MD2-179「嘘か真か-2」
「銀の値段が上がっている?」
「へへっ、そうなんだよ」
依頼を終えて、市場を冷かしていた僕達。そこで見つけたのは木彫りの細工物に銀をかぶせた物を碌に説明せずに売る露店だった。せっかく銀をそんな風に使える技術があるのに、もったいないことだと思う。ただ儲けようとしただけだというのならどこかに突き出そうかなって思ってたんだけど……。
「主要な銀山はそれぞれ国の管理下にあるはず……」
「おっと、そいつは東の常識だな。あんたら旅人だろう? すぐにわかるぜ」
さすがに商売をやってるだけあって、このあたりの鋭さは油断できないようだった。食いつく場所を見つけた、そんな顔だ。まあ、僕達は別に何か痛い腹があるわけじゃないんだけど……。
路地裏に入る部分にはホルコーがのんびり待機中、外からは見えにくい状態だからちょうどいいと言えばちょうどいい。僕達はお互いに適当に木箱に座り、向かい合う。
「こっちにはいわゆる王様ってのが少ないんだ。話し合いで物事は決めるが、そこには後ろにある商家やらの力が影響力を持つ。要は儲けてる奴が強いって感じだな。そうなると1つの国で銀山を抑えてるというのは色々と厄介だろう? だから主だった銀山はそれぞれ独立してんのさ。統治者はそこから仕入れる、下手に自分の物にしようとしても他の土地が黙っちゃいない、そんな流れさ。このぐらいならこっちじゃガキだって知ってらぁ」
「ということは産出量が減ったか、売ってくれる量が減ったか、あるいはその両方……」
「その割には騒ぎになってないんですね」
そう、彼女の言うように本当に銀が値上がりしてるなら生活にも影響が出てくる。例えば、1枚の銀貨の価値がお金としての価値よりも銀としての価値が上回るような状態が起きてしまえば、それは可笑しな状況を産んでしまう。そこまではいかないだろうけど……。
今はまだ、一部にしか影響は出ていないようだった。
「ただ売り渋りならいいんだけどな。もしそうじゃないとしたら……まあ、だから俺みたいなやつはこうでもしないとまともに売る物がないわけさ」
『そういった物に左右される商売をしてるのが悪いと言えば悪いが、表立って騒ぐのはまずそうだな』
(確かにね。普通の人達は銀の値段なんて気にしない生活を普段はしてるんだもんね)
マリーと頷きあい、これで終わりにしようと決めた。店主には僕達みたいに優しい人だけじゃないんだから気を付けるようにだけいって、解散だ。荷物をまとめてどこかへと走っていく彼を見ながら、なんだか嫌な予感を覚えていた。
「銀も、しっかりと山の精霊に祈っていれば復活したはずだよね」
「ええ、そうですね。他の鉱物と同様に……やっぱり同じように、何かの際に精霊に還っていく形で消えてしまいますけど」
『大規模に銀を使う儀式でも行われてるとしか考えられんな』
山への信仰が無くなった、というのはちょっと考えにくかった。僕も含め、祈りの無くなった鉱山がどんなことになるかは誰しもが知っていることだからだ。かつての精霊戦争の時、そうして枯渇していた鉱山が復活を果たしたこと、逆にないがしろにしたがために復活してこなくなった鉱山、も言い伝えられている。
「ちょっとその辺の依頼を探してみようか」
「掘る……のはたぶん無理でしょうから、最悪の場合は直接行くぐらいですね」
そうしてギルドに戻った僕達は近くの銀鉱山に関する依頼を探す。と言ってもそのものずばり、な依頼なんてそうあるはずもなく、ほとんどが関係ないものだった。かろうじて関係がありそうなのは、討伐依頼。鉱山への道に魔物の目撃情報が増えていることからの依頼だ。
「これせいでってのはちょっと考えにくいかな?」
「まだ大きな被害は出ていないようですね。念のため、でしょうか」
それでも他の依頼を受けるよりは目的に近い。そう判断した僕達は討伐の依頼を受けることにした。僕達の評価はC、よほど厄介な依頼じゃない限りは自己責任の下、大体受けることが出来る。今回も無事に受けることが出来た。多分だけど2人だから無理のない範囲で相手をすると思ってるんだろうね。依頼書はまた張り出されたぐらいなんだもん。
