MD2-181「嘘か真か-4」
今回の敵は人の欲望をよくわかっている物、そう感じた。防御魔法を使うスライム、残像のような物を残して動いていないのに回避したことになるゴーレム、そして両方とも攻撃魔法も使う。これまでにない相手であった。
問題は、相手が魔法を使うほど倒した後の落とし物がどうも少なくなることだ。
「安全に行くなら遠くから削って消耗させていくべきなんだけど……」
「この状況では意見が分かれてますね」
そう、上手く倒せば銀らしきものがその分多めに手に入る。逆に安全策を取れば最悪、全く手に入らない。そんな状況はさっきまでうまく行っていた協力関係にほころびを産んだ。魔物がこんなことを考えてやったとは思いたくないけれど、誰かの考えでこんな戦いになったのだとしたらその人は……よほど人間を信じているに違いないと思った。
鉱山の中ということで随分と冷えるけれど、戦いながらの言い争いは白熱してどちらも合わさって暑くなってきそうな気がする。
『どっちの手段も取れる、人がどちらを選ぶかを見守っているかのようだな。偶然の可能性もまだまだあるが』
(うん。これは……何が本当なのかわからない厄介な感じだよ)
周囲は連携を崩し、あまり上手く行ってるとは言えない状況。けれど僕とマリーはそのことが関係ないように戦いを挑んでいた。実際、僕達はお金にそんなに困ってるわけじゃないし、手に入ったら運が良いな、そう割り切っていたのだ。
「両手剣でもこういう相手が倒せるスキルがもっと欲しいなあ……セリス君の斬岩剣が羨ましい……」
幸い、岩と岩がくっついたような部分に動物のような関節部分があるのを見つけたのでそこを斬りつけることでなんとか倒せてはいるのだけど、ゴーレム相手に剣で切りかかるのはやはり遠慮したい。それにバンカー系の魔法はまだ使えない。第一、魔力も自然に回復しない状況だから限りがあるんだよね。
ポーションで無理やり魔力を補給するのもちょっとお腹がきつくなってきた気がする。タポタポいってるもんね。
『もうそろそろ階位は上がるとは思うんだが……明確にはわからんな』
(マリーの階位が上がっていて本当によかった。じゃないと僕達ただの子供状態だったもんね)
もう少しゆっくり過ごして、僕の魔力が回復するようになってからここに来るべきだったかもしれないけれど、もしそうしていたらこの人たちは大変な目にあっていたかもしれない。そう考えると全部、偶然という名前の運命なのかな……そんな風に思えた。
若干苦労しながらも戦いを進める僕とマリー。2人の戦う場所に銀らしきものがそれなりに積みあがっていくのを見たのか、周囲の人達もひとまず戦おうという流れになったようだ。結局、やれるだけのことをやって出来る限り安全かつ早く、これが一番だということに気が付いたみたいだった。2人だけの僕達と違って人数があるならそれだってこっちより簡単に出来ると思うんだよね。
「ファルクさん! あれを!」
「? 銀色の……池!?」
さらに崩れて来た壁。その奥に見えたのはランタンや魔法の灯りの光できらめく独特の色をした地面だった。色はおかしいけれど、池というか泉というか、そんな風に見える。銀って、あんな風に溶ける物だったっけ?
