MD2-177「善意と悪意-4」
謎のつぎはぎ人形、その配下となるであろう人形たちとの戦いは長く続いた……と思う。行きつく暇もないまま戦ってるから、正直わからないんだよね。幸い、人形たちは全部いっぺんに襲い掛かってくる様子はなかった。
「レッドバンカー!」
今日何度目かの炎の槍が人形の核を打ち砕き、大きな体は瓦礫が崩れるようにして崩壊し、そして後には何かの塊が残る。金属にも見えるし、なんだか柔らかさも感じる。拾ってる暇がないから蹴っ飛ばして壁の隅に寄せるぐらいなんだけどね。
「ファルクさん、ちょっと魔力が厳しいペースです」
「僕もさ。あいつ、2人で来るのが悪いって言ってたよね」
上がって来た息を少しでも整えるべく集中するけどどこまで足しになるものか。スキルのタフネスや、魔力回復がなかったらとっくに詰んでたと思う。脱出も出来そうにないし、嫌な敗北だったんだろうなと感じた。在庫が少ないのでいつ使うか迷うところだったけど、今がその時かなと判断し、シャルナさんから分けてもらったルドラン草を処理した簡易ポーションを取り出した。職人の調合じゃないから、回復量は遠く及ばないけどあると無いのとでは大きく違うと思う。
「うう、すごく苦いです」
「増援がこっちに来るまでの時間は稼ぐから頑張って」
喋りながらも僕達は部屋を少しずつ移動しながら人形を誘導して時間を稼いでいた。そうしてなんとか2人とも苦いポーションを飲み干し、自身の魔力が回復する手ごたえを感じていた。
また同じことをやると繰り返しになってしまう。なんとかしたいところだ。主に奥の方でずっと笑って踊っているあいつを。いい加減、なんだか怒りさえ沸いてきた気がするんだよね。妙に耳に響くから魔法がかかってないか怖くて時々自分達にマナボールを撃たなきゃいけないしさ……もう。
(この距離と強さなら……一気に行けるかな?)
『可能性は十分にある。だが失敗の可能性もちゃんと頭に入れて置け』
次は回復しきれないかもしれない。そう感じた僕は賭けに出ることにした。左隣で魔法を放とうとするマリーを見、半歩前に出た。彼女の視線がこちらに来るのを感じながら、戦闘直前だというのにその手を握った。
「ファルクさん?」
「マリー、ちょっと突撃してくる。駄目だったら逃げよう」
逃げて、果たして出口があるのかどうかは不明だ。それでも壁を破るぐらいは出来るかもしれない。いや、負けることを考えていちゃ駄目か。目の前にやってきた人形の1体を切り裂き、それを合図にするように僕は魔力を練り始めた。
「巡れ……廻れ……回れ……マテリアル……ドライブ!!」
つぎはぎ人形の視線がこちらを向くのを感じながら、全身からあふれる力に逆らわずに突撃を開始した。迫る人形の腕も明星で切り裂き、そのまま剣先から放つのは……今日何度も使った炎の槍、レッドバンカー。消費も、もう一度使う用の隙も何もかも自由に僕は赤い槍となった。
剣の先から、足の先から、とにかく相手に触れたところから放たれる暴力が無数の人形をどんどんと打ち砕いていく。既に消耗していた僕の魔力量から言って、この時間はあまり長くない。その間にあいつを!
「覚悟ぉ!」
「クカカッ! 試してミルガイイサ!」
意外にも逃げる様子はなく、つぎはぎ人形は僕の攻撃を迎え撃ち、その全身を赤い槍で穴だらけにして沈黙した。終わった……のかな? 背後で人形たちが糸が切れたように崩れ落ちるのを感じた。やった、終わったんだ! そう思って振り向いた僕が見たのは、驚きに顔を染めているマリーだった。
『まだだっ!』
「くっ!」
慌てて後ろの気配に体をひねるけど、少し遅い。わき腹を貫く衝撃。少し遅れて全身を貫く痛みが僕から余裕を奪っていった。にじむ視界では、穴だらけになりながらもまだ動くつぎはぎ人形がいた。まだ、生きているのか!
