MD2-205「絡み合う利権-1」
何かを始める時、道具を先にそろえる人、まずやってみる人、色々いると思う。その目的も様々だ。僕の場合は、両親を見つけ出すという目的があって冒険者を始めたわけだけど……冒険者をやっていなかったらどうなったのかな?
選ばなかった未来のことはわからないけれど、きっとマリーには出会えなかった。だったら、今が一番いいんだ、そう思うのだ。
「どうしたんですか、ファルクさん」
「ううん。似合ってるなって思って」
我ながらさりげなく流せたぞと思いつつも、本当にマリーの姿に見ほれる自分がいた。一見すると普通のどこにでもいる魔法使い風なのだけど、ビアンカさんの手によって整えられた姿はこれまで冒険中にはなかなかできなかったお手入れなんかも出来たのか輝いているように見える。
(っと、さすがにひいき目かな? 誰かに言う訳じゃないけどさ)
ゆったりとしたローブの裏にはポケットがいくつもあって、そこに精霊銀を薄くしたものを仕込んでいる。重さを感じるほどじゃないけれど、それがちょうどスカート部分の中に精霊を集めやすくなり、自然と魔力を練りやすくなるんだとか。
お爺さん譲りの杖はそのままに、もう片方は芯材に精霊銀を仕込むことにしたらしい。魔力の通りが全然違うそうだけど……たぶん贅沢な話だ。
『そういうファルクだって金貨クラスだぞ?』
「ファルクさんはどうですか? 肩当てやすね当ても新調ですし、動きづらいとか」
そう、僕もこれまでの軽装からやや重装備へと変更した。鎧部分のリングメイル、両腕はそのままだけど他の部位を金属防具に変えたのだ。僕の筋力が上がってきたから出来る装備……と思いきやそれだけじゃあない。
「ははは。ファルク君が意外と材料を持っていたからね、普段ならやらないぐらい贅沢に使ってみたよ」
「本当に代金は最初の金額でいいんですか?」
確かに材料のいくつかは僕の持ち込みと言っても、多分普通に注文するとご先祖様のいうように金貨1枚では足りない。ジガン鉱石の他、エスティナ鉱石で守りと癒しを、精霊銀を要所に使うことで魔法と武器、両方を使うのに適した装備となっている。
「構わないよ。むしろ久しぶりにしがらみのない仕事が出来て……おっと、気にしないでくれ」
「そう言われて、はいそうですねって言えたら冒険者はやってられないんじゃない? 愚痴ぐらいなら聞くわよ、若い2人が」
「僕達!?」
ビアンカさんも自分の割り当て分をアクセサリーにしたらしく、事ある度に手でつまんでは微笑んでいた。しばらくぶりに喋ったと思えばこれである。
とはいえ、実際気になるところだ。動く人形のルーちゃんの件にしてもそうだ。元はきっとダンジョンの物だったんだろうけど、無害な状態にする技術、こうして精霊銀を扱う資格を持っていることからもどこにでもいる職人、という訳じゃあないはず……。
「まあ、そう面白い話ではないよ。精霊銀の装備を金儲けのために使うような奴らには信仰が無い。効果が出ないのは信仰が足りないせいだと言うような集団の中から抜けてきたのさ」
「そんな人たちが……」
かつて、精霊銀を使った武具を身にまとい、あるいはメダリオンを身につけた人々は世界を飲み込むような魔物たちと戦い、見事に勝利したという。おとぎ話にあるような二度の精霊戦争時にも、同じように国の垣根を超えたような集団が人間を、世界を守ったという。
『基本的にはマテリアル教の考え方、万物に精霊が宿り、精霊に感謝することで恵みが得られるという形だが……それがゆがんだか』
「その、そういった場所からは追手のようなものは来ていないんでしょうか?」
「最初はそれらしい相手が来たけどね。相手も私を害するわけにはいかなかったのさ。それに、怖かったんだろうね。私達の持っている精霊銀の力がどのぐらいのものか、わからないのだから」
なるほど……扱えるのなら自衛のために持っていても不思議ではない、そういう考え方だったわけだ。でも、それはちょっと危うい。それこそアイちゃんとかを人質にすることだって考えられる。
そっと、僕の腕をマリーがつかんだ。心配そうな顔から、僕自身が険しい顔をしていたことに気が付いた。危ない、力が多少あるからって全部自分でなんでもできるなんて思うのは危険だ……。
「ありがとう。そう考えてくれるだけでうれしいよ。この国にいる限りは大丈夫だと思うよ。もしも君たちが旅をするのなら、北には気を付けるといい。件の集団がいる国もあるし、最近竜を見たという噂もある」
「竜かー。さすがに竜はつらいなあっていうか逃げられないもんねえ」
そんなビアンカさんの笑いに頷きながらも、僕は霊山に挑むなら黒龍以外の竜種に出会ってみるべきなんだろうか、とも思っていた。
そのためには、今の装備に慣れつつも祝福をもう少し集めたいところである。
「ファルク君は鉱石や物に対する祝福を得たほうがいいかもしれないね。物を知るということは、壊し方を知るということになる。職人が意外とゴーレムの類と戦えるのはそのせいなんだよ」
「その手が……ありがとうございます!」
今後の目標に1つの指針が加わったことでどこかすっきりとしてきた僕。長居してもなんなので、マリーとビアンカさんを連れ立って街の中心部に向かうことにした。
3人で歩きながら、今後について話していく中、ビアンカさんは急に真面目な表情になる。僕はこの顔を何度か見て来た……そうか、そうだよね。
「もうちょっとしたら、お別れしよっか。楽しい旅だけど……私がいると2人が羽ばたけない、そんな予感があるんだ」
「そんな、こちらこそありがとうございます」
元々、ビアンカさんも大きな目標があって旅をしているわけじゃない。そんな彼女をあんまり騒動に巻き込むのもね、どうかなと思っていたところではあったんだ。それに、マリーにとって歳の近い同性の仲間って嬉しかっただろうしね。
と、マリーを見るともう涙目になってビアンカさんに突撃するところだった。街角で泣く少女と、それを抱き留める少し年上の少女。僕はそんな2人のそばで、居心地の悪さをなんとかごまかしながら過ごすのだった。
結局、マリーが泣き止んだのは結構後のことだった。僕だってそうなっていたかもしれないから馬鹿にするような気持ちは全くない。誰かとの別れは、寂しい物だもんね。
「よし、明日からしばらくは浅いダンジョンをどんどん巡りましょうか!」
少しでも思い出を、そう思ってか元気のいいビアンカさんに僕もマリーも頷いて、明日の約束をした。
……が、世の中ってやつは優しくない。本当にそう思う。
「やっぱり2人のどっちか、変な運命なんじゃないの?」
「僕達に言われても……ははっ」
「もう、そんなことよりどうにかしないと!」
半日で帰ってこられるようなダンジョン、そう聞いて向かった僕達は……待ち構えていたような盗賊たちに囲まれていたのだった。
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