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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-020「危険と踊る-3」

「扉、ですね」


「うん。大きいねえ……」


風の魔法で浮遊し、奥へ奥へと進んだ先で見つけた扉。


入り口や通路が明らかに洞窟であり、

しかも今回の場所が時限式のダンジョンであることを考えれば

この扉が如何に異様な物かは深く考えるまでも無いと思う。


洞窟に合わせて作りました、と言わんばかりに隙間の無いその扉は

手前への開き戸で、色だけは周囲に合わせてやや茶色がかった岩肌の色だ。


周囲に罠が無いか、僕とマリーは確かめるがそれらしきものは無かった。


となると、後確認すべきはこの扉のみとなった。


「どうしよっか……」


僕のつぶやきに、マリーも悩んだ表情をする。


それはそうだろうと思う。


ダンジョンでは普段ありえないことが起きるからこそ冒険者を引き付ける、ともいうが

こうもあからさまでは腰が引けるという物だ。


ダンジョンには財宝が隠されている。


これは昔から、そう遥か昔から言われていることで、事実であるらしい。


残念なことにランド迷宮ではそう言ったものには出会えなかったけど、

ダンジョンでは時折、箱がある。


俗に言う宝箱、と呼ばれるものだ。


見た目はみすぼらしい木箱から、箱自体が豪華な物まで様々。


そしてその中身も……。


『確か、箱自体は持ち帰れないからあまり意味は無いんだよな。

 ただし、豪華な中身程罠があることが多いわけだが』


(そうなんだ、気を付けないとだ)


ご先祖様の声を聞きながらの探索では

扉に鍵穴があるのを見、ゆっくりとのぞき込むけど何も見えない。


「ファルクさん! そこから変な針が出てくるかもしれませんよ!」


「!? た、確かにそうだね」


マリーの指摘に、僕は慌てて扉から離れる。


と、その動きが何かの条件になったのか、

扉の反対側に気配。


今度は外でも見たような普通の見た目のサボタンだ。


手早く2人でその場から動かずに火の魔法をいくつか放ち、焼き尽くす。


素材と考えず、倒すだけならサボタンは非常にもろいのだ。


改めて扉に向き直る。


「うーん、開けるしかないかな?」


「向こうに何があるか……強いモンスターがいると怖いですけど、

 良い物があるかもしれませんしね。なにせ時限式ですし」


マリーも扉を見渡しながらそう考えを口にする。


そう、何があるかが問題なのだ。


いくらダンジョンに箱があるのが不自然だとしても、

稼ぐのに便利な存在であることは間違いない。


自然に、となるとがれきに埋もれた遺体から

装備を剥ぐ、なんてことになるわけど出来ればしたくない部類に入るだろう。


思うに、宝箱もモンスターのような物なのだろうと思う。


ダンジョンが生み出す、罠そのものだ。


冒険者のような存在を誘い込む最上級の罠というわけだ。


となると、ダンジョンは中で生き物が魔法を使ったりすることで

魔力が動くことで生きている生物といえるのだろうか?


