MD2-023「男子三日会わざれば……」
繋ぎ回?
会話は少ないです。
「はい、お疲れ様です。もうすぐE評価に上がれると思いますよ。
そうですね……後2、3回もすれば」
「じゃあ明日も頑張らないといけませんね」
ギルドの受付、ランスさんに依頼完了の報告をしたところ、
そう笑顔で伝えられ、僕も自然と笑顔になる。
後ろではマリーもにこやかな笑みを浮かべていることだろう。
ここ最近の僕達の生活は安定し、充実している。
間違いなく、そう言える。
ほぼ毎日という他の冒険者からすると
働き過ぎという具合ではあるけれど。
「明日のご予定はもうお決まりですか?」
「んー、明日も採取の後は特になしで夕方には終わりです」
ランスさんも随分となれた形で僕達の行動予定を聞いてくる。
それはそうだろう。
ほぼ毎日、常設の依頼に対してギルドとしては最良に近い形で
それらが達成されていくのだから。
聞けば、街で扱うポーションの品質も全体的に上がり始めているらしい。
勿論、僕達の依頼だけでそうなったわけではない。
僕達が軽い依頼でも丁寧にこなし、
それにより報酬も増えていることをランスさんは
いい意味で宣伝に使ったのだ。
手軽にこなせる依頼。
それがちょっとした手間でさらに実入りが良くなるとなれば
実践してみようと思う人も増えるだろうということらしい。
その目論見は上手くいき、冒険者達もそれを実感するや
これまでとは依頼のやり方を変えることに注意を向けるようになったそうだ。
たまに僕達に採取の方法を聞く人がいるのも変化の1つ。
僕達としては別に隠すことでもないのでギルドの掲示板の前で
情報交換会といったところだ。
「あー、そっかぁ。気にせず根元の近くを掘ってたよ」
「薬草の力は上だけじゃなく根っこにもあるからね。
一緒にすりつぶすだけで結構違うらしいよ」
今日もまた、依頼の報告の後、何度か挨拶を交わしたことがある冒険者と
採取依頼の情報交換を始める。
こうして話を聞きに来るのは比較的若い冒険者が多い。
僕も、人の事は言えない若さなのだけれども。
討伐が可能な冒険者にとっては薬草採取の依頼は
気にせず片手間に受ける程度なので今さら、という感じなのだろうと思う。
駆け出しにとってはこれらの依頼の報酬でも貴重な収入なのだ。
マリーも同年代の女の子と話す機会が増えて嬉しそうだ。
そんなマリーは別のテーブルで女性陣と情報交流だ。
といっても隣のテーブルなので互いに聞こえるのだけども。
「マリー達ももうすぐE評価なら、気を付けないといけないね」
「え? E評価だと何か……あー、集団討伐ですか?」
集団討伐? なんだろうそれ。
聞こえた単語に僕はわかりやすく疑問を顔に出していたのか、
向かいの、やや年上であろう冒険者が僕に顔を近づけてくる。
「たまーに、モンスターが大量にどこからかやってくるんだ。
ダンジョンからあふれたとか、魔王の先兵だとか言われてるけど詳しいことは不明。
ただ、近くの街に向かってやってくるからエンシャンターの人と一緒に
E評価以上だと討伐に参加が推奨されるのさ」
俺自身もまだ1回しか遭遇したことは無いよ、と
その冒険者は付け加えてくれた。
『限定イベントか? それにしては頻度が不定っぽいな』
(しっかり討伐もして力もつけないといけないね、そうすると)
ご先祖様のつぶやきに僕も頭の中で答え、
採取依頼以外にもどんなものを受けようかと思案する。
まあ、まずは安定の薬草採取なのだけれども。
「よし、今日も頑張ろう!」
「はいっ! 目標はポーション50本ですもんね」
そんなこんなで、毎日街から出ては
ご先祖様の地図を参考に薬草たちの採取を続ける僕達。
同じ場所では枯渇してしまうので
他の冒険者が見つけないような穴場を転々とだが。
街の外に出ればあちこちに危険はあるのも間違いなく、
僕達もゴブリンやコボルト、あるいはその他のモンスターに時折出くわす。
はぐれのようなゴブリンやコボルトがいたかと思えば、
角の生えた兎、川から飛び上がってくる羽の生えた魚なんてのもいた。
野犬のような狼などだ。
意外とこの辺は美味しいんだけどね。
結果として薬草採取の依頼の合間合間に魔法と戦闘訓練として討伐もこなすことになっていた。
ただし、ダンジョンにはひとまず籠らずに地上が主だ。
祝福を増やしたいところではあるのだけど、
マリーとの連携のためと、自分自身の熟練のために今はダンジョンにいっていない。
理由としては僕は人よりやれることが多そうだったというのもある。
剣なら剣だけ、魔法なら魔法だけ、のほうが
戦いやすさ、動きやすさという点ではわかりやすい。
逆にあれもできる、これもできる、だと動きに迷いが出ていたのだった。
戦いの際の魔法として何を使うか、
という点が顕著にその影響を受けていた。
風魔法でもいいし、火の魔法でもいい。
そんな時にやっぱり、どうもマリーより動きが遅い気がするのだ。
逆にそれらを使いこなせるようになれば行動の幅は増えるだろうから
今は頑張るしかないんだけどね。
「やっぱりファルクさんって器用ですよね。
剣を突き刺しながらその先で魔法を撃つなんてほとんど聞きませんよ」
