MD2-207「絡み合う利権-3」
北風が吹く中を、僕達3人は風の吹いてくる北へと向かっている。そう、3人だ。女神騎士団との突然の出会いからしばらく、僕達は予定通りに周囲の浅いダンジョンの攻略にいそしんだ。
結果としてはそこそこのお金と、あまり有力ではないけれど複数の祝福を得ることができた。無いよりはたぶんマシだろうしね。例えその恩恵を感じられるのが1日、2日と戦い続けた時ぐらいだろうとしてもね。
「でもよかったんですか?」
「んー? そうね、気にならなかったっていうと嘘になるからってのが大きいかしらね」
「私はビアンカさんが一緒で嬉しいですよ」
次にどこへ行こうかと迷った僕とマリーは、あの騎士団のことが気になってしまい、北に向かうことに決めた。もちろん、気を付けなければいけないということもわかっているけれど……なんとなく、避けていても結局向こうからやってくるような気がしたんだよね。
そんなだから、ビアンカさんとはお別れも近い、そう思っていたのだけど話を切り出した僕達に、彼女は了承どころか、むしろ私の馬も飛べないかな!?なんて聞いて来たりしたのだった。曰く、一緒に行くのならそのほうが便利でしょう?だそうである。
残念ながら、ホルコーの血筋に何かあるみたいでビアンカさんのほうはいい馬だけどそれまで、だった。下手に人気のある場所で飛んでると騒ぎになるからちょうどいいと言えばちょうどいいのかな?
「ふふ、ありがとね。私もさー、ちょっと気になることがあるんだよね。自分みたいな凡人が気にすることじゃないのかもしれないけど」
「次の街で少しでもわかるといいですね」
どこかであっさりお別れになるかもしれないけれど、それまでは楽しい旅を、そう話しながら何日も街道を進むと川が見えて来た。このまま川沿いに上がれば次の街……かな?
念のためにと、僕にだけ見える地図を広げて周囲を確認するとよくわからない反応を向かう先に感じることが出来た。動いてるように見えるけど……なんだろうね。
『少なくとも敵対してる奴ではなさそうだな』
(うん。赤くないもんね)
距離的にはあの林を曲がったらいるはずなんだけど、おかしいな。何も、いない。気配的には人間も魔物も、いないな……? だけど、反応は見える。
「ファルクさん、何かいます?」
「たぶん……なんだろう。あ!」
そこまで言って気が付いた。この感じ……精霊だ! だけど全くと言っていいほど力を感じない。元々見れないのか、感じられないぐらい弱っているのかビアンカさんはホルコーが足を止めたことにキョトンとした様子だ。
思い付きを証明するためにも精霊を感知するためのスキルを発動させる。瞬間、世界が変わって見えた。地図に映らないような無数の精霊が光の球となって浮かび、あるいは木々の中にもうっすらと光ってみえる。
「この先に何か……」
そのままよくわからない反応だった精霊らしきものの光の場所に向かうと……小さな休憩所が見えて来た。休憩所と言っても冒険者や隊商が休むときに作った物が重なり、みんなここで休むようになった、みたいなものだけどね。
「何かの……像?」
その中にある祠のような場所に黒ずんだ彫像を見つけた。女神様でも戦女神様でもない……感じからしてそのまま精霊を想像して作った物なんだろうか? 素材は……。
『まて、そのまま触るな!』
その忠告は一足遅く、僕の指先は一瞬触ってしまった。すぐに離れたのだけど、その一瞬で十分だったのかもしれない。指先から、ごっそりと何かが抜けていくのを感じたのだ。魔力とは少し違う……これは。
「ファルク君。それ急に光ったように感じたんだけど大丈夫?」
「悪い物じゃないみたいですね、少なくとも今は」
「ファルクさんからその彫像に、何か吸い込まれていきましたね」
そう、僕の指先から吸い込まれたもの……それは、階位のための力だ。言い換えれば僕に宿っている精霊の一部、っていえばいいかな? 生き物は、小さい虫でもそれこそドラゴンでも相応に精霊を体に宿している。強くなるということは精霊を体にため込むことと同義であり、どれだけ溜められるかがある意味才能になると言えるとご先祖様に聞いた。