その日は既に午後、というわけで明日夜明けとともに出かけることにした。こまごまとしたものを買い込んで、翌日。ホルコーに乗って鉱山の方向へと向かう。今のところ行き交う馬車は見ない。少しは行き来はあると思うんだけどなあ……。
町から出てしばらく、街道沿いに乱暴に捨てられたガラクタを見つける。どうもこのあたりで戦闘があったのか、ゴミになった壊れた木箱や、錆びた装備等が転がっている。町から少しは距離があるといっても近いと言えば近い場所でそんな戦闘があったであろう状況に自然と僕達も緊張が高まる。
「そういえば銀貨って魔法にも使えるんだっけ?」
「純銀貨は、ですね。ただの銀貨だとそれこそ銀貨で泳げるぐらい集めないとだめですよ」
確か、昔は純銀貨、あるいは銀の割合を増やしてたらしいけどそうやって犯罪に使われたりするからお金としての銀貨は段々とその銀の割合を減らしたとかどこかで聞いたような気がする。僕達もそうだけど、ダンジョンとかで純銀貨を見つけたらお金としてじゃなく、魔道具を見つけたような感覚になるのはそのせいなんだよね。
「純銀をため込んで何かしようとしてるのかな?」
「影響力を高めたい……そんなことはあるのかもしれませんね」
そんな雑談めいた旅路、そこに別の音が加わる。前の方から何かが走ってくるのが見えたのだ。馬、そして乗った人。その後ろには四つ脚の獣らしきもの。僕が合図を送るより早く、ホルコーは加速し始めた。僕は相手にわかりやすく光の魔法を空に撃ち、マリーは僕の腕の中で魔力を練り始める。
「ウィンタック!」
相手の馬とホルコーがすれ違うようなときになると追いかけて来る相手もよく見える。獣は獣でも、魔物としてのウルフ種だ。随分と体つきが立派だ。そこに飛び込むマリーの風魔法。まずは馬から引き離す、その目的は十分に達成され、間に僕達がすべり込むことに成功した。
「森に帰るんだ! ファイアボール!」
敢えて威力を落とした火球を鼻先に撃ちこんでやると、こちらが自分たちを害する牙を持つと判断したのか唸り声を上げた後、去っていった。頭の良い奴でよかった……そのまま向かってくるとちょっと面倒なんだよね。
あれらも討伐の対象かもしれないけど、今は人助けである。後ろを振り返ると、走っていったはずの馬が人を乗せたまま戻ってくる。っていうか馬の背中でぐったりしてるよね……大丈夫なのかな?
「あのー……」
「ああ、ありがとう……助かったよ。ついでと言ってはなんだけど、町までお付き合い願えないかな?
鉱山護衛の冒険者を雇わないといけないんだ」
強行軍でここまで来たのか、汗だくな姿で今にも倒れそうになっているのは大人の女性。戦えるのか、年期を感じる革鎧を身につけている。ウルフ種を撃退できていないのは疲れているからか、そこまで実力がないのか、それはわからない。
「まあ、ここで頑張ってくださいっていうのも気になるのでいいですけど……なんならポーションはありますからそれを上げますよ。それで僕達が先に鉱山に向かいましょうか?」
「むむむ、依頼分の手持ちしかないから後払いになるが……」
僕としては構わなかったので頷きを返す。どうせまだまだあるうちの1本だ。このまま一緒に戻ってまた鉱山に、だと時間が無駄かもしれないからね。マリーはというと、賛成の様で外に出したままの荷物から既にポーションを取り出していた。シャルナさんと家で貰った物で作ったまだまだ新鮮なポーションである。
「感謝する……ふう、これは効くな。見事な物だ。稼ぎ時ではあるが、苦労も多いだろう。気をつけてな」
名前も知らない相手が町に向かって走り出すのを見送り、改めて僕達も鉱山へと向かうことにした。この様子だと、状況は悪化してると見たほうがいいのかなあ。
「事が銀鉱山に関してです。きっと援軍もそれなりに来ますよ」
「だと楽できるんだけどね。とりあえずいこっか」
平穏さんが住んでいないことがわかっている場所へ向けて、僕達は進む。
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