「まあね。2人だけだし手は増やさないと」
感心した様子のマリーに僕は照れながらそう答える。
僕が器用と言われるほどいろいろやれる理由。
その原因の1つはご先祖様なのは間違いない。
彼は、ファクトじいちゃんは何でもできて何でも知っている。
剣や魔法、そのほか生きる術などもだ。
革のなめし方や、鉱石の処理方法は元より
薬草は品質を僕越しなのに見極め、
ただの岩かと思えば素材だという技をなんとはなしに披露してくれる。
モンスターの討伐部位や有用な部位の見極めもすごい。
僕にはただの獣のようなモンスターに思えても、
あれは薬になる、これは帽子に使える、などと取りこぼしの無いように教えてくれる。
かといって甘やかすということは無く、
基本的には僕にやらせるのだ。
しかも、事前情報は少なめにとりあえず好きにやってみろ、と。
致命的な間違いをしそうなときには
勝手に体を動かす、といった手助けはしてくれるけどそのぐらいだ。
片方は毒、片方は薬、と類似した薬草の見極めの時なんかは
失敗して3日ぐらいおなかの調子が悪かった。
それすら、毒耐性のスキルを覚えるための下地作りだと言われれば何も言えない。
実際、毒草を食べてしまって3回目には弱いながらも耐性が
ギルドのカードに現れてきたのだから。
(マリーもマリーで随分あれこれできるような気がするんだけどね)
休憩してる僕の視線の先で、
マリーは川に向かって手加減した雷魔法を撃ちこんだかと思うと
今日の御飯です、と魚を採っている。
魚を捌き、たき火のそばで焼き始める姿は
冒険者のソレなのだけど、仕草1つ1つは泥臭さが無い。
マリーはやはり、ただのお金持ちの出身というような産まれではないのだと思う。
自分で言っていたように、魔法の素質があるからと
修行に出されていたようだけど、それでも生まれは良いところのようだ。
言葉遣いや立ち振る舞い、困難への立ち向かい方等に
冒険者になんでなってるんだろう?と思うような気品を感じるのだ。
そうなると彼女の家はそれなりに良い家柄の、
それこそ近くの国の貴族だと想像できる。
そんな彼女が家の復興や自身の復権を目指すと言い出さないのが気になるけど、
僕がそれを言うことでもないかなと思う。
勿論、お願いされたら手助けすることは間違いない。
「? どうしました? まだ生焼けだと思いますよ?」
「ううん。なんでもないよ」
こてん、と首をかしげる仕草もその……魅力的だと思う。
『そういうのをちゃんと口に出せばいいんだよ』
(それが出来たら苦労しないよ、うん)
そして秋の気配がそろそろ感じられそうな季節。
僕達はそろってギルドの評価をFからEに上げていた。
ギルドの訓練場やお金を払って他の冒険者から訓練を受けた結果、
僕が片手剣、両手剣、手斧、弓、槍の基本技術を覚え、
既に覚えていた魔法も習熟し、別のスキルとして様々な生存術というべきものを覚えていた。
その中でもある種異彩なのは、精霊感知というスキルだと思う。
元々魔法使いは精霊を感じるらしい。
何故、と言われれば魔法そのものは精霊の力でしかないからだ。
魔法使いの唱える呪文と最後の言葉は
精霊にこうしてほしいと力を借りるお願いでしかないそうだ。
だから火の力の強い場所では火の魔法が使いやすいし、
寒いところでは別の魔法が、といった具合だ。
精霊感知はそんな精霊達を、
今まで感覚で見ていた精霊を直に見ることのできるスキルなのだ。
何でもないような目の前の景色を見たまま
精霊感知のスキルを実行する。
すると……わかるのだ。
世界が、精霊がいてこそ成り立つ物だと。
僕も、マリーも、武器や魔道具に精霊がいる、というのは実感として持っていた。
ところが、だ。
精霊はなんでもないところにもいたのだ。
それこそ地面や雑草にも。
『全ての物には精霊が宿り、精霊は全ての物と同じである。
マテリアル教の教えの1つだな』
そんなご先祖様の言葉に、初めて精霊感知を使った僕は頷くしかなかったのを覚えている。
そして、僕は1つの結論に至った。
ドラゴンであるとか、強い生き物というのはすなわち、
精霊を多く宿し、その力を高めている存在だと。
そういう目で見ると、この腕輪、ご先祖様は別格過ぎる。
光そのもの、に見えるからだ。
精霊感知を覚えた後、ご先祖様に聞かれたことがある。
俺が怖くは無いか、と。
僕が腕輪のまぶしさに驚いたときの感情、
強すぎる力への恐怖を感じたんだと思う。
でも、僕にとってその時の驚きは
大きな音を急に聞いたぐらいのような物だった。
ご先祖様はご先祖様、僕は僕。
それはご先祖様が腕輪に宿っていようと、
腕輪そのものだろうと、あまり関係が無い。
油断せず、ご先祖様の力を借りながら
僕は力を身に着けなければならない。
行方不明の両親を探し、一言いってやるのだ。
どこをほっつき歩いてた!と。
そして夏が終わり、僕とマリーは街の外に他の冒険者と出る。
近くの砦跡に、オークの集団が集まっているという情報を得たギルドが
集団討伐を告知したからであった。
常にブーストがかかってるような物なので
借り物ではありますがチート気味なファルク君ですが
本人にはあまり自覚は無いようです。