『この彫像、精霊が力を失っているな……何があったというんだ』
彫像の周りにいる精霊は色の無い感じの姿でどんよりとして漂っている。僕から吸い取った精霊のおかげなのか、最初よりわずかに変化があるように見えるけど、かといって力を取り戻すまで吸わせるという訳にはいかない。階位が下がっちゃうといけないもんね。だとすると他の何か、人が駄目なら物から……あ、そうだ。
「マリー、ビアンカさん。ちょっとここで休憩にしましょう。僕はこの像に元気を上げることにします」
「う、うん。それはいいけど、どうするの?」
僕は返事の代わりに、1枚の銀貨を取り出した。もちろん、いつも使ってるような銀貨じゃあ……ない。ダンジョンとかで発掘されたり、町だとこれ自体が依頼対象になったりする、純銀貨だ。純銀貨は名前の通りに純銀の物で、基本的に古い。そして古いほど力を持つという魔法関連の触媒になったりするものだ。問題は使ったら使い切りでただの純銀の硬貨に戻ることかな。
「もったいなくない?」
「ファルクさんらしいですね。でもそういうの、良いと思いますよ」
微笑みながら銀貨をつまんで見せ、僕はそのまま彫像の前に行くとそっとその前に純銀貨を置いて、軽く魔力を流していく。その刺激が、純銀貨の精霊を呼び起こすらしいのだ。妙に手慣れた感じのご先祖様の補助を受けながら実行していくと……まるで爆発するかのように純銀貨から精霊があふれ、それは瞬く前に彫像に吸い込まれていった。
『お、精霊も力を取り戻したみたいだぞ』
「ビアンカさん、見えます?」
「何かいるのはわかる……かな」
残念ながらビアンカさんには見えないようだけど、マリーは見えるはず。その証拠に、急に目をきらきらさせているからね。そう、力を取り戻した精霊は髪の毛の色も真っ白か灰色な感じから色々な色に染まり、服もきれいな感じになっている。そして元気に飛び回り……僕を見た。
(? 何か伝えたいの?)
しゃがみこみ、顔を近づけると……精霊の何体かが僕に飛び込んできた。途端に、頭に響く感情と……記憶。わずかな頭痛に手を地面についてしまうけどそれだけだ。たったそれだけだけど、僕は多くの情報を手に入れた。
「大丈夫? 急によろけたけど」
「ええ。それはそれとして、この先には厄介なことがありそうです。精霊を……酷使してる人たちがいるみたいですね」
「そんな……ひどい」
人は、いつもあるものはずっとあるものと思う物らしい。そして精霊には善悪といった考えはなく、求められればそれが人間か魔物かは関係なく力を貸す。魔物が魔法を使えるのはそれが理由だ。けれど、感情が無いわけじゃあ、無いのだ。形をとれない状態の精霊ならともかく、こうして人型になれる精霊は別物と言っていい。そんな彼ら(彼女ら?)をこんなになるまで力を借りて使いつぶすなんて……。
(ん? どういうことだ?)
「私、そのあたりよくわからないけど、この彫像の精霊が酷使されたの? それとも、この彫像の精霊と交代させられたのかしら?」
そう、そうなのだ。ここにあるのは旅の安全を願ったりするような彫像だ。とても酷使されるものじゃあない、だけど宿っていた精霊は力を失っていた。だとすると……ここにいた元気な精霊と交代させられた? だけどそんなことが普通に出来るのかな?
「細かい部分はわかりませんけど、どうも厄介ですね……お金になるかなあ」
「もしも良い人が関係してたら、何かお礼を貰えるかもしれませんし、悪い人だったらため込んでますよきっと」
それはそれでどうかと思うけれど、マリーの言うようにこれの犯人が悪い人だったら、多少懲らしめるぐらいは良いと思う。だって、精霊は世界の根っこにある大事な物なんだから。
「休憩は少しにして、速めに街に行きましょうか」
「そうです……ね」
元気に飛び交う精霊を眺めながら、僕達はわずかな休息を過ごすのだった。
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