MD2-180「嘘か真か-3」
「前衛はいったん下がれぇ!」
「マリー、こっちだ!」
合図の声に、すぐ横で壁を凍らせていたマリーの腕をつかんで後ろに下がる。急がないと交代に遅れちゃうからね。そして僕達と入れ替わる形で、別の冒険者たちが奥へと飛び込んでいく。すぐに怒号のような叫び声が響き渡り、相手との戦いの音が洞窟内を支配した。
『何とかなりそうと見るべきか、思ったよりも厄介な状況とみるべきか……』
(掘れるけど魔物が沸いてくるとかとんでもないねっ!)
息を整えながら、次の出番を待つ。どうしてこんな状況になったかと言えば……。
騒動が予想された鉱山。町についたと思えばなんだか全体が騒々しかった。戦いに向かなそうな男の人までもほとんどが武器を手にしてるし、女性陣も何やら壁を作ろうとあれこれを抱えて一方に向かっていた。
向かう先は……鉱山。小さいながらもすぐにわかるギルド横にホルコーをつないで、中に飛び込んで話を聞こうとすると……あれ、受付の人しかいない?
ちょっと白髪の混じったお爺ちゃんだった。こちらを見るなり、ちょっと驚いた顔をしている。
「知らせを受けて来たにしては早いですな」
「えっと、たまたまこっちに来たところで……あ、でも早馬の人には会いましたよ」
カウンターに歩きながら壁を見るけど、依頼書はほとんどない。その代わりにか、大きな木の板に殴り書きのように書かれているのは、鉱山内の魔物討伐、という話だった。報酬は討伐分、か。
「一体何があったんですか? なんだか町は騒がしいみたいですね」
「そうですなあ……簡単に言いますと、鉱山に魔物が多く沸きましてね。これまでと比べて護衛が必要になったというか、討伐していかないと溢れそうというか……まだ状況がつかめていないのが正直なところでして」
それにしても誰もいないというのが不思議だ。元の賑わいがどれぐらいかわからないけど、1人や2人はいてもいいと思うんだよね。そんな疑問が顔に出ていたのか、受付のお爺さんも困った顔をしている。
「元々そんなには常駐していなかったのですが、今回は思ったよりも数が多くてですね。ずっと出ずっぱりなのと、他にも問題が出てます」
「それで早馬を……でも間に合うんですか?」
きっと冒険者の勧誘と、援軍の要請なんだろうけど……そう人数が集まるとも思えない。かといって何もしないっていうわけにもね。さっそく僕達も依頼があれば……って今はこの討伐しかないのか。ホルコーは預かってくれるみたいだからそのままお願いしておこう。
間違った場所に入っても問題なので、しっかりと場所を聞き出して2人して向かう。
町中はピリピリしてるというか、鉱山に向かった人たちを心配してる人も多いように見える。
「あそこか……外にはいないのかな……よしっ」
頷きあい、僕達は高山に飛び込んで……魔物の集団と戦っている兵士や冒険者のみんなを見つけたんだ。
合流して一緒に戦い始めるけど、湧き出ているというのが正しいような魔物の数。けれど鉱山内ということで一度に相手をする数が限られてるからこその状況だ。交代で戦って、少しずつだけど奥の方に進んでいる。
「ファルクさん、見てください」
「え? 消えて……る?」
倒したゴブリンやコボルトといったなじみのある姿が、ランタンに照らされた影に溶けるように消えていく。後に残るのは粗末な武具と、よくわからない鉱石のような物たち。ということは、だ。
この鉱山、ダンジョンになってる? いやでも……前に聞いたことあるぞ? 何かというと……。
『最初からダンジョン兼鉱山だったか……中身が変わってきたということか』
そう、宝石類が産出されるという有名な鉱山はダンジョンとしても有名だ。その中は魔物も出るし、採掘だけしてると危ない。その分実入りも良いって聞くんだよね。行ったことはないけどさ。
休憩しながら、周囲を見渡していくとみんな魔物が溶けていくというのにそんなに気にしていない。当たり前の光景ってことだ。でもこのままなら特に問題はなさそう……なんだけど、なんだろうな、この感覚。どうも相手も本気を出していないような、まだ何か隠れてるような……。
ふと、手をついた壁に振動を感じた気がした。慌てて自分の手元を見るけど、特に何も……いや、もしかして?
