「ファルクさん、どうしました?」
「え? ああ……なんていうか、思ったよりオークって臭くないんだね」
心配そうなマリーの声に、僕はごまかすように咄嗟にだけど
思ったことを口にしてみた。
(……あれ?)
そうして口にしてみて、僕はその違和感が何なのか気が付いた。
それこそ、ルクルスさんたち熟練の冒険者は僕以上にだ。
「こいつは厄介だな。このままだと俺達だけで突っ切ることになるか」
「ちょっと誰よね。オーク程度だったら片手で消し炭なんていったのは」
「私の記憶が確かなら、ランダだと思うんだけどね」
突然武器の確認を始めるルクルスさんに、憮然とした様子でつぶやくランダさん。
サフィリアさんもランダさんに軽口を言いながらも
ホリィさんと同様に予備武器としての弓の確認をしている。
寡黙なハヤテさんは無言で投げナイフを腰に余分にぶら下げ始めた。
「え?」
「ちょっと頑張らなきゃいけないみたいだよ、マリー」
周囲の様子に慌てるマリーの手を握り、
僕は彼女に言う。
この一帯、砦跡と周囲の森がダンジョンと化していること、
その証拠として少し前に倒したオークが
地面に沈み込んでいることを。
オークの右腕だったであろう場所の形をした透明な石、
オークの魔水晶が何よりも雄弁に状況を語っていた。
「こうなってくると広い場所は不利だ。通路なんかを壁にしながら核を目指すぞ!」
「「「了解!」」」
ルクルスさんの叫びに、寡黙なハヤテさんを除いた3人が答え、
僕もマリーと一緒に駆け出す彼らについていく。
後になって思えば、この時の戦いは既に影響を受けていたのだと思う。
動乱の世界、その前兆として……。
砦跡までの道は思ったよりも順調だった。
オーク達は目立って暴れている他の冒険者たちに向かっていっているのか、
僕達の前にはあまりいない。
何匹かのオークを倒した後、僕達は砦のあったころの入り口の1つにたどり着いていた。
大人が3人ほど手を広げたら限界になりそうな幅だ。
あちこちが崩れ、どこかに通じるように穴を開けている。
「いいか、ダンジョン化には何かしらの核がいるってのが定説だ。
強力なボス、あるいは呪いのかかった武具、他には曰くつきの場所だった、なんかだな」
「ボスや武具であればそれを除けばダンジョンはおとなしくなりますが、
核が場所であった場合には非常に厄介です。
なにせ、魔法なんかで吹き飛ばせば解決、ではないですからね。
スピリットを天に昇らせるがごとく、土地の問題を解決しなくてはいけません」
先頭をハヤテさんに任せ、警戒しながらも
ルクルスさんたちは僕とマリーのために説明をしてくれる。
「教会で使われる浄化魔法では一時しのぎということでしょうか?」
「そうよ。無意味ではないのだけどね。少なくともボス相当のモンスターを倒し、
核となりそうな場所で行わなければ状況を和らげることも出来ないのよね」
マリーの疑問にだるそうにランダさんが
答えながらも後ろを振り向き、奇襲を警戒している。
『砦の中心であろう方向に何か感じるな。きっとそこがボスのいる場所だが……。
! 来るぞ、オークじゃない!』
「!? 土壁!」
僕ははっとなり正面ではなく、すぐ横を見、
咄嗟にランダさんの右側をふさぐように土壁を産み出す。
「ギャウン!?」
間一髪というところか、
穴の1つから突然飛び込んできた影、
角のある……ホーンウルフの一匹を
持ち上げるようにして天井付近で押しつぶしていた。
見ればハヤテさんたちも
それぞれ奇襲してきたホーンウルフを仕留めている。
「ちっ、従えてるっていう状態のダンジョンか。めんどくせえな」
「オークだけなら比較的鈍重なんですけどねえ、まったく」
広い方が囲まれて不利になるかも、とはわかっていても
速さのあるホーンウルフの奇襲を防ぐには
多少なりとも距離が無いといけない。
徐々に進む僕達であったが、どこか疑問は捨て去ることはできなかった。
誘われているのではないか?という気持ちだ。
そんな気持ちは、思ったよりも早くすっきりすることになる。
「猪頭で一丁前に罠にはめたつもりかぁ?」
挑発じみたルクルスさんの言葉が通じたのだろうか?
視線の先にいるオーク達が吠える。
ある意味順調に進んだ僕達は通路から広い場所に出る。
その広間らしい場所で、
10数体のオーク、そして倍近いホーンウルフ達が
僕達を迎えるのだった。
きゅっと、マリーが恐怖にか僕の服の裾を握る。
「マリー、気持ちで負けてたら勝てる物も勝てないよ」
霊山に行こうと思えば、こんな危機はきっといくつもある。
僕は自身をそう奮い立たせ、
矢を何本も手にして力強く、つがえるのだった。




