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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-238「彼方より来たる者-1」


 最初は耳鳴りでもしているのかと思った。りーんりーんと、虫の音とも違う、涼やかな音。音の発生源を探してきょろきょろと周囲を見渡し……それに気が付いた。


「太陽がある……」


「ファルクさん……皆さんが、いません」


 隣にいたマリーとホルコー。彼女のつぶやきに慌てて振り返るとそこにいたはずのサラディンさんたちがいない。どこかに転移させられた? それとも見えてないだけ? いや……さっきまで太陽が無い場所にいたんだ。これはそう、正しい場所に出て来た……のかな?


『それも外れだ! 太陽の中にいるぞ!』


 そんなご先祖様の声が聞こえていたわけでもないだろうけど、瞬間、気配が生じた。と同時に、周囲が急に明るくなる。むしろ眩しいぐらいだった。とっさに手をかざし上を見上げるけれど、ずっと見るのは難しい。


 その間にも何かの気配は徐々に降りてきているのを感じた。戦女神……いや、天使? これまでの相手とは似ているようで……どこか違う。ただ、途方もない実力の持ち主だろうことは間違いないと思う。僕が届くか? 届けるしか……無い。


 ついには上を向かなくても光と音の主がわかるほどの高さに降りて来た。その姿は女性。戦女神のように、全身に戦えそうな防具を身に着け、腰には剣らしきものを下げている。その割に右手には槍を、左手には盾……と完全武装である。けれどその顔には殺気のようなものはなかった。


「古き人の子よ。願いは一度だけですよ」


 有名な芸術家が彫り出したような顔から、なんのことだかわからない言葉が飛び出した。たったそれだけだというのに、聞いてることが心地よい、そう感じる声だった。僕たち以外にいるのかと振り返ってみるが誰もいない。間違いなく僕たちに向けてかけられた声だ。となると心当たりは1つしかない。


「僕のご先祖様が一緒にいます。だからじゃないでしょうか」


「先祖?……そういうことですか。感謝しなさい、新しき人の子よ。彼が守っていなければ2人と1頭もここには来ることができなかったでしょう」


「あっ……」


 小さなマリーのつぶやきと、ホルコーの声を合図にしたように僕たちの体から金色の光がふわりとにじみ出た。それは薄い毛布のように僕たちを覆っている優しい光になっていく。


 ご先祖様がいなければこの場所には……無理をしてくれたんだろうか。


『そのぐらいはするさ。お爺ちゃんだからな』


(ありがと……いつも、本当に)


 心の底から感謝を告げて、1歩前に出る。戦女神……戦乙女というべきかな?と話をするためだ。だけど相手は槍を構え、その気配を変化させた。表情も鋭さを増し、戦いまでの合図が始まったかのようですらあった。


「一生に機会は一度。無理にたどり着いても達成できるとは思えませんが……望むのならば……」


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕たち戦いに来たんじゃないんです!」


 ドラゴンの鱗も乾いた泥団子を壊すみたいに貫きそうな槍の先が自分に向いているというとても恐ろしい状況だけど、なんとかそれを口にすることが出来た。状況を察したマリーも横に来てくれた。正直、一人だと気迫に負けそうなんだよね、うん。


 明星から手を放して真剣にもう一度、戦うために来たんじゃないと告げる。それから槍が地面を向くまでの時間はとても長く感じた。戦女神が数歩下がったことで、ようやく緊張が耐えられるところまで来たって感じだね。


「分不相応な望みを言うでもなく、聞きたいこと? そればなら相応しい相手が地上にもいるでしょうに……」


 微妙に納得はしていないようだけど、話は聞いてくれそうだった。カラカラに乾いていた喉をなんとかしながら、僕は語った。冒険の始まりと、ここに来た理由を。両親を……連れ戻したいのだと。


 最初はあまり興味もなさそうだった表情が、段々と変わっていく。親しみのありそうな柔らかい物から、役目を背負った真面目な物へとだ。怒ってる様子はないから怒らせたってことはなさそうなのが救いだ。


