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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-019「危険と踊る-2」

正直に言えば、その時の僕は浮かれていたのだろうと思う。


珍しい体験、新しい発見。


それらと夜明けの調子が重なったとしても、だ。


冷静に考えれば、判断の天秤が最初から少しだけ、

そう、少しだけ傾いていたことに自覚が出来たはずだった。


でも、悪いことがあったという訳じゃあない。


もしご先祖様がいないときに傾けてはいけないほうへと

判断の天秤を傾けてしまったら?という反省は残ったのだけれども……。






踊るサボタンという光景の後に見つかった見知らぬダンジョンの穴。


しかもまだ夜明け前だというのに、ほんのりと何かがそのダンジョンを照らしているのだった。


「ヒカリゴケ……にしては光が強いですね」


「僕は似たようなのを見たことがある。仕組みはわからないけどね。

 ランタンみたいにヒカリゴケの一種が密集して光るんだ、ほら」


大穴を前に、中を覗き込んだ2人の視線の先には

ほのかに光る壁と合わせて、所々にある光の塊。


「ということは誰かしらが作った? それにしても……」


『間違いなくダンジョン。しかもこれは、時限式だな』


マリーとご先祖様の声を聞きながら、僕は壁を触る。


土のように見えるけど、それにしては硬いというか、妙に丈夫そうだ。


「やっぱり……」


色々と違うところはあるけれど、この場所は似ていた。


ご先祖様と出会ったあの空間に……。


父親は昔言っていた。


昔の偉い人が作った特殊な場所だ、と。


理由は無いけど、僕はどこかで確信していた。


昔の人はこういう自然に……まあ、特別な何かが作ったかもしれないけれど、

こういうダンジョンを参考に自分の物にしていったのだろうと。


『……』


ご先祖様が否定も肯定もしないあたり、答えには近いのだと思う。


「どうしましょうね、ファルクさん」


マリーのどう、とはこのダンジョンをどう取り扱うかについてだ。


少なくとも事前に聞いていた周辺のダンジョン情報にここは無い。


見落とし、と考えるにはあまり遠いとは言えない場所。


シルファンの街はそれなりの規模と歴史を持っているらしい場所なのだ。


冒険者と依頼のやり取りもその分多く、

稼ぎを求めて探検も周囲になんだかんだと実施されている。


ここはその果てという訳でも無い場所であるから、

普段はこの穴は無いのだ。


ご先祖様の言うように、時限式、しかも発生条件が何かある場所ということになる。


通常、何か問題などがあればギルドに報告してその報酬をもらうなり、

危険度を確認する必要があればギルドの指名依頼を受けたり、ということもあるらしい。


でも……。


「うん。戻ってまた来たら穴はありませんでした、ってなりそうだね。

 ……うーん、無謀なことをするべきではないのも冒険者だけど、

 危険に入らないと報酬が無いのも冒険者、か。大胆かつ慎重に、行こうか」


『俺としてはどっちでもいい経験だと思うぞ。時限式なら……最悪生きていれば

 時間切れになった時に強制的に外に飛び出るだけですむからな』


僕はこれまでに調べた、あるいは聞いた話から

目の前のダンジョンについての知識を思い出す。


時限式ダンジョンの特徴は名前の通り、探索可能な時間に限りがあることがあげられる。


有名どころだと、10年に一度、とある山に産まれる遺跡型のダンジョンがある。


様々なモンスターが登場する代わりに、古代の物と思われるような

武具が入った見事な装飾の宝箱が稀に出るという話だ。


そこまで大げさじゃなくても、一月に一度しか開かない扉、

大海原の中で干潮の時にだけ入れるダンジョン、なんてのもあるらしい。


しかも大体は魔法の障壁が入り口にあったりして、

先ほどの例でいえば海の水が中に入ってくるということもないそうだ。


探索可能な時間は半日程度から数か月まで様々、というのも不思議な特徴なのだそうだ。








「さしずめ、ここは踊り子の待機部屋、ってとこかな」


「案外舞台側かもしれませんよ?」


地面に崩れ落ち、消えていく相手を見ながら僕はつぶやき、

マリーもそれに答えて地面に残った何かの破片を拾う。


「今のは見た目はサボタンですけど土……でしたね。

 これはなんでしょう、鉱石?」


ゆっくりとダンジョンに入ってすぐ。


ある意味予想通りに僕達は何者かに襲われた。


それは見た目だけなら覚えのある相手だった。


その相手は、サボタン。


ただし、外で出会ったような姿ではなく、なぜか泥まみれになったかのような姿であったり、

全く仕組みがわからないけど水そのもののような姿もあった。


動きはサボタンそのもので、遅いながらも刺さったら痛そうな

石とも土ともわからない針を飛ばしてきたり、

水でできているらしい針が飛んできた。


数は少なく、魔法で防ぐまでも無く剣で切り払ったり、

回避したりということはできるのだけど何分場所が良くない。


大人が5人も並べば壁にあたる、ぐらいの幅だ。


「出来るだけ回収して後で売るなりしようか」


「そうですね、幸いにも相手はいっぱい出てきませんしね」


溶けるということは普通に外にいるサボタンとは違うのだという

実感と共に、僕は剣を構えなおす。


受けるにしても避けるにしても、やはり洞窟というのは広いとは言い難い。


冒険者証に記載が追加されていた気配察知スキルを信じて

周囲を確認する……のだけど……。


「何もいない? いや、そんなはずは……」


一度足を止め、音も頼りに確認してみたけど、やっぱり反応が無い。


(モンスターがほとんどいないダンジョンだった? いやいや、そんなわけはないよね)


