MD2-206「絡み合う利権-2」
(8……いや、離れたところに4……小規模なのか僕達はこのぐらいで良いと思われたのか……)
「何の用ですか? 僕達はそんなお金持ちじゃないですよ」
ひとまずそう言いながらも、彼らにとっては僕自身はたぶん……用はあまりないんだろうなあと思っていた。馬2頭や荷物、そして同行している女性2人はその方面では十分なお金になることぐらい、知っている。
だから今の発言は、マリーとビアンカさんへの促し。本当に盗賊たちの目的が2人だけだったとしても、大人しくやられるわけにはいかないのは当然のことだからだ。つまりは、反撃の準備。
「へへっ、男に用はねえな!っと」
「ブロッカー!」
予想通り、嫌な笑みを浮かべた男の一人が手を振り下ろすと同時に主に僕に向かって飛んでくる何か。恐らくは矢であろうそれを3人と馬2頭ごと包み込んだ土壁が防ぐ。詠唱を省略したから強度は甘いし、すぐに消えちゃうだろうけど十分だ。
「マリー! 火を!」
「はいっ!」
素早くマリーを抱きかかえ、ホルコーに飛び乗った僕は一気に空中に飛び上がっていた。土壁の中にいるのでホルコーに光の翼が生えたのを目撃したビアンカさんはきっと驚いている。けれど、隠しておくよりもここを確実に切り抜けることを優先したのだ。
「遠慮は……しません! この手に集い、赤き鉄槌を! 火火球!!」
「じゃ、行ってくるよ」
彼女の声が上からしたことで盗賊たちもこちらを向く。けれどそれでは遅いのだ。火球が地上に落ち、爆風をまき散らす。人間も生き物だ、荒事に慣れているといっても目の前で自分を殺せる炎が広がるとなれば気にするという物。2人ほど直撃を食らって火だるまだしね。
そんな様子を、地上へと飛び降りた僕はどこか冷静に視界に収めていた。足元には風の渦。それで着地の衝撃を殺した僕の前で人が一人、倒れていく。一番近いところにいたからと振るわれた僕の明星で二つに別れた肉塊となって。
「このガキ!?」
「2人には……手出しさせない!」
一通りの装備は身に着けていてもどうせ子供が2人とやや年上が1人と見くびっていたんだろうね。残念だけど、上空に浮き上がったままのマリーはあのまま魔法攻撃を続けてくれるだろうし、僕だって何もしないわけじゃない。何よりビアンカさんも冒険者なのだ。上手く魔法を挟んでいけば十分戦える!
『今は相手が人間だということを忘れろ。やる前にやらなければ……』
(わかってる、わかってるよ!)
この世の中で、女の子がどういった目に合うかなんて想像だってしたくない。本当は同族殺しなんてしないほうがいいに決まっている。けれど、散々魔物の命は奪っておいて何を今さら、そうつぶやく自分もいる。
「このおお!!」
「こいつ!?」
牽制に周囲に風をまき散らし、それを援護するように上空からもマリーの魔法。相手は気が付いているだろうか? 綺麗に僕を避けた形で火球が落ちてくることに。僕はそのまま、目の前の相手に切りかかりビアンカさんの合流を待つ。
「お待たせっ!」
土壁が崩壊し、駆け寄ってきたビアンカさんに頷きだけで応えて次の相手を……そう思った時、僕にだけ見える地図に新しい光点が増えた。色は……白!?
『なんだこの反応は……』
ご先祖様も戸惑うその光点は僕達の方へと真っすぐ進んでくる。この速さ、馬かな?
