MD2-169「川のほとりで-1」
西方諸国、それは遥か昔に大陸をほぼ統一したという帝国が分裂することで大小さまざまな国が乱立し、出来た国家群だ。当初は互いにけん制し合いながら生きるというなかなか騒動の絶えない土地だったらしい。このままだとお互いが滅亡してしまうという危機に瀕した際に協力し合ったのが今の姿の始まりだという。それまで争っていた国同士が手を取り合えたのは、何人もの英雄の活躍と、マテリアル教が橋渡しをしたからだと聞いている。
僕とマリーがまず立ち寄ることになったのは、そんな西方諸国でも東端に近い小国だった。イシュ……なんだっけな? このあたり、同じような街や国が結構あるみたいなんだよね。何度も増えたり減ったりしたかららしくて、国というより地方の貴族単位の集まりみたいな印象がある。実際、王様がいなくて、運営の代表者が会議で決まるというのもあるみたいだ。その代表者も選挙っていうので決めるんだって。選挙ってなんだろう?
「誰が一番偉いのかわからないよねえ……」
「え? あ、そうですね。実際には西方諸国、って言うよりも大きな国が地方ごとに好きにやってるみたいですよ」
突然のつぶやきのはずなのに律儀に応えてくれた腕の中のマリー。思わず微笑むけど見えないだろうな。見られても恥ずかしいからこれでいいんだけどさ。ともあれ、そんな状況で問題が起きないのか?というとやっぱり起きているらしい。第二次精霊戦争終結後、最初はとある王女様が半分以上の地方をまとめ上げたらしいんだけど元のように多くが会議により運営される国に戻ったのだとか。
「今から向かう街は、このあたりを治めていた王女様の子孫がいるらしいですよ」
「そっか。えーっと、シャルロッテ王女だっけ? 英雄と一緒に怪物を倒して凱旋したんだよね」
先ほど言った、一時的にこのあたりを統治したという王女様がそのシャルロッテ王女だ。彼女が生きているうちはその統治の下、地方の再建やダンジョンの管理なんかがそれまでよりも早く進んだって言うけど……今はどうなのかな?
『彼女は優しく、頭がよく、勇気もあった。だからこそ自分でやりすぎた。誰かを頼るのも相手が困ってしまうかも、そう思っていたんだ』
昔を懐かしむようなご先祖様のつぶやきに無言でうなずきつつ、見えて来た町並みに目を細める僕だった。
町の入り口にあった看板にはイシュラと書かれていた。石造りの壁がずっと続いていて、所々には見張り台が見える。僕達が通ろうとする場所は門番が何人もいて、思ったよりも厳重だなというのが一番の感想だった。
「二人旅か? ん、冒険者か……ギルドはまっすぐ行って突き当りを左だ」
「ありがとうございます」
身分証代わりに出したギルドのカードを見るなり、門番はそんな案内をしてくれた。特に検査とか受けなかったな……もしかして、そういうスキルとかあるのかもしれないね。入ってすぐのところでみんな馬を降りているので僕たちもそれに習ってホルコーから降り、適当に荷物を持つ。本当は僕のアイテムボックスに全部入るけど不自然すぎるもんね。
実際にはまだまだ平気なのに、重さから解放されたとばかりに少し嘶き、首を揺らすホルコー。なんだろう、すごくこういう演技が上手くなってきた気がする。やっぱり、言葉がある程度わかるんだろうか? 僕達も階位が上がると魔力も増えて、使える魔法も増えるから……頭の良さも変わるのかな?