マリーに無言でうなずき、改めて歩き始める。


と、気配。


「! 土! マリー!」


「爆発しないように……この手に集い、雄々しく貫け!」


視界に土で出来た姿のサボタンを見た僕はマリーに向かって叫び、

マリーは1本だけど威力を強化した火の矢を放つ。


通常の詠唱、言葉と違うその魔法は魔法名を叫ばずとも赤い力となって突き進み、

目論見通りにサボタンっぽい姿のおなか部分を貫いて沈黙させる。


『ふむ。マリーの省略詠唱もいい感じだな』


ご先祖様の言う省略詠唱とは、その名前の通りに

本来なら詠唱と魔法名が一組で発動する魔法に対して

どちらかや一部を省略して発動させる魔法の事だ。


でも、ご先祖様曰く、元々魔法に詠唱は無く、

魔法名だけが存在していたそうだ。


人が魔法を使う時、よりその魔法を意識し、

結果を想像することで明確に魔法が行使できるという現状から

自然とその魔法を意識する文章が産まれ、

それにより魔法の精度が上がっていった結果、

魔法に詠唱と魔法名の叫びが不可欠、という常識になっていったのだそうだ。


音声チャットとキーで違う魔法とか常識、とか

良くわからないことを言っていたけどなんのことだろうか。


ともあれ、元々の魔法に工夫を加え、

好みの魔法にした場合などには詠唱が変わってくる上に

マリーがやって見せたように一部省略することが出来るのだった。


そのおかげで便利は便利なのだけど、現在の不思議な状況を解決する手段にはならなかった。


(今の相手もこんな近くに来て初めて分かった……気配が薄い? あるいは……)


相手の気配が薄い、あるいは生き物ではないとしたら、気配察知に引っかからないのはわかる。


では話に聞く魔法生物か、というとそれとも違うようだった。


スキルが無くても、魔法生物は動いていればその体は

魔力が巡っており、魔法を大なり小なり使えればすぐわかるらしいからだ。


『苦戦しているようだな。助言としては……そうだな。あいつらは、お前たちを迎えに来たんだよ』


(迎えに……ん?)


ふと、僕は気が付いた。


このサボタンたち、大体決まったぐらいの間を置いて出てきていないか?と。


多少違うような気もするんだけど、ばらつきが無いような気がする。


これはどういうことだろうか。


何者かが僕達を監視している? なんのために?


(そもそもだ。ここはダンジョンなんだ。普通じゃない)


再び足を止める。


「ファルクさん、休憩ですか?」


「んー、ちょっと違うかな。ねえ、アレらがああやって歩いてるなら、

 普通はそのうちに僕達の場所に来るよね?」


壁にもたれかかり、不思議そうに顔を向けるマリーに答えながら

推測を組み立てていく。


「そう……ですね。そのはずですけど……あれ?」


マリーもおかしいところに気が付いたようだった。


そう、サボタンもどきは僕達の休憩中には出会っていない。


たまたま進んだときに遭遇したと当然のように思っていたけど、そうではなかったのだ。


サボタンもどきたちはどうにかして僕達の進行や位置を探知している。


むしろ、サボタンもどきがダンジョンの生み出す特殊なモンスターだということを

考えると、僕達を見ているのはダンジョンそのものだ。


『ではどうする? 闇雲に歩いても戦いが続くぞ?』


そう、ご先祖様の言うように仕掛けがわかっても

相手が出てくるだろう、というのがわかるだけだ。


「マリー、試したいことがあるんだけど」


「はい。冒険者はなんでもやってみてこそ華、ですね!」


戻ったらアクセサリーの1つでもプレゼントしないとね、

と思うぐらいにはマリーは僕を信用してくれている。


それに答えないと、だ。


僕はダンジョンがこちらを把握する手段をいくつか考えた。


1つは細かいことを考えずにダンジョン自身がどこにいるかを全部把握している場合。


1つは外部からの侵入者が持っているであろう魔力感知。


そして、上手く言葉にはできないのだけど、地面の振動というか

ダンジョンに触っている物、だ。


僕はダンジョンを1つの大きな生き物と考えてみた。


例えば僕が何かを飲み込んだとしよう。


自分から飲み込めば何かを飲み込んだことはわかるし、

温かさがあればどこを通ってるかわかりやすい。


そして、物が通るという時にはなんとなくそれはわかる。


ダンジョンがどうやってどこにその何かがあるか、を感じるかを考えるのだ。


魔力を消すということは無理だし、

全部わかってる、なんて状態なら突き進む以外に無い。


では最後の部分に関してはあてがある。


例えば自覚のない状態で羽虫が口に飛び込んできてしまった時、

どこかでむせるまで僕は気が付かない。


そういうことじゃないだろうか。


僕はマリーと一緒に荷物をまとめ、魔法を詠唱する。


速度とかはあまり重視しない風魔法。


人が歩く程度かそれ以上であれば十分だ。


そう、崖から飛び降りる時やちょっとした高所に登るのに使えそうな風の移動魔法。


これで浮いていこうというのだ。





「小部屋?ですね」


「何か財宝あるかなあ……」


結果として、僕達は前半の戦いで消費した時間を

取り戻すような効率で奥地にたどり着くのだった。


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