MD2-209「絡み合う利権-5」
(どう思う?)
『まだ一方的な話だけだからな……その通りなら精霊につけこんだ、ちょっと待てよって話だが……』
とある街で出会った吟遊詩人、名前はポエットさん。不思議な力を使う彼女は同じように精霊が見え、話が通じそうな僕達にこの街で酷使されているという精霊たちを解放したい、そう依頼を持ちかけて来た。
僕自身、よくわからないけれど普通じゃない感覚を味わっていたし、ここに来る時に見つけたような精霊が他にもいるというのならどうにかしてみたいとは思う。
「とりあえず、明日でいいんじゃないの? 私達、ついたばかりなのよね」
「なるほど……ではどこに行くのかといったことをまとめておきましょう」
宿の名前を聞かれ、迎えに行くということで僕達はその場を離れる。念のために周囲を探りながらだけど……特には何もない。気にし過ぎだったかな?
自分たちの宿へと戻りながら、ふと思ったことがあった。それは……。
「ポエットさん、私たちをどうやって信用したんでしょうね? 初めて出会ったわけですし……」
「女のカンってやつじゃないの? 世界最強よね」
「それはどうかと……でも、何かあるのかもしれませんね。あ、そうだ。ビアンカさんって結局精霊が見えるんですか? 魔法を使えるなら見えていてもおかしくないはずなんですけど」
魔法もスキルも精霊から力を借りたり、精霊と一緒にあれこれする物だ。だから精霊が見えると自然とそこで使いやすい魔法は何なのかとか、色々わかる……と思う。今のところ、火山近くで火の魔法しか使えない!なんてことにはなってないからわからないところではあるんだけど。
「んー、今日は見える方かな。見えるスキル、なんでか覚えられないのよね。その代わり、見えたり見えなかったり」
『先天性……生まれながらにそれらしいのを持っているのかもしれないな。まあ、一緒に動いていれば大丈夫だろう』
内心でご先祖様に頷きつつ、明日に備えて適当なところで休むことにした。ちなみになぜか3人1部屋だ。僕は1人で良いって言ったのにさ……お金がもったいないと言われたら反論も難しい。
「? なんだか眠そうだね。大丈夫かい?」
「問題ありませんよ。それより、どこにどう行くかを教えてください」
敷居があるといってもすぐそばに女性が2人いるというのはどうも落ち着かなかった夜を過ごし、ちょっと見抜かれた感じがあるけどそれはそれ。迎えに来たポエットさんに部屋に入ってもらい……って4人だと少し狭く感じるな。
「これは自分も調べた限り、とはなるんだが……」
声を抑えて語られた内容は、思わず顔をしかめるものだった。
・主に大き目の船の動力として協力している
・精霊が協力した結果、手漕ぎの負担は大きく減った
・上流へ向かう船に多く使われている
・同じ形の精霊像を使っている
ということだった。要は結果だけ見ると、精霊の力を借りられるだけ借りたら元気な子とほいほい交換している、というわけだ。僕達が見た精霊像は、その中の1つで本当なら街中かどこかで保管されるものを
誰かが外に持ち出して交換したんだろうと思われた。
「確かに精霊はどこかに放っておけば勝手にものに宿るっていうけど……それってどうなの? 一度や二度はともかく、何度も十分精霊が戻ってくるとは限らないでしょう」
「あの感じは疲れたというより、もう消える直前みたいな状態でしたよね」
思い浮かべるのは銀貨の精霊と合流して元気になる前の精霊たちの姿。色が抜けたようになって、明らかに休んでいたら良くなるという程度を超えていると思う。基本的に精霊は自由な存在の……はずだ。
「精霊以外に何もなければいいんだけど……」
「私が知ってる限りでは精霊にも気分……少し違うかな。乗り気じゃない時というのもある。それに、このままでは川の底にいる大精霊が起きてしまうかもしれない」
大……精霊? 大とつくからには精霊よりも上にいるのか? でもマテリアル教にはそんな話は無かったような? 疑問を浮かべると、頭に染み込んでくるご先祖様からの知識。説明するのが面倒だったのか、そういうことが出来るようになったのかはわからないけれどありがたい。
「古の意思……ですか?」
「よく知っているね。そう、精霊たちの行き着く先、長い時を生き抜いた精霊が成るという自我を持ち、力を増幅させた精霊さ。そちらの2人も話を聞いたことぐらいはあるんじゃないか?」
そのすごさがわかっているのか、マリーはやや青ざめているし、ビアンカさんだって真剣な表情になっている。それだけの、相手だ。いつだったか聞いた話によると、人間なんかじゃ相手にならないようなすごい相手らしい。場合によっては神様のように変化するのだとか。
有名どころだと風や火の神様、あるいは愛や友情の神様なんかがあるね。僕は見たことがないけれど、物語でも時々出てくるよくわからない相手だ。そんな相手になるかもしれない古の意思……出来れば話が通じるといいんだけど。
「様子を見に行くのは船の寝床さ。この時間だともう粗方出航していてね。そこに本体はないだろうけど、予備の精霊像の1つや2つはあると見ている」
そうして僕達は、依頼に出るふりをして街の外に出ると、街のそばの林を迂回してぐるりと回りこんでいく。少し街から離れているのは騒音を気にしたり、大きい物を出し入れするからだろうか。
様子を見に行くまで、僕はこの街の人が少し加減を間違えているだけかもしれない、そう考えていた。きっとマリーやビアンカさん、あるいはポエットさんもそうだったのかもしれない。けれど、その願いは裏切られてしまう。いや、僕達が勝手にそう思っていただけなんだ。
「なんてこと……」
偶然にも、忍び込んだ先では船の持ち主たちであろう人らが話し合いをしているところだった。部屋の外に漏れ聞こえる声は、想像以上の物だった。精霊が疲弊することは分かった上で、どんどん安い素材で作った精霊像を買い、使えるだけ使っていこうという物だった。しかも、使い切った後の精霊像は違う場所で売り飛ばそうか、そんな話だったのだ。
止めに行く、怒鳴りこむ……そんな考えが頭に浮かんだ頃、事前にあんな話をしたからだろうか。建物の向こう、川沿いが騒々しくなる。
「3人とも、何かあったみたいだ」
「ファルクさん、この感じ……」
返事の代わりに頷いて、明星をそっと抜き放った。騒々しいのは川のほう。しかも岸からは離れている。建物から飛び出していく男達と、その後ろで隠れたままの僕達。
見えた範囲にいるのは大きな船。馬車が10台も乗れそうなほどだ。そんな船に、何かが掴まっている。なんだろう……あれは。
『見ろ! 増援だ!』
「川が……割れる!?」
そんな船よりさらに下流。その川面が泡だったかと思うと、渦を巻いてさらに川面が割れた。そこから顔を出したのは……青い半透明な何かで出来た異形だった。その中央には、赤紫色の球体が浮かんでいる。
このまま何もしないわけにもいかず、僕達は川辺へと駆け出すのだった。
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