MD2-223「積みあがった実力-2」
遥か北の地で、騎士の1人を相手に僕は剣を振るっていた。両手持ちを前提とするやや大きな木剣は中に何か入っているのか少し重く、その重みを生かした動きをしないといけない。
『下手に魔力を通すなよ。燃えるからな』
(了解っ! うっかりやらないようにしないと)
普段使っている明星は、ドワーフの職人たちによって作られたある種一品物だ。セリス君のように斬岩とまではいかないけれど、上手くやれば近いことは出来そうだ。それに、最近の力の増し具合なら魔法剣として使えば……今は目の前に集中しよう。
「ちっ」
最初と違い、相手は勢いのまま飛び掛かっては来ない。こちらの様子を伺い、僕が意外と使えるということを感じてるのかもしれない。そのぐらいには、腕が良いということなのかな。口調や態度が乱暴だから悪い人、なんて決めつけるのは早いのだけど……。
今回は僕の力を見てもらうための模擬戦だ。時間をかけすぎても意味がない……そう思って今度は僕から踏み出した。以前戦った人狼の戦士を思い出しながら、あるいは地下で出会った骨だけの戦士の動きを浮かべながら……僕は矢のように飛び出す。
(狙うのは体の半分……持ち手側っ!)
避けるにもはじくにも、動きの制限される側へと木剣を勢いに乗ったまま突き出すと、ぎりぎりのところで体をひねり回避された、だけどそれは予想済み。足に力を込めて、剣を突き出したままで体ごとぶつかった。
「うぉっ!?」
「そこだっ!」
僕もあまり良い姿勢とは言えないけれど、相手はもっと悪い。体が傾いたところに踏み込んだ勢いがそのままぶつかったのだ。よろける隙に僕の方は姿勢を整えることが出来た。少し離れた間合いを逃がさないよう、改めて振りかぶり……振り抜く。
しっかりした手ごたえが手に残り、相手の左腕を強めに打ちすえた。結果、左手に持っていた短い木剣は落ちたし、しばらくは握れないだろうね。間髪入れずにそのまま僕の間合いで木剣を続けて繰り出すと、相手は防戦一方だ。そりゃ、片手で捌くには僕のほうも動きが遅いわけじゃないからね。
『どうだ、自覚は出来たか』
(ようやくね。しばらくとんでもない状況ばかりだったからすっかりわからなかったよ!)
心の叫びが剣に乗り、大きく音を立てて僕の振り抜いた木剣が相手のそれを打ち払い……腕の中から飛ばした。剣の転がる音が妙に響いたような気がした。武器を落としたら負けとは決まっていないから、そのまま相手の体の中央へ木剣を突き付け……そこで止めた。
「決まりでいいですか」
「……ああ。俺の負けだ」
あっさりと負けを認めた相手に息を一つ吐いてようやく気を抜くことが出来た。途端、周囲から音が戻ってくる。どうやら随分と集中していたみたいだ。終わりの挨拶をしてくる相手に同じように挨拶を返してマリーの方を見る。その間も、どこか体の中から熱のような物が湧いてくるのを感じていた。
これまでの戦いで階位は結構上がっている自覚はある。切り札のマテリアルドライブもそのおかげというかそのせいというか、上がってきた階位のおかげで再使用するための日にちが経過する前に階位をあげてそれを短縮させるという手段が取りにくくなってきてるからね。
そのうえで、どこまで強くなったのか……がよくわからないところがあったのだ。よくわからない相手だったり、集団だったり、まともに戦ったら勝てなかったんじゃないか?みたいな相手まで一杯だ。
「よかった、僕は強くなれている。それに、マリーも」
小さなつぶやきは彼女の放つ魔法が立てる音に消えていく。的を相手に、馴染のあるマリーの魔力がどんどんと練られるのを感じ、そしてそれが力となって放出されていくのを見守る。
『火球に続けて氷球、雷を落としつつ真っすぐに撃ち、風で足止めをしたところに草木で縛る……大規模な魔法はまだ無理かもしれないが、十分戦える気がするな。後は得意な属性の大魔法か……』
ご先祖様がそう評価するように、僕から見てもほれぼれする動きでマリーはどんどんと魔法を放っていく。両手にはそれぞれに杖、1本は大精霊であるアクアが宿っており、もう片方はそれよりは質が落ちるけれど十分良い性能の物だ。
詠唱をしっかりして威力を高めた魔法と、省略してすぐに放つ魔法とを組み合わせ、隙の無い連撃を実現しているようだった。周囲で見守る戦士も、驚く武器を使う面々もいれば魔法を使うであろう人たちの真剣なまなざしもあったりと様々だ。たぶん、魔法使いにはアクアの気配が感じられているだろうね。
「そこまで! 修理にもお金がかかるからね」
団長の合図にぴたっとマリーの動きが止まる。その速さもたぶん、驚くところなんだろうね。僕の動きに合わせて援護を切り替えることにいつも集中しているからだろうと思うとちょっと恥ずかしい気がする。
「マリー、お疲れさま」
「ファルクさんこそ……怪我はないですか?」
お互いをねぎらっていると、周囲から視線を感じた。いけない、なんだか変な空気だぞ? そういうつもりじゃなかったけれど……謝った方が良いのかな?
そう思って周囲をよく見ると、いちゃいちゃしてるからという雰囲気ではないことに気が付いた。
どちらかというと……よくわからない物を見る目?
『それはそうだろう。2人とも、全然汗もかいてないし、疲れた様子はないんだ。ファルクはまあ、ともかくマリーはあれだけ連打してだからな』
「驚いたよ。2人とも特に訓練は受けていないんだろう?」
「え、ええ」
そんな話を裏付けるように、駆け寄ってきたソフィアさんの顔は紅潮している。これは……僕たちの動きにってことか。でもまあ、確かに魔物相手に戻れない戦いをしていた塔の中の戦いとかと比べれば全然余裕だ。
「誰も異論はないだろう。2人に洗礼の砦への突入を許可する。詳しい話はソフィアから聞きたまえ。さあ、我々はこのまま訓練だ!」
途端、周囲の騎士たちから大きな声があがり……それぞれに激しい訓練が始まった。戸惑いのまま、僕たちはソフィアさんに連れられてその場を離れる。さっきの話を聞かせてもらえるってことかな。
広場からすぐに立ち並ぶ小部屋の1つに入ると、座るように促されたので大人しく座る。少し待つように言われ……戻ってきたソフィアさんは2つの指輪を手にしていた。
「これが許可証代わりだ。入り口には中に入れないようにちょっとした仕組みがあるがこれがあれば問題ない。さて、洗礼の砦だが……ものすごく単純に言えば、中を順番に探索して敵を倒し、生き残るための場所だ。不思議と中では死なない、死なないが……ものすごく痛い。恐らくは本当の死と同じぐらいの物だろう。あきらめた時がその日の探索の終了だ」
「あきらめなければずっと探索できる……ってことですか?」
無言で頷かれ、僕はマリーと見つめ合ってしまう。彼女も同じことを思い出したのだ。銀郎の戦士がいた試練の場所。あの場所も何度も死に……何度も戦った。
あれこれとバタバタして、しっかりと戦いを見つめ直すことが難しかった僕たちにはちょうどいいのかもしれない。そう思い、やるからにはしっかりと……そんな覚悟を決めるのだった。
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