MD2-185「伝承の地へ-3」
にんじんっぽいナニカです。
とある森の中、僕達が出会ったのはどこを見てもいる、という状態のヒポグリフの集団だった。聞いた話によれば1頭1頭が結構な強さで、風の魔法を主に使うグリフォンと似たような力ある存在なのだとか。かつての英雄は彼らを自らの乗騎として世界を駆けていたという。
「これ、どうしたらいいんだろう?」
「シーちゃんみたいにお話出来ればいいんですけど……」
そう、王女様でありながら結構あちこちに出歩いてるっぽいシータ王女はたぶん竜種限定だけどお話が出来る。だから飛竜とかと話をして色々とお願いを聞いたり聞いてもらったりといった関係だったはず。
(僕達の場合、今のところそういうスキルがないからなあ……ん?)
悩んでいると、僕達の前に2頭のヒポグリフがやってくる。銀色の鬣と金色の鬣という妙に目立つ2頭だ。片方の口元にはなんだか赤い色をした細長の……野菜かな、これ。食べてる途中、という様子ではなく、ホルコーの前にぽとりと落とされた。何か会話でもしているかのように少し嘶いたホルコーは僕達を乗せたままそれを食べ始める。
『ひとまず降りるか? 敵対する様子はなさそうだぞ』
(うん、そうするよ)
確かに敵意と言った物は感じられない。腕の中のマリーにも一言伝え、恐る恐るではあるけれどホルコーから降りて改めてヒポグリフと向かい合う。降りるとやっぱり大きいなあ。ホルコーに何かくれたということは友好的なつもりなのかな? あれ?
「……僕達も?」
「そうみたいですね。生で行けるんでしょうか……」
最悪お腹を壊してもポーションで無理やり治そう。そう覚悟を決め、僕は目の前に置かれたさっきと同じような細長の何かを手にして……齧った。驚きが口いっぱいに広がる。確かに生で食べる物かと言われると疑問が浮かぶけど、食べられなくはなかった。ただね……なんだか処理前の薬草をかじってる感じがする。
「たぶんこれ、火を通すといけるんだけどなあ……まずいかな?」
「どうでしょう。ちょっと仕草をして確認してみましょうか」
後にして思えば、随分危ないことをしたなあと思うのだけどその時の僕とマリーは、貰った物を完食する方が大事かなという気持ちの方が大きかったんだ。通じないかもとは思いつつもちょっと火を通しますねーとだけ言って数歩下がって手のひらに炎。このまま投げても威力なんて全然ないような物だ。
適当にナイフに刺した野菜を火であぶると……うん、やっぱりいい匂いがしてきた。そのまま火傷しないように気を付けながら2人して完食すると……周囲のヒポグリフの視線がまとめて突き刺さっていた。
『気になってる……て感じだな』
(だといいな……ちょっと怖いや)
やっちゃったかな?と思った時、僕たちの前にいた金銀2頭のヒポグリフの顔がゆがんだ気がした。どちらかというと笑顔……かな? というのも……。
─おいおい、食べたぜ。変なことして
─なんだ、そのままでは辛いのならば早く言え、人間よ
「え?」
声が……聞こえた? 状況からしてこの2頭からかな? だけどご先祖様と違って頭に響いてくるような感じじゃなくて、目の前にいない誰かがしゃべってるようなそんな感じだ。
─銀色の、人間は魔力を介して話すことには慣れておらんぞ
─ああん? だったら教えればいい。おい、ガキンチョ。聞こえてるんだろ?