『スキルの中には動物や魔物と会話する物もあるという。運良く手に入ったら聞いてみろ』
(うーん、かなり運任せだね、それ。でも僕達なら出会えるかな? ホルコーとお話してみたいな)
きょろきょろと周囲を見渡しながら進んでいるのでよそ者だってバレバレだと思う。もっと言えば、子供2人って言うのはそれだけで目立つよね。ホルコーが立派な体格をしてる分余分にさ。マリーはなんだか新しい景色に目を輝かせているし、僕もどんな出会いがあるか楽しみだ。
そんなことを思いながら、教えてもらった通りにギルドに向かうと……思ったより大きな建物があった。酒場も兼用なのは他の土地と似たような物らしく、外のテーブルでまだ明るいのに陽気に語り合ってる人たちもいるし、武器を立てかけた状態で何やら話し合ってる人たちもいる。
「活気がありますね。依頼も色々ありそうです」
「うん。問題は僕達みたいにいきなり来て受けることが出来るかだけど……行ってみるしかないか」
ギルドの横には馬の預り所もあったので、ホルコーをそこに預けて木札を受け取り、ギルドの扉をくぐる。途端、いくらかの視線がこちらに集まるけどそれもすぐに外れる。まあ、僕達は見た目は子供だからね。
「あら、小さい冒険者さんね。いらっしゃい」
室内を見渡して、受付であろう場所を見つけると2人してまずは登録だ。手慣れた様子のお姉さんに2人でカードを差し出し、何かに通すのを見守っていると……なぜかお姉さんが動きを止めた。何度も手元と僕達を見直している。
「えっと、何か問題がありましたか? あ、私家は今関係なく冒険者ですからっ」
マリーが自分の貴族としての家名が記されていることで驚かれたのかと思い、慌てたように言うけれど僕はたぶん別の理由だと思った。マリーには悪いけどオブリーン国内ならともかく、別の国でも有名な家ってかなり限られるからね。案の定、お姉さんの口から飛び出てきたのは別の理由だった。
「ごめんなさいね。まさか2人してC評価とは思わなくて。見た目は若いけど結構やるのね。歓迎するわ」
「色々とありまして……まずは地に足のついた依頼からにしますよ」
正直、僕達の評価は普通の流れじゃあないからね。まともに依頼を受けた数の方が苦労の割合でいえば少ないぐらいだ。苦労したのは突然の依頼や、指名依頼ばかりだもんね。ちょっと普通じゃない……けれど評価は評価、そういうことみたいだ。
近くの冒険者も、僕達の評価を耳にしたのかぎょっとしてこちらを向く人もいた。1人1人に説明するの面倒なので敢えてスルーしてそのまま僕はお姉さんに色々と聞くことにした。
「このあたりで常設の依頼だと何になりますか?」
「そうね……獣というか魔物かしら? の間引きや採取なんかはどこでもあるとして……ああ、スライムの除去なんかはやってもらえると助かる常設依頼かしらね?」
お姉さんの言葉にマリーと見つめ合ってしまった。スライム……弱くもなく強くもない、実入りは少ないのが特徴の魔物だ。核がちょっと触媒とかに使えるぐらいかな? でもそれが常時ある依頼となるとなんだか気になる話だ。
「そばにいくつも川があるのは見たでしょう? そこに水車が設置されてるのだけど、よくスライムがひっかかるのよね」
「おいおい、初見の子供にやらせるのには荷が重くねえか?」
水車にとなるとスライムだけを倒すのは工夫がいるなあと考えていると、横合いから乱入してくる声があった。声の主は思ったよりというと失礼だろうけど、汚れた格好じゃない冒険者の男性だった。熟練の雰囲気をまとっているけれど、手入れや身なりには気を使ってるのか冒険者にありがちな汚れた感じがあまりない人だった。
「マーヴィンさん……この子達、C評価なんですよ」
「まじか……なるほどな」
お姉さんは僕達の評価を踏まえたうえで依頼を選んでくれたけど、それは男性、マーヴィンさんには予想外のことだったらしい。さっきまでそばにいなかったから聞こえてなかったんだろうね。
「あの、そんなに面倒なんですか?」
「お嬢ちゃんがその杖で殴るっていうなら止めるところだな。ただ、魔法を使えるってなら話は別だ」
ひとまず依頼は受けることにして、僕達は経験者であろうマーヴィンさんと話し合いをすることになった。普通の話し合いで終わればいいんだけどね……無理かな?
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