「ざーんねん。レイドボスは命が二つあるんだよぉ! ハハハハハ!」
レイドボスが何のことか僕にはわからない。だけど僕が窮地だってことはわかる。ああ、マリー……君だけでも逃げて、そう思いながら残った力で明星を握りしめた時だ。背後で、魔力が爆発した。
「ファルクさんから……離れてください!」
魔力の主は当然マリーしかいない。しかもこの感じは……マリーも使おうとしている!? なんで、あの時だけじゃなかったの!?
僕の驚きを他所に、マリーの体を強い魔力が回り、そして紡がれた言葉は力となる。
「!? ハナセ!」
「そう言われて離すのは馬鹿さ!」
瞬きの間に無数に放たれたマリーの魔法がぶつかる直前まで、僕はつぎはぎ人形の武器を千切れた服事握りしめ、直前になって手を離すと地面に転がった。マリーの怒りがそのまま出て来たかのように、火球は連続してさく裂する。僕は人形の陰に転がり込むことで難を逃れた。それでも熱風が僕を撫でていく。
「この力! まだ牙も爪もある! 素晴らしい、素晴らしいね! カハッ」
何事かを叫んでいたつぎはぎ人形は、ついには沈黙した。よろよろと相手に歩み寄り、念のためにと明星で切り付けるが相手は動かない。ようやく、倒したようだ。無理やり動いたからか火傷のようなところがひりひりする。
(もうちょっと手加減してよマリー。あ、やばっ)
「ファルクさん!? しっかりしてください!」
怪我をした上に激しく動いた物だから思ったより出血してしまったのか、僕の意識はふわふわとしたものになっていく。死ぬわけにはいかない、そう強く念じた時、おでこにそっと温かい手が乗せられた気がした。任せておけ、そう言っていたような気がする人影に安心した僕はそのまま目を閉じる。
「はっ!?」
どれぐらいの時間意識を失っていたのか。次に目覚めた時はまだ紫色の空間にいた。違うのは、目の前にマリーの泣き顔があることと、横を向くと何人もの人が互いを守るように背中合わせになっていることだった。みんなあのよくわからない柱の中にいた人たちのような?
「あ、ファルクさん! よかった……」
「マリー、みんなは無事かな?」
まだぼんやりする頭を抱えながら、そんなことを呟いたのだけど逆に怒られてしまった。けが人は僕だけだと。周囲にいた人も、僕が目を覚ましたことに喜びの声を上げてくれる。半数ぐらいは兵士のような姿だけど、何人かは良い身なりの服装だ。でもこんな場所にいるということは誰かというのはかなり限られる。だって、このダンジョンはここに出来てから誰も入ってないも同然だからね。いるとしたら……そう、シャルナさんたちの関係者だ。
「あの……皆さんはもしかして」
「ああ、君が寝ている間に大体のことは聞いたよ。何から何まで世話になったようで……娘に代わってお礼を言わせてくれないか?」
やっぱり、そういうことらしかった。よかった……彼女の親は無事だったんだ。そう思った時、急に力が抜けてしまった。緊張感が途切れたらしい。まだダンジョンの中だって言うのにね。
「大丈夫ですか? 一応みんなそろって出ていこうってことでファルクさんが目覚めるのを待っていたんですよ」
「そっか、それはごめんね」
謝りつつ、心の中でご先祖様に呼びかけると反応が返ってくる。でも寝てるような感じだ。意識を失う直前、ご先祖様の声を聞いたような気がしたんだけどな……気のせいかな?
「いいえ、ファルクさんは意識を失う直前まで頑張ってくれました。ほら、みんなの持ってる武器はその時に出してくれた物なんですよ」
マリーに言われてよく見れば、みんな何かしら武器を手にしている。幸い人形の追加は無かったらしいけど、何も武器が無いのは不安この上ないよね。その点ではよかったと思う。でもそうか、きっとご先祖様が代わりにアイテムボックスから出してくれたに違いない。前に、成長して来た僕を操るのは力がいるって言ってたもんね、だから今は疲れて寝てるに違いない。
「じゃあ、細かい話は後にして外に出て帰ろうか!」
もし、外に出てゴーレムがいたら全員で全力疾走だよ、と伝え、つぎはぎ人形のいたあたりに出来ているよくわからない穴に飛び込むことにした。なんでかわからないけど、これが出口だって僕も含めてみんなわかってるみたい……不思議な話だ。
幸い、予定外の問題は起きず、塔を脱出して無事な場所までたどり着くまで1人の脱落者も出すことなく、僕達の依頼は成功に終わるのだった。
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