(ご先祖様、壁の向こうって地図に映る?)
『ああ。そこに空間があればな』
それはただのカン。けれども魔力を込めて地図を壁に向けた僕が見た物は、こちらに近づいてる赤い点の数々だった。
咄嗟に後ろに下がりながら、明星を構えなおした僕。周囲も声をかけずともその異常さに気が付いたらしい。
「何か来ます!」
「この場所でか! 気合入れろぉお!」
声と同時に、壁がひび割れる。瓦礫と共に出てきたのはスライム。しかし、妙に銀色というか、白というか、輝いてる?
近くにいた冒険者の一人がたかがスライムと見たのか、近い相手に切りかかる。そのまま終わりと思ったら……弾かれた。僕から見ても強そうな人の斧による一撃が、だ。
「! 駄目です! 下がってください。このスライムたちっ!」
マリーの叫びに反応したのは僕も含め、魔法が使える面々だった。スライムの表面が波打ったかと思うと、それは光となってこぶし大の光の球がいくつも生み出されていく。どう考えてもまずい。
「マナウォール!」
どんな相手かはわからないけれど、咄嗟に放った魔力の壁が周囲に広がると……視界が光に染まる。スライムの撃ちだした光球が僕の壁にぶつかってはじけたのだ。炎とかと違って威力はなさそうだけど、無視はできない。
光が収まった後、僕達が見たのは大きく広がった坑道の穴。そしてそこにうごめくスライムたち。さらに奥には何かが……ゴーレム?
(最近魔法生物が多い気がするなあ)
問題は、明らかに考える頭のなさそうなスライムがいくつかの魔法を使うということだった。少なくともいつものように力押しは難しそうだった。幸いにも、先ほどまでいた魔物たちはいつのまにか後退し、襲ってくる気配はない。
結果としてそちらに警戒はしつつも、新手であるスライムと、奥にいるゴーレムを相手にすることになる。僕は思わずベテランそうな大人に声をかけることにした。
「どうします?」
「どうもこうも、ぶん殴るしかねえけどよ……」
場所の広さの問題もあり、全員でという訳にはいかない。もちろん、相手も出てくる数に限界があるからどっちもどっちだけど……うーん。まずは僕も切りかかってみるしかないか。
明星を構え、反撃が来てもいいように気を付けながら切りかかると……やっぱり弾かれた。なんだかそれが悔しくて、普段ならしないことをした。そう、明星に雷をまとわせて魔法剣にしたんだ。
「これでっ!」
普段ならば過剰な火力。でも今回はそれが幸いした。うっすらと広がったスライム表面の膜のような何か。たぶんスライムの使った防御の魔法なんだけどそれがこっちの雷部分と接触し、弾けたんだ。そうなれば残ったのは普通のスライム。明星がしっかりと沈み込み、運よく核に当たったみたいで相手は崩れていった。
後に残るのは……ん、これ銀かな?
周囲にいる兵士や冒険者もそれを見ていたに違いない。すぐに周囲で魔法と武器による同時攻撃が始まる。当然全部ぴったりというわけにはいかないけれど、確実に効いているようだった。そんな中でも、僕とマリーは断トツに倒していくことが出来たと思う。飛び込んだ僕のすぐ横をマリーの魔法が何匹もスライムを巻き込んでさく裂し、その防御を削る。その隙をついてまとめてスライムを薙ぎ払うことに成功したのだ。
「こいつは俺がもらったああ!」
一足早く抜け出した一人が、静かにたたずむゴーレムへと襲い掛かる。恐らくは同じように光るゴーレムからならもっと銀が採れる、そう思ったのかな。でも、僕的にはこれまでの状況から普通じゃないと予想していたから止めるべきだったのかもしれない。大きな両手剣が肩口から吸い込まれ……あっさりと地面まで突き抜ける。
「あれ?」
それは誰の声だったか。全く手ごたえがあったように見えなかった。と、その時だ。目の前のゴーレムはそのままに、両手剣を振り抜いた男のそばに全く同じゴーレムの姿が。みんながそれに気が付いたときには、男はゴーレムのこぶしで殴られ、吹き飛んでくるところだった。
『転移!? いや、これは……』
果たして、見えているゴーレムが本物なのか、偽物なのか。戦いはさらに面倒くさそうな状況になっていった。
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