MD2-190「最初の勇者-1」
ヒポグリフの森を出て南へ。魔法の翼を得たホルコーによって徒歩ではありえない距離を飛んだ僕達。名前も知らない村で唯一の宿に泊まり、僕達は昼過ぎまで寝てしまうのだった。
宿の人からすると、朝一番に飛び込んできたと思えばそのまま寝ているのだから不思議なお客に見えたことだろうね。それでも旅人となれば不定期な過ごし方をするのもよくあること、ということなのか無理はしないようになと言われる程度で済んだのだ。
「勇者の里に行くには時間が足りないかもしれないから、今日はここで過ごしてから明日行こうか」
「そうですね。無理せず、行きましょう。この村……どの辺にあるんでしょうね」
村にいくつかある井戸の内の1つ。村人が雑談でもするのか椅子があったので2人してそこに座り、村を眺める。特にこれといった特徴はないようだけど、平和な感じのいい村だ。柵も簡単な物だから魔物も少ないんだろうなと思わせた。
僕たちが来た方とは反対側には小高い山。村の道は、そちらの方に続いているように見える。入り口で迎えてくれた人も言っていたよね、勇者の里があるって。それも気になるのだけど、まずはここがどこか、ってところからだ。
何か良い物が売ってるかもしれないという考えの元、僕達は村で1つっぽい雑貨屋さんに顔を出すことにした。村の規模のわりに大きいのは、ここを中継地にする人がそこそこいるからなのかもしれないね。村人向けっぽい雑貨から、旅に必要そうな物まで様々。内容は別にして、なんとなく実家を思い出した。
「おや、随分若い旅人だね」
「こんにちは。噂の勇者の里に行ってみようかなって思うんですけど、地図ってありますか?」
細かい地図は色々と問題になるらしいから売ってることはまずないはず。でも簡単な物、地域で生きていくのにあったほうがいい程度の物は意外と売っているのだ。その地図が描かれてる紙も昔々の英雄が開発したというから世の中面白いよね。それより前は動物の皮を使ってたんだってさ。
「あることはあるけど、必要ないぐらいさね。真っすぐ道をたどればつくからね。でもまあ、欲しいというのならこういうのがあるよ」
見せてもらった地図は、確かに実際に必要かどうかはかなり微妙なところだった。近くの川、森、勇者の里への道、ここに来る前にあるらしい大きな街への道等が簡単に乗っている。それでもご先祖様には地名に心当たりがあるみたいだった。
『そうか……ここが。西方諸国でも南側に近い場所だな。だいぶ西方諸国に食い込んだ感じだ』
「これもらいます。後そっちの干し肉も」
「あいよ。お嬢さんはその彫り物が気になるのかい?」
店番のおばさんに代金を渡していると、おばさんの言うように僕の横でマリーが何やら木彫りの人形のような物をじっと見つめていることに気が付いた。つられてみると、大きな竜相手に少年らしい姿の人間が切りかかっているという木彫りにしては臨場感のあるすごい物だった。大体幅は僕の腕1本ぐらいはあるかな? これ、どれぐらい時間がかかったんだろうね。
「ええ、気になります。これって伝説の黒皇帝ですか?」
「おや、良く知っているね。そうさ、勇者でありながら世界を席巻したという伝説の帝国の主、通称黒皇帝の竜との戦いを掘った物さ。と言ってももう想像でしかないから本当にこんな竜を相手にしてたかはわからないけどね」
売り物ではないのか、おばさんはそんな風にちょっと夢が壊れそうなことも口にしてきた。黒皇帝、英雄……むかーしむかしに、その少年はこの世界に現れて、不思議な力を持って色々な困難を乗り越えて皇帝になったっていうお話だ。黒髪に黒い瞳と、話だけを聞くと父さんたちの故郷と似たような人だったみたい。だけど父さんたちは大陸でも東の方の出身だからねえ……ちょっと違うかな?
「その足は山々を駆け抜け、空を舞い、振るう剣は竜の呼ぶ雷雲ごと切り裂く……まあ、伝説ってのはそんなもんかね」
「でも、嘘じゃなさそうだから勇者の里は賑わうんですね」
おばさんとしては生活が出来るのならあまり気にならないらしく、うたい文句は口にするけど真剣みはあまりなかった。それでも僕はその話を聞いて、わくわくしている。全部が全部本当ではないと思うけれど、1つでも本当なら霊山に挑むために役に立つ何かが手に入るかもしれない。
「ファルクさん、さっそく明日行ってみましょうか」
「うん、そうしよう。おばさん、ありがとうございました」
「いいんだよ、これぐらい。ああ、そうそう……」
店を出ようとする僕達に、おばさんは思い出したようにそれを口にした。勇者の里にあるという、冒険者向けの試練の洞窟の話をだ。ごくまれに、力を授かって出て来るらしいよくわからない洞窟だそうである。どうせ行ったなら寄ってみるように言われた。
(そんな洞窟、覚えある?)
『ない……無いが、俺も全部を回ったわけではないからなあ……』
店を出てマリーと2人村をぶらぶらと。途中、ご先祖様に洞窟のことを聞いてみるけど答えはこんな感じだった。ごくまれにってのが気になるよね。危険はないか少ないようだけど……どんな場所なんだろうか。
そうしてる間にも村には旅人らしい人たちがちょこちょことやってくる。泊まるべく宿に消える人もいれば、一気に向かうつもりなのかそのまま通り過ぎる人と様々。僕達はそのまま宿に戻り、明日に備えて体を休めるのだった。
翌日。すっきりした気持ちと体に満足しつつ、僕達はホルコーに乗って一路勇者の里へと進む。道中は……確かにわかりやすかった。道はしっかりあるし、同じように移動する人もいたからね。ただ、思ったより急な坂道が続き、その先は見えていた山の上ということらしかった。休憩を挟む他の人を尻目に、ホルコーは予想より元気なまま歩き続ける。
「ホルコーちゃん、大丈夫ですかね?」
「うーん、無理はしない子だけど……ホルコー、疲れたならちゃんと休んでよ?」
このやり取りもちょくちょく繰り返してるけど、その度にホルコーは元気に嘶きを返事に返してくれる。本当に、良い相方を見つけてあげないとな。それは別としても、しっかり毛づくろいぐらいはしてあげよう。
上ったばかりの朝日が昼を迎え、さらに少し経った頃、僕達は坂の一番上に到着していた。後は降りるだけ、そんな場所は……絶景だった。
「大きいですね……」
「うん。それに鏡みたいに綺麗だ」
大きな湖、そのほとりにある村……というか町かな? 森の中にぽつんとあるそんな町に道は続いている。今のところは何も変なところはないのに、何故だか僕の胸はざわついた。この感覚を僕は知っている……ご先祖様を見つけた時の、ざわつきだ。
『何か魔道具があるのかもな……行こう、でなければ話は始まらん』
期待と不安に胸を膨らませながら、坂道で速さが出てしまわないよう、ゆっくりとホルコーに任せながら町に向かった。
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