MD2-201「人形は夢を見る-2」
「なるほど、あの子も発掘品が元なんですね」
「ああ。元々は別の機能を持った人形だったんだろうけども、直し切れなくてね」
動く人形のルーちゃん、そしてその持ち主?のアイちゃんのご両親は鍛冶業の傍ら、ダンジョンの発掘品を扱う職人であった。使えなくなった魔道具を、直せるところは直して売っているらしい。そのままだとガラクタだったものが多少なりとも使えるものになるということでそれなりの需要があるんだとか。
(ん? なんだか最近聞いたような話だなあ)
「精霊銀を扱えるってことはかなりの腕前の持ち主ということですよね、すごいです」
「なあに、資格自体は受け継いできただけのことさ。君のその装備たちも悪くない、むしろ一品物ばかりだね」
『この距離で見抜くか、思ったより腕が良いな』
ご先祖様の宿る腕輪、もう片方のオーガの角と地竜の鱗の小手、鎧はミスリルのチェーンメイル、足元にもちょっとした魔道具なブーツ、と見る人が見ればわかるんだろうか。それだけの腕があれば、だろうけど。
会話の間、奥さんの方はずっとニコニコと僕の方を見ている。なんだか居心地が悪いようなそうでもないような……ちょっとムズムズするなあ。僕、何か変な格好しているんだろうか?
「あら、ごめんなさいね。珍しい魔力の感じだった物だから……」
「そうなんですか? 自分じゃわからないんですよね」
見える秘密は、かけている片眼鏡だという。これも発掘品で、精霊探知のような能力がついてるそうで素材を加工するときに役に立つらしい。ダンジョンで見つかる物には、戦闘に役立つもの以外にも結構こういった物があるから一攫千金を狙う冒険者がいつも絶えないんだよねえ。それにしても、なんだか初めて会うのに初めてじゃないような……。
「帰ったぞー」
そんな時、後ろから聞こえた声には聞き覚えがあった。振り返れば予想通り、露店で腕輪のこととかを見抜いてきたお爺さんだ。状況的にはどちらかのお父さんってとこだろうか?
「あ、おじーちゃんだ!」
話の間、ずっと部屋の隅で人形と遊んでいたアイちゃんは飛び上がるようにして人形を抱えたままお爺さんに突撃していった。勢いが結構あったけど受け止めてるからお爺さんも見た目より鍛えてるのかな?
「おうおう、ただいまだよ。ん? なんだ、坊主ではないか。ウチに依頼か?」
「ルーが落とし物をしたのを届けてくれたような物ですよ。そうだ、何か欲しい武具はあるかい? お礼代わりに情報なり、現物の商談なりをしようじゃないか」
「んー、今あるのはそのまま使えそうなんで、普通の部分を良いのに変えたいところですね。後、仲間に魔法使いの女の子がいるんでそっちに使えそうな防具があれば嬉しいです」
お爺さんが会話に参加してきたことでアイちゃんも人形なルーちゃんも話し合いの場に混ざった結果、なんだか急に人が増えたような感じになってしまった。雑談交じりの会話の中、それらしい結論が出るのに意外と時間はかからなかった。
「目的から行くとアイたちがつけているような装飾品を狙うのがいいだろうね。武具と違って使いまわしもしやすいし、取り換えることも簡単だ」
「造りの良い物なら、相手にもバカ受けだのう」
「あらあら、お父様。まだ魔法使いの方が女性とは限りませんよ?」
思わぬ方向に話が転がっていき、僕は微妙に追い詰められていた。限らないとか言いながら、あの顔は確信している表情だ。やっぱり言動でバレバレなのかな? よーし、こうなれば!