『戦女神は天使であり、天使は女神のすぐ下にいるからな……気にかかる物がいくつかあったのかもしれん』


 今さらそんなことを言われても、とは思うのだが口に出したことを引っ込めるわけにもいかない。嘘です、なんて言える雰囲気でもないしね。周囲にご先祖様が生み出しているらしい金色の光が漂う中、話は続き……終わったころにはまた何か飲まないといけなそうな状態だった。


「そういうことですか……その願い、叶うとも言えるし叶わないとも言えるでしょう」


「どういうことですか!?」


 思わず前に出ようとした僕の前に、唐突に力の気配が生じた。魔法を使った時と同じような、不思議な感覚。出てきたのは炎でも氷でも風でもなく……何かの板のようなもの。一体何が、と思ったところで動く絵が映し出された。森や林、あるいは草原……人間がいる場所もあればいない場所もある。戦ってる場所もあれば……あれ、これ。


「霊山のどこか……じゃないでしょうか」


「そちらから見て右から100年前、そして一番左がつい先ほど、です」


 見えない鈍器で頭を殴られた気分だった。こんな出し方をしたんだ、過去の記録です、なんてことはないだろうことがすぐにわかる。これは……昔だけど、今なんだ。


 霊山は時間をも飲み込む。そのことを直感的に感じた。だけど、おかしいこともある。みんながみんな、そんな状況になるなら……戻ってきた人はなんなんだろう? 特に歳をとるでもなく、若返るわけでもなく、戻ってきた人もいるわけなのだ。


「世界にとってそのほうがいいと、女神が判断した場合には時を超えます」


「……え?」


 一体何を言っているんだろうと思った。女神が……決めている? 例えばそう、この人はお爺さんになって戻ったほうが良いと判断したらお爺さんになってしまう。あるいは何年も前の方が良いと思えば戻ったら自分の親が子供の時代に戻る、なんてこともある……そんな馬鹿な!


『嘘は言っていないようだ……恐らくは霊山には、長い間の時間が全て内包されている』


 納得はしたくないけれど、理解は少しずつできていく。この山にいる限り、僕は100年前の魔物や登山者に出会うことも出来るし、場合によっては未来の登山者に出会うこともある、そういうことだ。途中で見かけたのは、若い時の父さんたちで間違いないのかもしれない。一度登ったという時間が霊山の中にまだいるのだ。


「父さんたちを連れ戻す方法は? ないんですか!?」


「私からもお願いします。方法があれば……ぜひ!」


 さすがのご先祖様もこの状況の霊山であれこれする手段は持ってないみたいだ。あればきっと言ってくれるからね。無いわけではないにしてもそれだけ問題がある手段だったりするんだろう、きっと。


 だからという訳じゃないけれど、必死に戦女神に訴えかけると……じっと自身の手元に視線を落とした後、こちらを射抜くように見つめて来た。


「望む時の者と出会うのは容易ではありません。人の子よ、よく見るとエルフと同化していますね。その剣からはドワーフの魂も感じます。それに……貴方たち自身からは……あの方の気配も。霊山は人のような身では自在に動けません。動いているつもりでもそれは流れに流されているだけ……それを乗り越える力、内包できるのは限られた存在です。出来るかどうかはわかりませんが、やってみますか」


「はいっ!」


『ファルク、お前が決めたのなら何も言わない。だが、覚悟は決めろ』


 警告の声、つまりはあまり安全とは言えないということだ。そりゃ、出来ないことを出来るようにしようっていうんだからそうなるよね。ちらりとマリーを見たら、既に僕が言おうとしてることを察してるのかちょっと怒ってた。


 だから、苦笑しながらそっと手を伸ばして彼女の手を掴む。私も入れてとばかりに二人の間にホルコーが首を入れて揺らしてくる。そのことがなんだか面白くて、クスクスと笑ってしまうのだった。


「では戦いましょう。安心しなさい、貴方方が戦えるように調整はしてみせます」


 言葉と共に、戦女神の背中から大きな大きな白い翼が広がるのだった。






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