MD2-197「西方探索模様-4」
行方不明になった両親の行方を追って、目撃情報のあった霊山に挑むべく各地を旅して力をつけている僕とマリー。巡り巡って西方諸国へとやってきた僕達は、新たな祝福を得るべくダンジョンに挑んでいる。
挑んでいる……はずなんだけど。
「んー、こっちはあまり純度が高くないみたいですね」
「なんだと!? くそ、もう少し掘らないと足りないか。ありがとよ!」
大げさに叫びながらテーブルにいくばくかのお金を置いて行く冒険者を見送る。きっと彼はこのまま近くの採掘が可能な鉱山か、ダンジョンへと向かうのだろう。僕より少し年上だけど、まだ実力はおぼつかないそうで討伐よりも採掘でまずはお金を稼いでいるんだとか。
『鑑定スキルが覚えられるかは結構素質が必要だからな。経験を積めば近いことは出来るが……』
(なるほどねえ……って、そうじゃなくって)
「あれ、僕なんでこんなことやってるんだろう?」
「そりゃあ、坊主が便利だからだろうよ」
マリーとビアンカさんと一緒にダンジョンに潜り、想定外のラヴァゴーレムとの遭遇とダンジョン内の崩落から数日。気が付けば僕は毎日ギルドの片隅のテーブルで鑑定屋もどきをやっていた。そのうちどこからか苦情が来るかと思ったけれど、引き取る側も質が良いならそれに越したことはないからか、表立っての苦情はないんだよね。
小銭は増えるし、色々見れて面白くはあるけれど、僕の目的はそんなことじゃない。すぐそばで、僕に丁寧に応えてくれたのは名前も知らない常連っぽいおじさん。僕が見てる限り、ほとんど一日中ここにいて冒険者のやり取りを眺めてるんだよね。暇人なのかな?
「言っておくが、目的があって待機してるんだ。無職ってわけじゃないぞ」
「あ、そうなんですね。じゃあ僕、今日は行きますので」
稼いで来い、なんて気軽に声を掛けられるとなんとも言えない気分だけど実際、そろそろ稼ぐ必要がある。お金というより、経験を……かな? 僕がここにいる間、マリーはビアンカさんと一緒にこまごまとした仕事を受けて外に出ている。最初はただ熱にやられただけかなと考えていたのだけど……そのね、女の子特有の事情も合わさってたみたいで激しく動くのは無理だったみたい。
(マリーまだだったんだ……って何を考えてるんだ僕は!)
早くから両親が行方不明になったこともあり、村のおばさんやお姉さんたちからは妹のいざという時に備えて一応話は聞いていたけれど、残念ながらというべきか今まではマリーもそうなってなかったか、そこまで深刻ではなかったらしい……この話題はこのぐらいにしておこう。主に僕の精神が持たない気がする。
「戻ったよってまだ帰ってきてないんだ……どうしよっかな」
これから何か依頼を受けるというのも遅いし、ずっと待ってるっていうのも時間がもったいない。仕方なく、何か掘り出し物でもないか町を見て回ることにした。宿の人には伝言を頼み、ホルコーに挨拶してからふらりと一人で歩き出した。
『なんだか俺とファルクだけってのも久しぶりか?』
(そうだねえ。旅立ってすぐにマリーとは一緒だもんね。とても助かってるよ)
仮にマリーに出会わなかったとしたら、1人ではないと言っても2人旅とは言いにくい状況だ。寂しさがきっとどこかで湧き上がってきただろうなという変な自信がある。どのぐらいになったら霊山に挑んでも大丈夫かははっきりしないけれど……最近、思うのだ
絶対大丈夫な力があるかどうかなんて誰にもわからないな、と。
もちろん、無数の魔物を切り伏せ、吹き飛ばすような力を手にしたならば間違いないかもしれないけどそれはもう、何か別の物だ。どこかの段階で、一度挑戦してみたいなという気持ちがある。
『いざとなれば俺はファルクの決断を尊重するよ。生き残れるように全力で手伝うさ』
嬉しいことを言ってくれるご先祖様にしても、僕達の実力が十分かは今は何とも言えないらしい。旅立った直後は当然無理筋だとして、今は普通の冒険者では手に入らない物も手に入れ、そこそこの場所にいると思っている。武具とか、伝手とかね。それらを上手く使えばいいところまでは行けると思うんだ。そのためにはもっと手段がいる。
例えばそう、あの店に並んでるガラクタのように見える中にも魔道具があるし……んん?
