MD2-212「その誇りに賭けて-1」
「行っちゃいましたね」
「うん……」
人生は……冒険をするということは出会いと別れの繰り返し。そうわかっていても、慣れない物だなと毎度思う。出来ることならば、マリーとそうなることはないといいけれど、そのためにはしっかりと努力しないといけないだろう。
精霊の力を使い捨てるように船の動力に使っていた街の人々。すぐに全部無くすということは難しいのだろうけど、無理をしないことを僕達と、手元に残った穴の開いた精霊像に誓ってくれた。言葉での誓いが何になるのか、そう思う人もいるだろうけど僕は人を信じたいと思う。
それからあれこれと後始末をしていった結果、ビアンカさんはポエットさんと一緒に女神騎士団について調査をすると言い出したのだ。なぜかというと、この精霊の使い方は騎士団の1人からもたらされたというからだ。
これはとてもおかしなことだった。女神騎士団は名前の通り、女神様の元に集う集団だと話には聞いている。となれば精霊をないがしろにするというのはその理念とは随分と遠い話だと思うからだ。けれど、街の人が嘘を言う必要はどこにもない。そうなると、本当に女神騎士団の中にそんな人がいるのか、あるいは騎士団を騙っているのか、どちらかになる。
『ファルクたちは空から先行して様子をうかがえ、か。合理的だな』
(まあね、話はよくわかるんだよね。2人がそこまでする理由がよくわからなかったけれど)
先日、僕が戻ってこれたのはご先祖様の力もあったからこそらしく、しばらくはご先祖様は反応はあっても返事はなかったのだけど今朝、ようやく復活したのだ。僕もご先祖様も、意識がない間のことはよく覚えていない。どこかに行っていたような気がするのだけど……ね。
ともあれ、ばっちりと見られてしまったホルコーの空飛ぶ姿。幸い、ヒポグリフやグリフォンの話は伝説級とまでは言わず、珍しい話に留まるようでそこまでは話題にならなかった。ただ、改めていつ旅に出るかをビアンカさんに相談した時に、僕達とは別れて別方面から当たること、僕達は僕達で移動した方がきっと早い、そういう提案だった。
「大丈夫? 寒くない?」
「今のところは……あっ、見てください!」
息が白くなるまではいかないけれど、長く飛ぶのは風の障壁でも作らないと大変だなと思いながらの空。遠くの山が……白くなっていた。雪だ……でもあの高さだと一年中積もってそうな気がするなあ。このあたりも随分と北に位置する。日の出ている今はいいけれど、すぐに寒くなるんじゃないだろうか?
「次の春か夏には一度家に帰ろうか……」
「ええ、頑張りましょう」
思い返せば、彼女との出会いからまだ一年も経っていない。だというのに妙に濃密な人生である。何もなくってただ過ぎるよりはいいんだろうけど、もうちょっとねえ。どうにかならない?
『無理じゃないか? っと、街が見えて来たぞ』
とっさにツッコミを返そうとしたけれど、僕もその街が見えたことで前をしっかり向く。川辺の街から既に3つほど素通りしているから、そろそろ降りてもいいと思う。ギルドから手紙も出したいからね。歩いてだとどのぐらいかかったかわからないぐらい小山は超えて来たからきっと色々違うんだろうなあ。
「まずは宿で一休みしようか」
「はい!」
長い間飛んでくれているホルコーをねぎらうように撫で、街から離れた場所に降りていく。眼下には街道……今のところ馬車の通りはない。見た限り、主要な街道の1本だと思うけれど、たまたまかな?
出来るだけ目につかないよう、林の中に降り立って後は普通に2人乗りですよと言わんばかりに街道に出る。他にも空を飛ぶ人がいるならもっと堂々と飛ぶんだけどねえ……どうなんだろう。
「見えてきましたね……あれ? なんでしょう」
「随分と物々しいね。魔物でも出て来てるのかな?」
今のところ、周囲に変な気配は感じない。あんな風に見張りとかがり火がたくさんあるような状態というのは珍しいと思う。街の大きさから言って、相当なお金持ちの土地だと思うんだけどなあ……。
『なんだ?……山だ! 来るぞ!』
「山!? うぷっ!」
警告の声に思わず声に出しながらその通りに山、さっき雪の降り積もっているのを確認した方を向くと……真冬のように冷たい風が吹きつけて来た、明らかにおかしい、季節外れの冷たさだ。慌てて街の方へとホルコーを走らせると、門の上にいる人たちも僕達を見つけて騒ぎ出すのがわかる。
「開けてくれええー!」
「少し待ってくれ、大門の脇に小さいのがあるだろう! そこに行ってくれ!」
風は何故だかどんどんと強くなっている。こんなんならもっと厚着をしておくべきだった。腕の中にいるマリーを抱きしめるようにして2人して震えながら言われるままに進む。確かにそこには大人2人分ほどの幅の扉があり、そこがわずかに開いた。
「さあ、早く!」
顔を出した兵士に招かれるまま、ホルコーに乗ったままそこをくぐると……おかしな光景が広がっていた。正確には、おかしな温かさを感じた……だろうか。
外はあれだけ寒かったのに、中に入った途端温かい。もちろん、外が寒い分温かく感じるだけでそんなに暑いという訳じゃないのだけど……。火の消えた暖炉のそばっていえばなんとなく伝わるかな?
『これはどこかで魔法を使っているな。マリーに水の大精霊は出てこないように注意してもらえ。目立つぞ』
「マリー、あの子は眠ってもらってて。目立つかもしれないってさ」
「はい。ずっと杖の中に入ってもらってます。魔法が溜められませんけど十分ですから」
ふと見れば、彼女の言うように杖の先の魔石らしきものは色を群青色に変えていた。これならマジックアイテムと言い張ることも出来るだろうね。そうしてこちらをねぎらう兵士に受け答えしつつ、僕達は街へと繰り出した。
まず驚いたのは、あちこちに畑らしきものがあることだ。城壁のような壁の中だというのに、だ。街の規模のわりに住宅は少ないように感じたのは畑の多さのせいだった。不思議に思い足を止めて眺めていると、畑で作業をしていたお爺さんがこちらに手を振ってくる。
「外の人じゃな? 酒場に用なら反対側に行くといい。こちら側は建物よりも先に畑にしちまったからな」
それから少しお爺さんと話したところによると、元々こちら側にも住宅などが建てられる予定だったけれど畑を優先しているらしい。その理由は向こうに行けばわかるとのことだった。
疑問は残りながらも、そのまま歩いていくと……確かに町並みが現れた。
「こっちはにぎやかですね。外はあんなに寒いのに……」
「一時的な突風なんじゃないかな? よし、まずは宿だね」
世の中には不思議なことがやっぱりまだあるんだなあ。その時の僕は、そんなことをのんきに考えているのだった。
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