「実はそういう感じなので、良い奴が欲しいんですよね。安く手に入りませんか?」
「ははは。良いね、その突っ込み方はいいよ。お義父さんのほうは在庫残ってましたっけ」
「今のところはなかったなあ。一番早いのは、精霊銀を採ってくることだろうな」
お爺さんの一言で、若干場の空気が真剣味を増した気がした。というか、僕の記憶が確かならば、精霊銀は自然にはとれなかったような気がする。少なくとも、あるとしてもその量は微々たるもののはずだ。作成のレシピはどこかにあるはずなんだけど……。
『俺も頻繁には作らなかったな。使い勝手が良すぎるし、祈りの共鳴が悪用されたら厄介だった』
(そうだよねえ……って、やっぱり作れるんだ)
「無理を言うな……とは言わないのですね。さすがルーちゃんがわかる男の子ですね」
「今すぐは無理ですけど、ちょっと仲間と相談します。また来ていいですか?」
話を続けてもいいのだけど、そろそろいい時間だ。マリー達が戻っているかもしれない。それに気が付いて慌てて席を立つ僕。一応看板が出てるときは営業してるとのことなのできっと大丈夫だろう。お爺さんの方は露店が出てればそこにいるわけだしね。
結局、最後まで人形なルーちゃんには睨まれたままだった。怒らせた理由は……なんだろう? 恥ずかしいところを見られたってところかな? 対等でいたい!みたい印象だったしね。
『ほんと、ファルクは他人のそのあたりには鋭いな』
(あんまり褒められてる気はしないけど……そんなもんじゃない?)
人間、他人のことはよくわかるものだ……と思う。そればっかりでもいけないとは思うけどね。すっかり傾いた太陽に焦りながら、宿へと戻るとちょうど2人も戻ってきたところだった。あちらは外から戻ってきた僕に驚いた様子だ。
「お出かけしてたんですか?」
「運がいいね。ちょうど戻ってくるなんて」
ちょっとね、とごまかしながらもせっかくなのでそのまま食事に向かうことになった。何度も通った賑わう酒場。今日も僕達はすっかりなじみになった感じで1つのテーブルを囲み、食事をとる。多少は騒がしい方が、話もしやすいってやつだよね。
「駆け出しにはきついお店だった気がするわ。安い物でもそれなりにするのが魔道具だから」
「何か拾ったらどっちかに持っていけばよさそうですね……ファルクさんはどこに行きたいとかあります?」
「ううん。特には無いよ。精霊銀はすぐには手に入る物じゃないし……無いよね?」
僕としてはご先祖様から製造法を聞き出してそれが実践できる職人を探して……といったつもりだったのだけど2人の表情は微妙だ。何か先に依頼を受けてるのかな?
口ごもる2人の話を促すと、マリーは僕の隣に移動して来た。どうやらあまり大きな声では言いたくないようだった。ビアンカさんの視線を感じつつもマリーに顔を寄せる。なんだか体温を感じるようで少しドキドキするかな?
「そのですね。精霊銀は安産のお守りにもなるらしいんです。それで、今日訪ねた先でもし手に入るようだったら欲しいという依頼がありまして……」
「うん。それは良いことだね。でも、ということは入手先に心当たりが?」
わざわざ内緒話同然ということはそれだけ聞かれたくない話ってことだもんね。二人の受けた依頼はなるほど、女性だけが良いわけだ。でも、お守りになるぐらいでこうはなるとは思えない。場所に秘密があるかな?
「はい、そうなんです。その人は元冒険者で、時期限定で出現するダンジョンで昔見かけたことがあるそうなんです。そのダンジョンが出てくるのが聞いた話だと、三日後です」
「三日後? 随分急だね」
何かの記念日かと思ったけれど、よく考えたらダンジョンにそんなものが関係あるわけがない。たまたまってことかな。休む暇もないって感じだけど、ちょうどいいね。
「ビアンカさんはこの話は?」
「知ってるわよ。よかったら3人でってとこね」
結局、僕に断る理由は無い。そのダンジョンの難易度はわからないけれど、覗くぐらいはいいよね、多分。念のためにアイテムボックスには色々仕込んでおこう。
そうして僕は、再びダンジョンへと挑むことになった。
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