ちりりと、僕の頭に何かが走る。なんだ、確かどこかで聞いたことがある。水のような……銀色。
『まずい、水銀だ。吸い込むと毒だ! 火魔法はぶつけるな! 中をとにかく冷やすんだ! こいつは常温で、いや、外と同じぐらいの温かさで毒の霧になる!』
「マリー! 冷やすか、あの池に向かって風を!」
「わかりましたっ!」
マリーは水や氷が得意という訳じゃないけれど、やらないよりマシだ。冒険者の中にもアレを知っている人がいたのか、使う魔法を切り替えるように怒号のような声が響く。どんどんとゴーレムやスライムは冷やされ、気が付けばその動きを鈍くしていた。
『水銀そのままだと液体のままのはず。こいつらは色々と混じってるな……だが、下手に倒せば毒の霧となって周囲に影響を与える……まったく、銀と思わせておいてとんでもないな』
「銀と思って喜んで手に入れると毒にやられる……怖いなあ、これ」
「昔、どこかの国の偉い人が不老不死を目指して飲んだって聞いたことがありますよ。これが……でもどうしましょう」
マリーの言うように、今後が問題だった。ここがダンジョンだとしたら、敵の数がほぼ尽きないはずだった。けれどその相手が下手に倒せない罠付きだとしたら……そう、誰も倒してはくれない。実入りもないんじゃ特にね。
けれどその懸念は大丈夫そうだった。スライムはともかく、ゴーレムは残骸を残していたんだ。つまり、こいつらはダンジョンに出る魔物じゃあ……無い。倒したら倒しただけいなくなるはずだ。
「出来るだけ倒して、押し込むか原因を確認しませんか?」
「それしかないか……依頼金が倍増するが仕方ないな。よし、みんな聞いてくれ!」
町の人達や冒険者を率いていた人に相談すると、同じ考えだったらしくすぐに話し合いが始まった。その間にも魔法使いにより鉱山の中は冷やされていく。ここだけ冬のようだ……その甲斐あってか、ゴーレムはほとんど動けていないし、スライムもゆっくりとした動きだ。ゴーレムは色々固まって歩けなくなったんだろうね。
そして、改めての進軍が始まる。ちらりと見えていただけの銀の泉は奥にさらに広がっていた。これがただの泉なら十分泳げそうなぐらいだ。戦い方も決まり、落とす物も銀じゃないという落胆が逆にやけくそ気味のやる気につながったのかみんなどんどんと相手を倒している。
しばらくすると、物言わぬ瓦礫と化したゴーレムと、スライムがいたであろう染みのような水銀だけが残る。僕達は周囲を警戒しつつ、水銀の泉の前に立った。ご先祖様曰く、このぐらい冷やしておけばよっぽど大丈夫ということだったけど何も住めない泉ってこう、不気味だよね。
「話には聞いたことがあるがこれがそうか……ん? 扉……?」
見つかったのは岩壁になぜかある木の扉。ぼろぼろで中に部屋があることがわかる程度の状態だった。何人かで警戒しつつそれをどかすと、かなり古ぼけた様子の部屋が見つかった。中にあったであろうこれまた古ぼけた本がいくつか持ちだされ、僕を含めて魔法使いに読めないかと渡された。
『ふむ……なるほどな。金属を使って魔法生物を作るとどうしても硬さが残る。この部屋の主は水銀を使い、動きが滑らかな魔法生物を目指したようだな。何らかの事故か、それとも他にきっかけがあったのか。この場所は放棄したようだが物は残っていたわけだ』
(なんだか人騒がせだなあ……結局これ自体はダンジョンとは関係なかったんだ)
僕は簡単に読めた内容を告げると、ここは厳重に管理されたうえで水銀は売ることになった。毒で、冷やして器に入れないとすぐに消えてしまうということを徹底するそうだけど、なんだか怖いね。かといって全部封印ってすると噂を聞いた誰かが勝手に、となるだろうからこのぐらいのほうがいいのかもしれない。
「あの、ファルクさん。ここがダンジョンじゃないなら、魔物はどうしてあんなに出て来たんでしょうね?」
「そうだね、それはそうだ……」
一仕事終えた気分になっていた僕達は、マリーのそんな一言で疲労感に襲われる。結局、まだ何も終わってないのだということに気が付いてしまったんだ。けれど彼女が悪いわけじゃない。むしろこのまま油断して坑道に出た時に奇襲を受けてはたまらない。
「バリケードを作って、順番に休憩を取ろう」
誰かの提案に、僕達は比較的狭くなっている場所で作業をして戦いの続きに備える。何が本当で、何が嘘なのか、不安を残しながら。
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