聞こえてるけど……あ、なんかこの会話に覚えがあるぞ。喋るんじゃなくて、こうやって魔力を糸みたいに伸ばして……あれかな? 何か2頭の間につながってる。たぶん……これ。
「聞こえますか?」
「なんだ。やれるんじゃねえか」
「おやおや、人間にしては柔軟性がありますね」
急にはっきりと声が聞こえた。でもこれは実際に声に出してるんじゃなく、魔力を震わせてるんだと気が付いた。だからマリーにもやり方を教えて、2人と2頭が魔力でつながるという状況になる。これ、前にパーティーを組んだときの状態に似てるんだ。
「初めまして、見ての通り人間のファルクです」
そんな自己紹介から始まった不思議な会話。ここに人間が来ることはなかなかないらしく、僕達がどうしてここに来たかを色々と聞かれた。隠すことでもないので、ざっくりとだけど説明をすることになった。興味深そうに聞いているヒポグリフもいれば、もう関係ないよーとばかりに森に戻っていく子達もいる。
そして、霊山に行くための修行と祝福を得る旅の途中であること、まだ他にも出向く予定であることまでを話し終えた後、金色の鬣の方が静かに笑い出した。
「なるほどな。では我らと勝負して契約をするか? 上手くいけば旅路は早い物になるぞ」
「違いない。グリフォンほどじゃねえが、俺たちも空を駆ける生き物だからな」
(やっぱりこうなるの? でもなあ、勝てるかどうかは横にして……)
魅力的と言えば魅力的なのだけど、僕は頷くわけにはいかなかった。だってさ、それって……っと、気が付けばホルコーが僕とマリーの間に割って入って来たかと思うと2頭のヒポグリフに向けて首をぶんぶんと振り始めた。残念ながら魔力を介してもホルコーとはおしゃべり出来ないのだけど、言いたいことはなんとなくわかる。
この2人には私がいるの!ってきっと言っているんだ。僕もマリーもそのことがなんだか嬉しくて、2人してホルコーを撫でてしまうのだった。
「ふむふむ。ではお前たちの代わりにその女の特訓をしようか」
「え? 特訓?」
その女、というのはこの場合ホルコーの事だと思う。じっとホルコーを見つめる2頭。何事かを口にすると、ホルコーも同じように小さく嘶き、僕達にわかるようにか頷いて見せた。つまりは、承諾。
何をするかわからないけれど、ホルコーに危ない目には合って欲しくないなとは思う。けれど、同時にホルコーがやるというのならやらせてあげるべき、それが仲間じゃないか?とも思った。
「ファルクさん、ホルコーを信じましょう」
「うん。ホルコー、やれるのかい?」
問いかけには、元気な嘶きが返って来た。なんとなく、誰に言ってるのよって怒ったような感じだった。だから僕は行ってらっしゃいとばかりにホルコーの背中を数度叩き、送り出す。すぐに始めるのか、銀色の鬣のほうがどこかに駆け出してホルコーがそれを追いかけていった。
「僕達、何してよう?」
「暇ならば我らが里を案内しよう」
金色の鬣……ってこういうのもなんだか面倒だね、名前はないんだろうか? そう思って聞いてみると……人のつけた名はないとのこと。まあ、そりゃそうだ。確かこういう時に名前を付けるのは契約をする時だけだったかな?
『確かそうだな。まあ、好きに呼んであげたらどうだ?』
「あだ名とかないのかな? それでよければ……」
「ふむ……ライズ、そう呼べ」
「じゃあライズさん。私達、ここに入ってきたところで蛇の魔物を見ましたけど、結構多いんですか?」
そういえば、あの蛇を倒したらいつの間にか入り口だった部分は閉じていた。僕達が魔力を通せばまた開きそうだけど……自然に開く物なのだろうか?
そんな疑問も含めてマリーに続けて聞いてみると、ライズさんからの視線が上下に僕達を舐めるように突き刺さって来た。
「多くはない……が、無くもない。ほとんどが自然の偶然だが……」
ここで言葉が濁るということは、例外はあってそれはあまり良いことではないということだろうね。でもそれがなんなのかは簡単だ。誰がというのはわからないけれど、敢えて入り口を開けてああいうのを放り込むような悪意を持った相手がいるんだ。
『ファルク。あっちを探れ、何か来るぞ』
「?……ライズさん、何か来ます」
「なんだと!?」
ご先祖様の警告に従い向けた視線。その先で……いつかエルフの里で見た時のように空間にひびが入っているのを見つけたのだった。
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