答えは出ないけど、目の前の扉が大事だ。


「気配は特になし、と」


「何か魔法がかかってるような気はしますけど、何の魔法までかは……」


『俺も同じだな。いくつかの予想や、あるいは触ればわかるが触るとだめな罠もあるからな』


今のところはまだまだな僕の気配察知にも反応は無く、

マリーの言うように何か変なような?というぐらいだ。


冒険者の先輩たちから仕入れた情報によれば

こういった場合のパターンは3つ。


一番良いのはただ財宝があるだけの場合。


次に罠のかかった財宝がある場合。


出来れば回避したいのはガーディアンのようなモンスターがいる場合、だ。


最悪なのは後者2つの合わせ技かな。


苦労してそのモンスターを倒して宝箱の罠と格闘する、なんてのは

考えただけでも非常に厄介だ。


「あきらめる以外には開けるしかありませんね。ファルクさん、こうしましょう」


悩む僕にマリーが語った内容に、しばらくの時間をおいて僕は頷く。


彼女の作戦はこうだ。


扉の左右に分かれ、マリーが扉を引っ張るようにして開く。


僕は中から何かが飛び出してきてもいいように警戒し、必要に応じて迎撃、と。


左右に分かれたのは扉の罠が手を付けたほうに襲い掛かったという時に

全滅するのを防ぐためだという。


僕が開ける!といった時にマリーは

自分ではモンスターが飛び出てきた時などに対応できませんから、と笑った。


そんなマリーを見て、僕は彼女を何かあった時には必ず守ろうと思えた。


すぐ後に、そのことを色々な意味で後悔するのだけど、

その時の僕は知る由も無い。






どちらの飲み込んだ音か。


ごくりと唾をのむ音が聞こえた気さえする中、

マリーがゆっくり扉に手をかけ、開こうとしたところで──消えた。


「え?」


『! しまった。この手が!』


呆然とした僕の声と、あせったようなご先祖様の叫びが僕の頭に響く。


それらが目の前で起きたことを理解させたとき、

飛び出した感覚と共に体中を痛みが襲った。


「くぅっ!? なんで!」


『落ち着け! 向こうに何があるかわからないんだ!』


痛み、前に飛び出そうとする自分と、

ご先祖様による踏みとどまろうとする動きがぶつかった結果だ。


マリーを助けるべく扉につかみかかろうとした僕を

ご先祖様はなぜか止めた。


叫ぶ声に怒りのような物が混ざっていることを自覚しながらも、

止まってしまった足に必死で力をこめる。


それでもご先祖様の言葉に、多少なりとも

冒険者として過ごしてきた僕の理性が納得したのか、

自然とその力も緩んでいくのがわかる。


「……で? どうしよう」


『向こうには敵わないような怪物がうじゃうじゃいるかもしれないぞ?』


高まった感情が少し引っ込めば、現れるのはマリーを失うかもしれないという気持ちと、

僕自身へのいらだちが顔を出す。


「構わないよ。ここで彼女を見捨てたら両親に叱られちゃうよ」


そんな中、口に出して僕は妙にすっきりした。


そう、マリーを見捨てるなんてありえない。


『なら、良い。いきなり落とし穴の類に落ちていくことも考えられる。

 準備だけはして、飛び込め!』


結局ご先祖様は僕の味方だった。


要は、無駄死にするのは良くないこと。


ちゃんと考えて動けということだったのだ。


扉をぶち破る勢いで肩からぶつかっていくと、

何かに当たったような軽い感触の後、僕は妙な浮遊感を感じていた。










お昼寝の寝起きのような妙な感覚の中、

僕は別の場所に転移したことを実感する。


妙に高い天井。


周囲に点在するがれきのような岩の塊。


幸いにもいきなり足元が穴、なんてことはなく地面を踏みしめている。


目をしばしばさせながらも周囲を観察し、

気配を感じたのでそちらを向く。


そして、目に入ってきたのは離れた場所にいたマリーと、巨大なサボタン!


しかも膨らみ、マリーに向かって無数の針が飛ぶ瞬間だった。


「マリーぃぃぃ!!!」


もっと早く飛び込んでいればという後悔の中、

僕の視線の先で止めることも出来ずに巨大サボタンから針がマリーへと向かい、

そして……マリーの手前で針が止まる。


『飛べ! 細かい制御はこっちでやる!』


「いっけぇえ!!」


マリーを針から守っているらしい透明な何かは

障壁を張るというネックレスに違いないけど、ずっとという訳にはきっといかない。


僕は感情の高ぶりのまま、外でしか使わないほうがいいような

高速移動が出来る風の魔法、ウィンドチャージを全力で発動させる。


僕の実力だと障害物がない場所でないと

危なくて仕方のない習得具合なのだけど、

ご先祖様の補助のせいか、一気に最高速になった実感はあるのに

すごく安定している。


だからこそ、見る見るマリーとの距離が詰まり、

気が付けば彼女のすぐそばに来ていた。


ようやくこちらに気が付いたのか、マリーの表情が驚愕に染まる。


その胸元で、件のネックレスが魔力を帯びた光を放っている。


『強い力だ。よっと、解除するぞ』


すべり込むようにマリーの横に到着すると、

何故か障壁は僕をはじくことなく受け入れてくれた。


「お待たせ!」


「どうして来ちゃったんですか! 危ないですよ!」


心配だったから、とは正面から言えず、

ごまかすように彼女から視線を外して、元凶である巨大サボタンを睨む。


視線の先で再び膨らむ巨大サボタン。


『火の玉からのウィンタック! そして土壁だ!』


「この手に集い、赤き鉄槌を! 火火球!! 続いて戒めの風よ!」


ご先祖様の補助を受けているからか、明らかに自分一人ではできないような速度で

魔力が集約し、詠唱も素早く終わる。


飛び出した火の玉を本来足止めに使うような風魔法が押し出し、

あっという間に僕達と巨大サボタンの間に飛んでいく。


そして見た目なんかをまったく気にしない土壁を展開するのと、

巨大サボタンの針が火の玉にぶつかって爆音を立てるのはほぼ同時だった。


追撃は……今のところ来ない。


ならば、と僕は叫んだあと静かなままのマリーに向き直る。


「マリー、助けに来たよ」


「なんで来ちゃったんですか? 無謀と勇気は違うんですよ?

 私を助けに来て2人とも死んじゃったら大変です」


色々な物を隠した状態での僕の声に、

マリーは何で飛び込んできたんだ、とどうやら本気で怒っているらしかった。


適当な言葉では逆効果っぽいようだ。


『まあ、正直に言うんだな』


(言えるわけないでしょ!)


からかうような突っ込みに、心の中で叫び返す。


そう、言えるわけがない。


女の子である君のことを男として助けたかったんだ、なんて。


だから……。


「大事な、仲間だからさ……君以外考えられなかったから……じゃダメかな」


そんなたぶん、かなりあいまいな答えを口にしてしまうのだった。



この間も巨大サボタンは空気を読んで……という訳でも無いのですが

自分で書いててブラックコーヒーオイシイデス。

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