MD2-199「西方探索模様-6」
無数の水槍に貫かれ、動きを止めていくラヴァゴーレム。核はまだ無事らしいけど体を支えられなくなったらもう動けない。マリーとビアンカさんは僕のしたその結果を、呆然と見ている。まあ、この前はあれだけ苦戦したのにね。僕もここまで上手くいくとは拍子抜けもいいところだ。
『少し時間があれば補充も簡単だからな、扱いに気を付ければ便利な物だ』
「あの、ファルクさん? これは……」
「今の、アクアショットよね? あれだけ真っすぐ飛ぶのもあまり見ないけど、数がすごくない?」
復帰して来た2人の質問はもっともな物だ。僕は視界にいるラヴァゴーレムの動きに気を付けながらも、2人に布袋を持ち上げて見せた。アイテムボックスだよとだけ告げて。実際には何もないところに手を突っ込めるからこの布袋はあくまでわかりやすいように、だけど。
そんな布袋の口にアイテムボックスの口を合わせて、僕は最近覚えた水の魔法であるアクアショットを撃ち込んで見せた。
「あっ」
「中に……消えた?」
そう、僕が撃ったアクアショットはそのままアイテムボックスの中に入っていったんだ。世間に流通しているアイテムボックスには結構性能に幅がある。入る量もそうだし、入ってる間に冷めない、つまりは時間が止まってるかどうかといったこともあるらしい。当然、容量が大きく中の時間が遅くなるほどどんどん値段は高くなる。
ぱっと見ではその性能はわからないはず。そう考えると、僕の使えるアイテムボックスの性能を見抜いて助言をしてきたあのガラクタ屋のお爺ちゃんがすごいってことになるんだよね、今さらだけどさ。
「そのアイテムボックスの価値とかは考えないことにするわね……で、どういうことなの?」
「答えは簡単なんですよ。こういうアイテムボックスはそこに入れた時の色々が止まったままなんですよ」
「止まったまま……あっ!」
気が付いたらしいマリーに微笑みながら、さっき撃ち込んだアクアショット(と決めるのがコツがいるのだけど)を天井に向けて取り出した。それは僕が撃ちこんだときと勢いを変えずに天井へと突き刺さる。
「出てくる向きは変えられますからね。後はこれに容量いっぱいまで撃ち込んで……出すだけです」
「……ますます一部のアイテムボックスが高騰しかねないわね。内緒にしておいた方がいいわ。武器を取り上げても戦えちゃうなんて、考えようによっちゃとんでもない話だもの」
確かに袋の口を向けたらいきなり魔法が飛び出てくる、なんてのは恐ろしい話だ。今回は水という入れやすい物だったから出来たんだよね。炎とか風はダメだった。よくわからないけど駄目なら仕方がないのだ。
「目撃する人が来るまでは続けましょうか……」
「そうだね。どんどん行こう」
「説明が大変だわ。コレ……」
核の採取だとかは2人に任せて、僕はアイテムボックスを手にダンジョンをうろうろし始めた。ラヴァゴーレムを見つけるなり一気に撃ち込んで倒し、回収しての繰り返し。これでもラヴァゴーレムから何かが自分たちの体に入ってくるのがわかるから階位を上げることは出来るだろうという手ごたえがあった。
「ビアンカさんには倒した分の恩恵があまりなさそうですいません」
「え? いいのいいの。こんだけ楽に稼げるなんてめったにないんだもん。」
何かが入ってくるのが僕とマリーだけだということに気が付いてすぐに申し訳なさそうに言うと、笑いながらそう告げられた。別にこれからずっと同じってわけじゃないんだから楽しむだけよ、と言われてはこちらも頷くしかない。
『上手くやれば未熟な駆け出しでも稼げるかもしれんな』
(うーん、それはそれで後で大変そうだね)
多少はありだと思うけど、ずっと稼ぐにはあまり良くない手だなと自分でも思う。実際、やってることってアイテムボックスからアクアショットを取り出して、また撃ち込んで補充しての繰り返しだからね。
もしもまともに戦っていたらどれだけの手間だっただろうか? 両手で余るほどの核を集めた僕達はまだ誰も来ていないだろう区画の手前まで来ていた。この先に何があるか気になるところではあるけれど、無理は良くない。
「追加のラヴァゴーレムは沸いてこないみたいだね」
「しばらく見つかってなかったから溜まってたんでしょうか?」
「たぶん、そうだねー。さあ、もどろっか」
静かになったダンジョンの新しい区画を前に、街に戻るとこにする。お話だと大体こういう時って変なのに襲われるんだよなあ……念のために注意しながら……気配!?
「先手必勝! っとと」
「まったまった!」
曲がり角にいた気配は僕達より年上らしい冒険者だった。最初から地図を見ていればよかったかな。そこには青い光点があったんだもの。どうやら装備からして、ラヴァゴーレムを倒しに来たみたいなんだよね…。
「こっちに来たってことは失敗したのか?」
「ううん? がっつり倒しちゃったわよ。たぶん、残ってても1匹か2匹じゃない?」
あっさりとビアンカさんが答えてしまうことで、相手はポカーンとした感じになってしまった。そりゃあ、朝の内にはまだたくさんいたんだもん、当然だよね。
何なら見に行く?ということになり僕達はまた奥へと行くことになってしまった。出来れば早く戻って休みたいところだったのだけどしょうがないね。結局、冒険者たちが僕達がラヴァゴーレムを倒したらしいことの証人のような形になった。
なんだか申し訳なくて、食事に誘ってみるのだった。というのもラヴァゴーレムは全部で30体以上いたらしく、核もほとんどが無傷だったから高値で買い取ってもらえたからだ。色々研究や素材に使えるらしいんだよね。
「3人とも見た目にはそこまで強そうに見えないのに、やるなあ」
「たまたまですよ」
僕としてはもうこうやって誤魔化すしかない。マリーもちょっと引きつってるし、ビアンカさんもようやく異常さに気が付いたらしい。でも後で、僕達が非常識すぎるから慣れてしまったから、なんて言われたのはちょっとだけ納得いかないかも。
それでもワイワイと騒ぎながらの食事は楽しい時間で、あっという間に過ぎていった。そのうちにお開きとなって僕達も宿に戻る。気疲れからか、マリーは既にうつらうつらといった状態だった。
「じゃあビアンカさん、おやすみなさい」
「ええ、お休み。あ、明日はゆっくり目にいくから安心してね」
言葉の意味を問い詰める前に、彼女には逃げられてしまった。後には半分寝た状態で僕にもたれかかるマリーだけが残される。触れた場所から伝わる温かさはいつもより高めで……。
『するなら引っ込むぞ?』
(しないよっ! そういうのは起きてるときにって何を言わせるのさっ)
なんだか急に疲れが襲ってきた気がして、だるい体を引きずりながら僕も宿へと向かいマリーを寝かしつけるとすぐに寝てしまうのだった。
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