「本当にお店かなアレ……」
思わず小さいながらも口にしてつぶやいてしまう。というのも、市場の中にあって人が立ち止まることがほとんどない様子を受けるガラクタの山のお店なのだ。値札も出ておらず、なんだかよくわからない物が並べられているだけ。その中央に店主だろうおじいさんが一人、座っている。
さっき僕は、この山を見て魔道具がある、と感じた。まさかと思いつつも店の前に立って、見て見ても?と声をかけてみた。答えは、了承。好きに見ていくといいとのことだった。
(これは……何か魔法が出てきそう。だけどカラッポって感じだな)
古ぼけた赤い杖を手にして感じたままに鑑定を試みると、ご先祖様の意見も同じだった。正確には火球を撃ちだす杖らしいのだけど、使い捨てでその回数も無くなってるらしい。補充の効かない奴らしいので本当にただの杖になってるようだ。内心ため息をつきながらも次を手にする。次に手にしたのは薄汚れた水筒。よくエールを飲んでいる器1回分ぐらいしか入らなそうだ。冒険のお供にするならもう少し量の多い物を……え、これ……。
「お爺さん、これ売り物でいいの?」
「ほう……わかるか」
両手でしっかりと水筒を握り、思わず真剣な声色で問いかける僕。それが伝わったのか、お爺さんはぼんやりした顔つきから商売人のソレになった。よく見るとガルダさんと同じ雰囲気を感じた。ローブの裾から見える手にも何かで出来たタコがいくつもある。
『こいつはまさに掘り出し物だな。浄化機能付きの水筒は今の時代には珍しいだろう』
そう、ご先祖様の言うようにこの水筒も魔道具だったのだ。僕には詳しい性能はわからなかったけれど、清浄なる水筒、なんて名前が出て来たんじゃなんとなく予想はつくよね。魔力も込められそうだし、恐らくは中に水を入れて魔力を込めれば……ってやつだ。生水が危ない旅にはあるとすごく便利だね。
「水をどうにかする道具ってところまでは。これ、お爺さんが集めたんですか?」
「ああ、どんな使えない魔道具でも買い取る商売をしとるよ。安いもんがほとんどだがね。ひょこっとりと上物が出てきやしないかと思って……坊主、腕を見せてくれんか」
腕というからには何かの討伐の依頼かと思いきや、お爺さんの視線は僕の両腕に交互に注がれている。片方はオーガの角と地竜の鱗を使った一品物、そして反対側はご先祖様の宿る腕輪だ。お爺さんはこの距離からどちらも普通じゃないと見抜いたらしい。
「いいですけど、売りませんよ。大事な物なので」
「構わんよ。本物をこの目で見ておきたかった……おお、間違いない。世界に5つと無い、かつての英雄の意識が封じられた腕輪だ。こうしていても中に宿る意識の波動を感じるぞ」
『この爺さん……何者だ?』
警戒の声を上げるご先祖様。僕もお爺さんの様子に少し怖くなり、思わず1歩、下がってしまう。手元から腕輪が遠ざかったことに残念そうな顔をしたけど、すぐに何度も頷いた。
「それでいい。迂闊に近くで人に見せない方がいいだろう。私でなければ腕ごと切り取るような輩もいるやもしれん。時間はあるか? 少し、話をしないか?」
「……わかりました」
まだお爺さんの考えやどんな人かといったことはわからないけれど、このままの別れはなんだか駄目な気がした。そうして、お爺さんから語られたのは魔道具の歴史と……かつての精霊戦争直後の逸話たちだった。
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