MD2-195「西方探索模様-2」
寝落ちしてました……
かつて、大陸を支配したという帝国の祖である最初の勇者。彼が力を示し始めたという土地に来た僕達は試練の洞窟というダンジョンに挑んだ。色々あって無事に突破した後、酒場で出会った冒険者であるビアンカさんと共に、祝福が得られるというダンジョンを目指して旅立つことになったのだ。
夜明けとともに、村の北門から僕とマリーはホルコーに、ビアンカさんは自身の馬に乗って揃っての旅立ちだ。ちらりと見ると、僕達と違ってビアンカさんの馬の背中にはそこそこの量の荷物がぶら下がっている。馬の負担というほどじゃないだろうけど、なんだか僕達が軽装過ぎるのが目立つ気がする。
(もっとそれらしく荷物を出しておいた方がいいのかな?)
『今さらと言えば今さらだが、仮に落ちても惜しくないような物にしておくほうがいいだろうな』
指摘のあったように、外に出すにしてもそんなに高くない物を出しておくべきかなと思った。なにせ、今は無理でも空を飛んだ時に落っこちたら大変だもんね。それに、僕ほどの容量となるとすごく高いとしてもアイテムボックス自体は昔からあるはずなのだ。
「2人共さー、その馬……預ける時には気を付けたほうがいいかなー」
「? どういうことです? ホルコーは悪さはしませんよ」
実際、これまでにホルコーが暴れたとか、何かしたという話は聞かない。多少他の馬より食べるかもしれないけどその分の代金は払ってるし、文句も言われたことは無いんだよね。
でもそういうことではないみたいだ。隣を進むビアンカさんはじっとホルコーの体つきを眺めているようだ。
「んー、逆なんだよね。良すぎるんじゃないかなーっと。私から見てもさ、いい馬なんだよね。それこそ、ちょっと無理してでも……欲しいなって思うぐらいに」
「なるほど。ファルクさん、要は馬泥棒に注意ってことです」
「そっか……でも大丈夫じゃないかなあ?」
ビアンカさんの心配ももっともだし、マリーもわかった上でそれでも心配ってとこだろうけど、多分大丈夫。というのも、ホルコー自身、もう身を守れない子じゃないもんね。
どう説明しようかと思った時、ホルコーが勝手に速度をあげて少し前に出た。慌てて手綱を持った僕だけど、視線の先にいた相手に気が付くとホルコーの好きにさせることにしたんだ。僕とホルコーが見る先には……街道にひょっこりと出て来たゴブリン。どこにでもいる魔物であるゴブリンは、逆に言うとどこに行くにも注意しないといけない相手となる。
「あっ!」
ビアンカさんがそれに気が付いて警戒の声を上げるけど僕達はもうゴブリンの表情がわかるぐらいまでの距離に来ていた。そのままホルコーは奇声を上げるゴブリンの前まで駆け寄ると、体をひねるようにして後ろ脚を使ってゴブリンを蹴り上げたのだ。
「うっそ……吹っ飛んでった……?」
小走りにやってきた馬の背の上で、ビアンカさんは驚きの表情だ。そんな彼女と、ホルコーを見つめる馬の姿にふふんと得意げな様子のホルコー。危険な目にはあって欲しくはないけれど、このぐらいなら問題ないだろうなと僕は思っている。マリーも、そのことを改めて感じたみたいだった。
「なるほどね。ちゃんと一緒に冒険してるんだ。ウチの子も長いけど……同じことをやれとは言えないわ……」
そう言いながらも自分の馬を撫でてねぎらう姿は馬を大事にしてるんだなと感じさせ、好感が持てた気がする。ちょっと偉そうだったかな?
実力はまだわからないけれど、結構西方諸国のあちこちを旅してるらしいビアンカさんから見ても、ホルコーはどこの兵士や冒険者でも欲しがるだろうという評価を頂いた。
「後はからめ手に注意かな? さすがのその子も眠らせられたり毒とかは無理でしょ?」
「確かに……気を付けます」
道中はそんなことを他の雑談を交えつつ、かなり平和な道のりだった。たまに魔物は出るけれど、それもあまり強くなく大体が一発でケリがついた。この様子だと……討伐を中心にする冒険者は食べていけるんだろうかという疑問が残る。
夜のたき火を囲みながら、そのことについて聞いてみた。今日の見張りはマリーにやってもらう予定ということでマリーは夕方の内からもう寝てもらっているので僕とビアンカさんはそれまで火の番という状態である。
「あー、そっか。2人は東から来たんだよね? あっちと違ってこっちは細かい国が協力し合ってるわけ。だけど逆に言うと、その国を通らないといけないってことはあまりないのよ。魔物が多くて護衛の経費がかかるならかからない道を通ろう、そういうことが出来るのね。だから、どの国も自分の領土内の魔物の討伐には力を入れてるから街道から逸れない限りは大丈夫よ。たまーに、森から出てくるんだけどね」
「そうなんですね。ということは討伐をしたい冒険者は街道から森とかに入っていく必要がある、と」
管理する範囲が東と比べて狭い分、手が行き届いている……そういうことみたいだ。これが上手く行ってるうちはいいんだろうけど、どこかがこけたら連鎖的にこけそうで怖いなと思った。1人の王様に広い土地が支配されているというのも問題をはらむけど……どっちもどっちかな?
そうして、大きな問題もなく僕達はビアンカさんの言っていた街のそばまでやってきた。ここからでも煙突のある建物が多く見えるし、街の周囲になんだか小山……丘と言った方がいいのかな? そんな感じの場所がいくつもあるんだよね。
「あれが鍛冶の街、スコットよ」
「鍛冶の街……ということはあの煙突は全部工房なんだ」
「鉱石とかの需要はいつでもありそうですね」
よくよく考えると、僕達は今のところ装備の更新を必要としていない。僕は明星があるし、防具も片方はご先祖様の腕輪がはまってるし、もう片方はオーガの角と地竜の鱗も使った物。鎧もいつぞやのチェーンメイルとかだし……でも、伝説の武具ってわけでもないもんね。鎧とか他の防具でいいのがあれば見て見ようかな。
「あの街はね、ただ作るだけの鍛冶士ばかりじゃないのよ」
買い物をするつもりが僕達にあまりないのを見て取ったのか、そんなことを言うビアンカさんに僕達はそのまま顔を見合わせてしまう。彼女がそういうからには、何かがあるんだろうね。
『なんにせよ、色々見て回りたいな。血が騒ぐ……今は血がないわけだが』
(それって冗談? あんまりおもしろくないかも……)
ご先祖様のうめき声を心の中で聞きながら、どんなお店があるのか僕も気になってきた。ここからだとお金がかかるから実家に送るわけにはいかないのが難点なんだよなあ。
気が付けば、街道を進む馬車や人もその数を増やしてきた。この街で仕入れてどこかに売りに行くのか、荷物満載の馬車や、僕達みたいな冒険者とかも色々だ。
「ダンジョンの話を聞く前に、ちょっと街を見て見ない?」
そんなビアンカさんの提案に、僕もマリーも頷いた。反対する理由もないし、この街に来たことがあるであろう彼女の案内なら外れもなさそうだなと思ったんだよね。
一体どんな出会いが待っているのか。いつもより楽しみな自分がいることに気が付いて、なんだかより楽しい気分になってしまうのだった。
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