「まてええい!」
「なんだぁ!?」
変な掛け声とともに飛び込んできたのは、揃いの白銀色の装備を身につけた男達だった。少年っぽい子もいれば大人もいる。ほとんどは大人みたいだけどね。馬さえも、甲冑のような物を装備させた重装備だ。こんな場所にいるとは思えない、不思議な光景。
彼らは僕達と盗賊の間に割って入ると、代表者であろう男が1人、空に長剣を掲げた。太陽の光を反射して、妙に輝いている。っていうかこの感覚……嘘でしょ!? あれ全部……。
『精霊銀の反応がこんなに!? こいつら一体!』
「世に仇名す不届き者め! 我ら女神騎士団が相手になろう!」
女神……騎士団!? とっさに僕は上空を見上げ、マリーを探す。かなり上の方だけど、マリーはホルコーを浮かせたままだ。あの場所じゃ聞こえないに違いない……でもこのまま降りてくるのはマズイ、そう思う。だから僕は適当な方向を指さすことにした。
乱入して来た男達は、そんな僕の動きに気付いているのかいないのか、盗賊たちに襲い掛かり始める。マリーとホルコーが離れていくのを確認して、視線を戻すと僕はその間にも盗賊の攻撃が自分に来ていないことに気が付いた。まあ、それどころじゃなくなったってことだよな……驚きだもん。
「ビアンカさん、知ってますか?」
「名前ぐらいは、ね。まさかこんな場所にまでいるなんて。もっと北が本拠地のはずよ」
北……つい先日、行くなら気を付けるようにと言われた土地だ。精霊銀をお金のために使っている人たちがいるという……あの精霊銀装備の騎士たちは関係者なんだろうか?
精霊銀装備の恩恵なのかはわからないけれど、彼らは瞬く間に盗賊を討伐、あるいは捕縛してしまったようだった。気が付けば僕達はその場で警戒を続けているだけとなっている。
「君たち、無事かね?」
「え、ええ。貴方達は……」
言葉の通りなら、精霊銀を使った装備を身にまとい、女神様の名の元にこうして活動をしている騎士団……仕える相手は女神様ってことになるのかな?
でも女神様は全くと言っていいほど地上では姿を現したことがないはずだ。その代わりに、戦女神様は多少見かけるようだけど……。
「我らは北方の守り手、ノーザンデリアに所属している。今日はたまたま、こちらに入団希望者を迎えに来ていたのだ。運がよかった、と思う前に女神様に祈るといい。きっと、女神様のご加護があったのだ」
「え、ええ……そうしましょ、ファルク君」
本音を言えば、すぐには頷けなかった。けれどここはそうしておく方が無難だと判断し、よくある祈りの仕草を取る。今の僕には、女神様は本当に女神様なのか、少しばかり自信が無かったのだ。かつて出会った黒龍は決して悪の親玉ではなかった。各地のダンジョンは何も黒龍が作った物や、自然に発生した物だけではなく、女神様が手掛けたであろうものもあることを知ってしまったのだ。その上、そんなダンジョンでも人は命を落とす。本当に女神様が人間の味方なのなら……そんなダンジョンを作るだろうか?
(女神様は……僕達人間をどうしたいんだ?)
『力をつけていけば、答えが見つかるかも……しれんな』
どこか、何かを知っているご先祖様のつぶやきに咄嗟に問いかけそうになるけど我慢。ビアンカさんだけでなく、騎士団の人達もいるところであまり目立つべきではないと思ったのだ。幸いにも顔には出なかったのか、一通りの祈りの仕草で騎士団の人は満足したのか、仲間の元へと歩いていく。
本当にただの通りすがりの様で、僕達にはそれ以上用が無いようですらあった。
「もし北に来ることがあればぜひ顔を出してくれたまえ。いつでも歓迎しよう。いや、君は来る……きっとな」
「それはどういう……あっ」
気になる言葉を残して、騎士団は来た時と同じように馬に乗って駆けて行ってしまった。後に残るのは僕とビアンカさん、そして戦いの跡。
「なんだったのかしら……」
「さあ……あ、マリーを呼び戻さないと」
どうやって連絡を取ろうと悩んだけれど、ビアンカさんと2人で彼女の飛んでいった方向に向かううち、戻ってきたマリーと無事に合流することが出来たのだった。
感想やポイントはいつでも歓迎です。
頂いた1つのブックマーク、1Pの評価が明日の糧です。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




