MD2-183「伝承の地へ-1」
魔物があふれてきたという鉱山へと向かった僕達。そこで見つけたのは話通りの多くの魔物たち。水銀の池を見つけるなんて言うおまけもあったけど、最終的には僕たちを含め、それなり儲けることが出来たと思う。
銀の鬣を背にした狼な魔物から、結構な量の銀が採取出来たのだ。不思議な事ではあるけれど、鉱山がダンジョンと化していたのでは誰もがそう言うこともあるか、と思い直した。ダンジョンはそれだけ不思議な物なのだ。
「あれからやっぱり魔物が出てきますか」
「ああ。もっとも無理なほどじゃあない。採掘に問題はないだろうさ」
普段の賑わいを取り戻しているように見えるギルドで、僕達は精算金を受け取っていた。みんなで倒して回った分の精算に少し時間がかかったからだ。結局手にしたのはそれなりの金額。元々の予定よりも稼げたから問題ないかな。
依頼書を見て回っているマリーの元へ行き、今後について話し合うことにした。
「祝福が手に入るっていう噂は結構あるみたいです。これと、これ。後はこっちにも」
「手に入れたら便利だもんねえ。あ、これは?」
『人馬一体……昔々は無かったような気がする。恐らくはケンタウロスとの交流で産まれた物だと思うが……』
ケンタウロス、僕もお話でしか聞いたことの無い種族だ。確か東の土地に住む上が人間、腰から下あたりが馬という種族だ。以前はこっちでも見かけたらしいけど、やっぱり住み慣れた場所じゃないと暮らしていけないからと東の草原地帯に住んでるって言うんだけど……どんな相手なのかな?
ギルドにいる他の冒険者や、受付の人に話を聞くとそこそこ有名な場所らしかった。冒険者的には稼ぎがあまりないらしいから不人気。けれど祝福に関しては本当らしい。
「ホルコーとももっと旅をしたいですから、行ってみませんか?」
「そうしよう。僕達も成長したらホルコーに2人で乗るのは重くなるかもしれないしさ」
言いながらも、しばらくは2人乗りが良いかななんて思っているのは内緒だ。2頭にしたら、マリーを感じながら旅をすることが出来なくなる……そう言ったら喜んでくれるかな? ホルコーには悪いことをするかもしれないけどさ。
そんなことを思いながらもホルコーを迎えに行くと……べろんべろんと勢いよく舐められた。寂しかったのかな? もしかしたら自分が最近活躍してないよって訴えたいのかもね。ちょっとしかいなかったのになんだか派手に戦ったような気がする街を後にして、僕達は進む。
向かう先は森に囲まれ、エルフがいるだとか、空を飛ぶ馬がいるだとか噂されている神秘の土地だ。色んな伝承残る場所でもある。これまでの経験上、多分だけどエルフやドワーフの里へは入り口が1つじゃない。世界のいろんな場所に入り口があって里にたどり着くんだ。それに、里も1つじゃないだろうね。
「そう考えると私達も、だいぶ普通じゃなくなってますよね」
「今さらと言えば今さらだけど、うん。そうだよねえ……」
生まれとかは置いておいて、エルフからは半分エルフになれる秘薬を貰ってそれはもう飲んでるし、ドワーフからも色々と頂き物を貰っている。マリーの持っている杖も、発掘品と考えても破格だし、僕の明星はいうまでもない。何よりもご先祖様がいる。
「っと、ごめんごめん。ホルコーも掛け替えのない仲間さ」
考えが伝わったわけじゃないだろうけど、ちょうどよく不満げな声を上げるホルコーをなだめる。ホルコーも普通の馬じゃないような気がしてならない。実はヒポグリフの血筋でした!とかないかな……無いかな?
それからいくつもの夜を過ごし、僕たちは進む。村とかがあまりないのは、周囲にダンジョンとかがあまりないからかな? 旨みがないと人は寄り付かないもんね。なんだか故郷を思い出すような小さな村、そこが目的地の森に一番近い場所だった。
「旅のお人とは珍しい。何もない村ですよ」
「ちょっと森の噂を聞いて……」
泊まれる場所、あるかな?と気にしながらも気さくに話しかけてくれた村人に話を振ってみた。僕達とホルコーを見て、何かに納得したように頷く当たり、噂は本当の様だった。
宿代わりに納屋を借りることが出来た僕達は藁の寝床で夜を過ごすことにする。ホルコーはなんだか同じような場所で寝られることが嬉しいみたいだ。
「何があるんでしょうね。すごい楽しみです」
「出来れば余り騒がしくない方がいいけど、どうかな」
なにせ、黒龍にまで言われちゃったもんね……飽きない運命に産まれているな、なんてさ。もっと話をしておけばよかったかなあ? っていうか鱗の1枚でも貰っておけばよかったと今さらながらに思い出を振り返る。
『俺の時代にも黒龍の鱗を使った装備なんてなかったぞ。贅沢なことだ』
(やっぱり? もう少し安全に戦いたいんだよねえ)
いくら切り札からの至近距離の攻撃が強いと言っても本当は近づかずに済むならそのほうがいいに決まっている。もっと別の魔法を覚えるか、剣技……スキルを身に着けるか。どっちが早いかなあ?
そのままいつの間にか眠っていた僕。翌日、水を補給してホルコーの背に揺られながら噂の森へ。事前の噂だと、運が悪ければ何もない森をさまようだけ……らしい。
「ここは恐らくエルフの里とかと一緒……どこかにあるはず」
「隠れた入り口がってことですね? 頑張りましょう」
ホルコーから降りて、左右を僕達が挟み込む形で森を進む。とっさに動けるようにという考えだけど、今のところは平和そのもの。平和過ぎて、鳥の鳴く声すら聞こえない。
見える木も随分と背丈が高い。少なくとも僕は木登りしてって言われても無理なぐらい。これは何かあるなあと思っていると、森には不釣り合いな物が見えて来た。
『森じゃなくてもよくわからないと思うぞ』
そんな言葉が返ってくるほどの物……なんというか、馬の像なんだよね。けど、顔がちょっと違うし背中には羽根。伝説に聞く一角馬とはだいぶ違うんだけど……なんだろう?
「これ、ヒポグリフの像じゃないですか?」
「かな? 僕も見たことが無いけど……口がなんとなく鳥っぽい。ホルコーとは結構違うなあ」
振り返ってホルコーと見比べてみるけどやっぱり似ているような似てないような、微妙なところ。それよりもここになんでこんな像があるかだ。
でも、理由は大体わかる。このあたりからそうだということだ。となるとこのあたりに探せば……あ。
「マリー、ここ」
「塞ぎ忘れたんでしょうか? なんだか空気が違いますね」
大きな木のウロから、明らかに風を感じた。ホルコーも頑張ればくぐれそうなほどの巨大な穴のような部分を通ると……世界は一変していた。ここがどこかはわからないけど、別の場所にたどり着くことが出来たのだった。
ここで何が起こるのか、今の僕は何も知らない。
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