MD2-191「最初の勇者-2」
「思った通りというか、思ったより違うというか……難しいなあ」
「最初の勇者のお話はいくつもありましたね」
宿にホルコーを預け、町を歩く僕達。素朴な田舎の町、と呼ぶのが一番似合うのだけど所々そうではない物がある。それはなんでも何百年も前にいたという伝説の勇者の話だ。黒目黒髪で、とてつもない力を持って魔物をなぎ倒し、周辺の国々を併合したという……黒皇帝。
噂半分、いや……百分の1ぐらいに考えても相当な力の持ち主だったんだろうなって思う。だからと言って、とある山に住む無数のドラゴンもまとめて一刀両断したとかはおとぎ話もいいところだ。僕が言うことではないかもしれないけど、大体こういうお話って都合のいい部分を組み合わせて作るからどこが本当のことか、考えても仕方ないところではあるんだよね。
第一、ドラゴンも1頭相手なら、なんとかなるかもしれないのがこの世界なのだから。僕だって全力で上手く奇襲できれば飛竜ぐらいなら……どうだろうか、ドラゴンゾンビみたいなのはなんとかしたけどさ。
『本当の最初の勇者はここではないところで死んだはずだ。ここに眠っているのなら、その子孫だな』
(へー……じゃあ残ってるのはその子孫が言い伝えたお話なのかな)
あっさりと、立っている石碑の1つを否定にかかるご先祖様。どっちを信じるか?って言われたらご先祖様だけど、そのことはあまり意味がないんだよね。大事なのは、隣でずっと目をキラキラさせて色々と見回っているマリーと一緒に、霊山探索に役立つ物を得る旅の途中だということなのだから。
「あ、あれですよきっと。人がたくさんいます」
「うわ……僕達の順番までどれぐらいかかるんだろう?」
町の大きさのわりに、騒がしいなと思っていたら理由がはっきりした。角を曲がったところは広場になっており、そこに多くの人が集まっていた。半分は試練の洞窟だっけ?に行こうとする冒険者で、残りはそんな彼ら相手に商売をしている人たちだろう。中には同行して来たけど外で待つというつもりなのか戦うつもりのない姿の人もいる。
そんな人ごみの奥に見える岩山、そこが試練の洞窟に違いない。だってどんどん人が入っていくからね。でもあんなに何人も入っていったら中で戦いにくいし、問題じゃないんだろうか?
「ああ、心配はいらないよ。何故だかあの中は、すぐに違う場所に飛ぶらしいんだよ。私は行ったことがないけどね」
疑問に思い、近くの雑貨屋さんに聞いてみるとそんな答えが返って来た。つまりは、試練の洞窟はダンジョン……ということかな? こんな場所にあるからには今まで魔物が出てきたということはないんだろうけど。
そうこうしているうちに、なぜか岩山の陰から出てくる冒険者達。たぶんあっちが出口なんだろうね。逆走は出来ないみたいだった。
「危険が多ければもっと問題になってるでしょうから、大丈夫なんでしょうね」
「そうだね。でもだったらどうして試練の洞窟とか呼ばれるんだろう?」
こればっかりはお店の人も教えてくれなかった。知らない、という可能性の方が高そうではある。ふと気が付けば、順番の列は随分とその数を減らしていた。案外、速く番が来るみたいだ。
「手、つなごっか」
「はいっ」
1人ずつ受けるのもなんだし、2人でまとめて受けよう、そんなつもりだったのだけど、なんだか照れくさくなってしまって少し視線をそらしながら手を差し出すなんてことになってしまった。マリーが元気に握ってくるものだから気にしてるのは僕だけかなと思ったら……伏したようにしている彼女の顔は赤かった。
そんな僕達を見る人はたぶんほとんどいない。町の人は試練の洞窟に入る冒険者そのものは気にしていないようで、物を買うかもしれない状態の冒険者の方が大事みたいだからね。
『油断は、するなよ』
(うん……何があっても、頑張るさ)
一応は門番のように立っている人たちだけは2人を見て意外そうな顔を向けて来た。でもたまにはあることなのか、特に呼び止められることもなく僕達の番になり何の変哲もないように見える洞窟に……入った。
「? あれ? ここ……どこだ?」
てっきり洞窟を進むのかと思ったら、視界がゆがんだ先に現れたのは砂浜と、水辺だった。海……じゃあないね、これは湖だ。そう、山の上から見たこの町のある湖とその砂浜部分にそっくりだ。だとすると洞窟に入ったつもりが、外に出て来たってことかな?
「ファルクさん、後ろを見てください」
「後ろ? え?」
最初は僕1人かと不安に思ったけれど、手の中にある確かな彼女のぬくもりに平穏が戻って来た……のだが彼女に言われ振り返ることでまた不安が胸に飛来する。振り返った先には、森しかなかった。町は、どこにもなかったのだ。
慌てて正面に向き直ると、先ほどまでと同じ湖。いや、その向こうの山は……煙を噴いている。火山……だけど外にいた時はあんな煙は出ていなかった。これらから導き出されるのは、この場所も試練の洞窟の一部だということだ。
「まったく、なんでもありなんだね」
「やっぱりダンジョンなんでしょうか」
たぶんね、と答えつつも心の中でご先祖様に色々と聞いてみるも返事が返ってこない。ふと腕を見た僕は固まった。ご先祖様の宿っている腕輪が……無い。
旅に出る時からずっと一緒だったご先祖様、ファクト爺ちゃん。その存在は僕の心の支えと言っていい。どんな時も、最後まで助言をくれて助けてくれる……家族と言っていい。
「ファルクさん、しっかり!」
「はっ! あ、ありがとう。よくわかんないけど、しっかりしないといけないよね」
どうして腕輪が無いのか、それはわからない。けれど、マリーにほっぺをはたかれて戻って来た僕は深呼吸をして自分を落ち着かせた。改めて身の回りを確認するけど確かに腕輪は無い。けれど腕輪が無いように見えるだけだと感じることが出来ていた。力は、感じるんだ。明星や衣服が無くなっていないように、力としての腕輪はまだ僕の腕にあると実感する。
ようやく心を落ち着かせ、周囲をよく観察して気が付いた。湖の中央に、何かがある。小島と建物……かな。まるでそうしなさいと言わんばかりに、小舟まで。罠とも思えるけど、あそこに行かないとダメな気がした。
「マリー、あの船で進もう」
「はい! 冒険はどきどきしますけど、これも楽しいかなって最近思えるようになってきたんです」
そう言って笑うマリーは僕よりよっぽど冒険者としての素質があるような気がしたけれど、僕も負けていられない。念のために底が抜けないかとかを確認して、僕達は他に誰もいない湖へと漕ぎ出した。
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